絵 岩壁と袋田の滝

絵 「岩壁と袋田の滝」

  • 油彩画
  • サイズなど:P25 縦
  • 最終描画:2017年10月
  • 袋田の滝所在地:茨城県久慈郡大子(だいご)町袋田(ふくろだ)




文 地形地質概要

1. 絵 「岩壁と袋田の滝」

絵は袋田の滝の下流側から北東方向を眺めており、月光に浮かんだ正面の断崖は生瀬富士(なませふじ)の稜線から続く断崖の末端部付近であり、右側から袋田の滝(長さ120m、幅73m)の流れが落下しています。

左側のコンクリートの施設は袋田の滝を正面から望めることができる観瀑台で、トンネルで出入口と結ばれています。更に、トンネル内のエレベーターで44m昇ると新観瀑台から滝の最上部を望むことが出来ます。

2. 地形概要

茨城県の最高峰は最北部の茨城・福島県境の八溝山(やみぞさん 1,022m)で、八溝山から南に延びる山地が八溝山地です。一方、茨城県の太平洋側には北方(福島県側)から阿武隈山地が延びています。八溝山地と阿武隈山地に挟まれ、久慈川あるいはJR水郡(すいぐん)線(愛称:奥久慈清流ライン)に沿ってその東側に南北方向に延びる山地を久慈山地(最高峰:男体山653m)と呼びますが、袋田の滝はこの山地中にあります。久慈山地は比較的起伏が小さく丘陵的な地形を呈するものの、男体山などでは袋田の滝周辺を含めて、山体の延長方向に沿って急崖が連続するような急峻な地形を呈しています。久慈川の支流の滝川が急崖を落下することによって生じているのが袋田の滝です。

3. 地質概要

中・古生層あるいは花崗岩類などの古い地層が分布する八溝山地と阿武隈山地に挟まれた久慈山地には新生代新第三紀中新世の堆積岩や海底火山の噴出物が分布しています。

かつて日本列島はアジア大陸の東縁で大陸の一部でした。約2,000万年前に大陸から切り離され、約1,500万年に日本海の拡大やフォッサマグナの形成が完了し、日本列島の原型が生まれました。

その頃、久慈山地はまだ海底にあり、陸地から供給される砂や泥が堆積していましたが、袋田の滝周辺では男体山海底火山と呼ばれる大きな火山体が生まれました。海底火山から噴出した溶岩は海水と接触することによって急冷されて角礫状になりました。この溶岩は男体山火山角礫岩と呼ばれています。火山角礫岩は緻密硬質で黒色を帯びゴツゴツ感を呈していますが、岩質からはデイサイトに分類されています。 火山角礫岩の分布域では山体の西側に急崖が連続するのは、地質構造と密接に関係しており、地層が概ね東に傾斜して風化に強い火山角礫岩が山体の西側に露出しているためです。 袋田の滝は北北西-南南東方向に帯状に延びる火山角礫岩の分布域を滝川の流れが横断する位置に懸っており、絵の正面の断崖も袋田の滝も観瀑台周辺も火山角礫岩が露出しています。袋田の滝は4段の滝でできており、さらに上流には生瀬(なませ)の滝があります。繰り返される断崖と水量に比べて幅広い平坦な河床の存在は火山角礫岩と他の堆積岩の硬軟(侵食に対する抵抗)の違いや火山角礫岩の節理や断層と関係しており、風化に強い火山角礫岩が崖や河床を形成したものと考えられています。

4. 付図及び参考資料

資料1 周辺図

周辺図

矢印は絵の描画方向

資料2 写真 火山角礫岩

袋田の滝は火山角礫岩より成る

海水中で急冷されて角礫状を呈する

月居山ハイキングコース脇にて撮影

参考資料

・日本列島ジオサイト地質百選Ⅱ 2010 (社団法人)全国地質調査業協会連合会 (特定非営利活動法人)地質情報整備・活用機構(GUPI)共編 オーム社

・茨城県自然博物館第4次総合報告書 2007 茨城県北西地域における岩石・鉱物 阿武隈山地岩石鉱物調査会

・宮地良典他 2003 奥久慈の海底火山とめのうをさがして -地質標本館2002年度野外観察会- 地質ニュース582号

・天野一男 1994 日曜の地学8 茨城の自然を訪ねて 築地書館

・地理院地図(電子国土Web)