白神岳−3/3

 さっき小屋の右手に見えたボッテリしたピークの影に山頂があるのだろうと期待したが、何とそのボッテリしたピークに人影が見えた。あれが山頂らしい。ここから見ると何と物足りない山頂だろうと思った。

 道はほとんど平らになり、ササと黄葉した木が多くなって来た。黄葉も目が覚めるような黄色だ!
 左手後方には白神山地の最高峰である向白神(むかいしらかみ)岳が見える。そして正面奥には避難小屋が見えて来た。山頂はもうすぐだ。


(向白神岳方面)

(小屋が見えて来た)

(黄葉も見事になって来た−その1)

(黄葉−その2)

 避難小屋の手前に石造りの祠があった。これは白神大権現を祀っているそうだ。両手を合わせて柏手を打った。

 さっきまで避難小屋だと思っていたのは、実はトイレだった。トイレがこんなに立派なの?と驚く。そのトイレから数メートル先に避難小屋があった。避難小屋は内部が3層になっていた。

 その避難小屋から4、50m先が白神岳の山頂だった。ボッテリした何の変哲もない山頂に何か物足りなさを感じたが、とにかく白神岳のテッペンへ立った。


(稜線に建つトイレ)

(避難小屋)

(右が避難小屋、左がトイレ、後方は向白神山)

 白神岳の標高は地図では1,232mになっているが、正しくは1,235mだそうである。三角点が1231.9mで最高点であるここが1,235mだという。(西津軽郡深浦町・観光課に確認済)
 ただ残念だったのはその三角点がどこにあったか確認しなかったことだ。白神大権現の祠の近くにあったのだろうか。それともトイレ付近にあったのだろうか。

 山頂には先客が10人位いた。余り広くない山頂で宿で作ってくれたオニギリを食べながら展望を楽しんだ。ここから見ると南東側の世界遺産であるブナ林の核心部は、逆光で見えにくかった。

 北東に目を向けると避難小屋とトイレ、その奥に白神山地の最高峰である向白神岳が個性的な山容を見せていた。そして、その奥に岩木山がそそり立っているが山頂は雲に隠れていた。

【拡大してご覧下さい】

(駐車場にあった世界遺産登録の地図
濃い緑が核心部)

(南東側:世界遺産の核心部
全てブナ林である)

(西側:日本海側のブナ林も
すてたもんじゃあない)

 山頂には山口県から来たというご夫婦がいた。山口から山旅に出かけて来てもう1ケ月になるという。また、茨城県から来たというご夫婦も10日目ぐらいだという。「皆さん、金と暇がある年金登山ですね・・・」と私が言うと、山頂は爆笑の渦に包まれた。

 さて、ほちぼち下ることにしよう。ストックをザックにくくり付け、手袋をして10時30分出発。
 山頂から、避難小屋方面とは反対側に下って行く。ダケカンバで視界が利かない中を7、8mほど下った時、登りの青年と会った。青年が道をゆずってくれたが、逆に「山頂まであと7、8mですよ。先に行って下さい」と道をゆずってやった。

 ここからは「聞きしにまさる急峻な下り」になった。ロープが連続してぶら下がっている。ロープを捉まなければ一歩も下れないような所だ。眼下に見える日本海へ向かって一直線に下って行く感じである。前回の毛勝山よりも急峻だ。

 周りはかなり紅葉が進んでいる。ダケカンバの黄色の中に時々紅色もあった。しかし、じっくりと紅葉を眺めている余裕はない。


(二股への下り。右がマテ山)

(紅葉)

(ダケカンバの黄葉)

 急峻な下りも20分ほどで平らな道になり、ホッとした。その時、一人のオジさんが登って来た。ザックに熊除け鈴の代わりにコッヘルをぶら下げていた。お互いに挨拶を交わしながら、私が「こんな急な所を良く登って来ましたねぇ・・・」と言うと、オジさんは「こんな急な所は下りたくないから登って来たのよ・・・。それよりアンタはよくこんな所を下って来たねぇ・・・」と言われる。世の中には色々な人がいるものだ。

 ブナが多くなって来た。明るいブナ林の中を歩くのは気持ちがいい。何か癒されるような気がする。

 「二股分岐へ3.0km」の標識へ11時15分着。ここから1分ほど下った時、赤く紅葉したモミジがあった。今回初めて見た紅いモミジに感激。


(明るいブナ林になって来た)

(やっとモミジの紅葉が・・・)

 沢の音が聞こえるようになると、またロープが現れた。ロープを使わなくても下れそうだが、滑って捻挫でもしたら大変なことになるので補助的にロープを掴みながら下って行った。

 途中でコーヒータイム。缶コーヒーで喉を潤す。
 沢が右手と左手の両方に見えるようになって来た。この左右の沢の合流点が「二股」である。どんどん下って行く。沢へ降りる手前に急なロープ場があったが距離は短かった。やっと二股へ降り立った。時に12時9分。

 ここから左岸へ第一回目の徒渉、沢にロープが張ってあったが飛び石で渡る。靴を濡らすことはなかった。

 左岸を数十メートル下ると、今度は右岸へ第二回目の徒渉となった。ここも飛び石で渡った。近くに「渡河注意」と書かれた標柱があった。徒渉ではなく渡河というのだろうか。渡河の方が分かりやすくていいと思った。

 5、6分も歩くと登りの階段になった。階段を登って沢を高巻きすると、あとは尾根をトラバースしながら進み、次第に沢から遠ざかって行く。道はほぼ水平で歩きやすい。

 右手に小さな沢が見えてきた。何となく熊が出そうだ。ここで首からぶら下げていたホィッスルを吹いた。こんな所で熊と遭遇しては大変だ。
 熊の恐怖もあったが、沢から吹き上げて来る風が心地よい。時々、ホィッスルを吹きながら歩いて行った。

 「一ノ沢」と書かれた標柱が立った沢へ12時43分着。しかし、こんな所で休憩する気にはなれなかった。周りに熊がいるような気がしてならないからだ。

 やっと「二股分岐」へ着いた。13時2分。ここまで来ればもう安全圏だろう。マテ山から下る人が多いからだ。
 ここで大休止。ここまで来ればもう登山口まであと30分だ。のんびりして行こう。

 ここからは道幅も広くなり、今朝登った道なので安心だった。それに午後の陽射しを浴びたブナ林の木漏れ日で明るい。熊も出てきそうな感じはしない。
 今朝は無風状態だったが、今はすがすがしい風が頬を打つ。「やっぱりブナ林はいいナァ・・・」と一人つぶやく。

 登山口13時40分着。駐車場へ13時47分着。車は17、8台あった。

 宿へ帰る途中、五能線の十二湖駅の少し先(ガンガラ穴がある所)から白神岳が見えた。

 民宿、汐ケ島へ戻るなり白神岳登頂を祝って一人で乾杯した。私がビールを飲んでいる間に女将さんがお風呂を沸かしていてくれた。

 夕食は昨日と同様、海の幸と旬のキノコで豪華だった。今日も料理だけで満腹になりご飯は一口も食べられなかった。明日は十二湖を周って帰るというと、旦那さんが 自分で採って来たというキノコや海藻をお土産にくれた。汐ケ島さん、本当にありがとう。

 ここは、女将さんが6部屋しかないからと謙遜していたが、部屋も綺麗で料金も安いのでお勧めです。(0173-77-2174)

 翌日は、日本キャニオンや十二湖、ブナ自然林などを散策してから帰路に就いた。