悪沢岳(わるさわだけ)    45座目

(3,141m、 静岡県・長野県)


塩見岳山頂から見た荒川岳。左が悪沢岳。右は中岳と前岳が合体して見える。


椹島〜千枚岳〜荒川岳〜赤石岳〜聖岳縦走

1996年8月4日(日)

新横浜751−(新幹線)−新静岡−(バス)−椹島ロッジ(泊)

 新横浜発7時51分の「こだま」に乗った。途中、小田原からスエちゃんが缶ビールを持って乗り込んで来た。
 今回の山行は、スエちゃんが椹(さわら)島から赤石岳、荒川岳、千枚岳と廻り、私は同じ椹島から千枚岳、荒川岳、赤石岳を登って聖岳まで行く予定だった。そこで「どうせ単独行なら椹島まで一緒に行って、荒川小屋で会おう」ということになった。
 早速、スエちゃんが買い込んできた缶ビールをご馳走になる。今日は椹島までなので安心してビールが飲める。

 新静岡のバスセンターで1時間以上も待たされた。バスは大井川鉄道の終点である井川駅を通り、約3時間ほどかけて八木尾又へ着いた。本来なら畑薙第一ダムまで入るのだが、台風で道路が崩れてバスが通れないためここから歩かされる。

 早速バスから降り、重いザックを背負って工事現場のような階段を下って行く。すごい下りだ。まさに渓谷の絶壁である。よくもこんな所に道を造ったものだと感心した。100メートルも下ると河原へ出た。その河原をさかのぼり、長い吊り橋を渡って対岸へ出て、さらに橋を渡り返して崖を登ると接続のバスが待っていた。

 椹島(写真左)は、広い敷地に山小屋や事務所など5、6棟の建物があった。ここは「東海フォレスト」という会社である。建物の周りにはナラやクヌギの大木が、ほどよい間隔で生えていた。ここは、もともとは「サワラ」の木が生えていたことから名付けられたというが、そのサワラの木は見当たらなかった。

 外のベンチでスエちゃんと山行の安全を祈念して乾杯した。夕食も外のテーブルで食べた。お盆を外へ持ち出して、水銀灯の下で食べるのも、なかなか風情があっていい。

 部屋は二段ベットが2組あった。山小屋でベットに寝るのは初めてだった。


8月5日(月)
椹島ロッジ430〜蕨段(わらびのだん)〜駒鳥ノ池〜千枚小屋(泊)

 朝4時前に目が覚めた。まだ誰も起きていないので一人静かにザックを持って外へ出た。外はまだ真っ暗だった。
 明かりのある自販機の前でパンを食べていると、スエちゃんもザックを抱えてやって来た。

 4時半、椹島を出発。
 ヘッドランプを点けて鳥居の横を通って森林の中を行く。5分ほどで林道へ出た。ここでスエちゃんと別れる。「2日後に荒川小屋でまた会おう」と言って、スエちゃんは赤石小屋へ行くため左へ、私は千枚小屋へ行くため右へ進んで行った。

 林道を歩きながら、ガイドブックに書いてあった『10分ほどで滝見橋へ出る。この橋を渡らず左の岩を巻くように登山道へ入る』ということを復唱した。登山口を間違えるとエライことになるからだ。
 今日は登りっぱなしの7時間というロングコースなので、9時間か10時間ぐらいは覚悟しなくてはならない。そんな時に登り口を間違えてウロウロする訳にはいかない。

 今回は荷物を最小限にして来たが、とにかく余分なエネルギーは使えない。ただひたすら千枚小屋を目指して歩くしかない。
 森林地帯をモクモクと歩いて行った。今日は飲み水さえも控えめにしている。

 途中から荒川が見えた。待望の悪沢岳である。荒川三山とは前岳、中岳、悪沢岳の三山からなり、最高峰は悪沢岳である。悪沢岳は元々は東岳と呼ばれていたそうだが、深田久弥氏が日本百名山に選び、「悪沢岳」という名を推奨してから広く使われるようになった。私も悪沢という名前が気に入った。

 ここは両脇の尾根がV字形に落ち込み、その間から悪沢(写真左)がクッキリと見えた。写真を撮りながら、じっくり眺めていた。

 水場を過ぎ、森林地帯の急な道を登って行くと、三角点の蕨段(わらびのだん)があった。

 更に登って行くと、深い谷間越しに荒川三山、丸山、千枚岳と赤石岳が迫って来た。赤石岳は手前の小赤石岳と奧の赤石岳が並んで見えた。ここから見ると本峰の赤石岳よりも手前の小赤石岳の方が立派に見えた。
 荒川岳は何度も見ているが、丸山や千枚岳を見るのは初めてだった。悪沢と丸山、千枚の写真を何枚も撮った。


(手前が小赤石岳、左奥が赤石岳)

(右から千枚岳、丸山、悪沢岳)

 再び展望の利かない森林地帯の中を登って行く。途中で昼食にした。展望が利かず薄気味悪かったが、椹島で作ってもらったおにぎりを食べた。

 食事を済ませ、30メートルも歩くと右手に小さな池が見えた。どうも駒鳥ノ池らしい。池の近くで食事をしているパーティーが何組もいた。どうせなら私もここで食事をすれば良かったと思ったが、池は倒木やコケなどが多く薄気味悪かった。

 ここからは斜面も緩くなり、アッという間に千枚小屋(写真右)へ着いた。余りにも早く着いたので「本当に千枚小屋だろうか」と思ったほどだった。ここは心配していたほどきついコースではなかった。

 小屋は建て替えたばかりの立派な小屋だった。庭先にはテーブルとイスが何組か置いてあり、すでにくつろいでいるパーティーもいた。
 私も宿泊の手続きを済ませ、缶ビールを買って外のテーブルで飲んだ。こんなに早く着くとは思わなかったので、ゆっくりと落ち着いてビールが飲めた。

 ひと息ついてから、カメラだけを持って小屋の近くを散歩した。小屋のすぐ裏手の稜線から、赤石岳と荒川岳がすばらしく見えた。赤石岳は、今まで赤石岳と小赤石岳が重なって見えたため山容がはっきりしなかったが、ここからは二つの山がスッキリと見え、その違いがよく分かった。

(写真手前が小赤石岳、奥が赤石岳)