イイデリンドウ紀行
杁差岳(えぶりさしだけ)

(1,636m、新潟県)  154座



頼母木(たもぎ)小屋から見た朝の杁差岳。左手のピークが鉾立峰


飯豊山荘〜(丸森尾根)〜頼母木小屋〜杁差岳〜(丸森尾根)〜飯豊山荘

【プロローグ】
 今年の夏休みは北海道の日高へ行く予定だったが、台風が北海道を直撃しそうだというので、急遽キャンセルし、さて、どこへ行こうか?と思案した結果、 前半を南アルプスの農鳥岳、後半を飯豊(いいで)連峰にある杁差(えぶりさし)岳へ行くことにした。

 杁差岳は新潟県にあるが、むしろ飯豊連峰(福島県・山形県・新潟県)の最北端にある、と言った方が分かりやすいかも知れない。

 この山を登る場合、新潟県の胎内から「足の松尾根」を登る人が多いようだが、私はあえて山形県小国町の飯豊山荘前から「丸森尾根」を登ることにした。それは地神山付近に咲くという、飯豊固有の「イイデリンドウ」(写真左)が見たかったからだ。

 そのイイデリンドウは真っ盛りだった。タカネマツムシソウやハクサンシャジン、タカネナデシコなども群落をなして咲いていた。

 しかし、あんなに暑いとは思わなかった。脱水症か熱中症でブッ倒れるかと思った。私が丸森尾根を登った日は、稜線でも気温33度、無風ということで、三国小屋付近では病人が大勢出たというから、たとえメロメロになっても、無事に頼母木(たもぎ)小屋へ着いただけでヨシとするしかない。

 それにしても小屋へ着いて飲んだあのビールの旨かったこと。ほんと! 涙が出るほど旨かったねぇ〜!

 翌日は、朝の涼しいうちに杁差岳を往復し、またクソ暑い中を丸森尾根を下った。


2007年8月10日(金)

 自宅700−川越IC−(関越道)−中条IC−(R113)−小国町−1518飯豊山荘

 一昨日、南アルプスの農鳥岳から帰って来たばかりで、昨日は洗濯物が乾くのを待ってパッキング。今回は避難小屋泊まりがあるのでシュラフやマット、食料なども詰め込んだ。

 今回はテントは持って行かないが、ここへテントを入れてフル装備になると、家内は「お父さんの家出ルック」と笑う。確かにここへテントを入れると衣食住が揃うから・・・、感心している場合ではない。オレは家出なんかしねぇ〜ぞ〜!

 今日は飯豊山荘泊まりなので急ぐこともないが、渋滞を心配して7時ジャストに家を出た。案の定、普通は1時間で行く川越ICまで2時間半もかかってしまったが、その後は順調に流れ、飯豊山荘へ15時18分着。

 早速、飯豊山荘の温泉に入る。極楽、極楽。3日間で「奈良田温泉」と「飯豊温泉」へ入るなんて少し贅沢すぎる。山男・山女から羨ましがられるかも知れない。
 この後、二日酔いするほどビールをガブガブ飲んだのが、翌日ヘバった理由かも知れない。


2007年8月11日(土)

(コースタイムは参考になりません)
丸森尾根500−757水場815−(途中で昼食)1240−1355地神北峰1410−1500頃・頼母木小屋着(泊)

 朝5時前に山荘を出て、山荘前に止めていた車を一般駐車場へ移動した。私が止めた隣で若いご夫婦が植物を保護するネットをザックにくくり付けていた。

「ボランティアですか? エライですねぇ・・・」と声を掛けた。このご夫婦は今日は、丸森尾根を登って門内小屋へこのネットを届けてから引き返し、頼母木小屋まで行くという。

「私も丸森から頼母木小屋です」と言って、
「イイデリンドウを見たいので地神山まで往復して来るつもりです」と言うと、
「地神山まで行かなくても、地神北峰から頼母木小屋へ下る途中に咲いていますよ」とのこと。これで地神山まで行かずに済みそうだ。

「では、小屋で会いましょう」と言って、私の方が先に出発した。
 丸森尾根は飯豊山荘のすぐ前から登り出す。かなりの急登だが、「これしきの急登でバテてたまるか!」と張り切って登って行った。しかし、そのハリキリが裏目に出た。

 一気の登りですぐに心臓がバグバクして来た。今日は荷物が重いので堪える。20分ほど登って、やっと地獄の急登から開放され、左正面に梶川尾根らしきものが見えた。

 若夫婦が追いついて来た。当然、先に行ってもらったが、飯豊の仙人のようで足が早い。

 5時32分、朝日を浴びた。やはり朝日を浴びるのは嬉しい。
 頭上には紺碧の空が広がり、今日も暑くなりそうだ。

 すでに全身汗だくだった。額から流れる汗でメガネが曇って困る。
 1時間ほど登って休憩。とにかく水分を補給しなくてはならない。ここは森林地帯だが、潅木なので直接日差し浴びることが多い。今日はいつになく水分を補給しているが、すぐに汗になって噴出す。

(写真右:こんなガレた急登が幾つもある)

 やっと登り詰めたピークには何の標識もなかった。これが765mのピークだろうか。

 ここからは下りになり、左手下から沢の音が聞こえて来た。冷たくて旨そうな音に聞こえる。少し下ってなだらかになると、また急登だ。しかもガレているので下りがイヤらしい。

 小高い所で一本。左手に雪渓を抱いた待望の飯豊連峰の主脈が見えた。後から来たオジさんの話では、あれは飯豊本山だという。そう言われるとダイグラ尾根の宝珠山に見覚えがあった。

(写真左:中央が飯豊本山、左のポコン・ポコンが宝珠山)

 水場へなかなか着かない。私が持っている古い地図では2時間5分となっているが、2時間半かかっても着かない。2時間50分の間違いではないかと思った。
 3時間かかってやっと水場へ着いた。その時、絶対に地図が間違っていると思った。

 (家へ帰ってから調べたら、小国観光協会のHPに、『丸森尾根は下りがほとんどない直線の登りコースです。(中級)』と書いてあり、『飯豊山荘から夫婦清水まで2時間50分』と書いてあった。私の勘がズバリだった。

 (写真右:水場には夫婦清水の標識が立っている)

 親子が私が着くのを待っていたように、「ここが水場ですよ」と声をかけて出かけて行った。

 水は登山道から10mほど離れた所にチョロチョロと流れていた。その細い流れに口を付けてゴクゴク飲んだ。少しコケ臭い気もしたが、そんなことは言っていられない。残ったペットボトルの水を頭から被って沢水を入れ替えた。

 すぐに単独のオジさんがやって来た。自然と「今日は暑いですねぇ・・・」という挨拶になる。そして私がここまで3時間もかかったことを話すと、
「そうですか。それを聞いて安心しました。私だけではなかったんですねぇ・・。私は昨日ここを登ったんですがね。時間がかかり過ぎて時間切れになってしまい引き返したんですよ。今日もすでにメロメロでね。やはり歳かと思って、もう山を諦めるしかないかと思っていたんですが、止めなくても済みそうです」
 と言った。

 私も同じである。地図のコースタイムが正しいとすれば、何でこんなに時間がかかってしまったのだろう。もう歳か?と、つい悲観的になってしまう。

 ここからも暑くてたまらなかった。南アルプスの3000mの稜線は、日差しは強いが涼しい風があって助かったが、ここは風がまったくない。まるで熱帯林を歩いているようだ。

 登山家の今井通子さんの講演で、『7月、8月に2000m以下の山を登るのは、汗をかきに登るようなもの・・』と聞いたことがあるが、まさにそれを実践しているようだ。

 沢の音がやけに大きく聞こえると思ったら、左対岸の中腹に滝が見えた(梅花皮大滝らしい)。さらに 右手前方に、杁差岳らしき山が見えた。あれは間違いなく杁差岳だと思ったが、元気は湧いて来なかった。とにかくこの暑さから少しでも早く逃れたい、と思うばかりだった。。

 森林地帯を抜け出した時、左前方に2つのピークが見えた。「え、まだあんなに登るのか!」とガックリ来て、そこへ座り込んでしまった。 つい先ほど休んだばかりだが仕方が無い。熱中症でブッ倒れるよりはいいだろう。今日中に頼母木小屋へ着けばいい、と開き直った。


途中から見えた杁差岳

森林地帯から抜け出した所から見えた地神北峰(奥)

 水分を補給して気合を入れて歩き出す。休憩した所から数十メートル先に丸森峰の標識があった。

 しばらく歩くとニッコウキスゲなどが咲いている草原になり、昼食を摂っている人がいた。私もここで昼食にすることにした。予定では地神北峰あたりで昼食かと思っていたが、もうシャリバテだ。
 少し開けた場所から離れた木陰で湯を沸かす。軽い食事をしてコーヒー飲むと、少し元気が出てきたような気がした。