プリンター徹底比較
2020年春・夏時点のプリンターを徹底検証
新機種と旧機種を徹底比較
(2020年9月18日公開)

表中の赤文字は旧機種・参考機種からの変更点です。なお3機種で比較している場合は、旧機種1・参考機種1からの変更点となります

新機種「TR153」と旧機種「PIXUS iP110」を徹底比較する

 TR153はモバイルプリンターの新機種で、PIXUS iP110の後継機種だ。実に5年半ぶりの新製品だけ合って、デザインが一新され新機能も数多く搭載される一方、プリントの基本部分は変化していないなど、PIXUS iP110を踏襲する部分も多い。どのような違いがあるのか徹底的に比較してみよう。

プリント(画質・速度・コスト)
新機種
旧機種
型番
TR153
PIXUS iP110
製品画像
発売日
2020年4月9日
2014年11月中旬
発売時の価格
27,500円
26,800円
インク
色数
5色
5色
インク構成
顔料ブラック
染料ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
顔料ブラック
染料ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
カートリッジ構成
顔料黒独立、染料4色一体
顔料黒独立、染料4色一体
顔料/染料系
染料/顔料(黒)
(ChromaLife100)
染料/顔料(黒)
(ChromaLife100)
インク型番
19番
19番
ノズル数
1856ノズル
1856ノズル
C/M:各512ノズル
Y/染料BK:各256ノズル
顔料BK:320ノズル
C/M:各512ノズル
Y/染料BK:各256ノズル
顔料BK:320ノズル
最小インクドロップサイズ
N/A
1pl
最大解像度
4800×1200dpi
9600×2400dpi
印刷速度
L判縁なし写真(メーカー公称)
44秒
44秒
A4普通紙カラー(ISO基準)
5.5ipm
5.8ipm
A4普通紙モノクロ(ISO基準)
9.0ipm
9.0ipm
印刷コスト
L判縁なし写真
15.9円
16.2円
A4カラー文書
12.2円
12.8円
A4モノクロ文書
6.3円
N/A

 TR153はPIXUS iP110の後継製品だが、ビジネス向けに位置づけられたため、PIXUSブランドが外れている。また、従来はプリント単機能機はiP型番だったが、最近はビジネス向けはTR型番でプリント単機能機は3桁の数字という法則に従ってTR153という型番となった。販売価格は27,500円で、PIXUS iP110の発売時の価格26,800円とほぼ変わっていない。家庭用複合機と違って、販売から時間が経っても価格が下がっていかないため、PIXUS iP110とそれほど変わらない価格で新機種を手に入れることができる。
 それでは、TR153の印刷画質や速度、印刷コストなど基本的なプリント機能を見てみよう。インク構成は顔料ブラックと染料ブラック+カラーの5色構成で、顔料黒だけ独立、染料4色は一体型カートリッジである点などはPIXUS iP110と同じだ。使用するインクカートリッジも19番で変わっておらず、ノズル数も同等だ。ただ、最大解像度はPIXUS iP110の9600×2400dpiからTR153では4800×1200dpiに下がっており、最小インクドロップサイズは非公表となったが、1plより大きくなったと言われている。これは近年のキャノンの機種に共通する変更点で、9600×2400dpi+1plでは、べた塗り部分でムラができるという問題がある事から変更されたと言うことだ。画質面では若干の低下はあるのは確かだが、十分に高画質と言える。
 印刷速度はほぼ同じで、A4カラー文書だけ5.8ipmから5.5ipmに下がっているが、100枚印刷しても、PIXUS iP110は17分14秒、TR153で18分11秒なので、気づかない程度の差だろう。印刷コストは、L判フチなし写真がPIXUS iP110の16.2円から、TR153では15.9円、A3カラー文書が12.8円から12.2円に下がっているが、使用するインクカートリッジは同じなので、印刷解像度や最小インクドロップサイズが変更されたことに伴い若干の違いが出たものと思われる。こちらも、100枚印刷してそれぞれ30円と60円の差なので、大きな差ではないだろう。

プリント(給紙・排紙関連)
新機種
旧機種
型番
TR153
PIXUS iP110
製品画像
対応用紙サイズ
名刺~A4
(89×89mm/127×127mmスクエア用紙対応)
名刺~A4
給紙方向
(セット可能枚数(普通紙/ハガキ/写真用紙))
背面

(50枚/20枚/10枚)

(50枚/20枚/10枚)
前面
その他
排紙トレイ自動開閉
用紙種類・サイズ登録
○(用紙セット時)
用紙幅チェック機能

 続いて、TR153の給紙、排紙機能を比較してみよう。対応用紙サイズは最小が名刺サイズ、最大がA4サイズでPIXUS iP110と同等だ。ただし、TR153は新たに89×89mmおよび127×127mmのスクエア用紙に対応している。給紙枚数は、普通紙50枚、ハガキ20枚、写真用紙10枚で同等だ。TR153では新たに用紙種類・サイズの登録機能が搭載された。液晶ディスプレイでメニューから登録も可能だが、用紙をセットした際に自動的に確認画面が表示されるため(表示されないようにも出来る)、異なる用紙をセットした場合は変更する。すると、印刷時に設定と異なった場合に警告メッセージを表示してくれる。用紙とインクの無駄が出ないよう細かな配慮がなされている。

プリント(付加機能)
新機種
旧機種
型番
TR153
PIXUS iP110
製品画像
自動両面印刷
CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷
写真補正機能
○(自動写真補正)
○(自動写真補正)
特定インク切れ時印刷
○(インクカートリッジ選択/ブラック合成モード)
○(ブラック合成モード)
自動電源オン/オフ
○/○
-/○
廃インクタンク交換/フチなし吸収材エラー時の印刷継続
-/-
-/-

 続いてTR153のその他のプリント機能を比較してみよう。モバイルプリンターなので、自動両面印刷やディスクレーベル印刷機能は搭載していないのは同じだ。写真補正機能として「自動写真補正」を搭載しているのも同じだ。異なる点は、PIXUS iP110ではブラックインクが切れた際に、カラーインクを使って黒を表現する「ブラック合成モード」を搭載していたが、TR153ではこれに加えて使用するインクカートリッジを選択できる様になった。TR153の場合、染料4色カートリッジと、顔料ブラック(PGBK)のカートリッジがあるが、「両方(標準)」「PGBK(ブラック)以外」「PGBK(ブラック)のみ」から選択できる。ただし、インクカートリッジを外した状態で動作するわけではない。また用紙設定で、普通紙、封筒、各種ハガキの「宛名面」と、「はがき」(インクジェットタイプでないはがきの通信面)以外を選んだ場合は、顔料ブラックを使えない事から、「PGBK(ブラック)のみ」に設定しても、実際には染料4色を使って印刷する。更に電源を切ると「両方(標準)」に戻るなど、他のカラーカートリッジ一体の機種の様に、モノクロプリントしか行わないので、カラー(染料4色)カートリッジを外したままで使うという様なことはできない。
 また、自動電源オフに加えて、自動電源オン機能が搭載された。持ち出して使う場合はああまり必要ない機能とも言えるが、自宅で据え置いて使う場合、パソコンやスマートフォンで離れた場所から印刷する際に、電源を入れにわざわざプリンターの前まで行く必要がなくなり便利だ。

ダイレクト印刷
新機種
旧機種
型番
TR153
PIXUS iP110
製品画像
ダイレクトプリント
メモリーカード
USBメモリー
赤外線通信
対応ファイル形式
色補正機能
手書き合成
メモリーカードからUSBメモリー/外付けHDDへバックアップ
-/-
-/-
PictBridge対応
○(Wi-Fi)
○(Wi-Fi)
各種デザイン用紙印刷
定型文書プリント
(10MB×5件・プリントデーターとして保存)

 TR153のダイレクト印刷機能を見てみよう。とはいえ、Wi-Fi方式のPictBridgeに対応している程度で、メモリーカードやUSBメモリーから写真などのダイレクト印刷が行えるわけではない。ただTR153には面白い機能が追加された。それが「定型文書プリント」機能だ。 1文書あたり10MBまでのデーターを5つ保存でき、プリンター本体だけでプリントが可能だ。相手に手書きで記入してもらう申込書類や問診票、カタログなどのデーターをすぐに印刷できる。ここで面白いのは、プリントデーターとして保存しておくという事だ。通常は画像やWord、Excel、PDFなどの形式の文書ファイルを想像するだろう。しかし、汎用形式のPDFですら、バージョン違いで開けなかったり、レイアウトが崩れたりする。WordやExcel形式では特にそういったことが起こりやすい。しかし、TR153では、パソコン上でプリントを実行し、「TR153でプリントするデーター形式」に変換してTR153に転送した時点のデーターを保存する。そのためパソコン上からプリントしたのと一切変わらない他、元のデーター形式は問わないため、特殊なソフトウェアや、自社でしか使わないオリジナルソフトで作成したデーターでも通常のプリント操作さえできれば何の問題も無い。印刷する際に「定型文書としてプリンターに保存」にチェックを付け、保存先を1~5から選び保存名を入れるだけだ。他機種にはない便利な機能だといえる。

スマートフォン/クラウド対応
新機種
旧機種
型番
TR153
PIXUS iP110
製品画像
スマートフォン連携
アプリ
メーカー専用
Canon PRINT Inkjet/SELPHY
Canon PRINT Inkjet/SELPHY
AirPrint
対応端末
iOS 11.0以降
Android 4.4以降
iOS 11.0以降
Android 4.4以降
スマートスピーカー対応
○(Alexa/Googleアシスタント/LINE Clova)
○(Alexa/Googleアシスタント)
Wi-Fiダイレクト接続支援機能
写真プリント
ドキュメントプリント
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
Webページプリント
クラウド連携
プリント
アプリ経由/本体
○/-
○/-
オンラインストレージ
○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/OneDrive/google classroom)
○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/OneDrive/google classroom)
SNS
○(Instagram/Facebook・コメント付き可)
○(Instagram/Facebook・コメント付き可)
写真共有サイト
○(googleフォト/image.canon)
○(googleフォト/image.canon)
メールしてプリント
LINEからプリント
リモートプリント
スキャンしてリモートプリント

 TR153のスマートフォン、クラウド関連機能を見ていこう。PIXUS iP110から大きな変更点はなく、クラウドとの連携機能も同じだ。唯一スマートスピーカーとして、PIXUS iP110はAlexaとGoogleアシスタント端末に対応していたが、TR153では更にLINE Clova端末にも対応する点は異なる。

操作パネル/インターフェース/本体サイズ
新機種
旧機種
型番
TR153
PIXUS iP110
製品画像
液晶ディスプレイ
1.44型有機EL
(モノクロ)
操作パネル
ボタン操作
インターフェイス
USB他
USB2.0×1
(Type-C)
USB2.0×1
無線LAN
IEEE802.11n/a/g/b
5GHz帯対応
(ダイレクト接続対応)
IEEE802.11n/g/b
(ダイレクト接続対応)
有線LAN
電源
AC電源
外付けバッテリー(別売)
USB(充電のみ)
AC電源
外付けバッテリー(別売)
バッテリー
バッテリー駆動
○(外付け(オプション))
○(外付け(オプション))
印刷可能枚数
330枚(USB)
240枚(Wi-Fi)
290枚(USB)
充電時間
ACアダプター:2時間20分
USB(1.5A):5時間
3時間
対応OS
Windows 10/8.1/7 SP1
Mac OS 10.11.6~
(AirPrint利用)
Windows 10/8.1/8//7/Vista SP1/XP SP3
Mac OS 10.6.8~
耐久枚数
15,000枚
N/A
外形寸法(横×奥×高)
322×185×66mm
(外付けバッテリー装着時:322×210×66mm)
322×185×62mm
(外付けバッテリー装着時:322×200.7×62mm)
重量
2.1kg
(外付けバッテリー装着時:2.3kg)
2.0kg
(外付けバッテリー装着時:2.26kg)
本体カラー
ブラック
ブラック

 最後にTR153の操作パネルやインターフェース、バッテリー駆動などをを見てみよう。ココが一番大きく変わった点だ。まずPIXUS iP110には無かった液晶パネルがTR153には搭載された。1.44型の有機EL液晶で、モノクロ表示であるため、決して視認性が高いわけではないが、あると無いとでは大違いだ。インク残量確認や各種設定が行える他、エラー内容も分かりやすく、Wi-Fi設定なども本体で行えるために便利だ。またライバルであるエプソンのPX-S06も全く同じサイズの1.44型液晶を搭載しており、ようやく並んだ形だ(ただしPX-S06はカラー液晶)。
 インターフェースはUSB2.0と無線LAN(Wi-Fi)だが、それぞれ変更点がある。まずUSBに関しては、コネクタ形状がmicro BからType-Cに変更になった。これは後述の充電に関係していると思われる。一方無線LANは、PIXUS iP110ではEEE802.11n/g/bのみ対応だが、TR153ではIEEE80.211aにも対応し、さらにIEEE802.11n/a通信時は、5GHz帯の電波を使用できる。PIXUS iP110では2.4GHz帯しか使用できないが、Bluetoothや電話の子機と同じ帯域で、電子レンジなどの影響も受けやすい。それに対して、5GHz帯は無線LAN専用といえるので、通信が安定する。特に商業施設などでは様々な機器の影響を受けやすいので、安定した5GHz帯を使用できるのは大きな違いだ。
 電源はACアダプターと、別売りの外付けバッテリーに対応する。バッテリーはプリンター後部に取り付ける点では同じだが、PIXUS iP110ではバッテリーがLB-60、バッテリーとアタッチメントのセットがLK-62だったが、TR153ではそれぞれ、LB-70とLK-72に変更になっているため流用はできない。印刷可能枚数はUSB接続の場合で、PIXUS iP110の290枚から、TR153では330枚に微増した。一方充電時間は、3時間から2時間20分に短縮され、利便性が向上している。また、TR153ではUSBからの電源供給が可能となっている。ただし、給電は行えず、充電だけとなるため、USBからの電源供給だけで動作させることはできない。使いながら充電は可能だが、バッテリー消費の方が大きいため、残量が無くなると使えなくなる。USB充電の場合は、1.5A以上の出力が必要で、通常のパソコンのUSBポートでは難しそうだ。スマートフォン用の充電器やモバイルバッテリーを使用する事になるだろう。その際、最近のスマートフォンはType-Cコネクタが使われているため、手持ちの充電器もType-C対応のものに切り替わってきており、それらが使える様にTR153のUSBポートもType-Cになったものと思われる。ちなみにUSB充電の場合は5時間で、ACアダプターを使用する場合より倍以上かかる。
 対応OSは、近年のキャノンの機種に共通した、Windows 10/8.1/7のみで、PIXUS iP110の対応していた、Windows VistaやXPには非対応となった。またTR153はWindows 8にも非対応(8.1は対応)なので注意が必要だ。さらに、MacOSの場合は、PIXUS iP110の10.6.8以降から、TR153では10.11.6以降と、かなり新しいバージョンに限定されるだけで無く、専用ドライバーが提供されなくなった。AirPrintを使用する方式となり、インク残量確認や一部の印刷設定、本体の動作設定ができない点でWindowsで利用する場合に比べて不便になっている。 
 TR153は耐久枚数は15,000枚と公表されたが、一般的なプリンターが10,000~15,000枚程度なので、特別強く作られているわけではない。またPIXUS iP110と比べて、高耐久になったかどうかも不明だ。本体サイズは322×185×66mmで、高さが4mm大きくなっただけなので、ほぼ同じに見える。重量も2.1kgと100g重くなったが、大きな差ではないだろう。同じブラックカラーの本体だが、PIXUS IP110より丸みを帯びて印象は少し変わっている。



 TR153はPIXUS iP110から5年半ぶりの新機種で、型番も大きく変わったことから、一新されたと思われがちだが、PIXUS iP110をベースにしている事が分かる。本体サイズはほぼ変わらず、インクをはじめプリントの基本機能は変化していない。ただ、1.44型と小さくモノクロ表示だが、液晶を搭載しているのは、非常に便利になった。また、無線LANも強化され、出先で使いやすくなった。USB充電も、給電はできず、1.5A以上の出力が必要と、制限はあるが、ACアダプターを持ち歩かなくても、スマートフォン用の充電器やモバイルバッテリーで充電ができるのは便利になったと言えるだろう。また、定型文書プリント機能は、使う人は限られるかもしれないが、プリントデーターとして保存する事で、元のデーターの形式に制限が無いというのは大きなメリットで、工夫次第で色々と使えそうだ。PIXUS iP110と比べて劇的に変わったわけでは無いが、様々な点で使いやすく改良したという印象で、価格がほぼ据え置かれたと事もあって、より魅力的な製品へと進化したと言えるだろう。


(H.Intel)


【今回の関連メーカーホームページ】
キャノンhttps://canon.jp/


TR153