第三部 過去の地震の特徴と教訓

  3.5 スマトラ島沖地震(インド洋大津波)

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インド洋大津波 ビーチに押し寄せる津波 2004年12月26日スマトラ島沖で巨大地震が発生し、この地震によって生じた津波がインドネシア、タイ、インド、スリランカなどの諸国の沿岸を襲いました。津波による死者は28万3千人以上にのぼり、未曾有の大災害となりました。

 被害が最も大きかったのはインドネシアのアチェ州(スマトラ半島)で、州人口約400万人のうち20万人以上が犠牲となりました

絵 ビーチに押し寄せる津波
(タイ国 ピピ島 ロ・ダラム湾)
ピピ島での津波高は約6m
本の紹介ページへ 鵜飼康子著
津波 〜ASIAN TSUNAMI〜

2008年12月16日発行
早稲田出版

 この本は津波(インド洋大津波)に遭遇して重傷を負った日本人女性の手記です。
 津波来襲時、彼女はタイ国ピピ島 ロ・ダラム湾のビーチにいました。
鵜飼康子著 「津波」の紹介ページにリンク

地震概要

津波の伝播時間
災害規模と地震規模
津波高
津波被害

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地震概要
発震日時:タイ時間 2004年12月26日午前7時58分 日本時間 同日午前9時58分
モーメントマグニチュード:9.0*
発震位置:インドネシ アスマトラ島西方沖(図1の赤星印の位置
発震機構:北東-南西方向に圧力軸を持つ逆断層型(ハーバード大学CMT解)
断層破壊の継続時間:500〜550秒
余震活動:本震-余震型で推移
余震域:本震の位置から北方約1200kmまで拡大

 *モーメントマグニチュード9.0は米国地質調査所を始めとして多くの機関や研究者によって報告されていますが、断層の長さが長大であるため既存の計算システムでは不十分であるともいわれています。研究者によっては9.1〜9.3が示されています。
 例:地球シミュレータよる計算結果よりMw=9.1
   埋込式体積ひずみ観測結果よりMw=9.1〜9.2
   深部ボアホールひずみ観測結果よりMw=9.2
   地球の自由振動の観測結果よりMw=9.1〜9.3


津波の伝播時間

津波の伝播時間 図-1によると、タイのプーケットやスリランカには発震から2時間程度で到着しています。
 水深の大きなインド洋では速度が大きくコンターが開いているのに対して、水深の浅いマレー半島沿岸やマラッカ海峡ではコンターが混んでおり伝播速度が小さいことを示しています。

断層の動きと海面変化
津波波源域の海面の変化は断層の動きにしたがって西側が上がり東側が下がりました。東側に位置するタイ国プーケットやピピ島では引き波から始まりました。
図-1 津波の伝播時間(単位は時間) 産業技術総合研究所
 http://staff.aist.go.jp/kenji.satake/Sumatra-J.htmlより
 赤丸は本震後24時間以内に発生した余震(アメリカ地質調査所による)
 国名など追加編集
上の図(断層の動きと海面の変化)も
http://staff.aist.go.jp/kenji.satake/Sumatra-J.htmlより

災害規模と地震規模

グラフ 世界の被害地震ワースト10  図-2によると、他を抜きんでている死者20万人以上の地震が3つあり、スマトラ島沖地震による死者(28万3千人以上)が最大です。3つの地震とも1900年台以降に発生しており、近代以降の人口増加と関係が大きいと考えられます。このことから、地震による大災害は過去のものではなく、将来に向かって直面する問題です。
 なお、4番目に大正12年9月1日に発生した関東地震(関東大震災)が入っています。
 また、地震の規模をモーメントマグニチュードMw*で比較してみると、下の表のようになります。1700年以降に9.0以上が5例あり、この中にスマトラ島沖地震が入っています。
 上記より、スマトラ島沖地震は過去に例をみない大災害を招いた屈指の巨大地震であることが分かります。
地震名 年月日 Mw その他
チリ地震 1960年5月22日 9.5 死5700人
アラスカ地震 1964年3月27日 9.2 死131人
アリューシャン地震 1957年3月9日 9.1 死0人
カムチャッカ地震 1952年11月4日 9.0 死多数
スマトラ島沖地震 2004年12月26日 9.0 28万3千人以上
 
*モーメントマグニチュードMw
 マグニチュードはいくつかの方法で決定される。表面波マグニチュードMsや実体波マグニチュードmbは地震動の振幅から決定されるのに対して、モーメントマグニチュードは断層運動の規模から決定される。表面波マグニチュードや実体波マグニチュードは地震の規模が大きくなると頭打ちになる現象が認められることからマグニチュードが8.5程度以上のような規模の大きな地震はモーメントマグニチュードMwで表現するのが妥当であるとされる。
 なお、日本で用いられているマグニチュードは気象庁のマグニチュードであり、実体波マグニチュードの1種である。
図-2 1700年以降の世界の被害地震 ワースト10
データは理科年表平成18年版 世界のおもな大地震・被害
今年2008年5月に四川大地震が発生し、死者は約7万人といわれる。
四川大地震はメッシナ地震の人的被害に次いで6番目になります。(グラフには未表示)

津波高

スマトラ島北部 位置図 スマトラ島最北部の州都バンダ アチェ周辺の津波高

最北端の北側を海に面したバンダ アチェ(Banda Aceh)での津波高は6〜12m。人口25万人のバンダ アチェ市では約3万人の犠牲者が発生しました。
 「津波によって中心街の6割が流失,浸水して市内のホテルのすべてが営業を停止していた.そのうえ,銀行もほとんどが閉鎖状態であった.津波で被災した街区は,眼を覆いたくなるような惨状を呈していて,悪臭が鼻を突き,不潔な泥水が地面を覆い,釘の突き出た材木が一面に散乱していた.調査団員はみな連日,人間の死体を目撃した.」
(「」内は資料7)より転写)

 津波の浸水域には浮遊物のほかに、海から運ばれたと思われる直径1mを越えるサンゴの塊や岩石「津波石」、海浜砂を主とする「津波堆積物」が残されていました。

 バンダ アチェでは海岸から約5km離れた市内中心まで船が打ち上げられていました。それでも、バンダ アチェはその北に連なる島々の影に守られる箇所に位置していました。 一方、インド洋に直面した地域では津波の直撃を受けました。ロックガ地区では家屋の断片さえ残されておらず、数本の木が残されているのみの地域もありました。
 アチェ州西海岸での津波高は一様に15〜35m(潮位補正前の値)程度でした。
 最大の津波高はバンダ アチェから約20km南部の半島で計測された48.9mで、住居地近くを襲った津波高の世界記録とされています。
以上は資料1)2)3)8)より
 図-3 スマトラ島沖地震の津波浸水高さ分布,松山氏作図による
カオラック、プーケット位置図 タイ国
カオラック、プーケット周辺の津波高


カオラック(Khao Lak):9.90m 海岸から132m地点の瓦が流されている屋根の高さ
 潮位補正して8.8m
カオラック(Khao Lak):10.70m 海岸から286m地点の浸水しているコテージの軒先
 潮位補正して9.6m
ピピ島(Phi Phi isl.):6.89m 海岸から242m地点 家の壁の泥の線の高さ
 潮位補正して5.84m
カオラック、プーケット周辺の津波高
図-4 カオラック、プーケット周辺(タイ国)の津波高
http://www.drs.dpri.kyoto-u.ac.jp/sumatra/thailand/phuket_survey.html
2004年スマトラ沖地震津波 Phuket(Thai)現地調査より

津波被害 

図−5の国別死者/行方不明者数(人的被害)によると、
@インドネシアの被害が圧倒的に多く、1国で死者と行方不明者の合計は24万人です。
A人的被害はインドネシアに次いで、スリランカ、インド、タイと続きます。
B被害は多国間にわたり、アフリカ東岸まで及んでいます。

 被害が大きくなった理由として、津波の規模が大きかったことが主な原因ですが、1因にはインド洋を対象として津波警報システムがなかったこと、インド洋沿岸の住民に津波に関する知識がなかったことなどが挙げられています。
図-5 国別死者/行方不明者数(人的被害)
WHOの発表の他、インターネット上からの調査
資料8)のデータより作図

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本文中記載外参考資料
 1)鎌滝孝信 西村裕一 2004年スマトラ島沖地震津波調査報告 地学雑誌 114 1) 2005
 2)鎌滝孝信 西村裕一他 2004年スマトラ・アンダマン海地震津波調査報告:スマトラ北西端における津波波高と堆積物の分布 活断層・古地震研究報告 No.5 2005
 3)郡司嘉宣スマトラ島地震津波の最大被災地・Banda Aceh市の調査結果 日本地震学会ニュースレターVol16No.6
 4)松冨英夫 2004年スマトラ島沖地震津波と被害想定・減災の視点からみた課題 地質と調査 2005年第2号
 5)佐藤愼司 インド洋大津波とスリランカ島の被災について 河川 2005年7月号
 6)平石哲也 スマトラ島沖地震による津波災害現地調査団報告(速報) (タイ大国編) 港湾空港技術研究所
 7)熊木洋太 スマトラ沖大地震及びインド洋津波被害政府調査団としての調査 国土地理院時報 2006 No.109
 8)インド洋津波被害調査団報告 災害に強い沿岸域の創造に向けて 平成18年1月 日本海洋開発建設協会 海洋工事技術委員会
 9)佐竹健治 スマトラ沖大地震とインド洋の津波 JGR 2005 No.1
 10)その他、地震予知連絡会会報 第74巻

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