1.はじめに

ウィリーのこませしゃくり釣法は当初チダイ(関東ではハナダイ、以降ハナダ イと記します。
)の釣法として開発されました。マダイとよく似たこのハナダイは、外房から 南房、東京湾か
ら相模湾まで、ほとんどの地区で、一年を通しての釣り物として人気がありま す。
関東地方でハナダイの釣り場として有名なのは北から、銚子の外川沖、九十九 里の飯岡沖・
片貝沖、外房の太東沖・大原沖、南房の江見沖、内房の保田沖・金谷沖、東京 湾の久里浜沖
・下浦沖・剣崎沖、相模湾の小坪沖・腰越沖・江ノ島沖などです。
昔、ハナダイ釣りと云えば生きエビエサの胴突き釣りがポピュラーでしたが、 最近では上記
の釣り場のなかで銚子の外川沖、外房の大原方面を除いては、ほとんどがウィ リーバケを使
用したこませしゃくり釣法(房総方面ではウィリーの誘い釣りと云っている) に変わってし
まいました。

この化学繊維のウィリー(人形の髪の毛などに使用するポリエステル系繊維、 釣り具店では
疑似バリ用マテリアルとして販売されている)を使ったこませしゃくり釣法は こませ釣りの
分野で革命児的な役割を果たし、近代沖釣り界を席巻している最新釣法と言っても過言では
ありません。

ウィリーバケを使用したタイ釣りの発祥地としては、神奈川県横須賀市金沢八 景の「野毛屋
」、鎌倉市腰越漁港の「喜久丸」などが有名なところです。1980年前半ぐ らいに喜久丸
で、こませダイのエサ取り対策としてモスグリーンとピンクのウィリー巻きの ハリにオキア
ミエサを付けて、こませダイのスタイルでマダイ・ハナダイを狙ったのがウィ リーを使うは
じまりだったようです。

その後、野毛屋の黒川勇治船長により、現在のようなウィリーバケを使用したこませしゃく
りの釣法が確立されました。今、東京湾や相模湾のハナダイ釣りと言えばほと んどがウィリ
ーのこませしゃくり釣りです。また、こませしゃくり釣法は房総半島へも広が り、飯岡、片
貝、江見などもウィリーバケ一色となり、爆発的に広がりました。さらに相模 湾から東京湾
のイナダ、イサキ釣りにまで広がり1990年あたりからは九十九里方面他銭 洲遠征のシマ
アジ釣りでも多くの実績を上げるようになっています。

考案するきっかけとなった要因の1つは銚子沖などで盛んであった伝統的な活 きエビエサの
ハナダイ釣りで海底からスッ、スッと躍り上がるエビの動きに興味を示すハナ ダイの習性を
巧みに利用したタルマセ釣りテクニックを応用しており、加えてそれまでコマ セダイ釣りで
常識であったオキアミなどの付けエサの代わりに、こませと同じ冷凍アミを模 倣したウィリ
ーバケを使用したことでウマヅラハギやフグなどのエサ取りの外道対策にも絶大な効果を発
揮し、さらにこませの効果でハナダイの遊泳層が上昇するとともに多彩な魚種 が食ってくる
ことが判明しました。 ロッドキーパーに竿を掛けてアタリを待つ、マダイの 「置き竿釣法」
に対して、常に竿を手に持って誘いながら魚と向かい合う「こませしゃくり釣 法」は、積極
的かつ攻撃的、戦闘的な釣りで、非常に疲れるハードな釣りですが、たいへん 面白い釣りで
す。「釣りをのんびりと楽しみたい」という人には不向きで、日頃から研究熱 心で「根気と
やる気と元気」のある人に向いた釣りといえるでしょう。 しかし、この釣り はしゃくり方に
より釣果の差が出やすい釣りです。頭でタイを10枚ぐらい釣っていても、半 分ぐらいの人
は1〜2枚、タイの型を見ない人もたくさんいます。しゃくり方や潮況に対す るウィリーの
選定などはなかなか難しく、大変奥の深い釣りだと思います。そのあたりが釣 り人を夢中に
させる要素なのだと思います。

こませしゃくり釣法は、ハナダイ・マダイが主な狙いですが、外道が豊富なことも魅力です。
釣れるとされている魚は、クロダイ、イシダイ(シマダイ)、メジナ、カイワ リ、イサキ
、イナダ、イナダ、カンパチ、シマアジといううれしい外道はもとより、アジ 、イワシ、サ
バ、ソーダカツオなど、これらはときとして邪魔になるほど食ってきます。あ まり人気のな
い外道はヒメ、トラギス、キンギョハナダイなどで、偶然なのかも知れません が面白い外道
としては、シマガツオやアカヤガラも釣れた実績があるそうです。その他、オ キメバル、カ
ワハギやウマヅラハギ、また、ウィリーバケに食いついた小魚に飛びついたヒ ラメ、メバル
、カサゴなどが釣れることもあります。
このように外道が豊富なために五目釣り釣法といってもよく、これらの魚が海面下にいさえ
すれば釣れるわけですから、釣り雑誌などでは沖釣りの最終兵器=スーパーウェポンと形容
して紹介されることもあります。

本欄は、金沢八景から出船して東京湾の久里浜沖〜下浦沖、剣崎沖を中心に狙 っている野毛
屋と、腰越漁港から出船して相模湾の江ノ島沖〜腰越沖、小坪沖などを狙って いる喜久丸の
、両船宿で盛んに行われているタイ五目の「こませしゃくり釣法」について、 釣り方を主体
に、タックル、仕掛けなどを紹介します。