利尻岳(りしりだけ)    87座目

(1,721m、北海道/利尻島)


長官山から見た利尻岳



北麓野営場(鴛泊)から利尻岳往復・礼文島観光〔3泊4日〕


2001年7月18日(水)

 羽田935−稚内空港−稚内FT1530−1710利尻島−北麓野営場(泊) 

 ついに憧れの利尻島へ行く日がやって来た。朝5時に家を出て、羽田空港へ7時半に着いた。
 すぐに搭乗手続きを済ませ、連れのSさんを待っていると、隣の席へどこかで見たことがある方が座って来た。その方はテレビで「中高年の登山学」を山内賢さんと出演していた登山家で作家でもある岩崎元郎先生だった。

 私は思わず、「先生、はじめまして。先生のフアンです」と声をかけると、先生は、「そうですか、それはそれは……」とニコニコしながら言った。
 先生から「今日はどちらまでですか」と聞かれたので、
 「利尻です」と応えると、
「じゃあ、一緒ですね。私たちも利尻です」と言った。
 私が「生徒さんは何人ですか」と聞くと、「19人です」と言う。先生は「岩崎登山教室」を開いているので、その生徒さんを引率して行くのだろう。利尻岳でまた会うかも知れない。それにしても羽田で岩崎先生と会うなんて幸先がいい。

 羽田9時35分発の飛行機は約10分遅れて出発した。
 稚内近くなって機内から日本海に浮かぶ利尻岳の雄姿が見えた。飛び上がりたいほど嬉しかった。通路側に座っていたので写真が撮れなかったのが残念だった。

 稚内空港から路線バスで稚内フェーリーターミナルへ向かった。岩崎先生一行も同じバスに乗っていた。
 ここは、さすがに北海道だけあってTシャツ1枚では肌寒いくらいだった。

 フェリーターミナルで昼食を摂り、15時30分発の利尻島・鴛泊(おしどまり)行きフェリーに乗った。稚内から約1時間半の船旅である。
 Sさんは客室で足を延ばして休んでいたが、私はほとんどデッキにいた。海に浮かぶ利尻岳が見たいからだ。

 デッキは潮風が冷たかった。Tシャツの上に長袖シャツを着込んでちょうどいい感じだった。利尻島はなかなか見えなかった。
 そして、やっと見えた。最初は逆光でボンヤリと山の輪郭だけしか見えなかったが、近づいて行くにしたがい、かなりスッキリと見えて来た。「お−!やった−!あれが利尻岳だ!」と一人わめいていた。


(最初は輪郭しか見えなかったが・・・)

(やがてクッキリと!)

 鴛泊港へ17時10分着。すぐにタクシーに乗って3合目の野営場へ向かった。途中のコンビニで食料を買い出し、福岡商店でガスコンロのボンベを買った。しかし、事前に電話であれほど確認しておいたのに、Sさんのガスコンロのガスがなかった。仕方がない。私のガスコンロ1台で二人分をまかなうことにしよう。

 野営場へ向かう途中から利尻岳がクッキリと見えた。船から見た時は逆光だったが、ここは逆光ではなく、澄んだ空に屹立した山容が見事に見えた。運転手に車を止めてもらって写真を撮った。

 今日は3合目にある野営場のバンガロ(写真左)泊まりである。このバンガロは町営で、電気があり、マットレスに毛布、枕も置いてある。それで一人1泊1000円とは安い。

 管理棟で買ってきた缶ビールで乾杯した。外でビールを飲みながら夕食の準備をはじめる。隣のバンガロでバーベキューをやっていた若夫婦が、焼き肉とサザエをもってきてくれた。

 7時半ごろになって少し頭が重く、熱ぽくなってきたので風邪薬を飲んだ。実は昨夜発熱してしまい、風邪薬を飲んで氷枕をして寝た。風邪など10年以上も引かなかったのに、出掛ける前日になって発熱するとは一体何たることか。
 幸い今朝は熱も下がっていたが、まだ完全ではないようだ。

 ビールを飲んで腹もいっぱいになり、風邪薬を飲んだので、すぐに睡魔が襲ってきた。8時前には、もう夢の中だった。


7月19日(木)


 北麓野営場430〜510四合目〜547五合目〜620六合目〜922九合目〜1045利尻岳〜1515北麓野営場

 朝3時30分起床。4時30分出発。今日は山頂を往復して来るだけなので、食料と空のペットボトル、雨具などをアタックザックに詰め込んで出発した。
 最初の予定では、山頂から沓形へ下るつもりだったが、昨日、管理人から「危険だから止めた方がいい」と言われ、ここを往復することにしたのである。

 野営場から遊歩道を15分ほど歩くと日本銘水百選の「甘露泉」があった。冷たくておいしい水を飲み、空のペットボトルに1.8リットルを詰め込んで出掛ける。
 針葉樹林帯の中を登って行くとすぐにポン山との分岐があった。ポンとはアイヌ語で低い山、リ・シリとは高い山という意味だそうである。
 5時10分、4合目で朝日を浴びた。西斜面から尾根へ出たためである。太さが1メートルも有りそうなトドマツ林の木漏れ日が眩しい。今日もいい天気になりそうである。

 5合目近くなると樹木が低くなり、左手後方に雲海が見えた。そして、2、3分も登ると、今度は右手後方に海に浮かぶ礼文島が見えた。

 次第に樹木はダケカンバになり、高山らしくなってきた。心配していた体調も良さそうである。Sさんには甘露泉を過ぎた所で先に行ってもらったので、私は今日中にバンガロへ戻ればいいので気楽だ。
 前にも後ろにも人陰はなく、静かな山道を一人で登って行った。しかし、後から大勢の団体さんが押し寄せて来るに違いないと思い、少しピッチを上げた。

 5時47分、5合目着。礼文島を見下ろしながら一服。ペットボトルに入れてきた甘露泉水がうまい。
 6時20分、6合目着。ここで一服していると、神奈川県の茅ヶ崎から来たという50代の夫婦が近くに腰を降ろして休んだので、しばし山談義。

 出発する時になって、ご夫人がクマ除けの鈴を付けていたので、「ここはクマがいないから外した方がいいですよ」と注意すると、夫人から「うるさいですか」と聞かれ、つい「やかましいですよ」と言ってしまった。
 ご夫婦はニガ笑いをしながら急いで登って行ってしまったが、私は何でもっと親切に言えなかったのだろうと悔やんだ。せめて「クマがいない所では、クマ除け鈴を外すのがマナーなんですよ」ぐらいのことを言えばよかったと反省した。

 この辺からはハイマツの山となり、その頂点に長官山が見えた。あそこまで行けば待望の利尻岳の雄姿が見えるだろうと期待していたが、実はその頂点は長官山ではなく、前衛のピークだった。

 美人も、美しい山も、そう簡単には近づけてくれない。
 そのピークへ7時40分着。

 長官山前衛のピークでひと休み。

振り向けば鴛泊港が見えた。

 しばらく登ると、人の声が聞こえ、長官山の山頂へ飛び出した。そして、目の前に夢にまで見た利尻岳の雄姿があった(写真左)。思わずザックを放り出し、写真を何枚も撮った。

 青く澄んだ空にスーと屹立した山容が美しい。緑のハイマツと白い残雪のコントラストもいい。

 ここで大休止とした。周りには7,8人いたが、写真を撮ったり、食事をしたり、みんな満足そうだった。私もここからの写真が撮れて大満足だった。

 長官山とは、当時の北海道長官が視察のために利尻岳を登ろうとしたが、ここまで来て諦めたという。そこでこのピークに長官山の名が付いたという。
 私は長官のようにここで諦める訳にはいかないが、ここで満足してしまったせいか、ここからの道のりが長かった。

 15分ほど行くと利尻小屋があった。小屋の中にはすでにザックが5、6個置いてあった。
 小屋から20分ほど登った時、左足がつってしまった。実は昨夜2時頃、左足がつってしまい痛くて飛び起きた。その左足がまたつってしまったのである。もし、岩場やクサリ場だったら大変なことになるが、幸い平坦な所だったので助かった。しかし、両手で左足を押さえたまま、しばらくわめいていた。

 やっと痛みがとれて歩けるようになったが、小幅で左足を引きずるようにしか歩けなかった。「決して急ぐことはない、ゆっくり行こう」と自分に言い聞かせなが、ゆっくりと登って行った。

 さらに20分ほど経った時、今度は右足がつってしまった。両手で足をもみながらわめいていた。そして、もう登ることも下ることも出来ないかも知れないと思った。
 しばらく休んでいると、何とか歩けるようになった。ゆっくり、ゆっくり歩き出した。そして、どうしてもダメな時は這ってでも行こうと思った。時々、ピリッと筋肉に痛みが走った。

 9合目の手前で休んでいると、Sさんが上から下って来た。彼はさすがに健脚である。8時半には山頂へ着いたという。
 9合目、9時22分着。標識に「ここからが正念場」と書かれていた。ここからはガレ場になり、歩きにくいこときわまりない。富士山よりも今年行った九州の高千穂峰のガレ場よりもガレていた。まさに3歩進んで2歩下がるというか、2歩ずれ落ちるといった感じである。足の痛みと戦いながら、心もとないロープにすがって登って行った。

 左手の斜面に私が探していたボタンキンバイらしい黄色い花の群落があった。しかし、10メートル以上も離れており、本当にボタンキンバイかどうか確認することは出来なかった。

 9・5合目に沓形へ下る分岐があった。そして、右手にガスの中から三眺山(写真右)が見えた。周りにはいつの間にかガスがかかっていた。

 高山植物も多くなった。エゾツツジやチシマフウロなどが咲いていた。しかし、一番期待していたボタンキンバイやリシリヒナゲシは見ることが出来なかった。


エゾツツジ

チシマフウロ


 利尻岳山頂へついに到着。10時45分。ついに山頂へ立った。両足がつってしまったので一時はどうなるかと思ったが、やっと山頂へ立つことが出来た。バンザーイ!
 近くにいた人に写真を撮ってもらい、水をカブガブ飲んだ。疲れ過ぎたせいか昼食はコンビ二の一口サイズのおいなりさんを3ケ食べるのがやっとだった。

 ガスの中からボンヤリと南峰が見えた。ここより2メートルほど高いが危険なため、現在はここを山頂とみなしている。天気が良ければ南峰まで行こうと思っていたが、ガスがかかり、しかもこの足ではとても行く気にはなれなかった。

 さて下ろうか、と思った時、岩崎先生一行が到着した。岩崎先生とツーショットで写真を撮ってもらった。(写真右)
 11時05分、下山。
 下っている途中で、比較的大きな石の脇にひっそりと咲いている薄い黄色の一輪の花を見つける(写真右)。これは私が探していたボタンキンバイかリシリヒナゲシに違いない。

 腰を降ろして良く見ると、キンバイにしては黄色が薄すぎるような気がした。それにキンバイにしては花が大きすぎる。

 葉っぱも違い過ぎると思った。葉っぱはコマクサに似ている。やはりこれはリシリヒナゲシだろうか。しばし眺めていると、子供の頃見たケシの花に似ていると思った。これはやはり利尻岳固有の花、リシリヒナゲシに間違いないと確信して写真を撮った。残念ながらピンボケになってしまったが、とにかく幻の花を見ることが出来て本当に嬉しかった。

 この道は登りもしんどかったが、下りもしんどかった。9合目まではガレ場でロープにぶら下がって降りた。9合目からもエンジンはかからなかった。足の筋肉に時々痛みが走るからだ。
 避難小屋のベンチに座って休憩。

 得意の下りでも、ゆっくりと一歩一歩下って行った。とにかく今日中に着けばいい、と開き直っていた。
 甘露泉水までが長かった。やっと甘露泉水へ辿り着き、冷たい水をガブガブ飲んだ。頭から水を被るとやっと生き返ったような気がした。そして、この湧き水が、せめて5合目か6合目あたりにあってくれたら、と思わずにはいられなかった。
 3合目15時着。

 管理棟で缶ビールを買い、バンガローの前で「今帰ったゾー」と大声を張り上げると、ビールを飲んで一寝りしていたというSさんが飛び起きてドアーを開けてくれた。

 ビールを飲んでから、管理人が車で利尻温泉まで乗せててってくれた。近年掘り当てたという温泉でゆっくりとくつろいだ。
 温泉から帰って夕食をしている時、小雨が降ってきた。すぐ目の前に見えていたポン山もガスに煙って見えなくなった。

  
礼文島へ続く