(1,660m、北海道/知床)
1998年7月31日(金)
今日は斜里岳を登ってから、羅臼岳の登山基地である岩尾別温泉へやって来た。
そもそも知床とは、アイヌ語で「地の果て」という意味だそうだが、岩尾別温泉には、その名も「地の涯(はて)」というホテルがあり、その裏側にログハウスの木下小屋がある。
木下小屋は、羅臼岳を愛し、羅臼岳への道を切り開いた木下弥三吉という人が住んでいた所で、今でも「木下小屋」として羅臼岳の重要な基地となっている。現在は、法量さんという地元では山男として有名な方が、シーズン中だけ奥さんと一緒に暮らしている。
その木下小屋へ15時ごろ着いた。予約していたこともあって3畳間ほどの小さな個室へ案内された。たとえどんなに小さくても個室とは有りがたい。
この小屋には露天風呂があった。さっそくひと風呂浴びてから、テラスで持ってきたビールで乾杯した。
小屋は今でもランプを使っていた。「ホテル地の涯」では自家発電をしているそうだが、「そんなことはしない。ここは山小屋だから」というご主人。
昨夜は寝不足だった相棒も、今夜は個室でぐっすり眠れることだろう。7時就寝。
1998年8月1日(土)
木下小屋445〜615弥三吉水〜羅臼平845〜930羅臼岳940〜羅臼平(昼食)〜1300木下小屋 |
極楽平から羅臼平への最後の急登となる大沢は、例年ならアイゼンが必要なほど雪渓があるらしいが、今、目の前に見える急斜面は、高さが30センチもある植物が生い茂り、ソーセージを串に刺したような形をした白い花が一面を覆っていた。相棒に、これはきっと「ソーセージノクシヤキソウと云うのだろう」と言って笑った。
その白い花の中を登って行くと、大きなゴロゴロした石と砂礫になり、そこにはリンドウや初めて見るエゾツツジなど、小さくてかわいい花がいっぱい咲いていた。
私は、ゆっくりと花の写真を撮りながら登りたかったので、Sさんに先に行ってもらった。
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上部には、わずかではあったが黒い土をかぶった残雪があった。もし、ここが雪渓になっていたら斜面が急なのでアイゼンがなければ下れないだろうと思った。
ここから羅臼平(写真左)まではすぐだった。一面ハイマツに覆われた羅臼平である。下から見る限り、こんな広く平らな所があったのかと思うような別天地だった。
目の前(南側)に知床連峰の主峰である羅臼岳が、緑のハイマツの上にそそり立っていた。背後(北側)には三ッ峰がドーンと立っていた。
いよいよ羅臼岳の登りである。
羅臼平8時45分発。
ハイマツ帯の中をしばらく行くと、水が滴れ落ちる崖に行き当たる。水は岩清水で、実に冷たくておいしい水だった。ここへ来るまでに水場は2ケ所あったが、この水が一番おいしかった。
この水場を左から巻き込むようにして崖の上へ出ると、大きな岩を積み上げたような山頂が目の前に迫って来た。
ここからは、溶岩ドームがそのまま固まったような岩場になった。ルートにはしっかりとペンキの印が付いていた。途中で先に行ったSさんとすれ違った。
山頂部は右側から回り込んで、よじ登って行くとピークへ出た。一瞬、山頂かと思ったが、7、8メートル進んだ所に1660メートルの山頂があった。ついに、知床連峰の最高峰である羅臼岳の頂上へ立った。山頂着9時30分。
山頂には7、8人がいた。やっとその頂上に立ったというのに視界が利かない。10分ほど前に下ってきた人は「遊覧船まで見えますよ」と言っていが、ガスがアッというまに流れ出し、遊覧船どころか三ッ峰や羅臼平でさえ霧の中に隠れてしまった。
山頂で10分ほど待ったが、ガスが切れそうもないので下ることにした。
下りは岩場を一気に降りて水場の近くまで来ると、5、60メートルほど下に、とっくに下ったはずのSさんが誰かと立ち話しをしているのが見えた。よく見ると、昨日、斜里で一緒になった札幌から来たお姉さんだった。
「おーい!」と、大きな声を出してさかんに手を振った。3人も気づいて手を振った。
私は水場の所まで降りて、彼女達が登って来るのを待った。まだ知り合って2日しかたっていないが、もう何年もの知り合いのように、お互いに再会を喜びあった。
羅臼平でSさんが待っていてくれた。昼食のラーメンを作っている時、また雨が落ちてきた。かなり大粒の雨だったが、2、3分ほどで止んだ。
大沢の下りは、お花の写真を撮りながら下った。
弥三吉水まで下って来た時、また雨が降ってきた。今度はいよいよ本降りになった。雨の中を小屋まで一気に駆け下りた。小屋13時着。小屋へ着くなりビールで乾杯した。
雨はいっこうに止むけはいはなかった。札幌のお姉さん達は、羅臼平あたりで降られているのだろうかと気になった。
我々がビールを飲んでいると、主人がマス汁をご馳走してくれた。そして、「ホテルの前に岩尾別の露天風呂があるから入ってこい」とすすめられた。雨も上がったことなので行くことにした。
露天風呂はホテル地の涯の駐車場から4、5メートルほど下った所にあった。急な斜面を利用して3漕の湯船があった。すでに登山帰りの客が5、6人入っていた。
風呂から帰って来てテラスでコーヒーを飲んでいると、主人が「友達が釣ったカレイだ。刺身にして食え」と言って一匹持ってきてくれた。山小屋の主人に魚を貰うとは夢にも思わなかった。
4時頃になって、札幌のお姉さん2人がやっと下って来た。彼女達は「今日は岩尾別の民宿へ泊まる予定だったが、このまま札幌へ帰る」という。「縁があったらまた会いましょう」と言って別れた。
このお姉さん達と入れ替わるように、口の周りにクマのようにひげを生やした30代の若者が下って来た。昨日、夕食の後ウクレレを弾いていた青年だった。
彼は、女満別空港からここまでヒッチハイクで来たといい、ヒッチハイクは「運転手と目が合った時、ニコーとするんですよ」といった。
すでにバスもない時間なのに、これからヒッチハイクでウトロへ行くと言って出掛けて行った。