大台ケ原山−2/2

10月21日(日)

粟谷小屋600〜902桃ノ木小屋915〜1242発電所〜第一乗船場1345−大杉−三瀬谷−松阪−名古屋−新横浜

 6時に小屋を出発した。まだ薄暗く、うっすらと見える程度だった。
 今日は宮川ダムの船の最終便13時45分に乗らなくてはならない。コースタイムで登山口まで6時間35分。そこから乗船場まで10分か15分はみなくてはならないので、コースタイムで休憩なしで歩いても到着は12時50分頃になる。

 小屋を出て昨日下って来た登山口まで来ると、粟谷不動明王があった。私は両手を合わせて安全登山を祈願した。
 本線へ入って25分ほど下った時、右手の対岸に滝が見えた。山の中腹から細い糸を引くように流れる滝を写真に収めようと思ったが、露出不足で撮れなかった。

 しばらく下ると、今度は左から沢の音が聞こえて来た。左側に滝があるのかと思ったが、道が回り込んだせいか右手に堂倉滝(写真右)があった。堂倉滝6時48分着。実に美しい滝だった。

 吊り橋を渡ると取水場のようになっており、溜まった水がコバルトーブルーで美しかった。5,6分歩くと、また吊り橋があった。谷底まで5、60メートルもあった。

 ここからは沢沿いというか渓谷沿いの道になった。対岸の断崖の上から落ちる小さな滝が見えた。

 道は断崖を削り取った所が多く、岩や石の上を歩くとつるつる滑るが、しっかりとクサリが固定してあった。まだ行ったことはないが、テレビで見た黒部峡谷のような感じだった。断崖絶壁をくり抜いた登山道を歩きながら、ここに道を造った人達は本当に大変だっただろうと思った。

 一歩一歩慎重に歩いていると、突然右手にすばらしい滝が見えた。写真を撮ろうとカメラを出すと、5,6メートル先に標識があり、与八郎滝と書いてあった。途中から2本に割れて落ちる見事な滝で、落差があり過ぎて24ミリの広角レンズでも上から下まで入らなかった。

 カメラをザックにしまって20メートルほど行くと、それまで樹木で見えなかった滝の下の方が、白い糸のようになって流れているのが見えた。またカメラを取り出して写真を撮った。

 隠滝の吊り橋で登りの2人のパーティーに会った。人に初めて会ってホッとした。吊り橋から隠滝を探したがよく分からなかった。右手の大きな岩塊の間に滝らしいものが見えたが、ちょうど逆光で岩と滝の区別がつかなかった。分かり難いからこそ隠し滝というのだろう。

 吊り橋を渡って下って行くと、広い河原のような所へ出た。左奥に別の滝が見えた。実に豪快な滝だった。それが光滝(写真右)で、5,6人が座り込んで見上げていた。

   (手前の岩の上で登山者が休んでいるのが見えるだろうか→拡大できます)

 私もさっそく荷物を置いて一服することにした。ここは絶好の休憩所だった。下から登って来た20人位の団体さんも、「ここで休憩!」と大声を出していた。

 ここからも両側が切り立った渓谷が続く。絶壁を削ったり、くり抜いたりした道のアップダウンが続く。渓谷の水が綺麗だった。何色と言えばいいのだろうか。コバルトブルーのようだったり、モスグリーンのようだったり……。

 ここは足元の岩が滑るのでスピードが出せない。下りならコースタイムで下れるだろうと思っていたが、だんだん心配になってきた。

 七ツ釜吊り橋に、「蜂の巣あり。静かに渡れ」と書いてあった。その吊り橋を注意しながら渡ると、七ツ釜滝の休憩所があった。8時30分着。

 目の前に見える七ツ釜滝は、大杉谷にある滝の中で唯一、名瀑100選に選ばれている。ここでしばし休憩。この滝は釜が七ツあるというので数えてみたが、よく分からなかった。

 (写真左が七ツ釜滝→拡大できます)

 ここでゆっくりしたかったが、船の時間を考えると、のんびりもしていられない。9時までには絶対に桃ノ木山の家へ着かなくてはならない。すぐに出発した。8時40分発。

 5分も歩くと「桃ノ木小屋まで15分」との標識があったのでホッとした。

 9時2分に桃ノ木小屋へ到着。渓谷の急斜面に石垣を積み上げ、その上に小屋が建っていた。よくもこんな所へ小屋を建てたものだと感心した。昔の人はエライと思った。
 ここで缶ジュースを買って飲んだ。ビールもあると言われたが、まだ先が長いので我慢した。9時15分発。

 小屋の前から吊り橋を渡る。登山口まであと6.2キロの標識があった。

 (写真右:吊橋から小屋を振り返る)

 さらに下って行くと、加茂助吊り橋があった。両側が絶壁になっていた。きっと加茂助という人が橋を架けたのだろうが、最初のロープを渡す時はきっと命がけだったに違いない、と思った。

 さらに30分ほど下ると平等ぐらという長い吊り橋があった。今日は朝からどんよりした空だったが、この橋まで来た時、霧のような雨が降って来たので急いで橋を渡ると、右手に滝が見えた。雨が降って来たのではなく、滝の水しぶきだった。

 橋を渡って滝の正面へ出ると、今まで見てきた滝より豪快な滝だった。さらに少し進むと休憩小屋があり、先客の2人連れが写真を撮っていた。そこから見るとさらに豪快で迫力があった。それがニコニコ滝だった。

 さらに下って行くと、シシ淵という広い河原のような所へ出た。そこに流れ込む細い支流で水を飲み、顔を洗って一息ついた。


(豪快なニコニコ滝)

(シシ淵)

 ここからも岩場の登り下りが続く。全体には下っているが、クサリ場のアップダウンが多い。

 ひと休みしようかと思っていた時、休憩小屋があり、その奥にすごい滝が見えた。それが千壽滝だった。11時5分着。

 水が途中から5、6本に枝分かれした迫力満点の滝だった。千壽という名前の友人にぜひ教えてあげよう。

(写真左が千壽滝→拡大できます)

 ここは、何でこんなに登りが多いのだろう。沢からどんどん離れていくとガッカリする。登りきった所に吊り橋があったので、そこへ座り込んで一服する。
 腹がへったが、船に乗り遅れては大変なので乗船場まで我慢する。

 昨夜、同部屋だった地元の2人から、「この大杉谷は毎年死亡者が出ているので注意して下るように」と言われたが、滑落するような所はなかった。たしかに岩が滑るので歩きにくいが、岩場にはクサリがしっかりと固定してある。道の谷側を歩かずに山側を歩けば、決して滑落するような所ではない。

 滝もすべて渓谷の対岸にあり、滝壷に向かって下るような所は一カ所もなかった。こんな所で滑落するようでは槍や穂高、剣などはしよせん登れない。ここで滑落するのは、きっと疲労と油断が重なったのだろうと思った。

 発電所へ12時42分着。そこから500メートルほど歩いた所に大きな待合所があり、すぐ下が第一乗船場になっていた。待合所には登山姿のオジさんが一人待っていた。今朝、桃ノ木小屋から下って来て、もう1時間以上も待っていると言う。

 私はここで缶ビールを買って飲むことを楽しみにして来たが、売店も自販機もなかった。民家も1軒もなかった。
「ビールも売っていないんですねぇ、ここは・・!」とガッカリしながら言うと、オジさんが、「お酒が余っているから飲んでくれませんか!」と言って日本酒を出してくれた。ここでオジさんと酒盛りになった。

 ここから船で大杉へ出て、村営バスに乗り換えて三瀬谷(みせだに)へ出た。この間他の客は一人もおらず、船もバスもオジさんと2人で貸切だった。

 三瀬谷からは三重交通の特急バスで松阪へ出て、さらに近鉄特急で名古屋へ出て、新幹線で帰って来た。

 大台ケ原へ行く場合は、絶対に大杉谷のコースをとるべきだと思った。大台ケ原は遊園地のようで全く味気ないが、大杉谷は深い谷と清流、そして数え切れないほどの滝と吊り橋があり、私が知る限りこんな魅力ある登山道は他に知らない。ぜひ大杉谷から日出ケ岳を目指すことをお勧めしたい。 (平成13年10月)