Last update: 1997.09.15
1年半ほど前、沼津から大阪にアロワナを連れて引っ越しました。 そのときの奮闘記を書きます。
時期は3月、まだ肌寒い頃です。 その当時で飼育2年目、体長は50cmはありました。 引越しは業者には頼まず、軽トラをレンタルしました。 私自身はペーパードライバーでしたので(^^;)、友人に運転をお願いしました。 もし引越し業者に頼んでいたら、 アロワナの引越しは諦めなければならなかったでしょう。
引越しの数日前から、必要なものを買い揃えました。 以下はそのリストです。
アロワナの方は、数日前から餌を止めました。 輸送途中にフンをすると、ただでさえ少ない水が急速に悪くなってしまいますから、 なるべくその要因は除くべきでしょう。 また、水温も徐々に20度付近に下げていきました。 魚類は当然ですが変温動物ですから、温度が下がると活動が鈍ります。 輸送時にはなるべく代謝を押えて、 水質の悪化やエネルギーの消耗を防ぐためです。
さて、当日です。 荷物の積み込みは午後からの予定でしたので、 午前中にパッキングを完了すべく作業を開始しました。
まず、捕まえやすいように水槽の水を半分ほど汲み出しました。 そして、歯で食いちぎられないように何枚か重ねたビニール袋を、 そっと水槽につけてアロワナに迫ります。 ところが、いざ袋に追い込まれそうになると暴れるわ暴れるわ。 普段の水換えなどはのんびり余裕で見守っている彼も、 狭い袋に入れられそうになると、もう必死です。 こちらも心の中でゴメンと謝りつつも、悪戦苦闘の挙げ句、 ついにビニール袋に追い込み、口を閉じることに成功しました。
ビニール袋には必要なだけ水槽の水を足し、 空気を抜いて、代わりに酸素を詰めます。 水と酸素が半々くらいになったところで、ゴムバンドで密閉しました。 これだけでは、いつまた鋭い歯で穴を開けられるとも限りませんので、 別の袋に新聞紙を敷き詰め、その中にアロワナの入った袋を入れて閉じました。 新聞紙を入れたのは保温のつもりもあってのことですが、 これだけで十分とたかをくくっていた私はおおばか野郎であったことが 後に明らかになります。
次はいよいよ搬出です。 袋のまま荷台に積むわけにはいかないので、 まず、用意していた衣装ケースに入れました。 そして、他の荷物をあらかた積み終ったあと、 扉の一番近くに積みました。 もちろん、移動中に魚の様子をチェックしやすいように、です。 このときまだビニール袋は温かく、そんなに保温に神経質にならなくても、 大丈夫のように思えました。
さて、部屋をすべて引き払い、大家さんに鍵を返して、 一路大阪に向けて出発です。 時間は夕方5時前くらいだったと記憶しています。 途中のサービスエリアで休み休み行っても、 明け方には余裕で大阪に着ける計算です。 どうせ早朝に着いたところで、ご近所のこともあるし、 すぐドタバタと荷物を搬入というわけにもいきません。 「12時間以上は荷台の中やな。水温大丈夫かな」 そんな不安が脳裏をよぎりましたが、 折しも一働きしたあとで本人は汗だく状態です。 寒さに対する不安はたちまち消し飛びました。 そして再び始まる学生生活に思いを馳せつつ、 2年間住んだ沼津という街をあとにしました。
しばらく走ったのち、少し休もうということでサービスエリアに寄りました。 一応、扉を開けてアロワナの様子を見ます。 水温はちょっと下がってはいましたが、 中で泳いでいる様子はわかりました。 大丈夫です。 アロワナのような大きな熱帯魚の引越しということで、 かなりの不安もあったのは確かでしたが、もう勝ったも同然です。 そのとき私は心の中で、「いけるでぇ」とつぶやいていました。 休憩ののち再び走り出すと、 もうアロワナのことはどっかにいってしまいました。
さて、日も暮れてだいぶ経ち、 窓の外を通り過ぎる風も冷たい音をたてています。 そろそろ夕食を食べようということになり、 サービスエリアに止まりました。 扉を開けます。すると何か様子がおかしい。 おそるおそるビニール袋に触れてみます。 ああっ、冷たいぜ! アロワナもかろうじて泳いではいますが、何といっても熱帯魚です。 いつまでのこの水温で耐えられるはずはありません。
とにかく、水温を何とかしようと、大急ぎで売店から「あたたかい」缶コーヒー を買ってきて、ビニール袋の周りに置きました。使い捨てカイロでも売ってい ればよかったのですが、あいにく売っていませんでした。 もっとも、後から考えてみると、缶コーヒーにしろ使い捨てカイロにしろ、10 リットル近い水を温めるだけの熱量はなかったでしょう。
もうのんびり構えている余裕はありません。一刻も早く大阪に着き、 水温だけでも何とかしようということになりました。
それからは小まめにパーキングエリアに止まり、 水温とアロワナの状態をチェックしましたが、 自体はどんどん深刻になっていきます。 私も「もしものときは、俺が責任持って食ってやるぞ」とか 訳のわからんことをいっていたと思います。 とにかく一刻も早く着くように、大阪を目指しました。
ようやく大阪に着いたのは、午前2時くらいだったでしょうか。 そんな時間に入居予定のアパートに行ってドタバタする訳にもいかないので、 とりあえず大学の研究室に一時寄って、アロワナを温めながら朝を待つ、 ということにしました。 運転してくれていた友人が同じ講座の人なので、夜でも講座に入れるのです。 大学の駐車場にトラックをとめ、 二人でアロワナの入った衣装ケースを運びだしました。
講座に着くと、すぐにストーブを焚いてやかんで湯を沸かしました。 そして予備のビニール袋に注ぎ、アロワナの入ったビニール袋にくっつけます。 すぐに冷えるので、これを何回か繰り返しました。 しかしアロワナはグッタリしており、かなりヤバそうな雰囲気です。 やはりちゃんと水槽に入れて、水温を上げないと駄目みたいです。 もうその時点でできることはないので、 覚悟を決めて朝まで寝ることにしました。
朝になり、アロワナの様子 (なんとか生きてるぞ) を確認して、 再びトラックに積み、入居予定のアパートを目指して出発しました。 大学から近いのですぐに着き、荷物の搬入もそこそこに、 大急ぎで水槽のセットアップを始めます。
まず台を置く場所を決め、床が大丈夫かどうかコンコンと叩いてみます。 下に梁があることがわかったので、適当な厚さの板を敷いて台を置きます。 とりあえず水槽を置いてみて、水を少し張り、 水平になるように敷き板を調整します。
次にホースで半分位まで水を入れ、塩素中和剤や水質調整剤を混ぜて、 サーモとヒータ、フィルターなどの器具も設置します。 ヒータで水が温くまるのを待っている余裕はないので、 やかんで湯を沸かして、ガンガン水槽に注ぎます。
水温がアロワナのビニール袋と同じ位になったところで、 袋ごと水槽に漬けました。 そして、なおもヒータとやかんのお湯で水温を上げていきます。 120cm水槽ともなると水量がでかいですから、 そう急激に水温は上がるものではありません。 アロワナにとって無理のないペースで水温は徐々に上がっていきました。
狭い袋に閉じ込められているので、アロワナはじっとして動きませんが、 かろうじて姿勢は保っているように見えます。 鰓は動いているようです。 頃合いを見計らい、おもむろにビニール袋の口を開けて外に出しました。 すると、何ということだ! 腹を横にしてぷか〜と浮かんでしまうではないか! 万事休すか!と思いましたが、力を振り絞るように泳ごうとする 素振りがみえます。 がんばれ、もう大丈夫だ。ここで立ち直れば、もう何も心配ない。 心の中で祈りつつも、私はただ見つめるほかはありませんでした。
まあ、いろいろトラブルはありましたが、 いま、彼は私の部屋で元気に泳いでいます。 あれからさらに大きくなって、60cm を越えました。 いまでもあの引越しのことを思い出すと、 私の見通しのいい加減さを後悔せずにはいられません。 でもそれと同時に、かくも苛酷な仕打を受けながらも 懸命に泳ぎ続けようとする彼の姿を思い出すとき、 大自然の一部を狭い水槽に閉じ込めてしまった私の責任を痛感するのです。