大 山 −2/2


 気合を入れて本道の石段を登って行く。紅葉の時期なら左手の紅葉が綺麗な所だが、紅葉はこの石段で終わり。これより上は紅葉する木は1本もない。

 近年は下社で紅葉のライトアップをするようになったこともあって、午後の遅い時間に登る行楽客が多くなった。昨年の清掃登山の下りでは、続々と登って来る観光客に、 「懐中電灯を持っていますか?下りは暗くなってしまいますよ! 無理しないで下って下さ〜い!」と何度叫んだことか。

 心配した雪は全くない。登山道脇に3、4cmのほどの霜柱があるだけだった。しかし登るにつれ霜柱が7、8cmになって来た。

 この辺は石段というよりも、石がゴロゴロしている感じである。石に乗ったり、跨いだりしながら登って行く。

 もう下山者がいた。2人目の方に「富士山が見えましたか?」と尋ねると、「富士は見えなかった」という。ちょっとガッカリしたが、天気が好天してくれることを祈ろう。

 後ろの方が騒がしくなった。大学生くらいの青年2人が登って来た。

 16丁目のかごや道との分岐点にある長椅子で休憩。青年は水を飲んだだけで出掛けて行った。若い人は元気があって羨ましい。
 ここからは東京方面がボンヤリとしか見えなかった。しかし、頭上には紺碧の空が広がって来た。これなら富士山が期待できそうだ。

 所々にカチンカチンに凍った雪が現れて来た。さらに大きな石がゴロゴロしている所もあった。大きな石の上に乗るには気合がいる。

 急な石段を登って行くと、ひょっこりと富士山が顔を出した。富士見台である。しばし富士山に見とれる。

 案内板には、「大山の中で、この場所からの富士山は絶景であり、江戸時代には、浮世絵にも描かれ茶屋が置かれ〜」

 と書いてある。ちなみに、ここは20丁目である。

 私はここから富士山を見るのは久しぶりのような気がした。

(写真:左が二ノ塔、右が三ノ塔)

 富士見台から7、8分でテーブルがある展望台へ着いたが、素通りして行く。(ここからは東京方面しか見えない)
 この辺からは石段ではなく普通の登山道になったが、雪が凍っている場所もあった。

 時々、カミナリのような音が響き渡る。富士演習場の空砲だろう。
 すぐに25丁目のヤビツ峠との分岐へ出た。ヤビツ峠の道は雪がたっぷり残っていた。
 ここには、「ガンバレ、山頂まであと10分。頂上売店あり。ビール、ジュース、軽食」と書かれた売店の看板がぶらさがっている。

 いよいよ最後の胸突き八丁である。
 急登を登って行くと、左手に塔ノ台、二ノ塔、三ノ塔が見えた。

 石の上を登ったり、木の階段を登ったり、雪と氷がミックスした所を登って行くと、すぐに鳥居が見えて来た。しかし、これは山頂ではなく27丁目の鳥居である。

 階段が完全なアイスバーンになって来た。そのアイスバーンを少し登れば山頂の鳥居があり、前社、本社、奥社が建つ広場へ出る。紅葉の時期なら山頂は座る場所もないほど登山者で溢れるが、今日は20人位だろうか。


(山頂の鳥居と前社)

(本社)

(奥社)

 私は奥社の脇からトイレへ向かって下って行った。トイレに用がある訳ではないが、大展望台があると聞いたからだ。

 トイレを右側から巻いて後ろへ出ると、デッカイ富士山が見えた。オーオー!と歓声を上げた。大山は何回も来ているが、こんな展望台があったとは知らなかった。

 ここから見る富士山もいいが、ここから見る二ノ塔、三ノ塔も恰好いい。
 登山者が次々にやって来る。皆さんこの展望台を知っているようだ。今まで知らなかった私が恥ずかしい。いや、それよりも、もったいないことをした。

 トイレの前から山頂へ登らず、そのまま進むとイスやテーブルがあった。ここは、足元がぬかるんでないので、ここで昼食にした。
 正面には東京方面や江の島が霞んで見えた。

 下山は見晴台経由なので、スパッツを付けた。ここから見ると雪がたっぷりあるが、下の方はドロンコ道だろう。軽アイゼンは必要に応じてつけよう。

 まずは泥道を下って行くと、すぐにアイスバーンになった。アイゼンを装着すべきか迷ったが、登って来る人に、「雪は肩までです」と言われ、そのまま下って行った。
 大山から一気に下り、雪が着いた所をわずかに登り返したピークが「大山の肩」で、そこからはぬかるんだ階段を下って行く。

 やっと乾いた普通の道になった。そして、「見晴台0.2Km」の標識があり、東屋が見えて来た。

 テーブルやイスがある見晴台へ12時40分着。3人の先客が休んでいた。
 ここから見る大山は全く迫力がない。ボテ山のよにしか見えないが、電波塔が建っているので間違いないようだ。ここで一本立てて(休憩)行く。

(手前が大山の肩、奥が山頂)

 ここから下社へ下る所に、「この辺にクマ出没、注意必要」と書かれた黄色い看板があった。こんな所にも熊がいるとは驚いた。

 ここからは、緩やかな下りでルンルンである。しかし、5分もすると左手の谷側にクサリが現れて来た。特に危険ではないが、ここで落石で死亡事故が発生しているという。落石に注意しながら歩いて行った。

 落石の心配がなくなると、「八重社」があった。どうも龍神を祀っているようだ。八重社のすぐ脇に「八重之滝」があった。この滝は大山講の行場になった場所だという。

 下社の参道へ出た。そのまま下って行き、男坂と女坂との分岐で女坂を下って行く。女坂といってもあなどれない。かなり急な石段を下って行く。
 右手に見えていたケ−ブルカーの線路が、いつの間にか左手にあった。「あら、不思議?」と思っていると、何とケーブルカーがトンネルから出て来るではないか。それで納得、納得。

 女坂には「女坂の7不思議」というのがあるが、ヘソ曲がりの私にはどれもこじつけのようで信じがたい。

 そんな7不思議の「その五」まで疑いの目で見ながら下って行くと、大山寺へ着いた。
 今日は何か行事でもあるのか大勢の人がいた。ここはお参りするにも靴を脱がねばならず、しかも中は一杯だというので外でお参りをした。
 急な石段を下って行くと、「女坂の7不思議 その三」「爪切り地蔵」というのがあった。
 案内板には「弘法大師様が道具を使わず、一夜のうちに手の爪で彫刻されたと伝えられている」と書いてあった。弘法大師は大山寺の三代目の住職だったというから、何んらかの関わりがあったのかも知れない。

 参道の両側にミツマタが多くなって来た。まだ蕾が硬いミツマタを見ながら下って行くと、男坂と合流。
 朝通ったこま参道を下って、バス停へ14時3分着。

 大山は、初めて登る方はケーブルカーの利用がお勧め。又はヤビツ峠から登るとかなり省エネで登れる。
 紅葉狩りなら大山寺と下社付近。本道には紅葉する木は全くありません。
 これで今日のレポートはオシマイ。後は伊勢原駅前のヤキトリ屋で一杯やって帰ろう。

 実はこの続きがあった。ヤキトリ屋の女将さんから、「3月11日に大山マラソン大会があるから来ませんか」と言われる。もちろん私にはマラソンなど縁がないが、 聞くところによると、
「駅前の鳥居をスタートして、女坂を駆け登って下社がゴール」だという。そして、一番速い人は40分でゴールすると聞いてブッたまげた。

 そもそも、ここからバスで大山バス停まで約30分かかる。そこからコースタイムでも1時間位かかるのではないか。それを40分で駆け登るとは・・・。
 富士マラソンや丹沢耐久レースなどに出場しているような選手が全国から集まるというが、それにしても、そんなとてつもない話を聞いて、私は一気に酔いがさめてしまった。もう一度自宅近くで飲み直そう。

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