実相寺の桜と南アルプス

絵 「実相寺の桜と南アルプス」

  • 油彩画
  • サイズ 縦横:F25 横
  • 最終描画:2018年3月
  • 実相寺の所在地:山梨県北杜市武川町山高(ホクトシムカワチョウヤマタカ)
  • 甲斐駒ヶ岳の位置:山梨県北杜市と長野県伊那市に跨がる



文 地形地質概要

1. 絵 「実相寺の桜と南アルプス」

絵は南アルプスを背景として実相寺の桜を描いています。通称南アルプスと呼ばれるのは赤石山脈のことであり、絵では左側がアサヨ峰、右側が甲斐駒ケ岳(標高2,967m)です。

なお、絵には描かれていませんが、実相寺には樹齢2,000年と言われる古木の山高神代桜(やまたかじんだいざくら文末写真参照)があります。

2. 地形概要

実相寺は山梨県の北西部の北杜市武川町にあります。実相寺周辺は主に果樹園などに利用され、人家が散在するような平坦地であり、旧釜無川本流や支流によって形成された河岸段丘です。これに対して、背後(西側)には南アルプス(赤石山脈)が聳え、絵の右側には特異な山容の甲斐駒ケ岳が間近に迫っています。南アルプスは中央アルプス(木曽山脈)、北アルプス(飛騨山脈)とともに日本の屋根と呼ばれる山岳地帯です。

3. 地質概要

絵の風景は実相寺のあるフォッサマグナ(大きな溝)から南アルプスと呼ばれる赤石山脈を眺めており、両者の間には糸魚川‐静岡構造線が存在しています。糸魚川‐静岡構造線の両側は地形的にも地質的にも大きな違いがあり、東(実相寺)側のフォッサマグナは新第三紀以後に新しく生まれた地層で充填されているのに対し、西(南アルプス)側は大陸を起源とする古い基盤岩より成ります。このような違いは2,000万年~1,500万年前の日本海の拡大やフォッサマグナの形成を経て生まれました。

糸魚川‐静岡構造線は太平洋側から日本海に抜ける大規模な地質境界ですが、現実的には糸魚川‐静岡構造線断層帯としての活断層が注目され、実相寺の近傍にも存在しています(文末地図参照)。

実相寺の平坦地は中期更新世(数十万年前)に堆積した河岸段丘堆積物よりなるのに対し、赤石山脈は西南日本を形成する古い地層である白亜紀の地層が分布しています。この地質体は四万十帯と呼ばれ、泥岩を主とする地層です。

絵の左側のアサヨ峰には四万十帯の泥岩が分布し、右側の甲斐駒ケ岳には花崗岩が分布しています。甲斐駒ケ岳の花崗岩は約1,400万年前にマグマが地下の深い場所(地下5~10km)でゆっくりと冷えて固まった岩石ですが、これが隆起して標高3,000m弱の現在の山体を形成しています。このことはマグマが冷えてから1,400万年間の地殻変動の消長の結果として、8,000m以上隆起してその上にあった被覆層は侵食されて無くなっていることを示しています。

赤石山脈は約100万年前から急速に隆起し、現在の高さになりました。急速に隆起する前は緩やかな地形であったようですが、そうであれば地下の深い場所から地表に顔を出すに至る隆起と緩やかな地形を形成するに至る侵食の両方があったことになります。

4. 付図及び参考資料

資料1

周辺図

矢印は絵の描画方向、赤丸は実相寺

の位置

青点線は地質境界としての糸魚川‐

静岡構造線の位置

赤線は活断層としての糸魚川-静岡

構造線断層帯の位置(この付近では

白洲断層・鳳凰山断層・下円井断層

などの活断層より成る 資料1の付

図より概略的に転写した)

資料2 写真 実相寺の山高神代桜

写真 実相寺の山高神代桜

樹齢2,000年

撮影:2017/4




参考資料

・湯浅真人 2015 地質で語る百名山 第1回 甲斐駒ヶ岳 CSJ地質ニュースVol.4 No.3

・町田洋他編 2006 日本の地形5 中部 東京大学出版会

・南アルプス世界自然遺産登録推進協議会南アルプス総合学術検討委員会 2010 南アルプス学術総論

・資料1 地震調査研究推進本部 2016 糸魚川‐静岡構造線の長期評価(第二版)

・地理院地図(電子国土Web)