2020年末時点のプリンターを徹底検証 新機種と旧機種を徹底比較 (2021年5月28日公開)
PIXUS PRO-S1は、PIXUS PRO-100Sの後継モデルとなる。基本的なインク構成は引き継ぎつつ、より画質にこだわった設計となった。果たしてどのような違いがあるのか徹底的に見ていこう。 |
(PIXUS PRO-100は59,800円) |
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グレー ライトグレー シアン フォトシアン マゼンダ フォトマゼンダ イエロー |
グレー ライトグレー シアン フォトシアン マゼンダ フォトマゼンダ イエロー |
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(ChromaLife100+) |
(ChromaLife100+) |
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L-COA PRO 動的色間補正 斜行補正機構 サイドガイド・スライド機構 |
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30秒(写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
31秒(写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
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1分30秒(フチあり/写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
1分30秒(フチあり/写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
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(税別) |
32.7円(写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
31.1円(写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
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PIXUS PRO-S1の価格は69,980円である。PIXUS PRO-100Sの発売時の価格64,800円と比べると5,000円上がっている。また、PIXUS PRO-100SはPIXUS PRO-100の本体性能そのまま、同梱ソフトを変更したモデルであったが、PIXUS PRO-100が59,800円だったので、この時も5,000円上がっており、徐々に上がっていっている事になる。なお、PIXUS PRO-100Sの実質的上位モデルで、顔料インクを採用し機能面でも差があるPIXUS PRO-10Sと同じ価格だったが、今回はPIXUS PRO-10Sの後継モデルimagePROGRAF PRO-G1は79,800円となっており、PIXUS PRO-S1と10,000円差が付いている。ある意味正常になったと言えるだろう。ちなみに、型番のPIXUS PRO-S1の「S」は「染料」の事で、同時に発売されたimagePROGRAF PRO-G1の「G」は「顔料」の事である。使用するインクを分かりやすく示した型番になっている。 まずはインクを見てみよう。PIXUS PRO-S1のインク構成は8色で、PIXUS PRO-100Sと同じ構成だ。ただし、PIXUS PRO-100Sとは、インクを一新しており、マゼンダ・レッド・ブルーの色域を拡大、黒濃度を向上し、レッドとブルーの暗部色再現領域を向上させている。より色鮮やかでありながら、暗部で黒つぶれせずに表現されるようになった。耐保存性は、どちらも「ChromaLife 100+」となっており、アルバム保存300年、耐光性40年、耐オゾン性10年で変化はない。インクの型番も変わり、PIXUS PRO-100Sでは43番インクだったが、PIXUS PRO-S1では66番インクとなっている。 その他の高画質化機能の面でも大きく進化した。無数にあるインクの組み合わせから、適正なインクの組み合わせとインク適の配置を決定する「OIG System」はPIXUS PRO-100Sに引き続き搭載する。さらにPIXUS PRO-S1では画像処理エンジン「L-COA PRO」を搭載しており、高画質・高速な画像処理とプリントデーターの作成が行えるようになった。また、プリント中に、キャリッジ位置によって着弾がずれて生じる色ズレをセンサーが検知して補正する「動的色間補正」も搭載している。さらに、「斜行補正機構」により斜めに入った用紙をまっすぐに補正し、その後「サイドガイド・スライド機構」により、用紙幅に合わせておく左右のサイドガイドを自動的に少し広げ、用紙側面の抵抗を軽減することで、紙送り精度を向上させる機能まで搭載する。インクだけでなく、様々な点を駆使して高画質化を図っているといえる。 PIXUS PRO-S1のノズル数は各768ノズルで、PIXUS PRO-100Sと同じだ。最大解像度も同じである。最小インクドロップサイズに関しては非公表となったが、海外の同機能のモデルを参考にすると4plと予想される。PIXUS PRO-100Sが3plから少し大きくなったことになる。大判印刷がメインで近くで見ることが少ないことに加えて、インク色数も多く、OIG Systemも使用するため、4plという数字が示すほどドットが目立つわけではないが、ハガキやスナップ写真などの印刷ではややドットが見えやすくなるかもしれない。 印刷速度はL判写真の場合、PIXUS PRO-100Sでは写真用紙・光沢ゴールド使用時は28秒、写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]使用時は31秒だったが、PIXUS PRO-S1ではどちらの用紙でも30秒となった。一方A3ノビプリントの場合、PIXUS PRO-100Sでは用紙によらず1分30秒だったが、PIXUS PRO-S1では同ゴールド使用時は1分25秒、同プロ[プラチナグレード]使用時は1分30秒となった。微妙に印刷速度が異なるが、ほぼ誤差と行ってもよい程度だ。元々、このクラスの製品としては印刷が高速だっただけに、これ以上の高速化は難しいのかもしれない。一方、印刷コストに関しては、PIXUS PRO-S1はL判で同ゴールド使用時は22.3円、同プロ[プラチナグレード]で32.7円となっており、PIXUS PRO-100Sの19.7円と31.1円と比べると、それぞれ13%と5%上がっている。A3プリントでも356.6円から401.3円に13%上がっている。ここで、インクカートリッジの価格と印刷可能枚数を見てみよう。
これを見ると、PIXUS PRO-100Sでは、インクカートリッジは1本1,124円でだったが、PIXUS PRO-S1では1本1,400円と25%上がっている。一方印刷可能枚数は、色によりバラツキがあるものの、黒系ではPIXUS PRO-S1で平均1,123枚、PIXUS PRO-100Sでは895枚で25%増、カラー系ではPIXUS PRO-S1では平均546枚、PIXUS PRO-100Sでは565枚で3%減となっている。つまり、黒系のインクに関しては、価格の上昇分と印刷枚数の増加分が一致している一方、カラー系のインクでは価格が上昇している一方で印刷枚数はほぼ変わっていない。このカラー系のインクが足を引っ張る形で印刷コストが上がったと言える。大判印刷では印刷コストが高く付いてしまうため、印刷コストが上がってしまったのは残念だ。 |
用紙長:最大990.6mm |
用紙長:最大676mm |
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続いて、給紙・排紙機能を見てみよう。対応用紙サイズは最小がL判、最大がA3ノビ又は半切サイズとなる。A3ノビは329mm×483mmで、半切は356×432mmであるため、A3ノビより少し横幅が広く印刷できるという点でも同じだ。ただし、長尺用紙に関してはPIXUS PRO-100Sが676mmまでだったのに対して、PIXUS PRO-S1では990.6mmまで拡大され、パノラマ写真の印刷に便利になっている。ただ、価格の近いエプソンのSC-PX7VIIが15,000mm(15m)まで、同じ染料インク採用で価格が安いEP-50Vでも1,200mm(1.2m)対応している事を考えると、物足りないとも言える。 給紙に関しては背面給紙トレイと背面手差しの組み合わせは変わらない。給紙枚数も写真用紙では同等だが、A4普通紙の場合PIXUS PRO-100Sでは150枚までセットできたが、PIXUS PRO-S1では100枚に、ハガキも40枚から20枚に少なくなっている。この機種で普通紙印刷を大量に行うというのはあまり考えられていないため、問題ないとも言えるが、綺麗な画質でハガキ印刷を行いたい場合などは手間がかかるようになった。背面手差しからの対応用紙厚などは変更がない。 最新機種らしい機能として、PIXUS PRO-S1には用紙の種類とサイズを登録しておく機能が新たに搭載されている。液晶ディスプレイでメニューから登録も可能だが、背面給紙トレイの場合は給紙口カバーを閉じると、背面手差し給紙の場合は用紙を挿し込むと、自動的に登録画面が表示されるため便利だ(されないようにもできる)。この登録内容と、印刷時の用紙設定が異なっている場合、メッセージが表示される仕組みだ。また、印刷時に実際の用紙幅をチェックする機能もあり、用紙サイズが異なっている場合に印刷がストップする。大判印刷では1枚の印刷でも、用紙代やインク代がそれなりの金額になるため、失敗した際の損失も大きい。2重にチェックされることで、間違いを減らせるよう工夫されている。 |
印刷速度 |
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(ネイル印刷対応) |
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そのほかの機能をみてみると、CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷機能はPIXUS PRO-100Sでも対応していたが、PIXUS PRO-S1ではレーベル印刷機能を利用したネイル印刷に対応した。また、自動電源オン機能に新たに対応した。最近のプリンターは無線・有線LAN接続が可能であるため、パソコンから離れた場所にプリンターを設置する場合もあり、またスマートフォンなどからのプリントの場合も、プリンターから離れている場合が多い。自動電源オン機能を搭載したことで、わざわざプリンターの前まで行って電源を入れる必要がなくなった。ただし排紙トレイは手動で開く必要がある。また、指定した時間が経つと自動で電源が切れる機能はPIXUS PRO-100Sも搭載していたが、USB接続の場合しか使用できなかった。PIXUS PRO-S1では晴れてネットワーク接続時も可能となった。 |
組み込みパターンペーパー |
ダイレクト印刷機能を見てみよう。とはいえ、PIXUS PRO-S1もPIXUS PRO-100S同様、SDカードやUSBメモリーからのダイレクト印刷機能は搭載していない。しかし、一切の機能を搭載していなかったPIXUS PRO-100Sに対して、2つの機能が搭載されている。一つはPictBridgeに対応したが事だ。ただし、USB接続方式とWi-Fi接続方式の内、Wi-Fi接続方式のみの対応で、対応するデジタルカメラは非常に限られる。そもそも、こだわりの写真プリントを行うPIXUS PRO-S1で、デジタルカメラからの簡易プリントを行うとは考えにくく、大きな差ではないだろう。もう一つはレポート用紙や原稿用紙、方眼紙、五線譜などを本体操作だけで印刷できる「定型フォーム印刷」機能と、カラフルなパターンを印刷できる「組み込みパターンペーパー」に対応した事だ。「組み込みパターンペーパー」はスクラップブックの台紙やブックカバーなどに利用できる。 |
Android 4.4以降 |
Android 2.33以降 |
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PIXUS PRO-S1のスマートフォン、クラウド関連機能を見ていこう。対応アプリには変化は無い。対応端末が、iOS 7.0以降からiOS 11.0以降に、Androidが2.33以降から4.4以降に変化しているが、これはプリンター発売時点のアプリの対応端末なので、現在ではPIXUS PRO-100SもiOS 11.0以降、Andorid 4.4以降となっている。 異なるのはクラウド関連の機能だ。PIXUS PRO-100Sでは、クラウドにアクセスしプリントするのは、スマートフォン上のアプリからとなっていた。PIXUS PRO-S1では、アプリ経由だけでなく、PIXUS PRO-S1内蔵の液晶を見て操作してプリントが可能になった。操作性はスマートフォン上の方が上だが、プリンター本体だけで気軽にプリントが可能という選択肢が出来たのは便利だ。また写真共有サイトからのプリント機能として、PIXUS PRO-100Sではキャノンの提供する「image.canon」しか対応していなかったが、PIXUS PRO-S1では「googleフォト」にも対応した。 その他、LINE上でPIXUS PRO-S1を友達登録し、トーク画面からファイルを送る事で、自動的にプリントされる「PIXUSトークプリント」と、専用サイトからプリントしたいファイルをアップロードすると、離れた場所にあるPIXUS PRO-S1でプリントが出来る「PIXUSでリモートプリント」に対応した。ただし、PIXUSでリモートプリントは対応フォーマットはPDFとWord、Excel、PowerPointで、ファイルサイズ20MB、99ページ以内という制限がある。2in1や両面印刷設定も可能だが、対応用紙はA4又はB5普通紙のみだ。またWindows 10のみ対応で、対応ブラウザもInternet Explorerと、EdgeやChromeは非対応だ。似たような機能としてエプソンがずいぶん前より「リモートプリントドライバー」を提供しているが、こちらは通常のプリントドライバーのリモートプリント版であるため、各ソフトから普通にプリント操作をする方法のまま、リモートプリントが可能だ。プリント時にプリンターの選択項目でリモートプリントを選ぶだけなので、プリントの出来るソフトであれば形式を問わないし、ソフト上で印刷範囲選択や拡大縮小を行って印刷する事も可能だ。印刷設定も細かく行える。通常のプリント操作と変わらず実行できるエプソンと比べると、「PIXUSでリモートプリント」は機能は少なく手間がかかると言える。イメージ的には、PIXUSトークプリントを、LINEが使えない環境でもブラウザ上でアップロードする形で提供したという感じだ。 |
ダイレクト接続対応 5GHz帯対応 |
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MacOS 10.11.6〜 |
MacOS 10.7.5〜 |
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操作パネルやインタフェース部分は、PIXUS PRO-S1で大きく進化した部分の一つだ。PIXUS PRO-100Sではプリント単機能の機種らしく液晶ディスプレイは搭載していなかった。PIXUS PRO-S1では3.0型の液晶を新たに搭載し、操作ボタンも用意された。「ホーム」ボタンと「戻る」ボタン、4方向ボタンと、中心に「OK」ボタンという必要最低限だが、コピーや写真のダイレクト印刷のような複雑な操作を行うわけでは無く、4方向ボタンがあるため操作性は悪くない。インク残量やエラー内容を確認できる他、本体設定やクリーニング、インク交換などの操作などが簡単に行えるようになった。 インタフェースはUSBと無線LANと有線LANに対応している点は変わりが無いが、PIXUS PRO-S1は無線LANが強化されている。PIXUS PRO-100SではIEEE802.11n/g/bのみ対応だが、PIXUS PRO-S1はIEEE80.211aにも対応し、IEEE802.11n/a利用時は5GHz帯にも対応する。PIXUS PRO-100Sやその他の多くの機種は2.4GHz帯のみ対応するが、これはBluetoothや電話の子機と同じ帯域で、電子レンジなどの影響も受けやすい。一方、5GHz帯は無線LAN専用といえるので、通信が安定する。 PIXUS PRO-S1の対応OSはWindows 7 SP1以降となり、PIXUS PRO-100Sの対応していたWindows VistaとXPには非対応となった。また、Windows 8にも非対応である点は注意が必要だ。MacOSもPIXUS PRO-100Sでは10.7.5以降だったがPIXUS PRO-S1では10.11.6以降となった。ただし、最近のキャノンのプリンターのように、MacOSは、OS標準のAirPrintを利用する方法ではなく、ダウンロード対応とはなるが、キャノンの専用ドライバーが用意される。また、PIXUS PRO-100Sで用意されていた「Print Studio Pro」は、「Digital Photo Professional」や「Adobe Photoshop」などの画像編集ソフトと連携して、より高度な写真作品のプリントが行えるプラグインだった。PIXUS PRO-S1では「Professional Print & Layout」に進化し、従来のプラグインとしての機能に加えて、単独でも使用できるようになった。また、レイアウト機能の強化や、キャノンのEOSシリーズ向けのRAW現像ソフト「Digital Photo Professional」との連携も強化されている。RAWデータの持つ広いダイナミックレンジを生かした「HDRプリント」や、「展示照明最適化」機能なども搭載している。 PIXUS PRO-S1の本体サイズは639×379×200mmで、PIXUS PRO-100Sの689×385×215mmと比べると、幅が50mm、奥行きが6mm、高さが15mm小型化した。容積比で85%をうたっているが、同じプロ向けの製品で、容積比68%となったエプソンのSC-PX1Vの515×368×185mmと比べると、大きく見えるのは残念なところだ。 PIXUS PRO-S1は5年半ぶりの新製品、PIXUS PRO-100Sから比べると8年ぶりの新製品というだけあって、様々な点で機能強化がなされている。インクの変更に留まらず、「L-COA PRO」「動的色間補正」「斜行補正機構」「サイドガイド・スライド機構」と、高画質化を図るために、ありとあらゆる点に工夫がなされているような印象だ。「プロ」をうたうだけの最新機能というイメージだ。さらに、同梱ソフトも機能が強化され、スマートフォンやクラウド関係の機能も強化、本体に液晶を内蔵することで操作性も向上させ、無線LANの安定性も向上させているなど、かなり魅力的な製品に仕上がっている。それでいて本体サイズは小型化しているのも見逃せない。良い点が多いPIXUS PRO-S1だが、唯一印刷コストが上がってしまったのは残念だ。作品印刷では、大判のプリントを何枚も行って色を調整する場合があるだけに残念だが、それを除いてはプロの用途に十分に対応できる機能に進化したといえるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 キャノンhttp://canon.jp/ |