図 種類の断層 松田時彦による
上段:正断層、中段:逆断層、下段:横ずれ断層(図は右ずれ断層)
通常、断層は「地盤あるいは岩盤中のある面を境にして、その両側で変位が認められる割れ目もしくは割れ目ゾーン」とされています。断層は日本列島形成時およびその後の地殻変動の結果であることから、断層は日本中どこにでもあるのが普通ですが、その中の一部の断層は活断層として動き、直下型あるいは内陸型と呼ばれる地震が発生します。また、太平洋沖合の海溝やトラフと呼ばれる海底の凹地では陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込んでおり、両者の境界(断層*1)が滑ることによって海溝型の地震が発生します。
断層をずれる方向によって区別すると、右の図に示すように正断層、逆断層、横ずれ断層の3種類に区分されます。横ずれ断層は断層に向かって向こう側の地盤(岩盤)が左側にずれるのを左ずれ断層、右側にずれるのを右ずれ断層と言います。一般には縦ずれ成分と横ずれ成分を同時に伴います。
最近の地質時代に繰り返して活動し、将来も活動して地震を発生させると考えられる断層を活断層と呼びます。
地球の歴史で最も新しい地質時代(258万年前~現在)を第四紀といい、その第四紀後半は現在と同じような東西方向の圧縮応力を受けています。圧縮による力が地下の岩盤に加わり、徐々に歪が蓄積されて岩盤が耐えられなくなると大規模な破壊が起きます。岩盤が破壊されてずれたときの衝撃が地震波となり岩盤および地盤を伝わって私たちの足元を揺さぶります。すなわち、断層が滑動することによって、地震が発生します。
大地震が起こると地下の破断面(断層)が地表に出現することがあります。地震によって地表に出現した断層を”地震断層”と呼び、これと区別して地下深部の震源域に想定した断層を”震源断層”といいます。地震断層は、震源断層の延長が地表に現れたものです。地震断層としては、濃尾地震(1891)の根尾谷断層、北丹後地震(1927)の郷村断層、北伊豆地震(1930)の丹那断層、鳥取地震(1943)の鹿野断層などが有名です。
日本列島にはその形成に伴う地殻変動により無数の断層が存在していますが、現在の圧縮応力によるひずみを開放するのに適した断層が活断層となって活動していると考えられ、数ある断層の中の一部が活断層に該当します。一部に該当するといえども日本列島の内陸部には大小2,000を超える活断層が存在しているとされています。活断層を単に断層と呼ぶ場合も多く、地震と関連した話の中の断層は活断層あるいは地震によって生じた断層を指してい場合がほとんどです。
活断層の調査には予備調査として空中写真が用いられます。活断層は比較的新しい時代に活動した断層であるので、現在の地形に影響を与えていることからリニアメント(線構造)の抽出が行われます。直線的な地形は活断層が活動したことによって生じた地形ではないかと先ず疑うわけです。リニアメントとして沢筋や尾根筋、尾根筋の凹地形である鞍部、段丘崖や段丘面の形状など複雑な地形の中から直線状の配列を抽出し、活断層に特有な特徴を示しているか観察します。写真判読終了すると、抽出したリニアメントの成因を地質学的な構造に照らし合わせ、活断層であるかどうか野外調査に基づいて判定します。また、断層をそのものを掘削して直接調べる発掘調査(トレンチ調査)や振動を用いた調査(反射法地震探査)、微小地震の観測などの方法を用いることもあります。
活断層の存在が予想されない場所で大地震が発生することはあります。特に、大都市のような平坦低地は現在の河川の堆積物である泥~礫によって被われており、地下の岩盤に活断層が存在していても地表では確認できません。また、活断層が活動しても地表まで変形が及ぼしていないかあるいはその影響がわずかである場合は地表地形に地震の痕跡が残されていません。地下の見えない断層あるいは調査で発見できていない断層を”伏在断層”と呼ぶことがあり、その一部に活断層も含まれます。
なお、地震は断層運動の現われであることから、地表に地震断層が出現しない場合でも地震が発生すればそこには断層が形成されていると考えられ、地震波の解析から断層がどのように動いたかを推定することができます。
首都圏では厚い堆積層に被われているため、将来大地震を起こすような未知の活断層(伏在断層)が存在しないとは言えないといわれています。
「地震調査推進本部 地震調査委員会」は、平成8年(1996)以降、98の断層帯(活断層)を評価し、過去の活動、将来の活動、将来の発生確率(長期評価)などを発表しています。今までの活断層の調査によると、活断層の活動間隔は短くても1,000年前後、断層によっては数万年かそれ以上であるといわれています。
構造線は、断層を境にして両側の地質の様相が大きく異なるような大断層を指し、本来、地質学的な意味合いを持っています。構造線としては糸魚川-静岡構造線や中央構造線が有名であり、この2つの構造線には活動の活発な区間(活断層)が含まれています。このように、大断層である構造線はその一部が活断層として活動しています。
日本列島は糸魚川-静岡構造線を境に、その東側は東北日本、西側は西南日本と呼ばれ、西南日本は中央構造線を境に太平洋側は外帯、日本海側は内帯と呼ばれています。更に、西南日本では中央構造線およびこれに沿う方向に、御荷鉾構造線、仏像構造線などが連続併行して走ることにより、西南日本の帯状構造の骨格が形成されています。この帯状構造は海洋プレートの沈み込みに伴い、大陸プレートの前面に海洋プレート上の堆積物や海洋プレートの表層が付加されることによって形成された付加体の境界に相当します。付加体境界は、岩盤が破壊されてずれが生じてできたような断層ではありません。
構造線は日本列島の形成や日本海の拡大に関わる活動によって生じた大断層で、岩盤が破壊されてずれが生じた大断層の他に、異なる地質時代に次々と付加体が日本列島に付加されることによって形成された地質境界を含んでいます。
日本の太平洋側では日本列島を載せた陸側のプレートの下に太平洋プレートやフィリピン海プレートという海側のプレートが海溝やトラフと呼ばれる海底の凹地付近で沈み込んでいます。陸側のプレートと海側のプレートの境界は広い意味での断層であり、海溝型地震が発生する箇所です。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は両プレートの境界が長さ400km以上に亘って次々とずれたことによって発生した地震であり、連動型巨大地震でした。
両者の境界(断層*1) 沈み込むプレートと陸側のプレートの境界は断層とは呼びませんが、形態としては大断層です。
本文記載外参考資料
田中和広・井上大栄 断層の定義、考え方 土と基礎 Vol.43 No.3 1995
木村敏雄 断層、特に断層破砕帯の見方、考え方「建設工事における断層」 日本応用地質学会 1981
羽田忍 いわゆる活断層の工学的問題点と取り扱い「建設工事における断層」 日本応用地質学会 1981