作成:2016/5

関東大震災の跡と痕を訪ねて

番号 : 秦野市 HN-12_2

秦野市蓑毛 --- 春嶽堰堤 ---

  • 所在地:神奈川県秦野市蓑毛
  • 震災当時は神奈川県中郡東秦野村
  • 対象物:春嶽(岳)堰堤
  • 堰堤の建設年:大正15年
  • 交通:小田急小田原線「秦野駅」駅より蓑毛行バス終点22分(行程約6km)
  • 蓑毛橋より約1.2kmで春嶽堰堤
写真1 ヤビツ堰堤(ヤビツ峠に向かって金目川を横断する箇所)付近から上流方向を望む

写真1

ヤビツ堰堤付近から上流方向を望む

上流側には木々に隠れて、春嶽副堰堤と春嶽堰堤がある

震災当時はこの付近も斜面の崩壊が激しかったようである


写真2 春嶽堰堤は髭僧の滝(ひげそうのたき)に向かう途中に見える

写真2

春嶽堰堤は髭僧の滝(ひげそうのたき)に向かう途中に見える(写真右下)


写真3 大正15年に建設された春嶽堰堤

写真3

大正15年に建設された春嶽堰堤


写真4 髭僧の滝とその説明板

写真4 髭僧の滝とその説明板

撮影:2017/4


関東大震災と丹沢山地の崩壊

丹沢山地では至るところで崩壊しましたが、資料によると、崩壊の状況を次のように記しています。

<資料2より>

「中丹澤・東丹澤の地帯、蛭ヶ嶽・塔ヶ嶽を含む高峻な山岳地帯は、中腹以上は概ね崩壊して基岩露出し、一望稜々たる山容は、宛もアルプスの連山を見るがよう」


<資料1より>

山麓に位置する蓑毛地域は、金目川の上流にあたる大山、春岳沢、ヤビツ峠、にかけて地震による崖崩れが多かった。小蓑毛から山地を眺めると、赤褐色のローム層が随所に露出し、被害の大きさを物語っていた。晴れた日、山風が吹くと山体に黄土色の砂煙が舞い上がっていた。

震災後に建設された春嶽堰堤(砂防堰堤)

地震による崩壊と砂防堰堤の建設

崩壊した土石や樹木は沢に転落して沢を埋めました。沢に堆積した土石や樹木は川の流れを遮り、天然ダムの様相を呈しました。大雨の度に、土砂や樹木が土石流となって流れ下れ、下流に被害をもたらしました。山を安定化させ、土砂災害を防止するため、震災から3年後に完成したのが春嶽堰堤です。

蓑毛からヤビツ峠に向かって進み、最初に金目川を渡る箇所には、道案内板があります。この案内板には左側の矢印の下に髭僧の滝530m、右側の矢印の下に蓑毛バス停1100m、中央に春嶽堰堤とありますが、ここからは木々が障害となり春嶽堰堤は見えていません。下流側にあるのは昭和29年建設のヤビツ堰堤(高さ4.0m)で、上流側の近くに見えるのが昭和40年建設の春嶽副堰堤(高さ10.0m)であり、大正15年建設の春嶽堰堤(高さ12.5m)はその上流側にあります。

春嶽堰堤は写真3に示すように、表面は練石積(モルタルやコンクリートを併用した石積)で谷積になっています。高度経済成長期のように、一時はコンクリートがむき出しあるいはコンクリートブロックの構造物が一般的でしたが、平成になり、自然環境や景観に配慮するようになって、練石積や石積が見直されています。春嶽堰堤の上流にある金目ダム(砂防堰堤)は平成6年に建設されていますが、表面は春嶽堰堤と同様じ練石積です。

春岳沢(春嶽沢)

関東大震災で崩壊が激しかったという春岳沢はどこを指すのでしょうか。その範囲は必ずしも明確とは言えません。

春岳沢は、金目川の最上流で、髭僧の滝の上側に二股があり、左支川を春岳沢、右支川をモミジ谷と呼ぶようです(資料3の地図より)。一方、春嶽堰堤よりも下流側にあるヤビツ堰堤の銘板に記されている施行位置は、「秦野市蓑毛 本宿 春嶽地先」とあります。春嶽地区の先にある沢であることから春岳沢と呼ばれていたのであれば、上記の左支川だけではなく、右支川およびその下流域(髭僧の滝、春嶽堰堤、ヤビツ堰堤)も春岳沢に含まれる可能性があります。簡単に言えば、里山から先の金目川が春岳沢に相当するのかも知れません。

春嶽堰堤の読み

春嶽堰堤の春嶽は春岳とも書きますが、春嶽(春岳)を何と読むのでしょうか。

周辺には、春嶽と冠した名として、春嶽山、春嶽沢、春嶽湧水などがあります。春岳沢は「はるたけさわ」、春岳山は「はるたけやま」、春嶽湧水は「はるたけゆうすい」ですので、春嶽堰堤は「はるたけえんてい」でしょう。一方、春嶽堰堤の上流約170mの位置にある髭僧の滝(写真8参照)は、胸まで伸びる長いひげを生やした僧春嶽に由来(滝前面の案内板より)するそうですが、僧の名前の読みは「はるたけ」よりも「しゅんがく」が似合います。春嶽堰堤も「はるたけえんてい」より「しゅんがくえんてい」の方が似合いそうです。

なお、今はない地区名「春嶽」については未だ調べていませんが、今後、春嶽の由来などが分かるかもしれません。




参考資料

資料1 秦野市(1992)秦野市史 通史3 近代,806p

資料2 内務省社会局(1926) 大正震災志 上,1236p

資料3 ブログ ikuko~沢風に誘われて~ 丹沢 金目川春岳沢http://siraneaoi403.at.webry.info/201511/article_1.html

秦野市(1998)丹沢 山のものがたり,218p