カムイエクウチカウシ山−1/4

(1,979m、北海道・日高) 祝200座目/日本200名山

日本200名山中、最大の難関カムイエクウチカウシ山(通称:カムエク)
山頂は中央奥の白っぽく見えるピーク


札内川ヒュッテ〜八ノ沢出合〜カムエク往復

【プロローグ】
最後まで残った最大の難関・・・5回目の挑戦。(前回は2晩ビバーク)

 日本二百名山の最後の山、カムイエクウチカウシ山(通称、カムエク)は、私にとって最大の難関だったが、ついに登頂することができた。
 そもそもこの山は北海道・日高連峰にあり、幌尻岳に次いで第二の標高を誇る名山である。山名のカムイエクウチカウシとは、アイヌ語で「熊が転げ落ちる谷」という意味だそうである。

 私はこの山は、日本百名山、日本二百名山の中で、最も困難で厄介な山だと思っている。それは整備された登山道はなく、「熊が転げ落ちるほど急峻な谷」を遡ることになり、しかも、コースが長いためよほどの健脚者でない限り日帰りは難しい。そのため途中テント泊を余儀なくされる。

 それに、ここはヒグマが怖い。もう40年も前になるが、福岡大ワンゲル同好会が熊に襲われ3人が犠牲になったのがこのカムエクである。そんな山へ一人でテントを担いで行くには決死の覚悟がいる。

 【福岡大ワンゲル部の熊襲撃事件の詳細

 しかし私はそのカムエクへ登りたい一心で10年も前にテントを買い、テント泊山行を何回か経験し、イザ出発!という直前になって2回も雨で中止している。ここは雨が降ると沢が増水して登下山できないからだ。

 そして3度目の挑戦が2008年の8月だった。八ノ沢のテン場へテントを張り、翌日山頂を目指したが、三股の上部でコースを間違えて滝を直登してしまい、ザイルを持たない私はもう下ることが出来ず登るしかなかった。

 その時は、「どうせ登り詰めれば八ノ沢カールへ出るだろう」と安易に考えていたが、上部で崖にぶち当たって登れず、顔が真っ青になった。そして上も下もダメなら横しかないと思い、藪をこぎ、トラバースしながら進んで行った。これが裏目に出てしまい、2晩ビバーク(野宿)するハメになってしまった。
 ヒグマに怯え、寒さに震えながら、「生きて帰れるだろうか」という不安の夜を明かしたが、3日目に運よく赤いリボンを見つけ、無事、下山、いや生還することが出来た。

 私がリボンを見つけ天にも昇る思いでリボンへ駆け寄った時、ちょうど登って来た登山者がいた。札幌在住のIさんだった。そのIさんに事情を言って私はすぐに下山を始め、Iさんがその日のうちにカムエク山頂から札幌の自宅へ電話をかけ、奥様が我が家へ電話入れてくれたお蔭で大騒ぎにならずに済んだ。連絡があと1日遅れていたら捜索願が出され、ヘリコプターが飛んでいたかも知れない。

 それから4年後の2012年、「4度目の挑戦!」の予定だったが、林道の橋が壊れて通れない(日高登山センター)というので諦めた。(実際は林道を2、3Km余分に歩けば行けたのだが・・)。そして昨年は橋の架け替えということで全面通行止めで行けなかった。

 そんな曰く付のカムエクである。今度こそ何が何でも登らねばならない。


2014年8月2日(土)
 札内川ヒュッテ〜七ノ沢出合〜八ノ沢出合〜テント場〜BC

中札内の宿540−620札内川ヒュッテ655〜847七の沢出合917〜1120八の沢出合〜(昼食・コース偵察)〜1304テント場1315〜1420左手に最初の滝〜1452左手に2つ目の滝〜BC

 中札内の宿を5時40分に出発。道の駅中札内近くのコンビニで買い物をして行く予定だったが店が閉まっていて大慌て(6時から開店だそうだ)。しかし帯広方面へ少し戻ったところにセブンイレブンがあったので助かった。

 途中、日高山脈山岳センターへ立ち寄って、昨日もらった登山届を出して行く。

 札内川ヒュッテの駐車場へ行くと、すでに満車状態で驚いた。やっと1台分のスペースを見つけ駐車したが、後から来た車は路肩へ止めていた。これだけ人が入っていると心強い。熊も逃げるに違いない。

 ここで買い物をしてきたものをパッキング。熊鈴を付け、ホイッスルを首からぶら下げ、昨日、道の駅の前にあった100円ショップで買った爆竹をポケットに入れ、さらに日焼け止めクリームをたっぷり塗って準備完了。いよいよカムエクへ出発だ!

 まずはトンネルを潜って行く。長い林道歩きになるが、中にはバイクや自転車という秘密兵器で行く人もいる。
 トンネルの途中でザックからヘッデンを出している方がいた。町田から来たというFさんだった。私もポケットからヘッデンを取り出す。

 トンネルを2つ潜った所が、以前の駐車場だった。
 ここからダートになり、道端にはバカでかいフキの葉が茂り、所々にアジサイやヨツバヒヨドリが咲いていた。ピンクの小さな花も咲いていた。

 やがて見覚えのあるトンネルや橋、砂防ダムなどが現れて来る。そして立派な滝見橋を渡ると、もう七ノ沢出合は近い。
 七ノ沢出合は前回とは全くイメージが変わっていた。七ノ沢の流れも変わり、広い河原のようだった。近くに自転車が10台位あった。

 ここで沢靴に履き替えているとFさんもやって来た。いよいよここから沢を遡上することになるが、前回に較べ水量が少なく楽チンだった。
 だが、この先、流木や倒木に悩まされることになる。

   
 最初の3、40分はケルンやリボン、ペンキマークなどを頼りに右岸(上流から見て右)や中洲の巻道を行く。

 本流を渡って左岸へ行く時は水は膝ほどだったが、流れが急で怖かった。
 それに今回は倒木や流木が多く、それを跨いだり潜ったり・・・、本当に歩きにくく疲れる。

 それでも、何とか八ノ沢出合へ11時20分に着いた。しかしイメージが全く違っていた。洪水で流れが変わってしまったようだ。

 本流を渡り、一番左手にあった真新しいピンクのリボンを頼りに進んで行くと、また本流へ出てしまった。戻って左手の沢を遡上する。

 しかし、不安でたまらなかった。もし八ノ沢でなく九ノ沢を登っているとしたら、今度こそ笑い者になってしまう。
 (写真:手前が札内川本流、左の沢を遡上すること

     
 出合から10分ほど登った中洲で昼食にした。何はともあれ腹を満たして冷静に行動しなくてはいけない。

(写真は八ノ沢)
 昼食を済ませてから出合まで戻り、もう一度確認した。やはり八ノ沢出合に間違いないようだ。

 再び同じ沢を登って行くと、さっき昼食を摂った所から5分ほどでテントが見え安堵した。それにしても、こんなに変わってしまうものかと驚いた。


 テントは12張あったが、沢から見えるのは一番手前のテントだけである。もしこのテントがなかったらテン場に気づかないかも知れない。要注意である。

 私もここでテントを張りたいが、今日は三股まで行きたい。明日はカムエクとピラミッド峰を登りたいので、そのためには少しでも上にテントを張りたい。

   
 再び重い荷を背負って登り出す。

 20分も登るとカムエクらしいピークが見えて来た。
 さらに30分も登るとピラミッド峰が見えて来た。思わず歓声を上げた。

 そこから15分程で左手に最初の滝が現れた。そして2つ目の滝が現れた所で三股まで行くのを諦めた。すでに15時を過ぎかなりヘバってしまったからだ。それに早くビールが飲みたい。

 テントが張れそうな場所を探していると、次々と下山者がやって来た。その中の一人のオジさんから、「あと30分位登った所に1張り分の良いところがあったよ!」と教えられ、そこまで頑張ることにした。

 30分も登らない所に2張のテントがあった。そして、そのすぐ上に絶好のサイトがあったので、そこを今回のベースキャンプ(BC)にすることにした(写真左)。

 今回は三股で一人でテントを張る覚悟でいたが、やはり近くに人がいると思うだけで心強い。

 ここは開けた河原ですぐ近くに流れがあり、その上流にカムエクがドーンと見え、最高のロケーションだ!

 カムエクを見ながら、沢で冷やした缶ビールを飲んだ。

 隣のテントは札幌から来たという若者で、「昨夜は八ノ沢カールへ泊まったが、熊を5匹見た。その中には親子熊もいた。夜中にもテントの近くでゴソゴソしていた」と平然と言う。北海道の人は、さほど熊を恐れていないようだ。

 彼らは、「今日は釣りがしたいのでここへテントを張った」と言い、暗くなるまで釣りをしていたようだ。