2020年春・夏時点のプリンター新機種を徹底検証 新機種と旧機種を徹底比較& 同系統・同価格帯のエプソン・キャノン・ブラザー製品を徹底比較 (2020年9月18日公開・11月27日更新)
毎年、9〜10月の年賀状シーズンとは別に、春頃に新製品が発表される。9〜10月の新製品は主に年賀状に関係した家庭向けの機種がメインだが、春の新製品はビジネス向けや写真のプロ向けといった、家庭向け以外の機種である事が多い。今年はエプソンの新製品発売が延期になるなど夏になってしまった機種もあるが、2020年春・夏の新製品が無事に発表された。エプソンからはエコタンク搭載機として今までとは異なる新製品を含む3機種と、写真のプロ向けの「プロセレクション」シリーズの内、A2ノビ対応とA3ノビ対応の上位モデルが、全く新しい新製品となった。一方のキャノンはモバイルプリンターが新製品となったほか、唯一家庭向け複合機で旧機種のまま残っていたPIXUS TS3130Sが新製品となった。 まず、最新のラインナップがどう変わったのかメーカー別に見ていこう。さらに、その下では、 ●新機種が旧機種とどう変わったのか1機種ずつ徹底比較 ●新製品の発表された機種と同系統・同価格帯のエプソン・キャノンの製品で、どちらがオススメかを徹底比較 のページを用意しているので、そちらも合わせて見て頂きたい。
エプソンのラインナップの内、新機種が登場したのはエコタンク搭載機から4機種、プロセレクションから2機種となる。詳しく見ていこう。 エコタンクの新製品はファクス付きA3複合機のPX-M6712FTとPX-M6711FT、ファクス付きA3複合機(スキャンはA4)のEW-M5610FT、ファクス付きA4複合機のPX-M791FTの3機種だ。このうちEW-M5610FTを除く3機種は、エコタンク搭載プリンターとして初めて「PX」を型番に付ける、つまり全色顔料インクを採用した機種だ。エコタンク搭載プリンターは全色染料インクの2機種を除いて、顔料ブラック+染料カラー又は顔料ブラック+染料ブラック+染料カラーの機種だけであった。明らかにビジネス向けのEW-M5071FTも、ベースとなるカートリッジ方式のPX-M5041Fが全色顔料インクながら、EW-M5071FTのカラーインクは染料インクだった。今回、満を持して登場した全色顔料のエコタンク搭載プリンターは、「DURABrite ET」インクという新しい顔料インクを採用する他、ベースとなるインクカートリッジ式の機種が無く、新たにエコタンク搭載プリンター向けに開発されたことがうかがえる製品になっている。一方で、これまでのエコタンク搭載プリンターの印刷コストはカラーが0.9円、モノクロが0.4円というのが一般的だったが、今回はカラーが2.0円、モノクロが0.8円と倍になっている。インクボトル1本での印刷枚数は変わらないが、ブラックインクが2,150円から5,200円、カラーインクが各1,150円から各2,500円に値上げしているためだ。せっかくの超低印刷コストという特徴がやや薄れてしまったのは、それだけ新インクが高価という事なのか、それとも他に理由があるのだろうか。理由はいくつか考えられるが、まずはビジネス向けの製品である事だ。印刷コストを低くした製品はインクの利益が小さくなるため、本体価格は上がるか、同じ本体価格なら性能が下がる。ビジネス向けには極端に印刷コストを下げるよりは、インク代でも多少は利益を出す代わりに、ある程度の本体価格を抑えつつ高性能な機種がベストと考えたとも言える。新製品は大幅に性能が上がっているにも関わらず、価格が据え置きか下がっている事からも、可能性はある。ある意味インクカートリッジ方式の販売方法に少しだけ戻った形だ。また、2つ目の理由としてライバルと言えるブラザーのファーストタンク搭載機は印刷コストがカラー3.7円、モノクロ0.7円で十分に対抗できるためとも考えられる。さらに3つ目はインクパック方式との関係だ。エプソンには高性能で低印刷コストのビジネス向けプリンターとしてインクパックを採用した製品があり、その中でもインクパックLと呼ばれる、大容量もしくは低価格なインクパックが使える製品がある。この製品の印刷コストがカラーが2.0円、モノクロが0.8円と全く同じなのである。今回の新製品は従来よりもかなり高性能である事から、エコタンク搭載機の新製品というよりは、インクパック方式の新製品はエコタンク方式に切り替えたという考え方で、そのため印刷コストを合わせたとも考えられる。 PX-M6712FTとPX-M6711FTはEW-M5071FTの後継製品と位置づけられ、発表と同時にEW-M5071FTは生産終了となっている。「DURABrite ET」インクを採用しており、下位モデルのPX-M6711FTはEW-M5071FTと同じ109,980円、上位モデルのPX-M6712FTは139,980円となる。前面2段給紙に手差しではない背面給紙トレイも新たに搭載し、ADFも高速化、無線LANもIEEE802.11ac/aに対応し、5GHz帯に対応、耐久枚数も8万枚から20万枚に強化され、印刷枚数の多いはずのエコタンク搭載機の方が、カートリッジ方式の機種より耐久枚数で劣るという逆転現象も解消された。2機種の違いは印刷速度で、A4モノクロは両機種とも25ipmだが、A4カラーはPX-M6712FTが25ipmでモノクロと同速、PX-M6711FTは12ipmとなる。これでもEW-M5071FTのカラー18ipm、モノクロ10ipmより高速化している。さらにPX-M6712FTは、自動両面印刷時に1枚目を印刷後、1枚目を反転している間に2枚目を印刷し、その後1枚目の裏を印刷する事で、反転の時間待ちの無駄を無くしている。結果、同じ印刷速度のモノクロ印刷で自動両面印刷をした場合、PX-M6712FTは21ipm、PX-M6711FTは16ipmと差が付いている。本体サイズはEW-M5071FTの666×486×418mmと比べてかなり小型化しており、515×500×350mmになった。EW-M5071FTはエコタンク部分を除いても幅567mmで、エコタンクを内蔵しながら5cm以上小さくなっている。 PX-M791FTはPX-M670FTの後継機種では無く、インクパックLモデルのPX-M886FLの後継製品に位置づけられている。機能は同じでインクパック対応のPX-M885FとインクパックL対応のPX-M886FLがあるが、PX-M791FTの発売と同時にPX-M886FLのみ生産終了となっている。インクパックLのプリンターの後継製品なので、印刷コストは変化していないと言える。印刷速度は24ipmから25ipmにやや高速化、1枚目反転と同時に2枚目を印刷する自動両面印刷に対応した。PX-M886FLの給紙は前面カセット1段+背面トレイで、オプションでカセットを1段追加できたが、PX-M791FTは前面カセット2段+背面トレイとなり、標準で前面カセットが2段となった。耐久性も20万枚までアップしたが、型番上は800番台から700番台になったために下位扱いなのか、ADFのスキャン速度がカラーで大幅に低下したほか、有線LANが1000BASE-T対応から100BASE-TX対応になっている。また、タッチパネル式4.3型液晶は同じだが、テンキーが物理キーではなく、液晶内に表示される様になった。エコタンク部があるため操作パネルのスペースが小さくなったことも理由と言えるが、PX-M886FLの下位モデルPX-M781Fと同じ仕様で、このあたりが700番台のなっている理由とも言える。その分価格は、109,980円から89.980円に下がっている。 さて、もう一つのエコタンク搭載機の新製品、EW-M5610FTは「EW」型番から分かるように顔料ブラック+染料カラーの製品で、従来と同じインクボトルであるため印刷コストはカラー0.9円、モノクロ0.4円だ。A3プリントA4スキャンのエコタンク搭載複合機は既にEW-M970A3Tがあるが、こちらは染料ブラックを搭載した5色インク構成で、家庭向けの機種だ。それに対してEW-M5610FTは4色インクで文書印刷が高速でファクス機能を搭載している。また、EW-M970A3Tは「A3」までだが、EW-M5610FTは「A3ノビ」まで対応している。機能的にはファクス付きA4複合機EW-M670FTのA3ノビ対応版とも言える製品だ。こちらは純粋な追加と言うことで、代わりに生産完了になった製品は無い。 プロセレクションではA2ノビ対応のSC-PX3Vと、A3ノビ対応の2機種の内上位モデルのSC-PX5VIIが新製品となった。元々対応用紙サイズ以外の部分では共通点も多い2機種だけに、同時に新製品となった。SC-PX5VIIの後継がSC-PX1V、SC-PX3Vの後継がSC-PX1VLで、どちらも1Vシリーズになった。最小インクドロップサイズが小さくなったり、背面からも0.5mm厚まで対応するなど細かな違いはあるが、大きな違いは4点だ。まず、インク面でディープブルーインクが新たに採用され、10色搭載9色同時使用となった。フォトブラックとマットブラックはどちらか一方しか使えないのは従来通りだが、プリントノズルを共用していた従来から、それぞれにプリントノズルが用意された。従来は切り替え操作が必要で、その際新しく使用する方のインクが消費されてしまうため、頻繁に切り替えるとそれだけでインクがかなり減ってしまうと言う問題があったが、この点が解消された。2点目はロール紙のセットが簡単になった点だ。両機種ともロールペーパーユニットに乗せて先端を挿し込むだけで良くなった。さらにSC-PX1Vではロールペーパーユニットが内蔵式で、未使用時は本体に収納でき、使用時だけ引き出す形となった。SC-PX1VLではロール紙ユニットはオプションで背面に取り付ける形だが、ロール紙のセットが簡単なのは同じだ。3つめの改良点は、機内照明と大型液晶による印刷内容確認機能だ。本体天面部分に機内照明を搭載し、プリンターカバーを閉めたまま印刷状態が確認できるようになった。それと同時に4.3型に大型化した液晶に、プリント中の写真を表示できるようになり、印刷ミスに気づきやすくなった。4点目は本体サイズの小型化だ。SC-PX5VIIの616×369×228mmからSC-PX1Vは515×368×185mmになり横幅が10cm以上も小型化した。SC-PX3Vは684×376×250mmだったがSC-PX1VLは615×368×199mmになり、こちらも横幅が7cm近く小型化した。そして、このSC-PX1VLサイズだが、A2ノビ対応対応ながら、従来のA3ノビ対応のSC-PX5VIIより小型化しているのだ。これは驚くべき事で、従来は設置スペースの関係でA2ノビ対応をあきらめていた人にも朗報だ。 このほか、ファクス付きA3複合機のPX-M5041Fとエコタンク方式のモノクロプリンターPX-S170UTが生産完了となった。PX-M5041Fは、現行のPX-M5081Fの前モデルで、前面給紙カセットが1段のPX-M5040Fと2段のPX-M5041Fがあり、それぞれPX-M5080FとPX-M5081Fという後継製品が発表されたのが2017年10月だ。エプソンのこのクラスは新製品に移行すると、旧製品のカセットS2段のモデルが残って下位モデルとなるというのが通例となっており、それに従ってPX-M5041Fは今まで販売されてきた。これがついに生産完了となる。これまでの例だと、PX-M5081F/PX-M5080Fに後継製品が登場し、PX-M5081Fが残ると言うパターンの前触れだが、今のところ新製品の情報は無い。PX-S170UTはPX-S170Tと同性能、同外見で、接続がUSBのみのモデル(PX-S170Tは無線LAN対応)だが、USB接続のみであるためスマートフォンにも対応しない割には価格が1,000円しか違わなかったため、PX-S170Tを買う人が多かったのかもしれない。 「SC-PX1V」と「SC-PX5VII」を比較 「PX-M6712FT」「PX-M6711FT」と「EW-M5071FT」を比較 「PX-M791FT」と「PX-M886FL」「EW-M670FT」を比較 「EW-M510FT」と「EW-M670FT」「EW-M970A3T」を比較
キャノンはモバイルプリンターPIXUS iP110が新機種となりTR153となった。また、PIXUS TSシリーズは2019年末に下3桁が330の新機種になったが、PIXUS TS3130Sだけ新機種が発売されずに残っていたが、これがPIXUS TS3330となった。 TR153は使用するインクや印刷コスト、印刷速度には変更点が無い。給紙枚数なども同じだが、いくつか新機能が搭載された。まず、1.44型有機EL液晶を搭載した。PIXUS iP110には液晶が無く、各種設定やスマートフォンとの接続設定、インク残量確認などが不便だったが、これが解消された。またライバルのエプソンPX-S06には液晶が搭載されていたため、これに合わせたとも言える。サイズも同じ1.44型だ。さらに、無線LANが新たに5GHz帯に対応し通信が安定した。また、従来は給電と別売りのバッテリーへの充電はACアダプターからのみだったが、新たにUSBからの充電も可能になった。ただし、1.5A以上の充電器なのでパソコンのUSBポートでは難しく、スマートフォン用の充電器やモバイルバッテリーなどからの充電となる。また給電には非対応なので、充電しながら使用する事は可能だが、バッテリー残量が無くなると使えなくなる。ちなみにUSBはType-Cに変更された。便利なのは「定型文書プリント」機能だ。1文書あたり10MBまでで、5つ保存ができ、プリンター本体だけでプリントが可能だ。相手に手書きで記入してもらう申込書類や問診票、カタログなどのデーターをすぐに印刷できる。ここで面白いのは、プリントデーターとして保存しておくという事だ。通常は画像やWord、Excel、PDFなどの形式の文書ファイルを想像するだろう。しかし、汎用形式のPDFですら、バージョン違いで開けなかったり、レイアウトが崩れたりする。WordやExcel形式では特にそういったことが起こりやすい。しかし、TR153では、パソコン上でプリントを実行し、TR153でプリントするデーターに変換してTR153に転送した時点のデーターを保存する。そのためパソコン上からプリントしたのと一切変わらない他、特殊なソフトウェアや、自社でしか使わないオリジナルソフトで作成したデーターでも何の問題も無い。印刷する際に「定型文書としてプリンターに保存」にチェックを付け、保存先を1〜5から選び保存名を入れるだけだ。他機種にはない便利な機能だ。 一方PIXUS TS3330は一見すると旧モデルPIXUS TS3130Sと変更点がない。印刷画質や印刷コスト、印刷速度、給紙枚数から、スキャン、コピー、操作パネルまで同じだ。唯一、ハッキリと変更点とされているのは「ワイヤレスコネクトボタン」の搭載だ。これは、パソコンまたはスマートフォンが無線LAN(Wi-Fi)ルーターに接続ができている環境の場合、ワイヤレスコネクトボタンを長押しして、プリンターの準備が完了したら、あとはパソコンまたはスマートフォン上から設定するだけで初期設定が完了するというものだ。ユーザーによって使用している無線LANルーターが異なるため、プリンターのマニュアルではセキュリティーキーの書かれた位置や、ワンタッチ接続のボタンの位置などの細かな説明が難しく、慣れていないユーザーは無線LANルーターのマニュアルも見る必要があった。そこで、無線LANルーターを一切触らずに接続設定が完了するようにし、接続時のハードルを下げているのである。その他、細かな点では対応OSの違いや、キャノンオリジナルアプリケーションの対応の違いなどがある。 その他、新機種ではないが、ギガタンク搭載複合機のG6030に本体カラーホワイトが追加され、ブラックと2色展開となった。ライバルのエプソンEW-M630Tと同等になったわけである。 「PIXUS TS3330」と「PIXUS TS3130S」を比較 「TR153」と「PIXUS iP110」を比較
新旧の比較とは別に、新製品を含む同系統の製品、同価格帯の製品での比較をしてみよう。
今回の関連メーカー エプソンホームページ http://www.epson.jp/ キャノンホームページ http://canon.jp/ |
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