甲斐駒ケ岳(かいこまがたけ)    14座目

(2,967m、 山梨県・長野県)

仙丈ケ岳から見た甲斐駒ケ岳

【登頂歴】
 A2000年8月 北沢峠〜仙水小屋〜甲斐駒〜摩利支天〜双児山〜北沢峠
 @1975年9月 黒戸尾根往復


A北沢峠〜仙水小屋〜甲斐駒〜摩利支天〜双児山〜北沢峠

2000年8月16日(水)

自宅−広河原−(バス)−北沢峠〜仙水小屋(泊)

 甲斐駒は25年前に一度登っているが、こんないい山へまだ一度しか登っていないということが、我ながら不思議なくらいである。
 甲斐駒へ登ったのは1975年(昭和50年)の9月で、山仲間4人と黒戸尾根を登った。今でこそ北沢峠から簡単に登れるようになったが、当時はまだスーパー林道さえ出来ておらず、黒戸尾根を登るのが一般的だった。(広河原から北沢峠のスーパー林道開通は1980年)

 夜行列車にゆられ、寝不足で登った黒戸尾根は苦しかった。その日は七丈小屋へ泊まって翌日山頂を往復したが、2日間とも雨に降られ、どこをどう歩いたのか分からなかった。

 そんな甲斐駒へもう一度登りたくなった。日本百名山を目指すようになってからは、百名山を一座でも多く登りたいので一度登った山は我慢していたが、この甲斐駒だけは例外である。何も見えなかったあの山頂へ立って、仙丈ケ岳や北岳などを眺めたて見たいと思った。

 早速、お盆休みを利用して、北沢峠から登ることにした。(北沢峠までは仙丈ケ岳Aを参照)
 バスの終点である北沢峠へ14時35分着。ここから今日の宿である仙水小屋へ向かった。

 北沢峠から5分ほど林道を引き返すと仙水峠への分岐があり、そこを左に曲がって林の中を下って行くと、右手の河原にテント場が見え、すぐに古ぼけた北沢長衛小屋へ着いた。
 小屋の庭先には花壇があり、そこに紫色のハクサントリカブトと濃いピンク色のヤナギランが咲いていた(写真左)。ヤナギランは背丈が1メートルもあり、初めて見る花だった。

 ここからは、北沢沿いに登って行った。30分ほど登ってひと汗かいた頃、雨がポツポツと落ちてきた。しかし、雨具を着るほどではなかったのでそのまま登って行くと、5分ほどで仙水小屋へ着いた。
 そして、受付をしている時に音をたてて雨が降ってきた。実にラッキーだった。私より30秒ほど遅れて着いた人はズブ濡れだった。

 この雨はなかなか止まなかった。小屋の主人は、「昨日までは前線の雨だったが、今日は夕立だから明日は大丈夫だ」と言うが、少し心配になってきた。明日は絶対に晴れてくれなくては困るのである。25年前に何も見えなかった眺望を、この目で確かめるために、わざわざやって来たのである。もし明日の朝、雨が降っていたら登るのを止めようかと思った。

 この小屋は食事が良いということで評判だったが、評判通り夕食には刺身が出た。定員も30人の予約制でそれ以上は泊めない。布団も1人1組で快適のはずだったが、私は酔っぱらいとゾウのようなイビキに悩まされた。


8月17日(木)

仙水小屋420〜445仙水峠515〜650駒津峰705〜840甲斐駒900〜摩利支天〜1055駒津峰1130〜1256北沢峠

 3時起床。空はうっすらと星が見えた。満天の星とはいえないが真ん丸いお月さんを見ると、午前中は雨の心配はないだろうと思った。
 ここは朝食が4時である。主人の話によると「朝食を済ませてから北沢峠に向かうと、ちょうどご来光の時間になる」という。さらに、「9時までに山頂に立つようにした方がよい。9時を過ぎると甲府側からガスが昇ってくるから」とのことだった。

 朝食を済ませ外で一服していると、下から登って来た人がいた。真っ暗い森林の中を消えかけたヘッドランプを点けた単独行で、小屋で休むこともなく登って行った。
 私は4時20分に出発した。足が遅いので少しでも早く出ないとご来光に間に合わなくなってしまうからだ。

 しばらくはシラベの原生林の中を登って行く。途中で先に行った人を追い越した。彼のヘッドランプは電池が切れて全く用をなしていなかった。こんな暗い中をよくも歩けるものだと感心した。彼は私が先に歩くことで少し安堵しているようだった。

 原生林を抜けるとガラガラの岩の斜面をたどるようになった。この辺まで来るとヘッドランプを点けなくても何とか歩けるようになったが、道が分からず何度も立ち止まった。

 4時45分に仙水峠へ着いた。まだ誰もいなかった。左手に摩利支天の黒い絶壁、右手に栗沢山の稜線が天高く延び、東西がポッカリと開けた峠だった。
 東の空がわずかに明るんでいた。雲海の上に鳳凰三山の地蔵岳が浮かび、オベリスクが天を突いていた。西の空には真ん丸い月が浮かんでいた。

 しばらくすると登山者が続々と登って来た。5時10分、オレンジ色に輝いた空から、待望のご来光が昇った。


(西の空にはお月さん、見えるかな?)

(摩利支天と御来光)

(御来光を見る人達)

 (写真左は仙水峠から仰ぎ見る摩利支天と山頂→拡大できます)

 5時15分峠発。ここから駒津峰へ向かって森林地帯の急登を登って行く。

 昔登った黒戸尾根は、登山口から山頂までの標高差が2200メートルあり、国内では富士山を一合目から登った場合に次いで標高差が大きい、ということを最近知った。北沢峠からなら990メートルで頂上へ着く。仙水小屋からなら900メートルも登らずに着くだろうと思うと気楽だった。

 登るにしたがって背後に北岳が顔を出して来た。さらに登って行くと間ノ岳や塩見岳も顔を出して来た。天を突くような北岳の尖峰が見事だった。

(写真左は、手前の尖峰が北岳、奥が間ノ岳、右奥が塩見岳→拡大できます)

 駒津峰6時50分着。

(写真右は駒津峰からの甲斐駒→拡大できます)

 駒津峰とは小さい松がある峰、つまりハイマツの峰である。ガイドブックには「駒津峰は小さなピークであるが南アルプス屈指の展望台である」と書いてあり、まさに360度の展望だった。

 正面(北)に目指す甲斐駒と摩利支天、南側に北岳の鋭い尖峰とその奥に間ノ岳、さらにずっと奥に頭が丸い塩見岳が見える。仙丈ケ岳は、小仙丈カールと藪沢カールを持った女性的でやさしい山容を見せていた。こんなすぱらしい光景を、25年前に雨の中を登った仲間達に見せてやりたいと思った。


(仙丈ケ岳)

(鋸岳)

 駒津峰7時5分発。
 ここからは狭い岩尾根になり、下りきった所に六方石という大きな石があった。ここから甲斐駒の山頂へ直接登る直登コースと巻き道がある。

 昨夜小屋の主人にコースについて聞いたところ、「登りは直登コースで下りは巻き道がいい」とのアドバイスを受けたので直登コースを登ろうと思っていたが、場所を間違えてコースより手前を登ってしまった。かなり急な岩場だったが「直登コース」と云うぐらいだから、「とにかく直登すればいいんだろう」とガムシャラニ登って行った。

 すると、すぐ後ろを登ってきた若い単独行が、「ここはコースじゃないんじゃない? ヤバイよ!」と言って引き返して行った。私もすぐに引き返した。

 しばらく巻き道を行くと、正規の「直登コース」の標識があった。しかし、もう直登コースを登る気はなくなった。そのまま巻き道を進んで行った。

 ダケカンバのやせ尾根を抜けると花崗岩の風化した砂礫の登りとなり、摩利支天との分岐に出た。7時35分着。

 摩利支天はすでに眼下にあった。摩利支天とはすごい名前である。甲斐駒は三角錐の頂上部とコブのような岩塊から成り、そのコブのような岩塊を摩利支天といい、昔から信仰の対象として崇められてきた。
 その摩利支天は、帰りに登ることにして、山頂を目指して登って行った。

 風化した花崗岩の砂礫の急登を登って行くと、黒戸尾根からの道と合流した。黒戸尾根を登った時、この分岐から摩利支天へ行きたいと思ったことが、まるで昨日のことのように思い出す。

 合流点からすぐに山頂へ着いた。8時40分着。


(摩利支天との分岐)

(頂上直下)

(25年ぶりに立った山頂)

 25年前に雨に煙って何も見えなかった山頂へ再び立った。山頂の祠には見覚えがあったが、山頂がこんなに狭いとは思わなかった。

 山頂はガスが流れ始め、八ヶ岳は見えなかった。一服している間にさらにガスが濃くなり、近くにいた5、6人のパーティーが、「雨が降る前に下ろう」と急いで下って行った。
 私も早々に下ることにしてザックを背負った時、ガスの合間から八ケ岳が見えた。しかし、今度は北岳の方が見えなくなった。山頂9時ジャストに下山。

 摩利支天との分岐まで戻り、摩利支天へ向かって砂礫の斜面を下って行った。途中ですれ違った50代の夫婦に道を確認した。摩利支天への登り道が2本見えたからである。

 摩利支天との鞍部まで来ると、直登コースと右へ回り込むコースがあった。標識もなく道も不明確だった。先程の夫婦は「直登コースを登った」と言ったが、私は右の旧道らしい方を行くことにした。(これが正規のコースだった)。

 摩利支天の山頂には鉄剣や鉾などが立って薄気味悪かった。しかもガスで周りは見えず、誰もいないたった一人の山頂だった。

 写真を撮って下ろうとした時、甲斐駒がガスの中から姿を見せた。甲斐駒の写真を撮り、もう心残りはない。カメラをザックにしまい込んで下ることに専念した。


(摩利支天からの甲斐駒山頂)

 駒津峰10時55分着。ここには2、30人が休んでいた。これから登る人も多かった。今登って来た甲斐駒は白い雲に覆われていたが、時々雲の合間から姿を見せることがあった。私はのんびりとラーメンを作って食べた。

 食後にコーヒーを飲もうと思っていたが、周りの人達が、「今から下れば13時15分のバスに乗れる」と言って急いで下って行った。ここから双児山を通って北沢峠まで1時間30分である。コースタイムで下ればバスに乗れるが、それを逃してしまうと2時間も待たされるので、私も急いで下ることにした。

 11時30分発。前のパーティーをドンドン追い越しながら一気に下った。
 北沢峠、12時56分着。急いでバスの乗車券と缶ビールを買ってきて、バスを待ちながらうまいビールを飲んだ。  (平成12年)