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図1 都道府県別死者行方不明者の割合
データは警察庁緊急災害警備本部 平成24年9月26日による
東北地方太平洋沖地震による死者行方不明者は北海道から神奈川県まで広範囲に及び、地震から1年後の死者+行方不明者数は19,009人(警察庁まとめ)である。
死者行方不明者数を都道府県別にみると、図1に示すように宮城県の死者行方不明者が最も多く全体の58.5%を占める。さらに宮城県と岩手県を合わせると89.9%、宮城県と岩手県と福島県との3県では99.6%となる。同様に全壊数も宮城県・岩手県・福島県(東北3県)で96.9%を占める。死者行方不明者でも全壊数でも宮城県が突出しているのが目を引く。
東北地方太平洋沖地震による災害を東日本大震災と呼ぶが、実質的には宮城県を中心とした岩手県、福島県の3県が主な被災地となった災害である。
図2は死者行方不明者の推移である。自衛隊その他の艦船や航空機を使用した大規模集中捜索や長期にわたる捜索が続けられている。石巻市の長面の場合は浸水した地域を堤防で囲み、排水がほぼ完了した2012年10月8日(災害発生日から約1年7か月後)より行方不明者の本格的な捜索が開始された例もある。
死者行方不明者の全体的な推移は次の通りである。
22011年3月11日 発震 災害発生日
2011年3月15日 死者行方不明者数が午後8時の発表で1万人を超える。
2011年3月28日 死者行方不明者数がピークとなり、2万8千人を越える。以後、減少に転じる。(発震から17日後)
2011年9月9日 死者行方不明者数が2万人を切る。(発震から181日後)
以後、死者は微増するが、行方不明者はそれを上回って減少し、全体しての死者行方不明者数は微減する。
2012年3月11日 死者15,854人、行方不明者3,155人で、死者行方不明者数は19,009人となる。(発震から1年後)
2013年3月 8日 死者15,881人、行方不明者2,668人で、死者行方不明者数は18,549人となる。(発震から約2年後)
東北3県(岩手・宮城・福島)の人的被害をおおまかに把握するために、以下の図3〜図7を作図した。
図3 死者行方不明者数
対象は太平洋沿岸の市町村
各県 平成24年6〜8月の値
図4 浸水面積
対象は太平洋沿岸の市町村
国土地理院 平成23年4月28日
図5 浸水範囲内の人口
対象は太平洋沿岸の市町村
総務省統計局 統計調査部地理情報室
図6 浸水範囲内人口密度
対象は太平洋沿岸の市町村
(図4と図5からの計算値)
図7 犠牲者率(%)
対象は太平洋沿岸の市町村
(図3と図5からの計算値)
なお、浸水範囲内人口密度=浸水範囲内人口/浸水範囲内面積、犠牲者率(%)=死者行方不明者数/浸水範囲内人口×100であり、犠牲者率(%)は浸水範囲内での100人当たりの死者行方不明者数である。
以下、図3〜図7を参照して、県別に概略的な人的被害の特徴を示す。
岩手県は浸水範囲内人口は少ないが、浸水範囲面積はさらに少ないので、結果として浸水範囲内の人口密度は3県のうちで最も大きい。犠牲率(%)も最も大きい。
岩手県は地形的にはリアス式海岸で特徴づけられる。山が海岸に迫っている場合が多く、平野(低地)は狭い。狭い低地は高度に利用されているために浸水範囲内の人口密度は多いと考えられる。
宮城県は浸水面積と浸水範囲内人口が突出し、死者行方不明者数が最も多い。
仙台平野を中心として広大な低地が広がっている。津波は内陸深くまで浸入(浸水面積が大きい)したために浸水範囲内の人口は多い。人口密度はそれほど多くはない(3県のうち中位)ことから、低地に広がる分散型の集落や散在した人家が多い環境が予想され、近くに避難できるような高台や津波避難ビルがない場合が多いと思われる。
福島県は死者行方不明者数が少なく、浸水範囲内の人口密度も3県のうちで最も小さい。一方、犠牲者率(%)は岩手県より小さいが、宮城県をやや上回る。死者行方不明者が少ないのに対して犠牲者率(%)が相対的に大きいのが特徴である。
低地は農業用地として利用される場合が多く、小規模の集落や人家が散在しているような環境が多いと思われる。犠牲者率(%)が比較的大きいことから、壊滅的な被害を受けた地区が含まれていると予想される。
図8 死者行方不明者数 東北地方太平洋沿岸の市町村(表示順序 北→南) 図9 浸水面積 東北地方太平洋沿岸の市町村(表示順序 北→南) 図10 浸水範囲内の人口 東北地方太平洋沿岸の市町村(表示順序 北→南) 図11 浸水範囲内人口密度 東北地方太平洋沿岸の市町村(表示順序 北→南) 次に、岩手県・宮城県・福島県の太平洋沿岸市町村について人的被害状況を見てみる。 前項と同様に、死者行方不明者数、浸水面積、浸水範囲内人口および浸水範囲内人口密度を示す。なお、浸水範囲内人口密度=浸水範囲内人口/浸水範囲内面積である。犠牲者率(%)については次項に示すことにする。 図8〜11において認められる目立った特徴などを下に記す。 宮城県石巻市の死者行方不明者数、浸水面積、浸水範囲内の人口はいづれも突出しており、石巻市の被害の大きさが目に付く。 県別での宮城県の死者行方不明者数の多さは石巻市の死者行方不明者の多さによるところが大きい。(図8、図9,図10) 死者行方不明者が千人以上の市町村は、北から順に岩手県大槌町、同釜石市、同陸前高田市、宮城県気仙沼市、同石巻市、同東松島市の6市町村であり、死者行方不明者800人以上では、宮城県南三陸町、同女川町、同仙台市、同名取市、福島県南相馬市の5市町村が加わる。(図8) 宮城県松島町、利府町、塩竈市、七ヶ浜町、多賀城市の 死者行方不明者数および浸水面積が少ない。これらの市町村は主に松島湾沿岸に位置している。(図8、図9) 宮城県仙台市〜浪江町に至る区間は死者行方不明者が比較的多い地域である。概して浸水面積が大きく、浸水範囲内の人口密度は小さい。(図8、図9) 浸水範囲内の人口密度は、宮城県多賀城市より北側の地域で大きく、宮城県仙台市より南側の地域で概して小さい。比較的明瞭に2つに区分できるが、浸水範囲内人口密度が小さい地域に区分される福島県富岡町や同いわき市は例外になる。浸水範囲内人口密度の大小は地形を反映しており、土地の利用状況と関係している。(図11) |
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5.死者行方不明者数と浸水範囲内人口図13 浸水範囲内人口と死者行方不明者及び犠牲者率 との関係 図12 浸水範囲内人口と死者行方不明者数との関係
死者行方不明者数は浸水面積、浸水範囲内人口密度、浸水範囲内人口などと相関がありそうであるが、その中で浸水範囲人口との相関が最も大きい。 図12は浸水範囲内人口と死者行方不明者との関係を示したグラフであり、両者の関係を回帰直線で示している。 回帰直線の傾き=死者行方不明者/浸水範囲内人口 =犠牲者率 =0.355 であり、これに100を掛けたのが 犠牲者率(%)=3.55 である。これは全体の平均としては浸水範囲内の100人のうち3〜4人が犠牲になっていることを示している。 図14 犠牲者率(%) 東北地方太平洋沿岸の市町村(表示順序 北→南) 図13は図12に書き込みを入れたグラフであり、浸水範囲内人口と死者行方不明者および犠牲者率との関係を示している。陸前高田市、大槌町、女川町、浪江町は犠牲者率(%)が大きく、その平均は10.8となり、浸水範囲の100人のうち約11人が犠牲となっている。 図14は東北3県(岩手県・宮城県・福島県)の太平洋沿岸の市町村の犠牲者率(%)を示したグラフである。全体を概観すると、犠牲者率(%)のピークが2の地域に分かれるように分布する。 |
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6. 犠牲者率(%)と津波の状況図14 犠牲者率(%)と津波の遡上高などとの関係 図14に犠牲者率(%)と津波の遡上高や浸水高などとの関係を示す。 犠牲者率(%)を概観すると、岩手県山田町から宮城県女川町にかけての地域と福島県浪江町付近にピークがあり、2つの山を形成している。塩竈市周辺は被害者率(%)の大きい2つの山に挟まれた谷部に相当し、被害者率(%)が小さい。 津波の遡上高や浸水高は全体的には岩手県宮古市周辺で最も高く、北方向に向かって急速に減少し、南方向に向かって緩やかに減少するような傾向を示す。 グラフ上ではほぼ同じ位置(緯度)でありながら、津波の遡上高や浸水高は数倍の違いがありバラつきが大きい。これは半島や湾などによる地形の変化、水深や海底の地形の違い、低地や斜面などの陸域の地形の違い、防潮堤などの海岸付近の状況などが大きく影響した結果と思われる。 |
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一般に人的被害の大きさは、地形的環境、津波の高さや勢い、浸水範囲の人口や密度、津波防護施設、防災意識の大小などが複雑に絡み合っていると思われるが、公的機関から発表されている基本的データから被害や地域的な違いが読み取れる。
以下、岩手県、宮城県、福島県を被害や地域的な特徴から、北から順に区分し、図1〜図14のグラフから読み取れる事項を指摘する。
これらを箇条書きにし、このページのまとめとする。
岩手県洋野町〜岩手県久慈市にかけて
死者行方不明者が少ない。明治以降、津波被害の大きかった地域であり、防潮堤や水門など津波対策が進められていた中で津波が比較的小さかったことが幸いしたものと思われる。
岩手県宮古市〜宮城県東松島市にかけて
死者行方不明者が最も多い。津波の高さが最も大きな地域である。この地域の南側の一部を除き、明治以降、津波の被害が大きかった地域である。津波対策を越える大きな津波によって被害が拡大したと予想される。特に石巻市の人的被害の大きさが注目される。一方、大船渡市では死者行方不明者数が少なく犠牲者率(%)も小さい。
石巻市の人口は宮城県仙台市、福島県いわき市に次ぎ、浸水面積は被災地最大である。浸水範囲内の人口も最多である。石巻市雄勝地区のように明治以降に津波被害を受けた地区もあったが、ほとんどは顕著な津波被害の経験がない。
大船渡市は北に隣接する釜石市や南に隣接する陸前高田市と比べて被害が少ない。防災上重要なヒントが隠されていると思われる。
宮城県松島市〜宮城県多賀城市にかけて
死者行方不明者が少ない。浸水面積が少ない。犠牲者率(%)が小さい。明治以降、顕著な津波被害のない地域である。多賀城市菖蒲田浜付近のような松島湾の外側を除くと、湾内の津波の遡上高や浸水高は4m程度以下である場合が多い。津波の高さが低く、勢いも弱かったものと思われる。
宮城県仙台市〜福島県浪江町にかけて
死者行方不明者がかなり多い市町村が含まれる。浸水面積が大きく、人口密度が小さいなどの特徴がある。明治以降、顕著な津波被害のない地域である。宮城県名取市、同山元町、福島県南相馬市のように犠牲者率(%)が大きな市町村が含まれる。仙台平野から直線状の海岸線と低地の広がる地域である。
福島県双葉町から福島県いわき市にかけて
死者行方不明者数は少ない。また、浸水面積も小さく浸水域人口も少ない。福島県浪江町や福島県富岡町のように犠牲者率(%)の大きな町が含まれる。低地は農業用地として利用される場合が多く、小規模の集落や人家が散在しているような環境が多いと思われる。犠牲者率(%)が比較的大きいことから、壊滅的な被害を受けた箇所が含まれていると予想される。一方、いわき市は他の市町村とは異なった特徴が認められる。いわき市の人口は3県のうちでは宮城県仙台市に次ぐ。比較的死者行方不明者が多く、浸水面積や浸水範囲内人口も多い。また、浸水範囲内の人口密度も大きい。津波は三陸地方から東北沿岸を南下するにしたがって小さくなるが、被害が大きい理由としては土地の利用形態によるのかもしれない。
参考資料
東北地方太平洋沖地震に係る人的被害・建物被害状況一覧 岩手県総務部総合防災室 平成24年7月18日 17:00時点
東日本大震災における被害等状況 宮城県 2012/07/06 16:00公表
平成23年東北地方太平洋沖地震による被害状況即報 (第679報)平成24年8月5日(日) 8時00分現在 福島県災害対策本部
平成22年国勢調査(総務省統計局)総務省 都道府県・市区町村別主要統計表(平成22年)
浸水範囲内人口 「総務省統計局 統計調査部地理情報室」
津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報) 国土地理院 平成23年4月28日
東北太平洋沖地震津波合同調査グループ ttjt_survey_07_Aug_2012_tidecorrected.xls