イヤホン4機種を比較する (2009年4月4日公開)
私はこれまで最適なイヤホンを探すのには苦労してきた。私は一般の人より耳の穴が小さいのか、昔からポータブルオーディオプレイヤー(ポータブルMDプレイヤーや、ポータブルデジタルオーディオ)に付属しているイヤホンでは耳が痛くなってしまうのである。これらのイヤホンは、一般的な「インナーイヤー型」イヤホンで、16mm口径のドライバーユニットを搭載しているが、それだと大きすぎるのだ。 そこで、私はSONYが「ちいさめサイズ」として販売しているインナーイヤホン「MDR-E930SP」を愛用してきた。この製品は、13.5mm口径のドライバーユニットを搭載しているため、耳に入れる部分円周が小さく、耳にやさしいのである。途中、耳の奥まで入る「カナル型」イヤホンも試してみたが、いまいちしっくりしなかった。 しかし最近になって様々な製品が出てきたため、使っているイヤホンが壊れた際に色々と試してみた。一つは、「MDR-E930SP」と同じ「インナーイヤー型」だが、価格が安い下位モデルの「MDR-E10SP」である。また、一度はしっくりこなかった「カナル型」の進化型である「MDR-EX85SL」である。これは、イヤーピースをドライバーユニットに角度を付けて取り付けることで、従来の密閉型より大きな13.5mmのドライバーユニットを搭載でき高音質になっているという製品だ。そして、「MDR-EX85SL」の後継製品である「MDR-EX300SL」はドライバーユニットを外耳道に対して垂直に配置し、さらに装着感をアップさせた製品である。これらの製品を音質や装着感などの観点から評価していきたいと思う。
それでは先程紹介した4製品を、カタログ上のスペックと、私自身の評価を4段階(◎○△×)で比較してみよう。
前々から使用してきて比較的満足していたのが「MDR-E930SP」である。価格も1,980円と購入しやすい価格で、音質も満足いくレベルである。公式ホームページ上では「オープンエアダイナミック型」に分類されているが、一般的な分類では「インナーイヤー型」であり、耳の穴の入り口の辺りに引っかけて使う。ドライバユニットの直径は13.5mmであり、16mmあるのが一般的なのに対して少し小さくなっているために、耳穴の小さい人に向いている製品である。 では私が使った評価を紹介しよう。肝心の音質はなかなかである。音楽を聴いても十分良い音に聞こえ、ポータブルMDプレイヤーに付属してきたイヤホンや、売店やコンビニで売っているイヤホンと比べればかなりの差である。一方で低音はそれほど効いているという感じはない。前述のように小さめサイズであるために耳への負担は非常に軽い。また、周囲にゴムが巻いてあるのも耳への感触を良くしている。それでも1時間半ほど付けていると徐々に耳が痛くなってくるが、一般の大きさのイヤホンだと10分と持たずに耳が痛くなるため、それよりはずいぶん楽である。かといって抜けやすいわけではなく、耳にしっくりとしている。また、ケーブルが布巻コードになっているため、首などにまとわりつかないのも良い。 イヤホンを付けた時の密閉感は低い。そのため、イヤホンを付けただけでは聞こえ具合はほとんど変わらず、音楽を鳴らしても周りの音は十分に聞こえる。電車の中や周囲のうるさい場所などでは音楽に集中しにくいが、代わりに歩きながら音楽を聴いても安全性が保てる。一方で音漏れは低く抑えられており、よほど大きな音にしなければ周りに音が漏れることはなさそうである。 突出した部分はないものの欠点も少なく、1,980円と言うことを考えれば十分に満足いく製品である。
「MDR-E930SP」が壊れた際に、より低価格の製品を一度試してみようと考えて購入したのが「MDR-E10SP」である。耳に入れる部分が白と黒の2色あり、それぞれ柄の部分が4色ずつあり8色のカラーバリエーションがある事から、高音質さより気軽にデザインを楽しめるモデルとなっている。 価格は980円と「MDR-E930SP」の半値である。「MDR-E930SP」と同じインナーイヤー型である。13.5mmのドライバーユニットを使用しているため、小さめサイズとなっている。価格は安いものの、スペック面では意外と悪くない。感度は同等の104dB/mWで、最大入力も100mWである。再生周波数帯域が18-22,000Hzで、低音側が若干劣る程度である。 さて、私が使ってみた評価であるが、音質は「MDR-E930SP」と比べてもほとんど遜色ない。静かな所で良く聞き比べたり、耳の良い人なら違いが分かるのだろうが、私のように何気なく音楽を聴いている程度では違いは分からなかった。低音はそれほど効いていないが、高い音だけがシャンシャン鳴っている訳ではなく、バランスは悪くない。ポータブルMDプレイヤーに付属してきたイヤホンや、売店やコンビニで売っているイヤホンと比べれば十分高音質だ。耳への負担は、「MDR-E930SP」と同じ小さめサイズながらこちらの方が多少強い。周囲にゴムが巻かれておらず、「MDR-E930SP」より厚みがある上に、実際に計ってみると0.2mmほどだがサイズが大きい(「MDR-E930SP」は15.1mm、「MDR-E10SP」が15.3mm) 。わずかな差だが30分程度で耳が痛くなることを考えると常用しにくい。密閉感や音漏れに関しては「MDR-E930SP」と同レベルで、周りの音はそれほど遮断されないため音に集中はしにくいが、歩きながらでもある程度周囲の音が聞こえる分安全で、音漏れは少なめだ。 「MDR-E10SP」最も困るのがケーブルである。もちろんコストダウンのため布巻ケーブルになっていない事もあるが、左右の長さが同じなのが最も困る点である。通常のイヤホンは右の方がケーブルが長く、プレイヤーからのケーブルは左耳の方へ行き、そこから首の後ろや前などを通して右耳にもっていけるようになっている。ところが「MDR-E10SP」は左右の長さが同じなのである。確かにイヤホンにデジタルオーディオプレイヤーなどを吊れるようになっているタイプでは、左右の耳に均等にプレイヤーの重さがかかるように、左右の長さが一緒になるが、「MDR-E10SP」はそうではないにもかかわらず同じ長さになっている。そのため首の後ろを通すと右耳側のケーブルが足りず突っ張ったようになってしまう。かといって前を通すのも邪魔である。 「MDR-E10SP」は980円とは思えない音質で、低価格の製品ながら十分満足がいく製品である。ただしケーブルに癖がある点は注意が必要である。
従来のカナル型はイマイチ音質が良くないという印象があったが、「MDR-EX85SL」は特殊な構造によって高音質であると言われているため、4,980円と「MDR-E930SP」よりも高価であったが購入したものである。また、その後購入したSONYのデジタルオーディオプレイヤーの「NW-E016」にも同タイプのものが付属している。 この製品は、公式ホームページ上は密閉型インナーイヤーレシーバーと書かれているが、一般的な分類では密閉型構造のカナル型となる。従来のカナル型は、ドライバーユニットと並行にイヤーピースが付いてるが、その場合は9mmのドライバーユニットしか内蔵できなかった。そこで、ドライバーユニットに対して斜め下向きにイヤーピースを取り付ける方法をとることで、13.5mmのドライバーーユニットを内蔵できたという。性能面では、「MDR-E930SP」と比べると再生周波数帯域が広がっており、低音から高音まで幅広く音が出せる。また感度が若干良くなっている。 さて、実際の装着感であるが、非常にしっかりしている。感覚としては、ドライバーユニット部はインナーイヤー型の様な形状であり、耳の穴にしっかりはまり、その先からイヤーピースが耳の穴の中にさらに入り込むような感じである。そのため非常に抜けにくい。しかしドライバーユニット部が「MDR-E930SP」より若干大きい(「MDR-E930SP」は15.1mm、「MDR-EX85SL」は15.8mm)ためか、角が丸められていないためか、耳への負担は大きめで、15分ほどで耳が痛くなってしまう。 音質は価格が高いだけあり、「MDR-E930SP」とははっきり違いが分かる高音質だ。まず、音がよりきめ細かい感じである。大きな音だけでなく、バックで鳴っている小さな音まで再現されており、全体的に丁寧に出ているといった印象だ。また、低音が非常にしっかり出ている。さすがに再生周波数帯域の低音域側が「MDR-E930SP」の16Hzから5Hzまで広がっているだけあると言える 。ただし、低音に関しては強調されすぎて少々不自然にも感じるのは残念だ。また、密閉感が高いのも特徴だ。私は掃除機を当てながら音楽を聴くことがあるが、「MDR-EX85SL」になって掃除機のモーター音が小さく聞こえるようになり、音楽に集中しやすくなったといえる。 ケーブルの感触は、「MDR-E930SP」の様な布巻ケーブルにはなっていないが、右側が長いのでケーブルが突っ張るという事はない。残念なのは音漏れがあまりにもひどいことだ。静かな家の中だと、小さめの音で聴いていても、少し離れた人にまで何の歌かが分かってしまうほど音漏れするのである。これだと屋外で聴くのがはばかられてしまう。 音質も重低音感も非常に良く、さすがに4,980円出す価値がある。また装着した際も非常にしっかりしており、さすがに特殊な形状をしているだけある。ただし、耳への負担が若干大きいことと、音漏れがひどいため屋内専用とも言えてしまう点は注意が必要である。
「MDR-EX85SL」は音質がよいがすぐに耳が痛くなってしまう。そんな中で発売されたのが「MDR-EX300SL」である。「MDR-EX85SL」と同じく公式ホームページ上は密閉型インナーイヤーレシーバーと書かれており、一般的な分類では密閉型の構造のカナル型となる。感度や再生周波数帯域などは「MDR-EX85SL」と同等であるが、ドライバーユニットの取付方法が異なる。イヤーピースに対して、ドライバーユニットを垂直に取り付けている。そのためドライバーユニット部が縦に丸くなったため、耳穴に対しては薄い楕円になり耳への負担が減っているという。また、「MDR-EX85SL」での音漏れの多さが指摘されたのか、「MDR-EX300SL」では筐体とドライバーユニットを一体化することで、音漏れを低減しているという。またイヤーピースも2種類の硬度のシリコンを組み合わせる事で密閉感も高まっているという。価格は「MDR-EX85SL」の後継製品的な位置づけであるため、同じ4,980円である。 さて、音質に関しては「MDR-EX85SL」同様、非常に良い。音がよりきめ細かい感じ、大きな音の中の小さな音もかき消されることなくしっかりと表現されており、全ての音が丁寧に出ているといった印象だ。重低音感に関しては「MDR-EX85SL」よりも低く感じられるものの、「MDR-EX85SL」では不自然なほどに重低音が効いていたところが、「MDR-EX300SL」では自然な感じになったともいえる。全体ではこちらの方が良い感じに聞こえる。耳への負担は、前述のように耳穴に対しては薄い楕円形になっているため、非常に小さい。長時間使っても耳が痛くなることはなかった。その反面、耳穴に対して余裕が出来てしまったために、簡単に抜けてしまうようになった点は注意が必要だ。また、「MDR-EX85SL」のようにドライバユニットとイヤーピースの角度が固定されているのとは異なり、ドライバユニット部の円形の側面部分にイヤーピースが付いているため、イヤーピースがどの角度でも耳の中に入れられてしまう。そのため、しっかりと装着しないと、音が小さく聞こえたり重低音感が低下したり密閉感が下がったりしてしまった。音を聞きながらしっくり来る点に調整する必要がある。 ケーブルは布巻ケーブルではないため、首などの肌ときしんで、ケーブルが引っ張られることがあった。その際、「MDR-EX85SL」の様に耳にしっかり固定されておらずゆるめであるため、ケーブルがちょっと引っ張られると、すぐに耳から外れてしまう。この点は残念な点である。 改善したという密閉感はさすがで、掃除機をあてながら音楽を聴いても、少し音量を大きめにすれば掃除機の音がかなり聞こえなくなる。これは、音を出さずに「MDR-EX300SL」を装着しただけで、周りの音がかなり小さく聞こえる事からも分かる。騒音のする所で音楽を聴く場合には重宝する。また「MDR-EX85SL」ではひどかった音漏れも、ほとんどしないレベルになっていた。これならば屋外で使っても周りに迷惑をかけることはなさそうである。 音質や重低音感、密閉感や音漏れなど様々な面で改良され、いずれもかなり高いレベルになっている。少々抜けやすくなっているが、耳への負担が小さいことを考えると気にならないとも言える。4,980円という価格は少々高価だが、価格以上に満足のいく製品であると言える。 イヤホンは製品によって様々な特徴がある事が判る。しかも製品によって、音質だけでなく装着感や重低音感、音漏れなど様々な「クセ」がある。また今回は980円から4,980円まで価格差があるが、音質や形状を見ると高価な製品にはそれだけの価値がある事もわかる。ポータブルオーディオを購入した時に付属しているイヤホンそのままを使うのではなく、自分にあったイヤホンを探すのも良いのではないだろうか。 (H.Intel) ■今回の関係メーカー・ショップ
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