荒崎海岸弁天島付近

絵 「荒崎海岸弁天島付近」

  • 油彩画
  • サイズ 縦横:F10 横
  • 最終描画:2018年2月
  • 荒崎海岸の所在地:神奈川県横須賀市長井
  • (三浦半島)



文 地形地質概要

1. 絵 「荒崎海岸弁天島付近」

絵は荒崎海岸の弁天島を中心とした海岸風景を描いています。波浪による侵食や崩壊であらわになった岩肌はチョコクロワッサンを連想させるような不思議な縞模様で飾られています。

2. 地形概要

絵の風景から地形的な特徴を拾い出すと、遠景の直線状の稜線(段丘)、段丘から切り離された弁天島(風化侵食による削剥とサイズの縮小)、近景のゴツゴツした凹凸のある海岸(旧海食台)などがあります。

三浦半島の南部には、古い順に引橋面、小原台面、三崎面という3段の段丘平坦面(台地)があり、それぞれ約12万年前、約10万年前、8万年前に生じた下末吉海進の3度の極大期に対応して生まれた平坦面です。

絵において、遠景に見えるほぼ水平な稜線状の地形はソレイユの丘(遊園地)などであり、約8万年前の波食台を起源とした段丘で、三崎面と呼んでいます。三崎面が形成された8万年前以後、約2万年前の氷期最盛期に向かって海面は100m以上低下し、三浦半島西海岸では海は2km以上沖まで退きますが、荒崎海岸では西方に伸びる高まりがあり、約5km沖まで半島が伸びていたと思われます。また、約6000年前の縄文海進での海面は現在よりも約4m上昇し、その時々の海水準の影響を受けて地形を変化させてきました。

弁天島はかっては三崎面の一部でしたが、侵食によって三崎面の段丘本体から切り離され崩壊も加わって半ば海に沈むような状況に至ったものです。さらに、近景のゴツゴツした磯の大部分は関東大震災の隆起によって当時の海面下すれすれに隠れていた海食台が水面上に現れたものです。

3. 地質概要

荒崎海岸には三浦層群の三崎層が分布しています。三崎層は白っぽい凝灰質シルト岩と黒っぽいスコリア質凝灰岩が繰り返し重なった互層であり、縞模様が明瞭です。また、凝灰質シルト岩に比べてスコリア質凝灰岩のほうが硬いので、波で侵食を受けた岩肌は黒っぽいスコリア質凝灰岩が突出して縞模様をより明瞭にしています。

三崎層は1200万~440万年前に水深2,000~3,000mの深海に堆積した地層ですが、その多くは海底地すべりなどで海底斜面を一気に流れ下り再堆積した地層で、タービダイトと呼ばれています。

プレート説によると、タービダイトなどの堆積物を載せたフィリピンプレートは北上して日本列島に近づき海溝で沈み込みますが、表面の堆積物がはぎとられて日本列島に押し付けられました。押し付けられた堆積物は圧縮され変形して日本列島に付加しました。これを付加体と呼んでいます。もともとは水平に近かった地層ですが、付加体となる過程、引きずり込まれる過程、隆起し地表面に現れる過程などで変形して絵に見られるような複雑な縞模様が生まれました。

4. 付図及び参考資料

資料1

周辺図 矢印は絵の描画方向

資料2

写真 荒崎の海食洞

海食洞は海水の達しない高さに位置し

ており、地面が隆起していることを示し

ています。

三浦半島周辺では、関東地震(元禄地

震や関東大震災をもたらした地震)に

よって隆起することが知られています。

資料3

図は資料1より

赤○印は荒崎海岸の位置

参考資料

・地盤工学会 関東支部神奈川県グループ編 2010 大いなる神奈川の地盤 その生い立ちと街づくり 技報堂出版

・神奈川の自然をたずねて編集委員会編著 2006 神奈川の自然をたずねて(2刷) 築地書館

・三浦半島活断層調査会 深海から生まれた三浦半島シリーズⅠ 躍動する荒崎海岸

・資料1 藤岡換太郎・平田大二編著 2014 日本海拡大と伊豆弧の衝突―神奈川の大地の生い立ち 有隣堂

・地理院地図(電子国土Web)