夕張岳 (ゆうばりだけ)

(1,668m、北海道)  123座

白く見える崩壊地が吹き通し。 正面のピークを下った所に夕張神社があり、2つ目のピークが山頂。



夕張ヒュッテ〜冷水コース〜夕張岳〜馬ノ背コース〜夕張ヒュッテ

2004年7月1日(木)

羽田−千歳−夕張市−夕張ヒュッテ(泊)

 夕張といえばメロンが有名だが、夕張岳は高山植物の豊富さでも名高い。
 夕張岳は「日本二百名山」であり「花の100名山」でもあるが、花の種類では群を抜き、何と280種もの花が咲き競うという。中でもユウバリソウやユウバリコザクラ、ユウバリリンドウなど固有種が10種類もあり、7月に入るとそれらの花々を訪ねるハイカーで賑わい、週末になると登山口から1キロ以上も路肩駐車で繋がってしまうという。

 私は4、5年も前から夕張岳へ行ってみたいと思いながらも、つい日本百名山を優先してしまい今まで行けずにいたが、やっと百名山病という呪縛から開放され、長年の夢が叶う時がやって来た。

 羽田発6時45分の飛行機に乗るため、家を4時前に出た。台風8号が接近中ということもあって、昨夜は飛行機が飛ばないのでは、と心配したが、空はどんよりしているものの雨も風もなくホッとした。
 羽田へ着く頃には青空も広がり、眩しい太陽が顔を出して来た。

 8時30分、予定通り千歳空港へ着いた。まず最初にしなければならないのが炊事用のガスコンロのガスを買うことだった。日本航空到着ロビーにある「ジャルックス」というお店を探すため、ウロウロすること30分余り。まさかコーヒーとお弁当のお店でガスを売っているとは思わなかった。

 予約していたレンタカーで夕張市を目指して行く。夕張までは高速道路もあるが高速で行くほど急ぐ旅ではない。時間はたっぷりある。

 千歳を出た時は高曇りだったが、337号線を走っている頃には青空が広がって来た。しかし風は冷たい。さすがに北海道だ。
 途中、畑の中にポツンとあったソバ屋さんで、手打ちソバを食べた。最高にうまかった。

 清水沢駅近くのコンビニでビールを買い、軽く食事をしていると、雨がパラパラと落ちてきた。「まいったなあー」と呟く。
 452号線でシュウパロ湖を右手に見ながら進んで行く。この湖畔から夕張岳が見えるらしいが、曇って見えない。

 シュウパロ湖の上流まで行くと、夕張岳方面の標識があり、その標識に従って右手の古ぼけた鉄橋を渡る。
「熊出没注意」の標識が立っていた。道路は舗装されているが、いかにも熊が出そうな感じである。

 この辺はシュウパロ湖だのペンケモユウパロ川だのと、やたらとアイヌ語が多いが、夕張岳までがアイヌ語だったとは知らなかった。夕張岳は『ユ・パロ(温泉の出口)、ユー・パロ(鉱泉のわき出るところ)等の説がある』という。

 カーナビに導かれて進んで行くと、途中で「通行止め」になっていた。バカナビはどうも近道をしたがっていけない。もとの分岐まで引き返す。

 前にも後にも人陰はない。これが本当に夕張登山口へ行く道だろうか、と不安になった。
 途中からダートになり、昨日降った雨で水溜りがいたる所にあった。水しぶきを上げながら進んで行くとゲートがあった。

 実はこのゲートが登山者を悩ましているのである。夕張岳を代表するユウバリソウは6月中旬から下旬が花の見頃であるが、このゲートは6月末ごろ行われる山開きまで開かない。せめてあと一週間早く開てくれればユウバリソウの最盛期に行けるのだが・・・。

 そのゲートを過ぎ、原生林の中の林道を走って行く。すれ違う車もなく少々不安になった頃、やっと駐車場が見えた。ちょうど2台の車が帰る所だった。

 空いた場所に車を止め外へ出てみると、近くに簡易トイレと橋が見えた。あの橋の上にも駐車場があるはずだが・・・、と思いながら一服していると、後からワンボックス・カーでやって来たオバさんが、
「ここが一番上の駐車場ですか?」と声を掛けてきた。

 私は、「橋の上にもあると思いますよ」
 と答えると、まるで私に救いを求めるように、
「上の駐車場まで行きませんか」と言ってきた。
 私はここでも良かったのだが、「じゃあ行きますか」と答えて上の駐車場へ移動することにした。
 いつ熊が出るか分からないようなこんな所に、ポツンと一人でいるのはたとえ男でも薄気味悪い。

 上の駐車場までは100メートルほどだった。今日は平日のせいか駐車場も余裕があった。オバさんと車を並べて止めた。
 オバさんは札幌から来たと言い、これから仲間15人が来るという。仲間が到着するまでしばらく待ってやった。

 小型の車が通れそうな広い道を10分も歩くと、冷水(ひやみず)コースと馬ノ背コースの分岐へ出た(写真右)。そこを左に曲がって行くと2、3分で開けた一角があり、そこに夕張ヒュッテがあった。(写真左下)

 小屋へ入って行くと、ガランとしていて誰もいなかった。板の間の奥に薪ストーブがあった。脇から初老の管理人が現れ、「どこでもいいから勝手に使ってくれ」という。

 早速、荷物を降ろし、外のテーブルでビールを飲んだ。空には青空が広がっていた。
 冷たいビールがうまかった。今日はいつも家で飲んでいる発泡酒ではなく、スーパードライのロング缶である。ちょっぴりリッチな気分・・・。
 しばらくすると、例の団体さんがやって来た。外が賑やかになった。団体さんは参加者が増えて総勢22人だそうだ。

 ビールを飲みながら管理人に、ユウバリソウとユウバリコザクラについて聞いてみると、
「ユウバリソウはもう終わっちゃったよ。あと一週間早く来なけりゃあダメだねぇ」と言い、さらに「ユウバリコザクラは登山道からは見られない。みんな盗掘されちゃってねぇ・・。吹き通しの所を30メートルほど下ると咲いているが、入れないしなぁ・・」と言った。

 私はユウバリソウとユウバリコザクラを見るために、はるばるやって来たのである。話を聞いて全身の力が抜けた。

 今日の宿泊者は、団体さんを除くと私を含めて6人だった。
 夕食は全員が外で食べた。小屋の周りには小さな流れがあり、その奥の森林地帯はすでに闇が覆っていた。しかし上空はまだ明るく、澄んだ空にわずかな白い雲が流れていた。明日もきっといい天気になるだろう。

 暗くなると急に寒くなった。食事が済むと早々に小屋へ引き上げた。小屋の中で燃えているストーブが有りがたかった。東京のうだるような暑さがウソのようだった。(ここは避難小屋です)


2004年7月2日(金)

夕張ヒュッテ430〜525冷水ノ沢〜547前岳ノ沢〜638望岳台〜707憩沢〜855夕張岳945〜1145望岳台〜(馬ノ背コース)〜1315夕張ヒュッテ−R452−三笠IC−深川IC−深川(泊)

 朝、3時半に起こされた。一番奥の窓際にいた女性がガサガサ始まり、それを合図のように皆んな起き出した。
 外はうっすらと明るい。今日もいい天気のようだ。
 厚手のシャツを着込み、外で湯を沸かし朝食を摂った。管理人の話によると夜中には5度まで下がったと言う。

 大きな荷物と厚手のシャツを小屋へ預け、Tシャツの上に薄手の長袖シャツを羽織って準備完了。
 団体さんより一足早く、4時30分に出発した。

 ここは熊がいるというので、鈴をジャラジャラ鳴らして行きたいが、私の鈴はショボイので遠くまで響かない。そこで今回は秘密兵器を持って来た。笛とレジャーシートである。
 笛は熊と出っくわさないように曲がり角などで使うのだが、100円ショップで買って来たプラスチック製では、熊は驚かないかも知れない。
 もう一つの秘密兵器であるレジャーシートは、熊に襲われた時、レジャーシートを広げてバサバサすると熊が逃げると聞いたので、すぐに出せるようにザックの外ポケットへ忍ばせた。

 ヒュッテから冷水コースとの分岐まで戻り、冷水コースを登って行く。今日この道を歩くのは 私が最初かも知れない。そうだとすれば、それだけ熊に会う可能性が高いことになる。周りをキョロキョロしながら登って行った。

 30分ほど歩いて立ち止まり、汗を拭った。やはり今日はまだ誰も歩いていないようだ。
 樹林の間から青空が見えた。早く花畑へ行きたいと心は逸る。
 そこから1、2分も歩くとチョロチョロと水の音が聞こえて来たが、冷水の水場ではなかった。

 5時25分、名水といわれる冷水ノ沢へ着いた。湧き水で最高にうまかった。ここで一休み。
 道端にゴゼンタチバナや名前の分からない白い花が咲いていた。写真を撮りながら、これが都会に咲いていたらいたら見向きもしないかも知れないと思った。
 5時47分、前岳ノ沢着。

 歩き出してすぐに尾根が見えた。その尾根へ辿り着くと、正面に屹立した山が見えた(写真右)。思わず歓声を上げた。それは姫岳だった。

 そこから平坦な道を行くと、すぐに馬ノ背コースとの分岐があった。 右手には前岳(写真左)のそそり立ったピークが見えた。

 途中で若い男性2人に追い越された。彼らは駐車場から直接登って来たという。これでもう熊の心配はしなくて済む。

 シラネアオイの群落がある石原平へ出た。しかし、盛りを過ぎた花は前日の雨で落ちていた。

 前岳の東斜面を登り切ると、パッと視界が開けた一角があり、50代の女性1人が座って休んでいた。そこが望岳台(ぼうがくだい)だった。望岳台へ6時38分着。

 振り向くと、芦別岳(写真右の中央の山)の優美な姿があった。北海道の山には珍しくアルペン的で、見るからに登行意欲が湧いて来る。
 さらに、大雪山や十勝岳、日高連峰、左手後方には羊蹄山も見えた。

 当初の計画では、明日、あの芦別岳へ登る予定だったが、宿の予約が出来ずに変更した。芦別の登山口である富良野市の宿は、黙っていても客が来るせいか「お一人様お断り」とか、「お一人様、空いていれば可」とか、一人旅には冷たい。市営の「ふれあいの家」でさえも同様で、市が「一人客は泊めるな」と奨励しているかのようだ。そんな所に泊めてもらう必要はない。いつの日かテントでも担いで行けば良いと思い、今回は暑寒別(しょかんべつ)岳へ行くことにしたのである。
 (翌年、富良野市営の“ふれあいの家”へ一人で泊めてもらいました)

 しかし、こうして芦別岳を目の前にしていると、やはり一度は登らねばと思わずにはいられなかった。

 ここからは前岳の北斜面をトラバースして行く。途中にシラネアオイが花をつけた大株があった。
 さらに登って行くと男岩やガマ岩、その奥に山頂らしい山も見えて来た。インターネットで見覚えのある風景だが、やはり自然の風景はこうして自分の目で見なくては価値がない。

 小さな流れがあった。憩(いこい)沢かと思ったがそのまま進んで行くと、2、3分で憩沢の水場へ着いた。7時07分着。
 ここで一服しながら、昼食用の水を満たしていく。
 遠くに十勝岳が見えた。三角錐の山容はさすがに日本百名山だと思った。

 エゾノリュウキンカの群落があった。先月、尾瀬で見た時よりはるかに花が大きかった。

 続いてシナノキンバイよりも大きい花が群落をなして咲いていた(写真左)。ボタンキンバイかと思ったが、チシマキンバイらしい。いずれにしろ、こういう花が咲いていているのが嬉しい。