岩木山(いわきさん)    84座目

(1,625m、青森県)



弘前城から見た岩木山。


八甲田山から続く
10月7日(土)

岩木山神社〜岩木山〜岳温泉

青森−弘前−岩木山神社バス停750〜1058焼止避難小屋1115〜1215錫杖清水〜1320岩木山1335〜1420八合目1450〜1625岳温泉バス停

 昨夜降った雨でまだ路面が濡れていたが、頭上には青空が広がっていた。天気予報も「今日は絶好の行楽日和でしょう」と報じていた。

 青森から弘前へ向かう車窓から目指す岩木山が見えた。山頂付近はまだ白い雲に覆われていたが、刈り入れが済んだ津軽平野からドーンと聳え立った山容は、まさに津軽富士の名にふさわしいと思った。

 弘前駅から枯木平行きのバスに乗った。登山者で混むかと思ったが、乗ったのは7、8人で、しかも岩木山神社で降りたのは、私とハイカーらしい青年と地元の老夫婦の4人だけだった。7時50分着。

 神社の鳥居の真上に岩木山が見えた。しかし、まだ頂上部分には白い雲がかかっていた。
 鳥居をくぐって参道を進み、拝殿でお参りをした。登山口は拝殿に向かって左手にあり、「岩木山神社奥社登拝口」と書いてあった。

 うっそうとした杉林のなだらかな道を登って行く。しばらくすると道端に栗が落ちていたので拾いながら行く。栗拾いなんて子供の時以来だ。

 20分足らずで桜林公園があり、「焼止りまで2時間」の標識があった。ここは文字通り桜が生えた公園だった。その公園のゆるやかな階段を登って行くとスキー場へ出た。

 スキー場はどうも苦手である。しかも登山道が見あたらない。良く見ると登山道を塞ぐように建物が建っていた。登山道を塞いでいる渡り廊下のようなものがあり、そこをくぐって行くらしい。登山道の上に建物を建ててしまうとは、まったくどういう神経をしているのだろう。

 スキー場をイヤイヤしながら登って行くと、すぐに左の木立の中へ入るようになり、登山口の標識があった。登山口の両脇には恵比寿様と大黒様が祀られていた。この山が恵比寿様と大黒様とどういう関係があるのかは知らないが、恵比寿様の脇に「熊出没につき注意」と書かれたものが立っていた。私にとっては重大なことだった。単独行は、熊が一番怖いのだ。前にも後ろにも人影がないので充分注意しなくてはいけない。

 さっそく口笛を吹きながら歩き始める。しかし急な登りになり、とても口笛を吹く余裕などなくなった。でもクマは怖い。クマと出っくわさないように周りをキョロキョロしながら登って行った。

 この急登もすぐに終わってなだらかな尾根になった。明るくさわやかな森林である。所々に紅葉したカエデがあった。

 単独で歩いているとどうも音に対して敏感になるようで、ドングリが茂みに落ちた時に立てるガサッという音にも、クマが出たか!とビクついた。
 途中で一服していると、単独行が登って来たのでホッとした。ぜひ露払をお願いしたいものだ。これでクマに怯えなくて済むだろうと思った。

 雨がポツポツ落ちてきた。さっきまで晴れていたのに山の天気は分からない。しかし、本降りになることはなさそうなので、そのまま登って行った。

 ダケカンバとクマザサが茂る中に、一角だけ地面が露出した所があった。そこに「カラスの休場」と書かれた標識があった。そこはカラスが休むというより人間が休みたくなるような所だった。
 その後、「姥石」とか「鼻コクリ」などがあったはずだが、気づかなかった。

 ここは紅葉する木が少ないが、時々紅く色づいたウルシだけが目をひいた。
 私は足が遅いので、後から来た人に次から次と追い越されたが、その度にクマに怯えなくて済むと思った。
 雨はいつの間にか止んだ。そして青い空が広がってきた。

 焼止りの小屋へなかなか着かない。同じような登りが何度も何度も続き、やっと急登が終わって右側へ回り込んだ時、突然目の前に小屋が現れた。小屋の軒先で中年男性3人が休んでいた。私は誰もいない小屋の中へ入って弁当を食べた。(小屋着10時58分。小屋発11時15分)。

 小屋から15分ほど登った時、滝が見えた。それまでは涸沢だったが、昨日の雨で滝が出来たのだろうと思った。その滝を巻いて上部へ出ると、そこからは豊富な水が流れていた。
 ここからは沢登りになった。昨夜の雨で岩が滑り、ここを下りにとらなくて良かったと思った。

 今度は「坊主ころがし」といわれる滝があった。右手に3メートルほどのアルミ製の梯子があった。水しぶきを浴びながら梯子を登った。そして、ここは「坊主転がし」というくらいだから、ここで坊さんが転げ落ちたのかも知れない、と思って笑ってしまった。

 一人の青年が水を酌んでいた錫杖清水へ12時15分着。小屋からちょうど1時間だった。錫杖清水はパイプから溢れるように流れていた。
 青年は、すでに山頂を登って岳(だけ)温泉へ下る途中だが、水を酌むためにわざわざ降りて来たのだと言う。

 私はその青年の後を追うように急斜面を登って行った(写真左)。

 稜線へ出ると右手に小さな池があり、その池の左側を通って急斜面を登り詰めると岩木山スカイラインから登って来た道と合流し、すぐに無人小屋の鳳鳴ヒュッテがあった(写真右)。小屋の中には大勢の登山者が休んでいた。

 小屋で一休みして、「サア出かけよう」と思ったら、ガスが一層濃くなり、しかも小雨が混じっていた。急いで雨具を着て出発する。
 小屋からは瓦礫の急登となったが、視界が40メートルぐらいしか利かず、どこをどう登ったのか分からなかった。ただ登山者でごった返す瓦礫の急登を登って行った。

 登山者でごったがえす山頂へ13時20分着。
 山頂には「冒険クラブ」という30人ぐらいの団体さんをはじめ、5、60人がいた。山頂で写真を撮るのも順番待ちだった。

 13時35分下山。
 30人ほどの団体さんが、ちょうど下る所だったので、私は一歩先に下り出した。前を歩いている人を次から次と追い越して行く。

 しかし、途中で道を間違えてリフトの方へ行ってしまい、分岐まで引き返したため、団体さんの後ろになってしまった。道が細く、追い越すことも出来ずイライラした。大勢の団体さんは本当に迷惑だ。

 八合目の手前まで来た時、今までの天気がウソのように青空が広がっていた。八合目駐車場の自販機で缶ビールを買って飲みながら、残ったオニギリを食べた。(14時20着。50分発)。

 八合目からは岳温泉を目指して下った。最初は急斜面の足場が悪い道だったが、すぐにブナ林になった。ほとんどの人がバスや車で下ってしまうが、こんな美しいブナ林を歩かないなんてもったいないと思った。


(八合目の駐車場)

(これから下る尾根)

(ブナ林を下る)

 静かなブナ林を、森林浴を楽しみながら下ったが、途中から赤土になって苦戦した。氷のようにツルツル滑る赤土で、見事一回転半ひねりを演じてしまった。幸いケガはなかったが、バス停にいた老夫婦の奥さんは転んで足を捻挫してしまったそうだ。
 岳温泉のバス停へ16時25分着。

 バス停の真向かいにあった山楽という民宿へ泊まり、翌日、弘前城を見物してから秋田へ出て新幹線で帰って来た。
(左の写真は岳温泉から翌朝見た岩木山)

(右は弘前城の天守閣から見た岩木山)

        (平成12年)