好き、だけでどこまで行ける?



「ん………。」
 ふと、目が覚めた。
 外はまだ暗くて、夜明けは遠い。
「いま何時だ…?」
 ぼんやりした頭で部屋を見回して。
 気が付いた。
「あれ……?」
 メタビーがいない。






  好きだけでどこまで行ける?


 周りがどんどんロボトルを辞めていく。
 他に好きなものができたのか。他にするべきことができたのか。
 またひとり、またひとりと皆メダロットを手放していった。
 アリカのブラスも、コウジのスミドロナットも、もういない。
 友達はいつまでやってるんだって聞いてくる。
 両親は好きなだけやればいいと言う。
 ヒカル兄ちゃんはオレの話を聞いて、ただ哀しそうに微笑んだ。






  どこまでだって行きたい。


「さびっ!!」
 パジャマにジャンパーを羽尾ってオレは家の外へ出た。
 季節は晩秋。冬の入り口付近。
 真夜中ともなれば寒さは容赦なく人間を襲う。
「どこいったんだ?アイツ。」
「ワンっ!!」
 クンクンと地面を嗅いでいたソルティが尻尾を振ってひと鳴きした。
「よし。行くぞ。」
 オレが頷くと、ソルティはメタビーの臭いを追って歩き出した。






  どこまでだって行けるから。


 メダロットを友達だって、本気で言うヤツなんて稀だ。
 あれは機械でロボットでオモチャだって皆知ってる。
 オモチャだから飽きたら捨てる。
 オモチャだから、何時かは『卒業』する。
 そういうものだと皆言う。
 早く大人になれと皆言う。







  ずっと傍に居てくれますか…?


 ソルティに付いて道を行く。
 外灯以外に光源のないシンとした街。
 臭いを追って最初に着いたのは公園。
 しかしそこには誰もいなかった。
「どこいったんだよ、ホント。メタビーのヤツ勝手に行動しやがって。」
 乱暴な口調で不安を誤魔化した。
 最近感じるメタビーがどこかに行ってしまうのではないかという不安。
「んなのありえねえか。」
 誤魔化すようにオレは笑った。






  死ぬまで傍に。


 ロボトルをする大人もいる。
 メダロットを持ってる大人もいる。
 メダロットは子供だけのものではないけど、“立派な大人”はやらないもの。
 ロボトルばかりやっていると立派な大人になれないと、世間はそう言う。
『世間ってなんなの?』
 メダロット博士に尋ねると
『ワシには関係ないものじゃ。』
 博士は肩を竦めた。






  死ぬ時は一緒に。


 公園の次にソルティが連れて行ったのはホップマートだった。
 視界に飛込む人工的な光に緊張が解ける。
「ワンッ!!」
 入り口で吠えるソルティになんだ?と店の中を覗き込む。
 そこにはヒカル兄ちゃんと、そしてメタビーの姿があった。






  ずっと二人で。


「メタビーっ!!!」
 オレはコンビニに飛び込んだ。
 休憩スペースの椅子に座っていた二人の視線がオレに向けられる。
「イッキ……。」
「なにやってんだよオマエ!!こんな所で!!捜したんだかんなっ!!」
「……ワリイ。」
 ヒドク素直に謝るメタビーに思わず次の言葉を飲みこんだ。
「イッキくん。」
 穏やかに微笑むヒカル兄ちゃん。
 座れと、自分の隣りの席を指差した。
 ヒカル兄ちゃんに遮られて、俯くメタビーの表情は、よくわからない。
「寒かったろう。奢ってやるからなんか持ってこいよ。」
 その言葉に首を振る。
「いい。帰るぞ、メタビー。」
 メタビーは俯いたまま動かない。
「メタビーッ!!」
「かえら、ない。」
「なに言ってんだよ。帰るぞ、メタビー。」
「帰らない!!おれはもうお前のとこなんて戻らない!!」
 荒げられた声に、言葉に、
 オレは言葉を失った。
「どういう……意味だよ……!!!
答えろよメタビーっっっ!!!!!」



  キミと、
  二人で




■好きだけでどこまでいける?
■光
■ここにいること