追跡者


ふわりと眼の前に降り立つ彼に、白馬は暫し目を奪われた。
「これはこれは白馬探偵。今宵はお一人ですか?」
月明かりを受け、彼の白が浮かび上がる。
「ええ。」
白馬は答えた。
「彼方に聞きたいことが有りましたので。」
「ほう?」
KIDは口元に笑みを浮かべる。
「面白い。ドロボウに探偵が一体何を訊ねると?」
白馬は、いつの間にか溜っていた唾を飲み込んだ。
声が上擦る。
「あなたは……コナン君が好きなのですか?」
「はい!?」
快斗の、驚いた声が辺りに響いた。
「本気なんですか?」
「あの、白馬探偵?聞きたいことというのは…。」
気を取り直して聞き返したKIDは、白馬に大きく頷かれ、内心顔を引き攣らせた。
「それであなたは彼のことをどう思っているのですか?」
「どうと言われましても…。」
名探偵といい、白馬といい、探偵という人種はどうしてこう唐突かつ変則的なのか。
「まあ、好ましく思っていますよ。」
それが恋愛感情かと問われたら答えられないが。
「それにしても、どうしてそんなことを白馬探偵がお聞きになる。」
これでオマエもオレが好きだとか言い出したら笑うぞ。
ありえない想像をしながKIDは訊ねた。
「特に他意ありません。ただ。」
「ただ?」
「端から見ていて可哀想なくらい、コナン君が彼方に執着していたので。」
「はあ…。」
「想いが報われないのなら、早く諦めさせた方が良いでしょう。彼はまだ小学生で未来もあるんですから。」
「まあ…。」
本当はオレらと同い年なんですとは、言えない。
「それにしても白馬探偵は、意外とお節介であられる。」
「そうですか?」
白馬は首を傾げた。
「そうでしょうとも。人の恋路に首を突っ込むとは、お節介にもほどがある。」
「違います。僕はただはっきりさせたいんです。彼に可能性があるか否か。」
「それはまたどうして?」
「彼が彼方を捕まえられるかもしれないからです。」
クスリ、とKIDは笑う。
「そうでしょうか?」
誰かに捕まる積もりはない。
それが例え件の彼であっても。
しかし白馬は言い切った。
「ええ、彼の推理力には目を見張るものがあります。時々高校生の僕ですら付いて行けない時がある。そんな彼がこのまま成長すれば、きっと彼方を捕まえます。」
“快斗”は苦笑する。
彼が鋭いのは当たり前だ。
彼は工藤新一なのだから。
「それがなにか?私を捕まえることがあなた達の願いではないのでしたか?」
「僕が彼方を捕まえることが僕の望みです。」
「変わらないじゃありませんか。」
「違います。」
KIDは首を傾げた。
「とにかく、彼は彼方を捕まえるかもしれない。だから。」
「だから?」
白馬は口を閉じた。
視線をさ迷わせる。
「どうかしましたか?」
「…とにかく。江戸川コナン、彼には気を付けてください。」
白馬はそう言うと扉へ向かった。
「白馬探偵?」
「それを言いに来ただけですから。」
パタンと扉は閉まり、KIDはひとり残された。
フウとため息一つ。
月に宝石をかざし、それをポケットにしまった。
「わけ分かんねえ。」
快斗は一言、ポツリと呟いたのだった。

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「だから。」