第87回
IEEE802.11nbg対応USB用無線LAN子機
バッファロー WLI-UC-G300HP
(2009年9月13日購入・2010年2月11日著)



Aspire One D250の通信環境を改善しよう

 ロードテスト第85回でネットブックパソコンのAcer「Aspire One D250(AOD250)」を紹介した。このパソコンは39,800円と思えないほど「使える」機種であり、欠点の少ないパソコンであったが、一つだけ問題があった。それが、LAN機能である。有線LANが100BASE-TXまで、無線LANがIEEE802.11b/gとなるのである。他のネットブックでは有線LANが1000BASE-Tまで対応していたり、無線LANがIEEE802.11n Draftに対応している機種が多いが、どちらの高速規格にも対応していないのである。通信速度は、理論値でIEEE802.11gが54Mbps、100BASE-TXが100Mbpsである。我が家の場合、インターネットは光ファイバー回線「フレッツ光プレミアム(マンションタイプ)であるが、速度は最大100Mbpsで、実際には35〜50Mbpsといったところである。100BASE-TXの有線LANで接続すればそれほど問題ないし、IEEE802.11gの無線LANでも10Mbps程度は出る。ネットブックパソコンでそこまで高速なインターネットを求めているわけではないため、これで十分といえる。問題なのは、家の中での通信の方である。我が家ではネットワーク接続のハードディスク(NAS)を利用しているし、他のパソコンのデータにアクセスしたり、他のパソコンにデータを転送したりすることも多い。例えばAspire One D250にプリンタ複合機「PM-T960」を接続して、我が家にあるネガフィルムを全てデジタル化する作業をしているが、このスキャン済みの写真をハードディスク容量の大きいデスクトップパソコンに転送する必要がある。また、メインのノートパソコンで作業しながら、Aspire One D250で動画を見ることがある。TV録画した動画なのだが、これはデスクトップパソコンのTVチューナで録画しているため、ネットワーク経由でアクセスして再生することとなる。屋外でホームページを作成するためには、普段ホームページ作成作業をしているノートパソコンからデータを転送して置かなければならない。
 こういった理由から、少しでも高速なLAN環境があった方が便利なのである。そこで、有線LANまたは無線LANの性能アップを図ることとした。

製品を選ぶ

 まず、無線LANと有線LANのどちらの性能アップを行うか決めなければならない。ちなみに、どちらにしてもAspire One D250にはカードスロットなどはないため、USB接続となる。有線LANの場合は、1000BASE-T(ギガビットイーサー)に対応した製品を接続することとなる。1000BASE-Tはその名の通り理論値で1000Mbpsの通信速度となるが、USB2.0の転送速度が最大480Mbpsであるため、こちらの制限を受けることとなる。それでも最大100Mbpsの現状よりはかなり高速になる。無線LANの場合は、IEEE802.11n対応の製品を接続することとなる。IEEE802.11nは最大300Mbpsなので1000BASE-Tよりは劣るが、今の最大54Mbpsよりは高速である。
 有線、無線それぞれに利点があり、有線LANは無線LANより高速で安定しているといえる。一方無線LANではケーブルをつなぐ必要がなく家の中でも移動しやすいことと、他の人の家にお邪魔した際にも高速に接続できそうな事である。考えた結果、とりあえず無線LANの高速化を図ることとした。やはりAspire One D250は小型で家庭内で移動させることがあるため、ケーブルにあまり煩わされたくないと思ったからである。
 我が家では無線LANルータにバッファローの「WZR-HP-G300NH」を使用している。これまでバッファローの無線LAN機器を使ってきて、使いやすさには定評があることと、バッファロー製同士ならAOSSで簡単に設定できることから、バッファローの無線LAN子機から選ぶことした。IEEE802.11aは使わないと判断し、IEEE802.11n/b/g対応製品から選ぶこととすると対象は3製品ある。もっとも価格が高いのが、倍速モード(40MHz)対応で300Mbps接続できる上に、ハイパワータイプで可動式アンテナを内蔵した「WLI-UC-G300HP」である。次は300Mbps接続対応だが、通常パワーの「WLI-UC-GNP」である。そして、倍速モードに対応しておらず、20MHzの150Mbps接続となる「WLI-UC-G300N」である。しかも順にサイズが小さくなっていく。非常に悩みどころだが、今回は「通信速度の高速化」が第一の目的であることと、屋外でAspire One D250を使用する場合は内蔵の無線LANを使用すると思われる事から、大きさはたいした問題にならないと考え、「WLI-UC-G300HP」を選択した。ヨドバシカメラマルチメディア梅田で4,480円(10%ポイント還元)で購入した。

WLI-UC-G300HPを接続する

 「WLI-UC-G300HP」は一般的なスティックタイプの無線LAN子機となる。付属品として、10cm程度の延長ケーブルがあるが、このケーブルはただのUSBケーブルではなく、少し固めのタイプとなっている。そのため、延長ケーブルを使って「WLI-UC-G300HP」を立たせることができ、デスクトップパソコンの背面のUSB端子に接続する場合でも、ケースより高い位置に固定できるようになっているし、ノートパソコンに取り付けた場合も、ノートパソコンを移動する際に垂れ下がることがないため便利である。また本体には、電波状態を示す3つのLED「感度レベルメータ」を搭載している他、可動式アンテナとなっているなど、USBタイプの子機にしては珍しい機能が搭載されており便利である。ただし、USB端子のキャップが付属しているが、ただのキャップで本体と繋がっているわけではないので、無くしてしまいそうなのが気になる。屋外に持ち出して使用する時だけ挿し込む、携帯電話回線やPHS回線を使用するデータ通信機器ならともかく、無線LANの場合は一度パソコンに取り付けたら外す機会は滅多にないという人も多いはずだ。そうなるとたまに取り外してみたら、キャップが何処に行ったか分からないという事になりかねない。ここまで凝っているのだから、USB端子はスライド式の方が便利だったかもしれない。

「WLI-UC-G300HP」本体(右)と、付属の延長ケーブル(左)である。延長ケーブルは少し固めのタイプなので、デスクトップパソコンの背面のUSB端子に接続する場合でも、ケースより高い位置に固定できるようになっているし、ノートパソコンに取り付けた場合もノートパソコンを移動する際に垂れ下がることがないため便利である。

「WLI-UC-G300HP」本体である。26×15×100mmと小さくはないが、感度レベルメータや可動式アンテナなど機能は豊富である。

「WLI-UC-G300HP」を使用する際は、USB端子部のキャップを外してパソコンに挿し込む。キャップは無くしてしまわないように注意が必要だ。

「WLI-UC-G300HP」の可動式アンテナを立てた状態である。電波が不安定な場合に調整が出来、便利である。またUSBタイプの子機では珍しい機能だ。

 さて、説明書に従って、付属のユーティリティディスクを挿入する。そしてドライバやユーティリティをインストールし、途中、指示に従って「WLI-UC-G300HP」を接続すれば、使用できるようになる。ただし、注意点として、この状態では倍速モードにはなっておらず、帯域幅を20MHzだけ使う150Mbpsモードになっている。これは、初期状態で倍速モードがオンになっていると、倍速モード非対応の親機と接続できないため、とりあえずどのような親機とでも接続できるようにするためであると思われる。私の使っている親機「WZR-HP-G300NH」は倍速モードに対応しているので、さらにエアーステーションユーティリティの「AirStation倍速設定ツール」で倍速モードをオンにする。
 続いて親機との接続である。これはAOSSに対応しているため非常に簡単だ。ユーティリティのインストール後に自動的に接続ウィザードが起動するため、ここでAOSS接続を選び、さらに親機の方のAOSSボタンを押せば良い。あとは自動的に接続から暗号化設定まで自動で行ってくれる。また、後で行う場合は、インストールされた「クライアントマネージャ3」から接続設定が行える。この簡単さはさすがである。

WLI-UC-G300HPを使用する

 それでは使用してみよう。「WLI-UC-G300HP」本体に電波状態を示す3つのLED「感度レベルメータ」を搭載しているため、一目で電波強度が分かり非常に便利である。また、接続できていない時も消灯しているため、正常に接続できているかの確認にも使える。実際に使用してみると、確かに内蔵のIEEE802.11gの無線LANと比べるとインターネットも高速で、他のパソコンとのデータのやりとりも明らかに速くなっている。

「WLI-UC-G300HP」の「感度レベルメータ」が点灯している状態である。3つのLEDが点灯しているので、電波強度は良好である。ちなみに真ん中の青色LEDはデータ送受信時に点滅するACTランプである。

しかし、しばらく使っていると問題が発生した。突然接続が途切れてしまうのである。インターネットや他のパソコンの共有フォルダへのアクセス、ネットワーク接続のプリンタ複合機など全てに接続ができない。しかも、クライアントマネージャ3上では接続していることになっており、「WLI-UC-G300HP」本体の電波状態LEDも3つ点灯している。つまり見た目は接続できているのに、実際には一切接続できないというわけである。クライアントマネージャ上で「再接続」をクリックすると、自動的に再接続され使用できるようになるが、またしばらくすると使用できなくなるのである。使用できなくなるまでの時間は5〜60分程度とまちまちである。また、他のパソコンにデータを転送するなど、通信を行っている状態でも、パソコン操作をせずに放っておいた状態でも、接続できなくなる。
 そこで様々な対応を行ってみた。Aspire One D250内蔵の無線LANと競合していることを考えて、デバイスマネージャで「無効」に設定してみたり、クライアントマネージャ3で、使用する子機を「自動」ではなく「WLI-UC-G300HP」に固定してみたりした。またセキュリティソフトのファイヤーウォールを切ってみたり、再度ドライバのインストールからやり直したりしてみるが変化はない。親機の問題かとも考え、親機のファームウェアの更新を試みるも、すでに最新版であった。さらに、パソコンとの相性とも考え、別のノートパソコン「VGN-SZ94S」に接続して見た。OSもAspire One D250がWindows XPなのに対して、VGN-SZ94SはWindows Vistaであるためかなり環境が異なるが、症状は同じであった。バッファローのサポートに電話をしてみると、親機のファームウェアで、最新のベータ版があるということで、それを入れて見るも、やはり症状は変わらない。もう一度バッファローに電話をすると、いろいろ試してもだめな上、複数のパソコンで同じ症状ということなので初期不良という事で、購入した店舗で交換してくれることになった。
 快く交換してもらい、持って帰って使用してみると、またもや同じ症状である。これは困った事である。返品してもらおうかと考えながら、いろいろと設定を見ていて、ふと無線LANのセキュリティを別のものに切り替えてみることにした。通常では「WPA2-AES」となっているが、これを「WPA-AES」に変更してみたが症状は変わらず。半分あきらめながら最後の「WPA-TKIP」に変更してみたところ、なんと接続が切れなくなったのだ。2日間つけっぱなしにしておいたが接続が切れることはなかった。なぜ「WPA-TKIP」だけ接続できるのか謎だし、製品としては問題があると思うのだが、とりあえず使用できているということで、この設定で使用することとした。

WLI-UC-G300HPの速度を計測する

 それでは「WLI-UC-G300HP」の通信速度を計測してみることにしよう。比較対象は、Aspire One D250内蔵の無線LAN(IEEE802.11g)と有線LAN(100BASE-TX)である。また、「WLI-UC-G300HP」自体もAspire One D250に接続して計測している。ちなみに、Aspire One D250のスペックは、CPUがAtom N280(1.66GHz)、メモリが1GB、OSがWindows XP Home Edition SP3となっている。パソコンのスペックがそれほど高くないため、「WLI-UC-G300HP」本来の通信速度が出ていない可能性もあるが、Aspire One D250の通信環境の改善が今回の目的であるためこのようなテスト環境となっている。


 まずはネットワークハードディスクであるバッファローの「LS-Q1.0TL/1D」へのアクセス速度をベンチマークテスト「Crystal Disk Mark」で計測した。「LS-Q1.0TL/1D」と「Aspire One D250」は無線LANルータ「WZR-HP-G300NH」を介して繋がっている。ちなみに、「LS-Q1.0TL/1D」はGigabitイーサネット(1000BASE-T)に対応したネットワークハードディスクである。一方「WZR-HP-G300NH」もGigabitイーサネット(1000BASE-T)の有線LANとIEEE802.11nの無線LANに対応したルータである。つまり、「LS-Q1.0TL/1D」と「WZR-HP-G300NH」の間でのネットワークがボトルネックにはなりにくく、「Aspire One D250」と「WZR-HP-G300NH」との間のLANの接続方法の違いによる差が出やすい環境となっている。
 結果を見ると「WLI-UC-G300HP」の速度は、Aspire One D250内蔵の無線LANよりは速いものの、残念ながら内蔵の有線LANよりは遅いという結果になってしまった。Aspire One D250内蔵の有線LANではSequential Readで79.84Mbps(9.98MB/s)、Sequential Writeでは89.92Mbps(11.24MB/s)と理論値の100Mbpsにかなり近い値が出ている一方、「WLI-UC-G300HP」はSequential Readで44.64Mbps(5.58MB/s)、Sequential Writeで67.04Mbps(8.38MB/s)と理論値の300Mbpsと比べるとかなり控えめな結果となっている。この辺りが無線LANの限界なのか、「WZR-HP-G300NH」の性能なのか、Aspire One D250の性能不足が原因かは不明である。ちなみに「Aspire One D250」と「WZR-HP-G300NH」との間は1m程度であり、電波が弱いと言う事は無い。しかしこれでも、Aspire One D250内蔵の無線LANの3倍前後の速度にはなっているため、無線環境での高速化は成功とは言える。


 続いて、実用的なレベルでの速度差を見るため、インターネットのアクセス速度を計測した。回線は、NTT西日本の「フレッツ光プレミアム マンションタイプ」で、マンションまでは1Gbpsの回線、マンション内はVDSL回線となる。「Radish Network Speed Testing」「speed.rbbtoday.com」「BNR SPEED TEST」の3つの回線速度計測サイトを利用し、5回計測し平均値を算出している。
 これを見ると、「WLI-UC-G300HP」の速度は、Aspire One D250内蔵の無線LANより高速化し、内蔵の有線LANに近いか、計測サイトによっては逆転する事もある。インターネットという事に関しては有線LANと同等レベルの便利さになったと言える。ただし、同じ回線に「VAIO VGN-SZ94S」(Core 2 Duo T7100(1.80GHz)、メモリ2GB)を接続して計測すると35Mbps前後の数値が出ていることから、そもそもAspire One D250ではスペックの低さにより回線速度が十分に生かされていない可能性もある。


 続いて実際のファイルの転送速度を計測した。計測は、これまでと同じようにAspire One D250を3種類の方法で無線LANルータ「WZR-HP-G300NH」と接続し、さらに「WZR-HP-G300NH」とGigabitイーサネット(1000BASE-T)で繋がっている、前述のネットワークハードディスク「LS-Q1.0TL/1D」とデスクトップパソコン「VGC-RM50」(Core 2 Quad Q6600(2.40GHz)、3GBメモリ、Windows XP)との間でデータを転送するのにかかった時間をストップウォッチで計測した。計測は「Aspire One D250→LS-Q1.0TL/1D」「LS-Q1.0TL/1D→Aspire One D250」「Aspire One D250→VGC-RM50」「VGC-RM50→Aspire One D250」とそれぞれの機種と双方向で行っている。転送に使用したデータは、大きなファイルサイズのデータを転送する速度を計測するため「647MBのH.264/AVC動画1ファイル」と、小さなファイルサイズのデータを大量に転送する速度を計測するために「数百KBのJPEG画像1915枚で合計221MB」の2種類を用意し行っている。グラフは上が転送にかかった時間、下がそれを元に算出した転送速度である。
 これを見ると転送する機器や方向によって速度に違いはあるものの、Aspire One D250内蔵の無線LANよりは速く、内蔵の有線LANよりは遅いという結果に変わりはない。また、大きなファイルを転送する場合、最大100MbpsのAspire One D250内蔵の有線LANでは最大で77.44Mbpsとかなりの好結果なのに対して、最大300Mbpsの「WLI-UC-G300HP」は最大で43.10Mbpsと振るわない。また小さなファイルを大量に転送する場合、Aspire One D250内蔵の無線LAN以上、内蔵の有線LAN以下という事は同等だが、内蔵有線LANとの差が広がり、内蔵無線との差がわずかになっているのが興味深い。無線LANは小さなファイルを大量に転送するのは苦手なのかもしれない。
 この結果を見ると、確かにAspire One D250内蔵の有線LANに及ばないため、転送速度を重視するなら有線LANという事になってしまう。ただしケーブルが邪魔になる有線LANに対して、無線LANはケーブルが邪魔にならない分便利なのは確かで、また内蔵のIEEE802.11gの無線LANよりは確実に高速である。ケーブルが邪魔にならないという利点と高速化の両方を手に入れるには「WLI-UC-G300HP」は便利である。またこの速度ならば、プリンタ複合機PM-T960を使用してネガフィルムを3200dpiでスキャンしたり、プリンタ複合機EP-901AのADFスキャナを利用してA4紙原稿を600dpiでスキャンしても、有線LANとかわらない速度でスキャンできたため、実用的なレベルに達したと言える。



 今回は無線LANの高速化を図ったわけだが、残念ながら100BASE-TXの有線LANを超えることはできなかった。また製品そのものにも問題があるなど、100%成功とは言い難い結果だ。ただ、内蔵の無線LANと比べればかなりの高速化が図られており、スキャナを使った作業で有線LANと同等の実用性となったこと、インターネットも高速化されたことから、実用上は問題ない速度になったといえるだろう。有線LANはケーブルが邪魔なのでいやだが、少しでも通信速度をあげたいという人には、IEEE802.11nの無線LAN子機はおすすめといえる選択肢である。


(H.Intel)


■今回の関係メーカー・ショップ
バッファロー http://buffalo.jp/



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