建築年代と被害

鉄筋コンクリートの耐震性

関東大地震(1923年大正12年)では、レンガ造の建物や耐震性の劣る建物が大きな被害を受けたのに対し、鉄筋コンクリート造の建物が耐震性を示しました。また、福井地震(1923年昭和23年)では、木造建築の被害が極めて大きい中で、大破した鉄筋コンクリートの建物のは大和百貨店だけであり、鉄筋コンクリート造の建物の耐震性が確かめられました。

ところが、十勝沖地震(1968年昭和43年)や兵庫県南部地震(1995年平成7年)では耐震性があると思われていた鉄筋コンクリート造の建物が大きな被害を被りました。その理由に、戦後から1971年の建築基準法改正までの間に建てられた耐震性の劣る鉄筋コンクリート造りの建物の存在が指摘されています。

建築年代と被害建物の関係

図1 建築年代と被害建物の関係(鉄筋コンクリート造)

(日本建築学会 わが家の耐震 -RC造編-より、原典は建設省:平成7年度阪神・淡路大震災建築災害委員会)

校舎の建築年代別被害状況

図2 震度7相当地域に建つ校舎(167棟)

(島本慈子 倒壊 筑摩書房より、原典は日本建築学会学校建築委員会耐震性能小委員会:文教施設の耐震性能に関する調査研究報告書 平成8年3月)

鉄筋コンクリート建物の建築年代別被害

兵庫県南部地震は現在の大都市が襲われた直下型地震であり、多くの鉄筋コンクリート造りの建物が被害を受けました。鉄筋コンクリートの被害状況を調査することによって、建築年代によって耐震性が異なることが分かりました。

図1 は兵庫県南部地震で大きな被害を受けた神戸市中央区のある地域の鉄筋コンクリート造建物の被害調査結果を示すグラフであり、建築年代を次の建築基準法の改正に合わせて3つに区分しています。

  1. 1971年(昭和46年)…… 設計式や配筋の強化
  2. 1981年(昭和56年)…… 新耐震設計法の導入

図1によると、中破・大破・倒壊又は崩壊など、大きな被害を受けた鉄筋コンクリート造の建物は1971年以前に建てられた建物に多いことがわかりました。特に、大破・倒壊又は崩壊は1971年以前に建てられた建物は全国どこにでも存在し、耐震性が劣ったまま現在も使用されています。

図2 は建築学会が震度7相当地域に建っている校舎176棟を調査した結果であり、縦軸ΣDは倒壊を100、無被害を0とし、両者の間を被害の程度に合わせて数値をあてはめています。

この図によれば、倒壊あるいは大破に相当する大きな被害が発生しているのは1952年(昭和27年)頃から1972年(昭和47年)頃までの20年間に建築された校舎が該当し、この期間より以前・以後に建てられた校舎は被害が少ないという結果が得られています。なお、1937年(昭和12年)から1948年(昭和23年)(戦中から終戦直後)までは校舎が建てられていなためか、対象となる校舎がなく、グラフでは空白になっています。1937年(昭和12年)は盧溝橋事件で日中戦争に突入する年ですが、これ以前の約10年間に建てられている校舎は軽微な被害だけであり大被害を受けたものはありません。この期間に建てられた校舎は棟数が少ないことを考慮しても十分に耐震性を示しているということができます。

島本慈子著「倒壊 -大震災で住宅ローンはどうなったか-」筑摩書房によれば、

・・・「古いものが危なかった」と言われてきたその陰で、戦前のコンクリート建築物が生き残っていたという事実に私は驚く。そして、建物の耐用年数というものについて、改めて考えさせられる。・・・中略・・・、全体のデータはつかめないものの、少なくとも学校建築に関しては、戦前のコンクリート建物が新耐震基準なみの強度を発揮したことが明らかになっている。いまふうの感覚で言えば耐用年数などとっくに過ぎているはずの校舎が、これほど強かったのはどうしてなのか。そこにはさまざまな要素が影響しているだろうが、やはり根本にある設計思想の中にも何かの秘密が隠されているのではないだろうか。・・・中略・・・、しかし、結局ここに見えるのは戦前の人達の地震への畏怖ではないかと私は思う。想定を超えることが自然界には起こりうる、だから用心しておこうという姿勢。その姿勢こそが、六十年以上も風雨にさらされてきた戦前の建造物を、あの激震でも生き残されたのではないか。

と述べ、戦前のコンクリート造の建物が新耐震基準後の建物なみの耐震性を示したことが示されています。また、西澤英和/円満字洋介著「地震とマンション」 ちくま新書では、「戦前のRC造建築はなぜ壊れなかったのか」について解説し、戦争という非常事態の戦時規格が戦後に引き継がれたために戦後のコンクリート造建築に大きな被害が生じたと述べています。

戦後約20年間に建てられた建物が残っていると、どの都市が地震に襲われても同じような被害が発生する可能性があることが予想されます。コンクリート造の建物の耐震性能は、年月による劣化現象や建築技術の進歩よりもその時代の建築に対する考え方と大きく関係しているようにみえます。

戦後まもない1923年(昭和23年)に発生した福井地震では、鉄筋コンクリート造の建物が耐震性を示したのは、耐震性の劣る鉄筋コンクリート造の建物群がまだ建てられていなかったためであったと納得できます。