南駒ケ岳−2/2

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アルプスに立つ少女(本当はオバさん)

返り見る越百岳。名前のように女性的な山だ。

 越百岳から仙涯嶺の稜線は右半分がガスっていた。そのガスが次第に稜線全体を覆い隠すようになった。
 仙涯嶺を目指して登っている時、下りの青年に会った。その青年から「仙涯嶺の山頂はまだですか?」と聞かれる。

「ウ〜ン? 私も仙涯嶺をめざしているんですが・・?」と答えると、
「じゃあ、通り過ぎちゃったんですかねぇ・・。途中にあった標識の所が山頂だったのかなあ・・・」と、納得いかないような顔をしながら言った。やはり視界が利かないと山頂まで分からなくなってしまうようだ。

 しばらく登って行くと、突然ガスが切れた。仙涯嶺の岩峰群が並び立って見えた。
 そして、幾つ目かのピークを越えた時、少し下った所に5、6人が休んでいるのが見えた。

(写真:拡大できます)

 急いでそこまで行くと、古ぼけた標識が立っていたが、文字は古くて読めなかった。8時10分着

 周りの人にここが山頂かを訊ねると、「そうでしょう」という。でも、今下って来た所の方が高い。それに正面にはさらに高いピークがボンヤリと見える(これは南駒だった)。


 ここが本当に仙涯嶺の山頂だろうか。どう見てもここが一番高いとは思えない。さっきの青年が「標識があった所が山頂だったのかなぁ・・」と不満げに言ったのが分かるような気がした。
 私は、きっと安全のために広いスペースがあるここへ標識を立てたのだろうと勝手に解釈した。

 南駒へ向かって下って行くと岩場になった。クサリが2本あったが、クサリがなくても下れる簡単な岩場だった。

 鞍部から再び登りになると、トリカブトの群落があった。久しぶりに見るトリカブトに感激。

 トリカブト以外にもウサギギクやタカネツメクサ、ハクサンフウロなど、わずかではあったが今年最後の花を咲かせていた。

 花の写真を撮っていると、12、3人のパーティーが下って来た。



(写真左:南駒への縦走路、前にいる方は避難小屋へ泊まった青年)

 急斜面を登り詰めると三角点があり、昨夜避難小屋へ泊まった2人組がくつろいでいた。彼らはここが南駒の山頂だと思っているようだった。

 私は小屋を出て来る時、ご主人に北沢尾根の下りについて尋ねると、「時々、手前のピークを山頂と思ってしまう人がいてねぇ、北沢へ下る道が分からないといって戻って来る人がいるが、山頂にはちゃんと標識が立っている。北沢尾根の表示もあるから大丈夫」と言われ、さらに、「分からなかったら戻って来て下さい。標識がない所は絶対に下らないように」と念を押されて来た。

 ここには標識がない。つまりここは山頂ではなく、双耳峰の手前のピークということになる。彼らにここが山頂ではないことを伝えると、「え、山頂じゃないんですか・・・」と、ガッカリした顔をしながら言った。

 ここで一服していると、ガスがサーと切れて目の前に本物の山頂が見えた。「お〜、見えたぞ〜!」と3人で歓声を上げた。しかし、見えたのは一瞬で写真は撮れなかった。それでも本峰を一目見ることが出来て嬉しかった。

 標識が立った山頂へ3人一緒に着いた。10時12分着。

(写真:南駒の山頂、標識と祠がある)

 残念ながら展望は利かない。ここで昼食を摂りながら展望が利くのを待った。ここから空木岳を一目見たいと思ったが、いっこうにガスが切れる気配はなかった。

 彼らが空木岳を目指して出発するというので、私も下ることにした。山頂10時40分発。

 標識に従って北沢尾根を下り出すと、すぐに大きな石や岩の間を通ったり、石を跨いだりするようになった。古ぼけたペンキマークや小さな布切れがハイマツに結ばれていた。2、3回道を見失ったが、4、5mも戻るとすぐに分った。

 この尾根は登り返しが少ないので助かる。飛ばしながら下って行くと、2700mの標識があった。登山口まで3時間と書いてあった。振り返ると頂上部分が見えた(写真右)。

 ここからはハイマツの緑の山になった。さらに2、30分も下るとダケカンバが混じるようになって来た。

 2591mの標識を過ぎると、シラビソなど針葉樹が混じるようになって来た。斜面は急降下だが、なだらかにジクが切ってある。ここにもトリカブトが咲いていた。

 1850mの所に見晴台があった。ここから南駒と仙涯嶺を一目見たかったが、一面ガスに覆われて何も見えない。仕方がない。諦めよう。

 5合目を過ぎると原生林のようになり、まるで日没を思わせるように暗くなった。クマが出やしないかと心配した。

 登山口である4合目へ14時20分、やっと着いた。前半飛ばし過ぎたので、後半はバテバテだった。
 この道は地図では点線になっているが、危険な所は全くなかった。なぜここが一般道でないのか不思議なくらいだった。

 登山口の前に、「ニワトリ小屋橋」という変わった名前の橋があった。なぜニワトリ小屋なのが分からないが、地図を見ると「にわとり小屋沢(北沢)」と書いてあった。今下って来た北沢尾根も、別名ニワトリ小屋尾根というらしい。昔、ニワトリ小屋でもあったのだろうか?

 ここからは、だらだらした林道を約30分ほど下って行くと、昨日登り出した福栃橋の登山口へ着いた。さらに30分ほど歩いてやっと駐車場へ着いた。15時30分着。

 私が帰りの準備をしていると、上の駐車場に止めてあったマイクロバスの運転手が来て、「△△パーティーを見ませんでしたか」、と訊かれる。さらに、「ここへ1時に下って来る約束なんですが、まだ来ないんです」と心配そうに言った。このパーティーは私が仙涯嶺の先で会ったパーティーに違いないと思った。それにしては到着が遅すぎる。怪我人でも出ていなければいいのだが・・・。

 運転手に「怪我人でも出たのかも知れませんねぇ・・、もう少し待ってやって下さい」と言って駐車場を後にした。
 帰りはR19で塩尻ICへ出た。