荒沢岳(あらさわだけ)

(1,969m、新潟県)  127座

前グラから見た荒沢岳。


荒沢岳登山口から往復

八海山から続
2004年10月16日(土)

 荒沢岳はもう8年も前になるが、越後駒ケ岳を登っている時、背後に格好いい山が見え、思わず「あの山は何だろう」 と地図を広げて、それが荒沢岳であることを知った。
 荒沢岳は日本二百名山のガイドブックにも 『翼を広げた怪鳥のごとく聳える荒沢岳は、周囲の山々からも顕著な尖峰が目を引く』と書かれている。私が感動したのも当然かも知れない。

 そして、「なぜあんな良い山が日本百名山に入っていないのだろう」と思いながら、 ぜひ一度は登ってみたいと思った。そして、どうせ登るなら紅葉の季節に登りたいと思っていた。

 そして、やっとその時がやって来た。
 今日は八海山を登ってからシルバーラインで銀山平へやって来た。「民宿・樹湖里」は、ログハウスが何棟もあり、その1棟に案内された。
 テラスで先客のご夫婦が一杯やっていた。このご夫婦は今日荒沢岳を登って来たという。今朝6時半ごろ出て14時△△に下って来たというから、かなりの健脚である。

 庭先からは、正面に荒沢岳が見え、右に中ノ岳と駒ケ岳が並んで見えた。最高のローケーションだった。
 夕食の時、同じログハウスの仲間と宴会になった。


荒沢岳

中ノ岳

駒ケ岳

10月17日(日)

荒沢登山口(600)−(653)前山−(813)「これより岩場」−(835)1262ピーク−(923)前グラ(935)− (1129)山頂(1215)−(1335)前グラ(1350)−(1430)1262ピーク(1440)−(1545)前山−(1620)駐車場

 昨夜はストーブが一晩中燃えていて暑くて眠れなかった。八海山では寒くて眠れず、昨夜は一転して暑くて眠れず、2日連続で寝不足である。
 昨日、荒沢へ登ったご夫婦は、今日は平ケ岳へ行くとのことで4時半ごろ出て行った。私も5時前に起き出して湯を沸かす。

 荒沢登山口の駐車場へ5時50分着。すでに15、6台が止めてあった。
 6時に出発。駐車場の脇に登山ポストがあったので記入して行く。

 雑木林のかなり急な斜面を登って行く。ジグがなく、一気の登りである。しかも湿った粘土質で足元が悪い。
 20分も登ると汗がにじんで来た。昨夜のアルコールが体内から抜けて行くようで、爽やかだった。

 しばらくすると東の空から日差しを浴びた。しかし、一帯はスッキリ爽やかではなく、僅かにモヤがかかっていた。ここは奥只見湖から水蒸気が上がるため朝のうちはモヤがかかりやすいそうだ。

 後ろから元気なオバさん達が、おしゃべりをしながら登って来た。私はもうハアハアと息を切らしているというのに・・・。全く元気なオバさん達だ。

 前山へ6時53分着。皆んなここで休憩する。今日は暑いので厚手のシャツを脱いだ。周りの人はほとんどTシャツになっていた。
 ここからは、朝日を浴びた荒沢岳が、まさに翼を広げた怪鳥のように見えた(写真左)。その手前にある前グラは、ここからは普通のボテ山にしか見えない。この地点ではあれほどのクサリ場があろうとは夢にも思わなかった。

 ここから紅葉を愛でながら、緩急を繰り返し尾根道を登って行く。ここまではナラやブナなどが多かったが、だんだんカエデなどが見えるようになって来た。所々に真っ赤に色付いたモミジもあった。

 後ろから来る人に次から次と追い越される。全く情けな〜〜い!。
 でも、これでやっと前にも後ろにも人がいなくなり、マイペースで歩けるようになった。とにかく自分のペースで歩こう!

  (前グラがかなり近づいて来た。写真右)

「これより岩場注意」と書かれた所へ8時13分着。
 ここからは、クサリと梯子の連続になった。岩と木の根っこがミックスした急登で、クサリは直登もあったが比較的補助的なものが多かった。

 クサリ場を登り切ると展望の良いピークへ出た。そこが前グラかと思ったが、前グラの岩壁は目の前にあった(写真左)。そこは前グラの基部にある1262のピークのようだった。

 そこには駐車場で私の隣へ車を止めた、地元だという40代の男性4人のパーティーが休んでいた。そして「これからが本番だ!」と気合を入れて出かけて行った。私はここでしばし休憩。

 前グラの岩壁を良く見ると、左端の方を登っている人達が見えた。それは垂直の壁にアリが空中にぶら下がっているように見えた。少し緊張感が走ったが、 あのクサリさえ登ってしまえば問題ないだろうと思った。まさかあのクサリを登っても、さらにクサリが続くとは夢にも思わなかった。

  (前グラの拡大写真は→こちら)

 ストックをザックへ仕舞って、いよいよ前グラへ向かった。
 ピークからクサリを伝って岩壁の根元まで下り、そこから一気の登りになった。クサリ場はイボイボ付きの軍手が威力を発揮した。やはりイボイボ付きを持って来て大正解だった。

 とにかくクサリの連続だった。クサリに命を預けるような所はほとんどないが、腕力と握力が必要だ。
 岩壁をトラバースする所があった。クサリは付いているが、足元からスパっと切れ落ちているので足がすくむ。こんな所に初めて道を付けた人は凄いと思った。本当にたいしたもんだ。

 何十本ものクサリを登って、やっと前グラへ着いた。
 ここから見る荒沢岳が一番すばらしと思った(トップの写真)。前グラから伸びる紅葉したヤセ尾根と、怪鳥が翼を広げたような山容がすばらしかった。この光景を見ただけで、私は来た甲斐があったと思った。中ノ岳もバッチリ見えた。

 ここから少し下ってから、尾根の急登になる。紅葉も良くなって来た。
 ペースがグーンと落ちた。クサリ場の登りでヘバってしまったのだ。紅葉が良く見える所で休憩する。今日は夏山のように暑い。汗を拭って一服していると、登って来た人に、
「早いですねぇ・・、もう下って来たんですか?」と挨拶された。
「とんでもない。登りでバテているんですよ・・・」と応えると、
「ここは思ったよりキツイですねぇ・・」と、少しもキツそうには見えない、元気そうな顔で言った。

  (写真右はその時振り返って登って来た尾根を撮ったもの)

 ペースは遅くても歩いていれば必ず山頂へ着く。そんな思いで一歩一歩登って行った。

 山頂部が次第に近づいて来た。あと30分位で着くだろうと思った。それから15分ほど登った時、下って来る人がいたので聞いてみると、
「下りで20分だから、あと30分位かかるんじゃないですか」と言われて、ガックリ。

 稜線近くなると続々と下って来た。
 やっと稜線へ出ると、そこから右へ曲がって山頂への最後の登りになった。しかし、すんなりとは山頂へ立たせてくれない。いやらしい岩場をトラバース。足がすくむような断崖絶壁で、やっと靴が置けるような所を通過する。風の強い日や雪が着いたら絶対に通りたくない所だ。

 その岩場を越え、やっと山頂へ立った(写真左)。もう完全にメロメロモードだった。11時29分着。
 山頂には7、8人がいた。私の隣へ車を止めた4人のパーティーもいた。

 ここで宿で作ってもらったオニギリで昼食にした。しかし、食欲はない。無理やりお茶で流し込んだ。

 山頂は360度の展望だった。だが疲れてしまい、のんびりと眺めている余裕はなかった。

【山頂からの展望。左が中ノ岳、右が駒ケ岳】

 ある人のホームページに、
「荒沢は、見て良し、登って良し、展望よし」と書いてあったが、私は、
「荒沢は、見て良し、登ってメロメロになり、展望など見る余裕なし」というところである。

 実際は、越後三山や苗場、巻機など越後の山はもとより、遠く富士山や北アルプス、妙高や高妻など、 まさに360度の展望だった。しかし、昨日、八海山で展望を充分満喫したので、今日はじっくりとは見てはいなかった。

 食事後は、下りのことを考え、早々に出発することにした。12時15分発。
 下りはコースタイム3時間10分なので、最悪でも16時までには着けるだろうと思った。

(写真右は山頂付近から下山コースを見下ろす)

 前グラまでノンストップで下った。しかし、岩場やクサリ場は登る時間と余り変わらない。それに岩場以外の普通の登山道もぬかるんでいて下りにくい。滑らないように慎重に下った。前グラへ13時35分着。山頂から1時間の所を1時間20分もかかってしまった。

 ここで休憩していると、山頂で寝そべっていた4人組が下って来た。しばらくお話をする。
 ここからはクサリの連続になるので、4人に先に下ってもらい、少し遅れて出発した。

 クサリ場を慎重に、いや必死で下った。最低鞍部近くまで来ると、すでに4人のパーティーが1262のピークで休んでいるのが見えた。地元の若い人はやはり早い。
 私が1262のピークへ辿り着いた時、4人組はもういなかった。

 最大の難所を越えて一息入れる。一服していると、前グラのクサリ場を下っているパーティーが見えた。もう逆光で写真は撮れなかった。

 あのパーティーがここへ辿り着く前に下らなくてはいけない。まだクサリ場が続くので、混雑すると大分待たされるからだ。

 ここからは岩と木の根っこの急坂。足元がぬかって滑りやすい。クサリに掴まりなが、慎重に下った。
「これより岩場注意」の表示がある所まで来て、まずは安堵した。ここからはもうクサリも梯子もないからだ。
 しかし、ぬかるんだ道と落葉が滑って歩きにくかった。小さなアップダウンの繰り返し。

 紅葉が逆光で美しかった。でもわざわざ写真を撮るほどでもなかった。
 落葉を踏みながら歩いていると秋を感じる。念願だった荒沢を登り、緊張の連続からやっと開放されたせいか、 前山までの道のりがやたらと長く感じてならなかった。
「前山はまだか〜〜」。

 やっとその前山へ着いた。15時45分。今日は遅くとも16時までには駐車場へ着くと思っていたが、 とても着けそうもない。

 ここからは、日が蔭った急坂を転がるようにして下った。駐車場へ16時20分着。
 本当に長い長い道のりだった。こんなにシンドイ山だとは思わなかった。でも本当にいい山だった。

 荒沢岳は、「越後の穂高」と言われているが、なぜ穂高と言われているのか分からなかったが、今回登って納得した。
 あれほどのクサリと梯子があるとは思わなかった。本家の穂高にもクサリや梯子はあるが、その数ではこの荒沢には及ばない。
 荒沢のクサリは、ざっと50〜60本、いや100本近くあったかも知れない。高度差にしてざっと400mがすべてクサリの連続である。なだらかな所やトラバースなどにもクサリがぶら下がっているから、やはり100本位あったに違いない。私はこれほどクサリと梯子がある山は、他に知らない。

 また、1262のピークから前グラを撮った写真はインターネットなどで見たことがあるが、クサリ場の写真は見たことがなかった。それは急峻な岩場でクサリが連続しているため、とても写真どころではなかったのだろう。そういう私も鎖場で写真を撮ることは一回もなかった。

 クサリ場は足元からスパッと左俣沢へ切れ落ち、高度感といい迫力といい、本家の穂高にも決して引けをとらないほどだった。穂高が好きな私にとっては、また好きな山が一つ増えたような気分である。

 しかし次に行く時は、もっとトレーニングをして途中でバテないようにしなくてはいけない。新たな課題も増えた。