鋸岳 3/3

 正面(東側)には甲斐駒ケ岳がそそり立っていた。
(左の写真が甲斐駒。右の尾根を下った所が北沢峠→拡大写真はこちら)

 その甲斐駒の尾根からこの山頂の間に、ポコン・ポコンと鋸の歯が並んでいるが、ここから見るとさほど難しい岩場には見えない。普通のボテ山のようだった。

 その甲斐駒のすぐ右奥に、日本第二の標高を誇る北岳が、まるでサメのヒレのような姿をして聳え立っていた。さらにその奥に間ノ岳が見え、その奥に塩見岳らしい山も見えた。

(写真右:左側が北岳、右が間ノ岳)

 南側には堂々とした仙丈ケ岳(写真左)が手に取るように見えた。カールを従えた仙丈は女性的で優しい山容をしている。

 左側には八ケ岳が並び立ち、背後には中央アルプス(木曽山脈)が並び立って見えた。

 ここで昼食を摂ることにしたが、どの山を見ながら食事をしたら良いか迷ってしまう。「当然、甲斐駒と北岳だろう!」というNさんの声に、私も甲斐駒と北岳が見える所に腰を下ろして昼食にした。

 今日は天気も眺望も最高である。こんな天気のいい日に山頂へ立てたことが本当に嬉しい。ここでのんびりしよう。

(北アルプスは三角点ピークの陰だったのか、雲に隠れていたのか分からないが、確認出来なかった)

 我々が食事をしている時、先客が下って行った。山頂は我々2人で占領だ。食後ものんびりと眺望を楽しんだ。

(写真左:山頂方面から見た角兵衛沢と三角点ピーク)

(写真右:山頂付近のドウダンツツジはもう紅葉が始まっていた)


 さて、ぼちぼち下るとしよう。11時50分山頂発。

 角兵衛沢が見える所まで来ると、角兵衛沢を登って来る人が見えた。凄い急斜面だ。よくもあんな所を登って来るかと感心した。三角点ピークからもこちらへ向かっているパーティーが見えた。

 角兵衛沢のコルまで来ると、さっき登っていた人が休んでいた。彼は「角兵衛沢はガレで、一歩進むと二歩下がってしまい、頭に来た」とぼやいていた。

 三角点ピークからは、横岳峠を廻って下ることにしたが、なんと長いことか。コースタイム1時間10分なので、1時間もあれば着くだろうと思ったが、みっちり1時間10分歩かされた。

(写真右はトリカブト)

 横岳峠(写真左)はテントが4、5張り張れそうなスペースがあった。そして、ここにも「富士川の水源があります」と書かれた標識があった。これを見て何と思いやりがない標識だろうと思った。どうせ書くなら、水源まで5分とか、50mとか書けばいいものを、と思った。やはり役人がやる事はこんなものなのだろう。

 (後で知ったことだが、この標識は富士川流域の人達に治水事業と清流の大切を知ってもらおうと、富士川水源碑設置委員会が立てたもので、登山者のことなどは何も考えていない。詳細は→こちら)

 治水の大切さを訴えるための標識が、登山者を惑わせている現実を知っているのだろうか。少しは登山者のことを考えろ!

 この標識に従って下って来たが、「水源」らしいものは無いまま、今朝、間違えた分岐点まで来てしまった。水源はどこにあったのだろう。本当に紛らわしく、腹が立つ。
 ここで、今朝、左にある真新しいピンクのリボンに誘われて旧道、いや廃道を行ってしまったので、そのピンクのリボンをはずして右側の横岳峠へ行く道に付け替えた。

 これなら、これから登る人は必ず横岳峠経由になるだろう。ただ、「水源」がどこにあったのかは分からない。せめて水場と横岳峠の標識があるといいんだが・・・。

 避難小屋へ着いたのは16時少し前だった。我々のテントだけが残されていた。
 小屋の前には今日登って来た青年が一人、地図を広げて眺めていた。
 私が「もしテントを張るなら我々のテントの奥に張れますよ」
 と声をかけると
「そうですか。ありがとうございます」と言って、すぐにテントを張り出した。彼はどこへテントを張ろうかためらっていたようだ。
 私は小屋へ着くなりザックを放り投げ、昨日から沢に浸して置いた缶ビールを取りに行き、鋸岳の登頂を祝って乾杯した。

 今夜も楽しいキャンプになった。やはり2泊すると楽でいい。ここは日帰りする人は大勢いるが、2泊したという人は聞かない。我々が始めてかも知れない。でも山は楽しみながら登るのが一番いい。虫の音と、沢のせせらぎを聞きながら飲む酒は最高にうまかった。

(注意:下山時は水を汲んで行き、駐車場へ戻ったら雑巾に水を含ませてフロントガラスを拭くといい。拭かないと埃で運転できない)