三ツ峠山 2/2

 しかし、その山裾を回り込んだ時、頭上に垂直の壁が現れた。まさにロッククライミングには絶好の岩場だと思った。私はロッククライミングをしたことはないが、垂直の岩場を見上げ、これこそが世に言う屏風岩に違いないと思った。

 こんな垂直の壁を、しかもこんな近くから見上げるのは初めてだった。凄い迫力だ。今までに谷川や穂高の屏風岩を遠くから見たことはあるが、こんな近くから見上げたことはなかった。ここはクライミングのゲレンデというから、もっとチャチな岩場を想像していたが、本当に恐れ入った。私はこの岩壁を見ただけで、もう充分満足だった。

 垂直の壁の奥に小屋(四季楽園)が見えた。

 登山道はこの岩壁の下を通って行くが、時々、ダイコンぐらい太いツララが頭上から落ちて来る。こんなツララが頭に当たっては大変だ。急いで通過した。

 四季楽園まで来ると、自販機の缶ビールが目に留まった。今日は缶ビールを持って来なかったので、山頂へ立ってからここで昼食にしょうと思い、すぐ左手の高台へ登って行った。大きなケルンが立ち、ベンチに2人連れが休んでいた。ついに山頂へ到着と思ったら、なんと反対側にもっと高い山が見えた。

 2人連れに聞くと、「ハイ、あれが山頂です」と指差しながら、「あとひと踏ん張りです」と言れる。
 四季楽園へ戻り、一旦下ってから山頂を目指して登って行く。電波塔がせっかくの景観を台無しにしている。4、5人が休憩していた山頂(開運山)へ13時8分着。

 山頂からは富士山は見えなかった。しかも雪が積もっているため座る場所もない。立ったまま一服していると、反対側に八ケ岳と南アルプスが見えて来た。八ケ岳の赤岳と南アルプスの甲斐駒が目を惹いた。この2座はどこから見ても識別できるのがいい。

 とにかく寒い。一服しているだけでガタガタ震える。せっかく登った山頂だが、10分ほどで下山する。13時18分下山。5、6分で四季楽園へ着いた。

 さっそく小屋前の自販機で缶ビールを買った。しかし酒のつまみになるものは売っていなかった。ここはツマミどころか記念のバッジ以外は何も売っていなかった。仕方がない。オニギリをつまみにしよう。

 庭先のベンチで日向ぼっこをしながら食事を摂り、目の前に見える岩壁を見下ろしながらコーヒーを飲んだ。

(四季楽園のベンチから撮った山頂と岩壁。写真を拡大してご覧下さい)

 食事を済ませ、このまま下ることにした。今日は雪山を充分堪能した上に、とてつもない岩壁を見ることが出来て満足である。御巣鷹山と木無山は花の咲く頃に来よう。

 13時45分下山。ここからは一気に下って行った。14時を過ぎても登って来る人がいた。きっと四季楽園に泊まる人達だろう。明日も天気が良さそうだから今日小屋へ泊まって、明日の早朝に見る富士山はすばらしいだろうと思った。

 下りは楽だ。達磨石まで転げるようにして一気に下った。
 達磨石は、橋の手前(山上から見て)にあった。登って来る時は「なぜこんな所に建物やベンチがあるのだろう」と思ったが、そこが達磨石だったのだ。雪を被った石にダルマさんの顔が描いてあった。折角なのでダルマさんの写真を撮った。

(写真が達磨石。暗くて見えないが達磨さんの顔が描いてある)

 林道へ出ると雪はほとんど解け、シャーベット状になっていた。憩いの森公園近くまで来ると乾いた舗装が現れるようになって来た。水場のところでアイゼンとスパッツをはずして洗った。車へ着いたのが15時30分だった。四季楽園から1時間45分だった。

 三ツ峠は、今までハイキングコースと聞いていたのであまり登高心もなかったが、 こんなに魅力的な山だとは知らなかった。新雪という季節舞台もあったが、山容といい絶壁といい本当に申し分なかった。やはり“人気があるということは魅力がある”ということであり、“魅力があるから人気がある”ということを実感した。

 この山は、見て良し、登って良し、展望良し、の三拍子が揃っている。人気がある訳だ! 今度は花の咲くころに別なコースから登ってみたいと思った。