ニペソツ山 (にぺそつやま)

(2,013m、北海道/東大雪)  111座

前天狗から見たニペソツ山。日本20名山に入れたいほどの山である。


十六の沢登山口から往復

幌尻岳から続く。
2002年8月6日(火)

幌尻山荘〜林道ゲート−振内−日高−糠平温泉(泊)

 ニペソツ山は「日本200名山」になっているが、これは深田久弥氏が日本百名山の選定時に自分が登っていないという理由で選にもれ、その後、実際に登って「日本百名山を差し替えてもいい」と言ったというエピソードがある。ある登山家も、「ニペソツ山は日本のベスト30に入る名山である」と言っている。

 私は、この山の写真を見た時、何としても登りたいと思った。北アルプスの槍ケ岳のような尖峰の頂きに立ってみたいと思った。

 そのニペソツ山を登るため、糠平(ぬかびら)温泉へやって来た。温泉民宿「山湖荘」の洞窟温泉で幌尻岳の疲れを癒し、冷たいビールと海賊料理で明日への英気を養う。

(写真は来る途中で撮った然別湖)


2002年8月7日(水)

糠平温泉400−440十六の沢登山口500〜前天狗〜930最低鞍部〜1050ニペソツ山1140〜1620杉沢出合−糠平温泉(泊)

 宿を4時に出発。まずまずの天気。途中で東の空が茜色に染まった。
 糠平温泉から十勝三股まで車で約20分。そこから杉沢出合まで約20分。すでに車が5、6台駐車している杉沢出合へ4時40分着。すぐ近くに横浜ナンバーの車があったので声をかけ、5時ジャストに出発する。

 うっそうとしたトドマツ林の中を登って行く。しかし、背丈が低いせいか比較的明るいのでクマは出そうな気がしなかった。
 道もなだらかでしっかり踏まれているので、これなら日没になってもヘッドランプで下れると思った。
 尾根へ出ると、昨日の雨でクマザサで濡れた。

 6時20分、森林を抜け高台へ出ると、前天狗が見えて来た。空も青空が広がって来た。早くニペソツが見たいと思う。あの前天狗まで行けばニペソツが見えるだろうか。

 しばらくすると、雲に隠れていた太陽が顔を出した。天狗のコルへ続く道はぬかるみ、クマザサを漕いで行く所もあった。
 背後からまぶしい日差しを浴びた。都会にいる時は暑くて困っていたお天道様だが、やはりお天道様は有りがたい。

 左手に南アルプスの仙丈岳のような山が見えて来た。何という山か分からなかったが、後で調べたらウペペサンケ山だった。

 岩場を過ぎ、コルへ向かって下って行くと、前天狗がすっきりした姿で見えた。


(ウペペサンケ山)

(前天狗)

 天狗のコルは、どこがコルか分からないうちに過ぎてしまった。

 ダケカンバやミヤマハンノキのトンネルをくぐって行く。秋の紅葉はさぞかし見事だろうと思った。

 そのトンネル越えるとパッと視界が開け、右手に残雪を抱いた表大雪の稜線が見えた(写真右)。

 右奥から旭岳、化雲岳、トムラウシなど5、6年前にテクテクと歩いた山々がズラリと並んで見えた。思わず荷物を放り出し、写真を撮りながら、旭岳からトムラウシまで一緒に縦走したSさんに、このすばらしい光景を見せてあげたいと思った。

 ザックを背負って再び登って行くと、トムラウシの左手に尖峰でニペソツのような山が見えて来た。「あれは何だ!」と思わず立ち止まる。目指すニペソツに似ていると思った。しかし、ニペソツにしては余りにも遠すぎる。(これはオプタテシケ山だったらしい)。

 石がゴロゴロした前天狗岳へ立った瞬間、目の前に本物のニペソツがドーンと立ちはだかっていた。山頂に穂先を持ったまぎれもないニペソツだった。私は思わず「ヤッター!」と大声を張り上げた。そして、はるばるやって来た甲斐があったと思った。この雄姿さえ見れば、もう登らなくてもいいとさえ思った。
 このニペソツをバックに記念写真がほしいと思ったが、誰もいないので頼むことも出来ない。

 この山は、今まで見たことがない独特の山容をしている。単独峰でありながら、槍ケ岳のような尖峰と五竜岳のような重量感を持っている。

 いつまでも眺めていたかったが、そうもいかず天狗岳を目指して下って行った。友人のK画伯に、こんないい所があることを教えてあげたいと思った。

 カミナリが鳴り出した。ゴロゴロとなるカミナリではなく、ゴーン、ゴーンとなる変なカミナリだった。(これはカミナリではなく自衛隊の空砲だったようだ)

 天狗岳はどこが一番高いのか、どこが天狗に似ているのか分からなかった。ピークを行く道と巻道があり、私はすべて巻道を進んで行った。

 途中で下って来た夫婦に、ニペソツをバックにシャッターを押してもらった(写真左)。旦那さんから、
「上には4、5人いますよ。ゆっくり楽しんで来て下さい」
 と言われる。

 天狗岳とニペソツの最低鞍部らしい所で一服。(9時30分)。
 ここからの登りは「地獄の苦しみ」と言う人や「生みの苦しみ」と言う人がいる。いずれにしても一昨日登った戸蔦別の登りが、高度差200メートルというから、ここは250〜300メートルはあるに違いない。

 私がここで一服している時、杉沢出合で私が声をかけた横浜ナンバーのオジさんが登って来た。

 いよいよ最後の登りである。しかし、小さいピークを幾つか越さなくてはならない。とにかくここはアップダウンが多いのだ。
 帽子の下からタオルでほっかぶりをしていく。日差しは強いが、風は涼しい。
 いつの間にか山頂にガスが流れ出した。

 テンポは遅いが、とにかく一歩一歩登って行った。もうアップアップだったが、ついに憧れの山頂へ到着。10時50分。

 山頂には横浜から来たオジさんが一人いた。オジさんとお互いに写真を撮り合ってから昼食にした。
 あいにくガスで眺望は利かない。しかし、お互いに前天狗から見たニペソツの雄姿に感動し、つい先ほどまでの眺望に感謝した。これ以上贅沢はいえない。

 我々が休んでいる時、12人のパーティーが登って来た。どの人も「この山はずらしいですねぇ・・・。見ても登ってもいい山ですねぇ・・・」と言った。私も同感である。こんないい山が百名山に入っていないことを本当に残念に思った。この山は日本のベスト10か、悪くても20には入る山だと思った。

 11時40分下山。
 ここは下りでも登り返しが多いので、いつものように飛ばして下る訳にはいかない。少しでも体力を残して置かなくてはならないので、ゆっくり下る。

(写真は下りに撮ったお花畑)

 天狗岳を下り、前天狗への登りになる所で道を間違えて左に10メートルほど進んで行くと、小さな湿原になっており、その奥に畳1枚分ほどの池があった。雨水か湧水かを確かめるため手を入れてみると冷たい。湧水である。バケツほどの穴からコンコンと水が湧いていた。

 のどがカラカラだったので、荷物を放り出して腹ばいになってゴクゴク飲んだ。冷たくて最高にうまかった。

 水を飲んで下ろうとした時、道が消え、間違えたことに気づく。来た道を引き返し「ニペソツ」の標識がある所から、大きな石がゴロゴロした前天狗の道を登って行った。

 前天狗で休憩しながら地図を見ると、先ほど飲んだ水は「天狗平の水場」と記してあった。

 前天狗を下っている時、私より先に下った横浜の人が、「道が違うぞ・・・??」と稜線沿いから怒鳴っていた。巻道を下っていた私は「また間違えたか」と思い、横浜の人に感謝しつつ、お花畑の中を登って稜線の道へ出た。今日は天気が良いので助かったが、ガスっていたら大変なことになっていたと思った。

 しばらく下って行くと、横浜の人が困った顔をして立っていた。「道がおかしい」と言い、「道が3本あるんだよ」、と言う。
 確かにおかしいと思った。地図を広げて見ると、どの道も合流するが、この稜線の道は幌加(ほろか)温泉への分岐がある道で、ほぼ廃道に近い。
 したがって、私が歩いていた巻道が正しかったのだ。巻道まで2人で下ると道に黄色のペンキ印があり、事なきを得た。

 杉沢出合の駐車場へ16時20分着。
 私が持っているガイドブックには、この杉沢出合からニペソツ山頂までの高度差が990メートルと書いてあるが、ここはアップダウンが多いため、累積標高差は1500か1600メートルはあるだろうと思った。
 歩行距離は13キロ。アップダウンがあって少々しんどかったが、見ても登ってもいい山だった。

 駐車場で、横浜のオジさんと「またどこかで会いましょう」と言って別れたが、私が泊まっている糠平温泉の「民宿山湖荘」の洞窟温泉でバッタリ会った。お互いに驚きながら初めて名乗りあった。

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