第119回
2.5インチハードディスク
Western Digital WD7500BPTK
(2011年3月6日購入・2011年4月26日公開)



高速・大容量ハードディスクに交換しよう

 私は、ノートパソコンにポータブルハードディスクを接続している。動画編集などをするため、内蔵ハードディスクだけでは容量が不足するためだ。現在は、500GBの内蔵用2.5インチハードディスクを購入し、外付けハードディスクケースに入れて使っている。この500GBハードディスクは、Samsungの「HM500JI」という製品で、5400rpmでキャッシュが8MB、250GBプラッタという製品だ。5400rpmであるため高速ではないが、このハードディスクを購入する際は、外付けハードディスクもパソコンもインタフェースはUSB2.0であったため、より高速なハードディスクにしても、結局はUSB2.0の速度がボトルネックになるため意味がないと考え、コストパフォーマンスを重視したのだ。
 しかし、その後、ノートパソコンがUSB3.0に対応したのを期に、外付けハードディスクケースをUSB3.0対応の物に交換した。5400rpmの「HM500JI」のままでもシーケンシャルリードの速度で、約32MB/sから約70MB/sへと高速化し、ずいぶん快適になった。しかし、いざUSB3.0に対応してみると、内蔵ハードディスクとの速度差が気になる様になった。これまではUSB2.0だからと半ば諦めていた速度が、USB3.0になって諦めなくても良い事になり、逆に気になってしまったのである。そこで、ちょうど、空き容量が少なくなってきていた事もあって、一気に大容量化と高速化を図ってしまおうという事になったのである。

750GBで7200rpmのハードディスクは?

 さて、大容量で高速なハードディスクというと具体的にはどういった製品を探せばよいのだろうか。2011年3月現在では500GBより上の容量では、640GB、750GB、1TBの製品がある。これを見ると、1TBの製品が良さそうだが、一般的な2.5インチハードディスクは厚さが9.5mmなのに対して、1TBの製品は厚さが12.5mmなのである。原因として、厚さを9.5mmにするためには、内蔵するディスクは2枚が限界の様だが、1TBを2枚で実現するためには500GBプラッタのディスクが必要である。ところが現状は375GBプラッタが最高であり、結局1TBの製品はディスクを3枚内蔵することで実現しているため、厚みが増してしまったのだ。外付け化するため、多少厚くなっても良いとも言えるが、今持っている外付けハードディスクケースは9.5mm厚までのハードディスクしか対応しておらず、かといってケースまで買い換えるのも勿体ない。ここは9.5mm厚のハードディスクから選ぶ方が良さそうだ。そうなると640GBと750GBの製品があるが、現状が500GBであることを考えると640GBではそれほど増えた気にならないため、一気に1.5倍の容量の750GBの製品を選ぶことにしよう。
 では、「高速」な製品とは具体的にはどういった製品であろうか。まず、簡単に思いつくのが回転数である。現在は5400rpmだが、これを7200rpmの製品に買い換えることで、高速化することが可能だ。「HM500JI」を購入した当時は2.5インチハードディスクと言えば4200rpmの製品から5400rpmの製品へ移行していて、ようやく5400rpmの製品の方が主流になった頃であった。7200rpmの製品といえば、まだデスクトップパソコン用の3.5インチハードディスクばかりで、2.5インチハードディスクでは非常に珍しかった。しかし今は7200rpmの製品もちらほら見かける様になっているため、これを狙いたいと思う。それ以外にキャッシュ容量が増えると速度は向上すると言われるが、キャッシュ増量による速度向上率はそれほど高くないので、製品を選ぶ時にキャッシュ容量に違いがある複数の製品があれば、(予算が許せば)多い方を選ぶといった程度で良さそうだ。そして、もう一つ、プラッタ容量がある。同じ回転数でもプラッタ容量が多ければ速度は高くなる。2011年3月現在で2.5インチハードディスクでは、375GBプラッタが最高のである。今回は750GBの容量の製品を選ぶことにしており、9.5mm厚の製品ではディスクは2枚までのようなので、750GBハードディスクを選ぶなら、自動的にプラッタ容量は375GBになる事になる。「HM500JI」は250GBプラッタなので、1.5倍になる計算で、これならばある程度速度が向上しそうだ。
 以上より、容量は750GB、回転数は7200rpmの2.5インチハードディスクと言うことで決まりである。そうと決まればネット上で製品を探してみるが、選択肢はそれほど多くない。ハードディスクメーカーと言えば、Western Digital、Seagate、日立グローバルストレージテクノロジーズ(日立GST)、Samsung、東芝といったところだが、750GBで7200rpmというのがなかなか難しい。500GBで7200rpmという製品や、750GBで5400rpmという製品はあるのだが、速さと容量を両立した製品は難しい。あるのは、Western Digitalの「WD7500BPKT」とSeagateの「ST9750420AS」くらいである。キャッシュ容量なども同等であるため、どちらの製品でも良さそうだ。
 ところが、この2製品はなかなか見つからない。大阪のでんでんタウンの各パーツショップを見て回るが、2.5インチハードディスクの品揃えは3.5インチハードディスクに比べて非常に悪い。ノートパソコンは自作しないため、ノートパソコン用のハードディスクである2.5インチハードディスクには力を入れていないのだろうか。「WD7500BPKT」と「ST9750420AS」はなかなか見つからず、見つけたとしても売り切れている。結局、でんでんタウンの店舗では見つからなかった。その後、東京に行く用事があったため秋葉原に寄ってみた。相変わらずなかなか見つからないが、なんとか在庫のある店を数店舗発見。その中で最も安かった「TWO TOP 秋葉原本店」で「WD7500BPKT」を8,400円で購入した。ちなみに、「WD7500BPKT」と「ST9750420AS」の価格差は80円であったが、スペック上の差がない以上安い方を選んだ事に加え、「WD7500BPKT」はWindows XPでは、ツールによる設定を行えば使えるが、「ST9750420AS」は使用できないと書かれている。今回はWindows 7のパソコンで使用するが、将来的にWindows XPのネットブックパソコンなどに流用することもあり得なくはないため、念のため「WD7500BPKT」の方が安心できるというわけである。

WD7500BPKTを外付けケースに入れる

 「WD7500BPKT」を見てみよう。これまで使ってきた「HM500JI」と比較しても、当然ながら同じ2.5インチで9.5mm厚なので、大きな差は見られない。それでは、早速外付けハードディスクケースに入れて使用してみよう。外付けハードディスクケースは、「2.5”SATA はい〜るKIT Super Speed USB3.0(NV-HS212U3)」である。USB3.0接続に対応しており、USBバスパワーで動作が可能だ。このケース自体は、以前にハードディスクを組み込んだことがあるため、特に問題なく「WD7500BPKT」を組み込めた。問題は、動作するかどうかだ。今までの5400rpmの製品に比べると、回転数が上がっている分、消費電力が上がっていることが予想される。せっかく高速な製品を購入しても、動作しないというのではむなしすぎる。
 さて、結果から言うと特に問題なく動作した。「WD7500BPKT」本体には、動作電流は550mAと書かれており、「2.5”SATA はい〜るKIT Super Speed USB3.0(NV-HS212U3)」は公式ホームページ上で「800mAを超えるハードディスクは動作しない可能性がある」と書かれているため、550mAでは問題なかった様だ。消費電力が高くなる読み書き動作時も安定しており、一度も読み書きエラーが発生したり、突然認識されなくなったりという事は無かった。
 ただし、これはUSB3.0接続をしているためと思われる。一般的に、USB3.0対応のハードディスクケースは、USB2.0ポートにも接続可能である(転送速度は遅くなるが)。「2.5”SATA はい〜るKIT Super Speed USB3.0(NV-HS212U3)」もUSB1.1/2.0/3.0対応となっている。しかし、USB2.0では、バスパワー電流は500mAとなっている。USB3.0ではバスパワー電流が900mAまで強化されているが、その場合で「800mAを超えるハードディスクで動作しない可能性」と書かれていることを考えると、内部チップやアクセスランプなどで100mAを消費すると考えられる。すると、USB2.0接続の場合は400mAまでのハードディスクでないと、USBバスパワーで動作させる事はできない可能性がある。あくまで「予想」なので実際はどうなるか分からないが、動作電流550mAと書かれている「WD7500BPKT」は、USB3.0接続時でないとUSBバスパワーでは動作させられない可能性がある点は注意が必要だろう。

「WD7500BPKT」は一般的な2.5インチハードディスクと変わらない。黒いラベルが、高性能シリーズの「WD Scorpio Black」シリーズである事を示している。

WD7500BPKTの性能をテストする

 それでは「WD7500BPKT」はどの程度の性能なのだろうか。比較対象として、これまで使っていた「HM500JI」に加えて、3.5インチハードディスクである「WD20EARS-00MVWB0」も用意した。「WD20EARS-00MVWB0」は2TBの容量を持つ製品で、性能よりも低消費電力、低騒音をうたった製品だ。そのため回転数は5400rpmとなるが、プラッタ容量は667GBと高いためある程度の性能が期待できる。その割に2011年3月現在で2TBモデルが7,000円を切る価格で販売されており、コストパフォーマンスは非常に高い製品だ。詳しいスペックは以下の表を参考にしてもらいたい。
 また今回は「WD7500BPKT」を2.5インチハードディスクケースに入れて使用しているが、テストの際は、3.5インチハードディスクも同条件でテストを行いたいため、ロードテスト第107回で紹介した「裸族のお立ち台eSATAプラス(CROSU2)」を使用してテストを行った。接続したパソコンは、SONYのノートパソコン「VPCF13AGJ」でCPUがCore i7-740QM(1.73GHz)、メモリが4GB、OSがWindows 7 Professional 64bit版である。パソコンとはeSATA接続を行っている。

型番
WD7500BPKT
HM500JI
WD20EARS-00MVWB0
メーカー
Western Digital
Samsung
Western Digital
サイズ
2.5インチ
2.5インチ
3.5インチ
容量
750GB
500GB
2TB
回転数
7200rpm
5400rpm
5400rpm
プラッタ容量
375GB
250GB
667GB
バッファ容量
16MB
8MB
64MB


 それでは、結果を見てみよう。シーケンシャルリードでは、「HM500JI」では90.59MB/sだったが、「WD7500BPKT」では126.53MB/sまで向上している。39.7%の速度アップである。またシーケンシャルライトでも、90.66MB/sから115.03MB/sまで26.9%速度アップしている。回転数の差は33.3%なので、シーケンシャルリードでは回転数の向上率以上に速度が上がっている。これがプラッタ容量が上がったことによる効果だろう。また、3.5インチハードディスクの「WD20EARS-00MVWB0」とほぼ同等の性能を記録しているのも見逃せない。「WD20EARS-00MVWB0」は3.5インチハードディスクの中で高速な製品ではないが、これまで使ってきて特別不満を感じるほどではなかったため、「WD20EARS-00MVWB0」と同等の性能であれば満足できる性能だと思われる。また、これまでノートパソコン用の2.5インチハードディスクは遅いというイメージを捨てきれなかったが、「WD7500BPKT」に関しては同レベルの性能になっており、正直驚いたところだ。
 また、ランダムリードやランダムライトの性能では「WD20EARS-00MVWB0」よりも性能が出ており、特にランダム4Kではかなりの差となっている。これは、プラッタの(物理的な)大きさが2.5インチハードディスクの方が小さい分、ヘッドの移動距離が小さくて済み、ランダムアクセスが高速なためと思われる。そのため、一般的な使用ではランダムアクセスが発生する機会は多いため、「WD20EARS-00MVWB0」よりも高速に感じる可能性が高く、また容量の大きなファイルを読み書きする場合でも、シーケンシャルアクセスは「WD20EARS-00MVWB0」と同等レベルなので特に遅くは感じないはずだ。



 今回は2.5インチハードディスクの中では現状で最高速と思われる製品を購入した。購入前は、いくら2.5インチハードディスクの中では最高速でも、3.5インチハードディスクと比べるとそれほど高速ではないのではないかと考えていた。しかし、実際には5400rpmのドライブではあるものの、最新の3.5インチハードディスクと同等か、超える性能を示したことは正直驚きである。これならば、ストレスなく使用できるだろう。また、それほど高速でありながら、750GBと容量の大きなドライブでも8,400円と1万円を切る価格で購入でき、決して高いともいえない。高速な2.5インチハードディスクを探しているという人には、非常にオススメできる製品だ。


(H.Intel)


■今回の関係メーカー・ショップ
Western Digital http://www.wdc.com/jp/
2.5インチ内蔵用ハードディスクのページ http://www.wdc.com/jp/products/internal/mobile/