見つけたのは偶然。
 声をかけたのは、必然。
 ほっておけなかった。
 彼はカブトメダルで、レアメダルで、KBT型のメダロット。
 ボクの大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切なメダロットとよく似ているから。
「や、メタビーくん。」
「ヒカル兄…ちゃん。」
 メタビーくんは驚いたようにボクの顔を見つめた。
「こんばんは。こんな夜中になにやってるんだい?」
「別に………。」
「イッキくんとケンカでもしたかい?」
 ボクの問いかけにメタビーくんはフルフルと頭部パーツを横に振った。
「それじゃあ、イッキくんに言えないような悩み事かい?」
 彼は真ん丸になった瞳をボクに向けた。
 図星ってことか。
「心配してるんじゃないかなあ、イッキくん。」
「……帰りたく、ない。」
 やれやれ。
 うつ向く彼にどうしたものかと思う。
 流石にこんなところに一人にして置くこともできないだろう。
 最近はこの辺りも物騒でメダロット狩りなんて事件も起こっているし。
「じゃあ、コンビニでも行かないかい?おごっちゃうよ?」
 メタビーくんはボクを見上げると、コクンと微かに頷いた。





「ほら飲めよ。」
 差し出したメダロット用オイルをメタビーくんは緩慢な動きで受け取った。
 真夜中のコンビニ。
 ホップマートにボクたち以外人はいない。
 店に立っていた店長は、今日はバイトを入れていないにもかかわらず、ボクに店番を任せると奥に引っ込んでしまった。
 どうやら二日続けての夜勤で、相当眠かったらしい。
 ボクはストローに口をつけるメタビーくんを見つめていた。
 琥珀色の液体を飲み下す彼は、ボクが見つめ続けているのにも気付かないのか、どこかぼんやりしていた。
「美味いかい?」
 ボクの問いかけにいったん動きが止まり、
 そしてコクンと頷いた。
「何について悩んでるんだい?」
「………。」
 俯いて、答えない。
 否、答えられない、のか…?
「……なあヒカル兄ちゃん。」
「なんだい?」
「ヒカル兄ちゃんち、いまメダロット何体いるんだ?」
「え?2人だけど…それがどうかしたのかい?」
「………。」
 それっきり、メタビーくんは口を開こうとしない。
 まいったな、早くイッキくんのところに帰してやって、家に帰らないと……。
 ボクは、家でボクを待っているメダロットの顔を思い浮かべた。
 ………確実に怒っている、と思う。
 既に戻ると告げた時刻を一時間もオーバーしている。
 ………明日のゴハン抜きとか言われたらどうしよう……。
「ヒカル兄ちゃん、メダロット好き?」
「え?ああ、うん。もちろん!!」
 そこら辺は力いっぱい肯定してやれる。
「………前に、ロクショウ居候してたよな……?」
「う?うん。」
 だから、さっきからのその質問の意図はなんなんだいメタビーくん。
「………うん、決めた。」
「なにを?」
「オレ、ヒカル兄ちゃんのメダロットになる。」
「……………は?」
 人間、本当に驚いた時は本当に思考が停止するんだな。
 たっぷり開いた間は、ボクにその事を教えてくれた。
「ダメ?」
「と、いうよりなんでだい?イッキくんになにか不満でも?」
「………そうじゃ、ないんだ。」
「ならなぜ?」
「………たぶんおれ、居ない方が良いから。」
「どうして?イッキくんになにか言われたかい?」
「………イッキのヤツ、もうすぐ高校生だぜ?もう、こんなおもちゃ、
 卒業させなきゃなんねーだろ?」
 ………痛々しいほどの笑顔で、彼は笑った。
 思わず僕は、彼の身体を抱きしめた。
「ヒカル……兄ちゃん?」
「だめだよ、そんなこと言ったら。君は彼と一緒に居なきゃだめだ。」
「にい、ちゃん。」
「彼の傍に居なきゃだめだ。」
「兄ちゃん……。」
「イッキくんの隣りが君の居場所だ。そこに居なきゃだめだよ。」
「でも、いいんだ。おれはあいつの傍らにいちゃいけねーんだ。
 いないほうがいいんだ。だから。」
「そんな人間側の勝手な言い分っ!!君が傷ついてまで聞くは必要ないっ!!!!!」
 ボクは、思わず叫んでいた。
「ヒカル、兄ちゃん。」
「……ごめん、急に大声出して。」
 俯いて、涙に気付かれぬよう、ボクはメタビーくんから身体を離した。
 客がいなくて助かった。
 ボクは、彼は、真夜中らしく真っ暗な外を見つめた。
 ポツリ、と
 メタビーくんが呟いた。

「それでも、おれは、やっぱり、
 イッキに光の道を歩かせてやりたいんだ……。」

 ガラスを一枚隔てた向こうは、
 真っ暗な闇に覆われていた。




■好きだけでどこまでいける?
■光
■ここにいること