早池峰山(はやちねさん)    72座目

(1,917m、 岩手県)


頭垢離(こうべごうり)付近から見た早池峰山頂。


河原ノ坊〜小田越〜早池峰山〜頭垢離〜河原ノ坊

1999年7月2日(金)

東京603−花巻925−河原ノ坊〜小田越1130〜早池峰山〜1430避難小屋(泊)

 ヨーロッパアルプスの三大名花と言えば、エーデルワイス、エンチヤン、アルペンローゼであるが、日本の山にもエーデルワイスによく似た花が咲くという。それが早池峰山に咲く「ハヤチネウスユキソウ」である。
 私はスイスでエーデルワイスを見たことがあるが、日本のエーデルワイスと言われるハヤチネウスユキソウも一度は見てみたいと思っていた。

「来年あたり早池峰へ行ってみようかな」と思っていた時、JRの「早トクきっぷ」というのが目に止まった。東京発6時3分の東北新幹線に乗ると新花巻まで約半額で行けることを知って、すぐにでも行こうという気になった。
 折しも、ハヤチネウスユキソウの見頃は、6月末から7月上旬だという。早速、キップを買って行くことにした。

 新花巻駅から9時25分発の河原ノ坊行きのバスに乗った。乗客は20人位だろうか。最近はマイカーやレンタカー、さらにはツアーなどで行く人が多く、バスの利用者は少ないようだ。

 バスが走り出した頃は空に晴れ間が覗いていたが、大迫を過ぎた頃から雲行きが怪しくなって来た。岳集落を過ぎると完全に雲に覆われ、河原ノ坊へ着いた時は濃い霧の中だった。せめて、雨が降っていないのが救いだった。

 ほとんどの人は、ここから直接山頂へ登るコメガモリ沢を登るらしく、小田越まで歩いたのは私と60代のオジさんの2人だけだった。
 小田越までは舗装された林道であるが、勾配は思ったよりもきつい。私は避難小屋へ一泊する予定なので荷物が重く、日帰り用の小さいザックを背負ったオジさんに付いて行くのが精一杯だった。
 道の両端には高山植物が咲いていた。なぜこんな低い所に高山植物が咲いているのか不思議だった。

 大きな木の鳥居がある小田越で一服した。近くに山小屋が見えた。最初は小田越山荘かと思ったが、どうも高山植物を監視している監視小屋のようだった。
 鳥居を潜って登山届けを出し、11時30分に出発。

 オオシラビソが茂る中を登って行くと、上から雨具を着込んだご婦人3人が下って来た。
「上は雨が降っているんですか?」、と聞くと、
「雨は降ってませんけど、ガスと風が強いもんだから着てきたんですよ……」と言った。今回の最大の目的であるウスユキソウの咲き具合を聞くと、「いっぱい咲いてましたよ……」と満足そうな顔で言った。私はその一言を聞いて嬉しくなった。

 道はすぐに森林地帯を抜け出し、岩礫の道となった。両側にはもうハイマツが生えていた。濃いガスが流れ遠望は利かないが、ハイマツと岩礫の中を登っていると3,000メートル級の山を登っているようだった。(写真右)

 ガスの切れ間から、頭上に大きな岩塊が二つ見えた。一瞬、頂上かと思って慌てて写真を撮った。そして、近くにいた人に聞いてみると、
「違いますよ……。もう少し登った所が三合目ですから……。まだまだ序の口ですよ」と笑われてしまった。

 その三合目を過ぎると、道端で写真を撮っている人がいた。近づいて見ると、そこに待望のハヤチネウスユキソウ(写真)が咲いていた。まだ開いたばかりの白い花が、霧に濡れながら揺れていた。

 もともとエーデルワイスとは、「ライオンの足」という意味らしく、真ん中が丸く持ち上がり、花びらが指(爪)のように見える。特別に美しいとか、かわいいという花ではないが、この花を見るためにはるばるやって来た者にとっては嬉しかった。

 ここから先は花のオンパレードになった。溶岩が固まったような石と岩がゴロゴロした登山道に、紫色のミヤマオダマキや黄色のナンブイヌナヅナなどが咲いていた。このナンブイヌナヅナを見るのは実は初めてだった。この花はハコベのような小さい花で、それがまとまって咲いているので見事だった。
 登山道の脇には、ピンク色をしたタンポポのようなミヤマアズマギクや紅色のヨツバシオガマ、ハクサンチドリなども咲いていた。


(岩がゴロゴロした登山道)

(ハヤチネウスユキソウ)

(ナンブイヌナズナ)

(お花畑1)

(イワオトギリ)

(ミヤマアズマギク)

(お花畑2)

 今回は花の写真を撮るのが目的だったが、写真ばかり撮っていると全然前へ進まない。それに、風が強いので寒くてじっとしているのが辛かった。写真を撮るのもほどほどにして、カメラをザックの中へしまい込んだ。

 写真こそ撮らなかったが、黄色いタカネスミレやピンクのイワカガミなども咲いていた。わずかではあったが白いチングルマも咲いていた。ここに私の好きなキンポウゲやハクサンフウロなどが咲いていれば、最高なんだがなあ……、と思った。

 途中で監視員2人に会った。こんなに風が強くて寒い日でも、高山植物を保護するために監視している人がいるかと思うと、頭が下がる思いがした。最近はお花畑を踏み荒らすばかりでなく、せっかく咲いた花を根こそぎ掘っていくヤツがいると言う。本当に情けなく許せないことだ。そういうヤツがいるために、たとえこんな天気の日でも監視しなければならないのだろう。

 八合目の鉄梯子は霧で濡れていた。足が滑らないように注意しながら慎重に登って行った。
 この梯子を登るともう山頂は近かった。剣ガ峰分岐を過ぎ平坦な道を行くと赤い屋根をした避難小屋が見えて来た。小屋着14時30分。

 小屋の前へ荷物を置いて、カメラだけを持って山頂へ立った。

 濃いガスが流れる山頂は溶岩ドームがそのまま固まったような奇岩が重なって不気味だった。草木はほとんどなく、地獄の山のように見えた。尖った石の陰から鬼が出てきそうだった。子供に鬼が住んでいる山の絵を描かせたら、きっとこんな絵を描くに違いないと思った。


(避難小屋が見えて来た)

(晴れた山頂)

(薄気味悪い山頂)

(山頂からの避難小屋)

 ここは風が強いので、写真を撮ってすぐに小屋へ戻った。小屋は山頂のすぐ下というか、山頂の一部のような所にあるため、ほとんどの人が中へ入って休憩する。そのためかなり混雑しているが、泊まる人は少ない。詰めれば50人ぐらい泊まれそうな小屋へ、今日の宿泊者はたったの3人だった。(小屋にはトイレがあります)

 私は二階へ荷を置いて、持ってきた缶ビールや酒を飲みながら本を読んだ。一階は休憩する人で騒がしかったが、二階は別天地のようだった。

 夕方になって晴れて来た。登山者がいなくなった山頂から、岩手山や栗駒などが見えた。足元には、さっき登ってきた登山道や小田越、河原ノ坊に止まっているバスまで見えた。

(写真は山頂から見た小田越コース。正面の山は薬師岳)


7月3日(土)

避難小屋650〜800頭垢離〜915河原ノ坊−花巻−東京

 雨の音で目がさめた。ご来光が4時10分頃なので4時頃起きようと思っていたが、それより早く目がさめてしまった。しかし、雨が降っていてはご来光どころではない。もう一度シュラフの中へ潜り込んだ。

 6時になるのを待って起き出した。朝食の準備をしていると、ドアが開いて2人の登山者が入って来た。キャンプ場からコメガモリ沢を登って来たという。

 我々は、河原ノ坊からの始発バスが11時30分なので、時間が余るほどあった。ゆっくりと朝食を摂り、コーヒーを飲んでから下る準備を始める。
 小屋6時50分発。
 風がビュウビュウと唸る山頂へ再び立った。
 昨夜一緒に泊まった2人は私とは逆コースなので、私の方が先に小屋を出た。2人は口を揃えて、「コメガモリ沢は、雨が降ると石が滑るので嫌らしい」と言っていたが、私は予定通り下ることにした。

 ここは、昨日のコースよりもはるかにお花が多かった。雨が降っているので写真も撮らずに下ったが、まさに群落という感じで咲いていた。
 下から登ってくる人が大勢いた。今日は土曜日なので人も多いのだろうが、この人達は昨夜はどこへ泊まったのだろうか。岳から来るには早すぎるのでテント泊かも知れないと思った。

 1時間ほど下った時、沢の音が聞こえて来た。頭垢離へ8時ジャストに到着。ここで沢の水をゴクゴク飲んだ。やはり沢の水はうまい。
 ここからは沢沿いの道を下る。何度か徒渉したが靴が濡れるような所はなかった。

 途中で会った人は50人以上もいた。さすがにここは花の名所だと思った。

 河原ノ坊着、9時15分。
 河原ノ坊にはビジターセンターやトイレ、キャンプ場などがあった。ビジターセンターの玄関前で持ってきた缶ビールを飲み、キャンプ場の炊事場でラーメンを作って食べた。

 今日からマイカー規制ということで、岳から30分おきにシャトルバスが走っていた。
 今回のお花見登山は、とにかくハヤチネウスユキソウを見ることが出来たので満足だった。今まで見かけなかった花も咲いていた。早池峰山固有の花もあり、アルプスとはひと味違ったお花見が出来た。

 登山コースとしては、私が登った逆コース、つまりコメガモリ沢から登って小田越へ下る方がいいと思った。コメガモリは沢沿いなので登りにとり、小田越の尾根を下るのが正解のようだ。(平成11年)