佐武流山−2/2

 ワルサ峰から見る鳥甲山と苗場山がいい。鳥甲山は手前の樹木が少々邪魔しているが、ピラミダルで躍動感がある。それに対して、苗場山は何とのどかな山頂だろうか。


鳥甲山

苗場山
 ところで、肝心な佐武流山はどこにあるのだろうか。よもや正面に見えるボッテリした山ではあるまい。あれが山頂だったら気抜けしてしまう。それよりもすぐ右手にあるピークの方が魅力がある。標高こそ低いがアルペン的だ。あれが山頂なら我然、ファイトが湧いて来るんだがなア・・・。

(左の写真:ボッテリした山は西赤沢源頭、右のピークはサルズラ(猿面)峰だった)

 ここから、岩混じりの急斜面をロープを伝って下る。こんな岩場に道をつけたボランティアは、命がけだっただろうと思った。勿論、ザイルを結んで作業をしたんだろうが・・・。

 そんな岩峰を幾つか越えると馬の背のような所へ出た。


これは下りに撮ったもの。こんなピークが幾つかある。
登り返しがつらい。

馬の背のような岩場。
正面に見えるピラミダルな山が山頂だろうか?

 苗場山との分岐(西赤沢源頭)へ10時40分着。ここから苗場へ縦走する道が繋がったらしいが、アップダウンが多く、大変だろうと思った。

 ここから佐武流山まで、あと1.5km、1時間10分である。さあ、気合を入れて頑張ろう。
 しかし、ここからは一気の登りになった。笹を刈り払った広くて真っ直ぐな道。まるでスキー場のようだ。

 約10分ほど絞られると、ややなだらかな樹林帯へ入り、そこで下山者に会って驚いた。私以外は誰もいないと思っていたので、熊が出たかと思った。

 熟年男女4人のパーティーで、ドロの木平のあの駐車場にあった軽の持ち主だった。このパーティーは、昨夜、林道から檜俣川へ下るところでテントを張ったという。どうりで早いと思った。お互いに人恋しさに長々とおしゃべりをしてしまった。

 坊主平(写真右)は登山道開拓団?いや復活隊がベースキャンプにしていた所で、メンバーにお坊さんがいたので「坊主平」と名付けたという。そこを素通りして行く。
 とにかくここを登り詰めれば山頂だろうと思ったが騙された。未だにどこが山頂か分らないというのは本当に疲れる。


@これが山頂だろうと思って一気に登って行ったが違った。

A今度こそ山頂だろうと思いきや、またもや騙された。

B今度こそ!!

C突然、10m先に標識が見えた。

D着いた!着いた!やっと着いた。

E山頂からの苗場山

 今度こそ山頂だろうと思うと騙され、次のピークかと思いきや、また騙された。もういい加減にしてくれ、という時、10mほど先に標識が見えた。やっと着いた。ここは10m手前までどこが山頂か分らない、という本当に疲れる山頂だった。

 早速、標識の近くで弁当を広げていると、すぐに単独行が登って来た。愛知から来たという。しかも登山口を7時に出たというから驚く。とてつもない人だと思った。
 ここからは苗場が良く見えたが、鳥甲山や白砂山は残念ながら見えなかった。

 食後ものんびりはしていられない。明るいうちに戻らなくてはいけないからだ。
 私が一足先に出かけようとした時、彼が「後から4人のパーティーが登ってきますよ」と教えてくれた。そのパーティーとは、5分ほど下ったところで会った。しかし、3人しかいない。それから20分も下った坊主平近くで遅れた1人と会った。だいぶ疲れているようだった。

 苗場との分岐を過ぎ、ワルサ峰へ行く途中で一服していると、山頂で一緒だった単独行がやって来た。彼と毛勝山や池口岳、笈ケ岳などの話をした。彼も200名山か300名山をめざしているのだろう。「またどこかで会いましょう」と言って先に行ってもらった。

 ワルサ峰は登って来た時りよりも、ここから見た方が急峻で悪沢峰らしく見えた。よくもこんな所に道を付けたものだと感心した。本当にご苦労様と申し上げ、感謝しなくてはならない。私などは、ただ歩いているだけでヘコタレているのに、ここで道を切り拓く作業をした人達はさぞかし大変だっただろう。

 物思平で一服していると、4人組のうちの3人が下って来た。あの遅れた1人を待っててやらないとは冷たい仲間だと思った。そんな彼らは私より先に下って行った。遅れた1人はさぞかし心細い思いをしていることだろう。こんな山奥に疲れ切った仲間一人置いて行くとは一体どういうパーティーなのだ。

 檜俣川へ着くと、ちょうど3人組が対岸を登って行くところだった。この水場あたりで仲間を待っててやればいいものを、と思いながら、冷たい水をゴクゴク飲んで頭や顔、腕などを洗ってから一服。もう足がふらついているから渡渉などしたら石から落ちてドボンだ。
 しばし休憩後、朝と同じように石伝いに渡った。

 ここからの登り返しはガッカリする。今日最後の登り、いや、まだある。最後の最後にドロの木平の登り返しがあるが、とにかくここを登らなくてはならない。幸いここは距離が短いので助かった。
 やっと林道へ出た。時に16時40分。ここまで来ればしめたもの。しかし今度は日没との争いになった。何としても明るいうちに登山口へ着きたい。

 ここからは必死で歩いて行った。まるで競歩の選手のようだ。
 林道分岐まで来ると、例の3人組が道端に座り込んで仲間を待っていた。靴を脱いですっかりくつろいでいる。ここで待つぐらいなら一緒に来ればいいではないか! そんな風に思いながら、私も近くで一服。

 曇が出て来たせいか、薄暗く感じる。ヘッドランプをザックから出して歩き出す。ここからも競歩の選手だった。時々、ホイスルを吹きながら必死で歩いて行った。夕闇が一帯を包み込む。ヘッドランプを点けた。

 林道分岐から25分で和山との分岐へ着いた。ここから林道と分かれて最後の山越えである。すっかり暗くなった山中へ一人で入って行くのは勇気がいる。大きな声を出しながら自分を奮い立たせて登って行った。

 とにかく熊が出ないことだけを祈りながら、大きな声を出しながら、走るようにして登って行った。やがて下りになった。もう転げるようにして下った。雨がポツン、ポツンと落ちて来が、もう何が落ちて来ようがかまわない。熊さえ出なければいい。

 やっと登山口へ着いた。18時10分着。
 こんなに時間がかかるとは思わなかった。登山口に女性がいたので驚いた。彼女は今夜は車中泊で明日登るのだという。そういえば車が3台ほど止まっていた。私が大きな声を出しながら山から下りて来たので、車から出て来たようだ。

「ヒュッテひだまり」へ立ち寄って、とにかく無事に下って来たことを伝え、今宵の宿「雪あかり」へ向かった。

 佐武流山は、林道あり、渡渉あり、深い森林あり、岩場ありと変化に富んだ山で、まさに秘境中の秘境だと思った。それに積雪期か残雪期にしか登れなかった山へ、無積雪期に登れたというだけで感無量だった。
 山はかなりロングコースだったが、それだけ達成感と充実感があった。やはり登って良かった。