2020年末時点のプリンターを徹底検証 新機種と旧機種を徹底比較 (2021年5月28日公開)
PX-M730Fはファクス付きA4複合機である。この製品の登場と同時に、PX-M680FとPX-M780Fが生産完了となっており、型番上もこの間の中間となる事から、この2モデルを集約した中間的位置づけの機種と言える。PX-M680FとPX-M780Fは見た目が全く同じで、性能だけが異なる製品だっただけに、PX-M730Fも見た目は同じに見えるが、実際にはPX-M680F寄りの製品である。どのような違いがあるのか、PX-M680Fとの違いを中心に見つつ、PX-M780Fとの違いも見ていこう。 |
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シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
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(文書キャビネット保存400年) |
(つよインク200X) |
(つよインク200X) |
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IB09A番(標準容量) |
85番(標準容量) |
83番(標準容量) |
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黒:800ノズル |
黒:800ノズル |
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(最速21枚/分) |
(最速20枚/分) |
(最速30枚/分) |
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(最速35枚/分) |
(最速33枚/分) |
(最速34枚/分) |
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(税別) |
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(税別) |
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まずは販売価格を見てみよう。販売開始時の価格はPX-M730Fが18,000円で、PX-M780Fの22,980円だけでなく、PX-M680Fの19,980円よりも安い価格設定となっている。性能的にはこの2製品の中間となるだけに、お買い得感はかなり高くなったと言える。 それでは、印刷画質や速度、印刷コストなど基本的なプリント機能を見てみよう。インクは顔料4色インクというのは同じだが、PX-M680F/PX-M780Fでは「つよインク200X」の名称が付けられていたインクは、PX-M730Fではただの顔料インクとなった。「つよインク200X」では写真保存時に、アルバム保存300年、耐光性45年、耐オゾン性30年と高くなっていた。しかし、今回は写真の耐保存性は明言されなくなった代わりに「文書のキャビネット保存400年」がうたわれている。顔料4色構成では画質上、写真印刷向きでは無く、文書印刷がメインになると思われるため、写真の耐保存性が高いより文書の耐保存性が高い方が合っているといえる。 インクの変更に伴って、PX-M680Fでは86番(大容量)又は85番(標準容量)だったインクカートリッジは、PX-M730FではIB09番となった。IB07の後ろに色の記号(K/C/M/Y)が付き、その後ろがBなら大容量、Aなら標準容量となる。これはPX-M780Fの84番(大容量)又は83番(標準容量)とも異なっている。 最小インクドロップサイズに関しては、PX-M730Fは非公表ながら、同性能の海外のモデルでは3.8plとなっており、おそらく3.8plとなる。PX-M680F/PX-M780Fでは2.8plだったので、ドットは若干大きくなったが、写真や年賀状印刷ならともかく、普通紙への印刷ではそれほど画質は変わらない。文章中のグラフや写真で若干ざらざら感が増している程度だろう。一方PrecisionCoreプリントヘッドは引き続き採用し、普通紙にも600dpiの高解像度で印刷が出来るので、細かい文字や図面なども綺麗に印刷できる。 印刷速度に影響するノズル数は、PX-M730Fはカラー各256ノズル、ブラック800ノズルで、これはPX-M680Fと同等だ。それでもPX-M680FではA4カラー文書が10.0ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数。数字が大きいほど高速)、A4モノクロ文書が20.0ipmだったが、PX-M730Fではそれぞれ11.0ipmと21.0ipmへと微妙に高速化している。とはいえ使用する上で違いを感じるほどではないだろう。また、PX-M780Fでは、カラーのノズル数もブラックと同じく各800ノズルとすることで、カラー文書も20.0ipmとなっていたため、PX-M780Fと比べると、PX-M730Fはモノクロは微妙に高速化、カラーはかなり遅くなったと言える。 印刷コストを見てみよう。A4カラーはPX-M730Fでは9.5円で、PX-M680Fの11.4円よりは安く、PX-M780Fの7.3円よりは高いという、型番通りの中間的な印刷コストとなった。PX-M730Fのインク1本での印刷可能枚数はPX-M680Fと変わらず、インク1本の価格がブラックインクはほぼ同じだが、カラーが24%安くなっており、これが印刷コストに表れたと言える。一方ブラックインクの価格が変わらないことからも分かるように、モノクロ文書の印刷コストは3.2円で、PX-M680Fと同じだ。PX-M780Fの2.2円よりは高くなっている。モノクロの印刷コストが気になる人は、上位モデルのPX-M855Fや、エコタンクモデルPX-M791FT/EW-M670FTなどを検討した方が良さそうだ。 |
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(セット可能枚数(普通紙/ハガキ/写真用紙)) |
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(250枚/65枚/50枚) |
(250枚/50枚/20枚) |
(250枚/50枚/20枚) |
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続いて、PX-M730Fの給紙、排紙機能を比較してみよう。対応用紙サイズや前面給紙カセット1段という点は変わっていない。用紙サイズ・種類の登録機能と、印刷時の用紙幅チェック機能により、誤った用紙への印刷を防いでくれるのも同等だ。ただ、給紙枚数に変更がある。PX-M680F/PX-M780Fでは普通紙は250枚となっており、これはPX-M730Fでも同等だ。ただPX-M680F/PX-M780Fではハガキが50枚、写真用紙は20枚までだったが、PX-M730Fではそれぞれ65枚と50枚に強化された。ハガキや写真用紙をよく使うなら見逃せない変更点だ。 |
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印刷速度 |
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続いてPX-M730Fのその他のプリント機能を比較してみよう。自動両面印刷機能を搭載しているのは同等で、ハガキには非対応であるのも同等だ。ただし、自動両面印刷時の速度が、PX-M680Fではカラー7.0ipm、モノクロ10.0ipmだったのが、PX-M730Fではカラー7.0ipm、モノクロ12.0ipmへと、モノクロが高速化した。片面プリントに関しては、カラー・モノクロ共に1.0ipmの高速化だったが、この高速化が両面印刷時はカラーでは影響していないのに対して、モノクロには2.0ipmと片面印刷以上に高速化しているのがおもしろい。またPX-M780Fではカラー・モノクロ共に12.0ipmであったため、PX-M680Fではカラーの印刷速度に差が出るのは仕方がないとして、片面の印刷速度が同等のモノクロにまで差が付けられていた事になる。一方PX-M730FではモノクロはPX-M780Fと同等に引き上げられたと言える。 PX-M730Fでは廃インクタンク(メンテナンスボックス)のユーザーによる交換に対応したのも、PX-M680Fに対する進化点で、PX-M780Fと同等になっている。廃インクタンクはクリーニング時に排出されるインクを貯めておくタンクで、満タンになると修理に出して交換するまで一切のプリントが止まってしまっていた。しかしPX-M730Fではインクカートリッジなどと一緒に、2,270円で交換用メンテナンスボックスが販売されており、これと交換するだけで印刷が再開できる。金額が安いだけでなく、プリンターが手元に無い期間が無くなるため、いざという時に便利だ。ちなみにメンテナンスボックスはPX-M780Fと共通のものが利用できる。 さらにPX-M680FだけでなくPX-M780Fにも搭載されていなかった機能がPX-M730Fに搭載されている。それが「フチなし吸収材エラー」時に印刷が継続できる機能である。フチなし印刷を行う場合、用紙のフチギリギリに印刷するのは用紙の微妙なズレなどを考えると難しいため、少し大きめに印刷し用紙からはみ出す部分は吸収材で吸収させるという方式をとっている。用紙が通る部分のプラスチックが一部欠けておりその下にクッションのような吸収材が見えるが、これがフチなし吸収材だ。このフチなし吸収材エラーが満タンになると、多くの機種では、一切のプリントが止まってしまう。一方、PX-M730Fでは、この吸収材にインクが落ちることがない「フチあり」印刷に関しては印刷を継続できるようになった。フチなし印刷はできないとはいえ、フチなし印刷はとりあえず置いておいて、急を要するフチあり印刷を行い、余裕のあるときに修理に出すという事ができるわけだ。フチなしで背景色や柄を入れる文書やハガキなどの印刷を多用するなら、大きなメリットになるだろう。 |
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(216×297mm) |
(216×297mm) |
(216×297mm) |
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続いてPX-M730Fのスキャナー部を見てみよう。スキャナーの解像度やCISセンサーという点は同じで、ADFのセット可能枚数も同じだ。しかし、そのADFを利用した場合のスキャン速度も向上している。カラー原稿の場合、PX-M680Fは7.0ipmだったが、PX-M730Fでは8.0ipmに14%高速化、モノクロ原稿の場合は7.0ipmが12.0ipmに71%高速化している。これはPX-M780Fと同等の速度であり、ADFに関してはPX-M780Fの機能が継承されたことになる。これは利便性が非常に高まっており、特にコピー時には効果を発揮するだろう(詳しくは後述)。 また、本体だけでスキャンしてUSBメモリーに保存する機能は引き続き搭載するが、PX-M680F/PX-M780FではJPEG、PDF、TIFF形式で保存できたが、PX-M730Fではこれらに加えてPDA/A形式での保存も可能となった。 |
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(外付けHDD対応) |
(外付けHDD対応) |
(外付けHDD対応) |
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赤目補正 |
赤目補正 |
赤目補正 |
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PX-M730FとPX-M680F/PX-M780Fのダイレクト印刷機能を比較してみよう。3機種とも写真印刷向きのプリンターではないが、ダイレクト印刷機能も搭載している点では同等だ。写真の印刷というよりは、スキャンしてUSBメモリー等に保存したデーターを再プリントするというような用途が想定されているようだ。対応ファイル形式や色補正機能などは同等で、USBポートのみ搭載で、メモリーカードスロットが無い点も同等だ。ただし、PX-M680F/PX-M780Fでは、USBメモリーと外付けHDDに対応していたが、PX-M730Fではメモリーカードリーダーにも対応した。パソコン用のメモリーカードリーダーを接続する事で、SDカードをはじめとする各種メモリーカードに対応できる。対応するメディアが格段に増えたと言えるだろう。 |
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EPSON Smart Panel |
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Android 5.0以降 (EPSON Smart Panel使用時のiOSは11.0以降) |
Android 4.1以降 |
Android 4.1以降 |
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(OneDriveはアプリからのみ) |
(OneDriveはアプリからのみ) |
(OneDriveはアプリからのみ) |
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PX-M730Fのスマートフォン、クラウド関連機能を見ていこう。専用のアプリは従来のEPSON iPrintに加えて、他の最新機種にならって、EPSON Smart Panelにも対応した。対応端末に変化は無いが、EPSON Smart Panelの場合は、iOSは11.0以降となる。 その他、PX-M730Fでは、Wi-Fiダイレクト接続時の接続支援機能が変更されている。PX-M680F/PX-M780Fでは、NFCを搭載しており、タッチすることで簡単に接続ができたが、Android限定で、しかもNFCに対応した端末のみだった。そこで、PX-M730Fでは、iOSの場合は本体の液晶に表示されるQRコードを標準カメラアプリで読み込めば接続が完了し、Androidの場合はアプリ上からPX-M730Fを選ぶと、本体の液晶にメッセージが表示されるので接続の許可を選べば接続が完了するようになった。セキュリティーキーの入力などが不要なまま、iOSでもAndroidでも利用できるようになった。その他、クラウド関係の機能等は同等だ。 |
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濃度調整 背景除去機能 コントラスト調整 鮮やかさ調整 色調補正(レッド・グリーン・ブルー個別) シャープネス調整 色相調整 |
濃度調整 |
濃度調整 |
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影消しコピー パンチ穴消しコピー ソート(1部ごと)コピー |
影消しコピー パンチ穴消しコピー ソート(1部ごと)コピー |
影消しコピー パンチ穴消しコピー ソート(1部ごと)コピー |
PX-M730Fのコピー機能を見てみよう。基本的な拡大縮小機能などには違いが無いが、コピー時の色補正機能が強化された。PX-M680F/PX-M780Fではコピー前のプレビューと濃度調整のみだった。PX-M730Fはこれに加えて、背景を白にすることで見やすくすると共にインクを節約できる「背景除去機能」、さらにコントラスト、鮮やかさ、色調、シャープネス、色相を調整できるようになった。色調に関しては、レッド、グリーン、ブルーを独立して調整が可能だ。かなり高度な色補正が可能で、できる限り原本に近づけたり、逆にイメージを変えたり、読みやすくしたりと言った調整が出来る。 また、スキャナー部で説明した様に、ADFの速度が向上したことにより、コピーでの利便性も向上しているといえる。同じ原稿の連続コピーなら良いのだが、ADFを利用して、複数の原稿をコピーする場合、スキャンとプリントの遅い方の制限を受けることになる。PX-M680Fの場合、プリントはモノクロ20.0ipm、カラーが10.0ipmなのに対して、ADFはモノクロ、カラー共に7.0ipmなので、こちらがボトルネックとなり、それ以上の速度が出ない。それに対して、PX-M730FのADFはモノクロが12.0ipm、カラーが8.0ipmである。いずれもプリント速度の21.0ipmと11.0ipmよりは遅いが、ADFが高速化した分だけ、高速にコピー出来ることになる。ADFを利用したコピーが多いなら、かなり使いやすくなったと言えるだろう。 |
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8dot/mm×7.7line/mm(精細) 8dot/mm×15.4line/mm(高精細) 16dot/mm×15.4line/mm(超高精細) 8dot/mm×7.7line/mm(写真) |
8dot/mm×7.7line/mm(精細) 8dot/mm×15.4line/mm(高精細) 16dot/mm×15.4line/mm(超高精細) |
8dot/mm×7.7line/mm(精細) 8dot/mm×15.4line/mm(高精細) 16dot/mm×15.4line/mm(超高精細) |
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続いて、PX-M730Fのファクス機能を見てみよう。基本的にはほぼ同じ機能である。唯一、画質設定として、解像度は高精細と同じだが、写真を含む原稿の場合に適した画質で送ることが出来る「写真」モードが追加されている。 |
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(角度調整可) |
(角度調整可) |
(角度調整可) |
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(角度調整可) |
(角度調整可) |
(角度調整可) |
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5GHz対応 (Wi-Fiダイレクト対応) |
(Wi-Fiダイレクト対応) |
(Wi-Fiダイレクト対応) |
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MacOS 10.6.8〜 |
MacOS 10.6.8〜 |
MacOS 10.6.8〜 |
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最後にPX-M730Fの操作パネルやインターフェース、本体サイズなどを見てみよう。液晶は同じ2.7型でタッチパネル式となっている点は同じだ。本体前面に取り付けられ、起こして角度調整が可能なのも同じだ。液晶の左右と上部に使用可能時だけ点灯するタッチセンサー式のボタンが搭載されるのも同じだ。 インターフェースはUSB2.0に加えて、無線LANと有線LANにも対応しネットワーク接続出来るのは同じだ。しかし無線LANに関しては機能強化されている。PX-M680F/PX-M780FではIEEE802.11n/g/bのみ対応だが、PX-M730FはIEEE80.211ac/aにも対応し、5GHz帯にも対応する。IEEE802.11acはIEEE802.11nと比べると通信速度が圧倒的に速いため、無線LAN接続時でも待たされる心配が無い。さらに、IEEE802.11ac/n/a通信時は、5GHz帯の電波を使用できる。PX-M680F/PX-M780Fやその他の多くの機種は2.4GHz帯のみ対応するが、これはBluetoothや電話の子機と同じ帯域で、電子レンジなどの影響も受けやすい。一方、5GHz帯は無線LAN専用といえるので、通信が安定する。このように無線LANでの安定性が大幅に強化されている。 対応OSに変化はない。マイクロソフトのサポートの終わったWindows XPやVistaにも引き続き対応し、MacOSも10.6.8以降と比較的古いバージョンから対応する。PX-M730Fの本体サイズは、奥行きが1mm大きくなっただけで、PX-M680F/PX-M780Fと同じと言える。本体のデザインにも変更がなく、型番表記以外は、機能が搭載されなくなったNFCマークがなくなったことと、PrecisionCoreのロゴが入ったことくらいだ。 PX-M730Fの耐久枚数に関しては、8万枚でPX-M680Fから据え置きとなるが、PX-M780Fの10万枚からはやや下がったとも言える。 PX-M730FはPX-M680FとPX-M780Fの両方の後継モデル的な扱いながら、印刷速度や耐久枚数など、機能はPX-M680Fに近いものだ。とはいえ、自動両面印刷速度やADFの速度、交換式メンテナンスボックスなど、PX-M780Fの便利な部分は引き継がれている。それでいながら、価格はPX-M680Fより安くなっており、両面からお買い得感が高くなったといえる。さらにPX-M780Fも搭載していなかった、フチなし吸収材エラー時の印刷継続機能や、スマホとの簡単接続機能に加えて、コピー時の色補正機能や、無線LANも強化され、確実に使いやすくなっている。安価なファクス付きの文書用プリンターを探している人にとって、大幅に魅力が増したと言えるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ |
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