二王子岳 2/3

 雪渓を歩いたり、雪解けのグチャグチャ道を歩いたりしながら高度を上げて行くと、二合目の標識があった。そして、そこが水場になっていて溢れる程の水が流れていた。(6時30分着)。

 前にも後にも人影はなく、静かだ。ウグイスのさえずりだけが静寂を破っていた。
 右手後方に五頭山が見えた。なかなか立派な山だ。一度は登ってみたいと思った。

 今まで西斜面を登っていたが、稜線へ出ると眩しいほどの朝日を浴びた。そして、そこから道が分岐し真っ直ぐ雪渓を行く道と、左手の雪のない道があった。一瞬躊躇したが、左の道を行くと10mほどの所に一王子神社(写真左)があり、後ろに一王子小屋(避難小屋)が見えた。

 一服しながら、どうしてこの石造りのものを「神社」というのだろうか、と疑問に思った。私は神社とは神を奉った建物、つまりヤシロを言うのかと思っていたが、ここには建物がない。それでも神社というのだろうか。

 せっかくなので一王子小屋を覗いて見た。昨日は誰も泊まった気配はなかったが、まずまずの小屋だった。

 太い杉の木に、山頂まで1時間40分と書いた標識があった。「え、本当!」、私が持っているガイドブックでは山頂まで2時間30分となっているのだが・・。いずれにしろ早く着く分にはいい。

 ここからは残雪がたっぷりあった。久しぶりに本格的な雪山へ来たような気がする。ピッケルこそ置いて来たが、朝日にキラメク残雪に心が躍る。

 ボッテリしたピークを幾つか登って行くと、電信柱が立っていた(写真左)。しかし電線がない。「何だろう?」、良く見るとペンキで目盛りがつけられており、積雪量を計測するための柱だった。現在の積雪量は2m。

 実は後から知ったことだが、ここが定高(じょうこう)山だった。ここへ着いた時は何の標識もなかったので分からなかった。標識は雪に埋もれていたのかも知れない。

 急な斜面には尻セードをした跡が滑り台のようになっていた。下りの人たちが尻をついて滑り降りたのだろうが、朝の冷え込みでその跡がツルツルした氷のようになってしまい、とても登れたものではない。滑り台の脇をキックステップで登って行く。下る人は、登る人のことを考えて雪道を壊さないように下ってほしいものだ。

 本来、ここには湿原やちょっとしたクサリ場があるらしいが、今はすべて雪に埋もれてしまい、その面影はない。

 途中で下って来た2人組の若者と話をすると、昨夜は山頂へテントを張ったという。私がシュラフについて尋ねると、
「スリーシズンで大丈夫です。寒い時はカイロを持って行くといいです」とのことだった。

 彼らは地元のようで、私が神奈川県から来たというと、
「わざわざ来て下さってありがとうございます」とお礼を言われ、
「山頂からすばらしい飯豊連峰を見て行って下さい」と言われる。地元の山に対する愛着と、誇りを感じているからこそ言える言葉だろうと思った。

 七合目の「油コボシ」はまだ先だという。それにしても「油コボシ」とは面白い名前だと思った。きっと急斜面で、木や木の根などに掴まらないと登れないような所で、カンテラの油をこぼしそうになったので、その名が付いたのだろう、と思った。

 (正面のピークが油コボシだろうと思って写真を撮ったが、どうも怪しい)

 その油コボシも、どこだか分からなかった。先程の青年に「急な斜面を3つ登った所」と教わったが、急な斜面は幾つもあり、結局は分からぬまま九合目へ着いた。9時23分着。

 ここには奥の院があるはずだが、建物の跡だけがあった。せっかくなので写真を撮って、2、3歩前へ進んだ時、思わず歓声を上げてしまった。何と飯豊連峰がズラリと並び立って見えるではないか。何が何というピークか分からぬままに写真を撮った。

(山頂部から見た飯豊連峰)

 そこからは展望を楽しみながら、なだらかな雪道を進んで行くと、途中で私を追い越して行った人に会った。その人に各ピークを教えてもらった。右奥に小さくボンヤリと見えるのが本山で、手前に大日岳、北股岳、門内岳、地神岳と続き、一番左が杁差(えぶりさし)岳だという。私は本山から北股岳までは歩いているので親しみを覚えたが、来年歩こうと思っている地神山や杁差岳が気になった。来年こそ絶対にあの杁差岳へ行こうと思った。

 すぐに赤いドーム型の避難小屋が見え、その右奥に山頂があった。山頂着9時30分。

 山頂は風が強く冷たく、長くは立っていられなかった。すぐに避難小屋へ入って行った。小屋は20〜30人は泊まれそうだ。昨夜は7、8人がここへ泊まったという。ここで軽く昼食を摂った。

 小屋で休んでいても寒くてたまらない。じっとしているのがシンドイので下ることにした。

 私が下って行くと、続々と登って来る人に会った。登って来る人に「油コボシはどこですか」とか、「油コボシはまだですか」という質問を受けた。私もそうだったが、やはり目標物がないというのはメリハリがなく張り合いがないものだ。

 定高山まで来る間に50〜60人に会っただろうか。この山は標高もあまり高くなく、気楽に雪山を楽しめるため人気があるのだろうと思った。

 二王子神社まで下って来ると、神社の前のキャンプ場でバーベキューをしている人達が大勢いた。