地震と津波

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西暦1700年以降約300年間には死者・行方不明者千人以上出した地震が23回あり、そのうち10回は津波による被害あるいは津波が被害を大きくしています。

  1. 世界共通語 tsuname の由来
  2. 新しい津波警報
  3. 津波の高さはまちまち
  4. 津波は沿岸で高くなる
  5. 津波の速度
  6. 津波被害
  7. 発生が懸念される巨大津波

世界共通語 tsuname の由来

  1. 1896年(明治29年)の明治三陸地震津波では、津波が三陸沿岸に来襲し、約22,000名もの犠牲者を出しています。この災害は世界各国に伝えられ、それ以後、津波はtsunamiとして世界共通語になったとされる。*1
  2. 1946年アリューシャン列島で起きた巨大地震による大津波がハワイ列島を襲った際、tsunamiという言葉がハワイの地方紙に用いられたのが始まりとされる。*2

新しい津波警報

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では甚大な被害が発生し、気象庁発表の津波警報にいくつかの問題点が指摘されました。

  1. マグニチュードが過小評価され、その結果として津波の高さも過小評価されたこと、
  2. 津波警報更新の続報が迅速に発表できなかったこと、
  3. 「予想される津波の高さ3メートル」という具体的な表現によって、津波は防潮堤を越えないと判断されこと、
  4. 津波の観測結果「第1波0.2メートル」などの表現から津波はたいしたことはないと判断されたこと、

などで、このうち3,4は警報の出し方の問題であり、改善が検討されて、予想される津波の高さを「巨大」などの定性的な表現で発表することなどが決められました。新しい津波警報の運用は平成25年3月7日正午から開始されました。

気象庁 「津波警報・注意報、津波情報、津波予報について」にリンクします。

津波の高さはまちまち

図1 宮古湾の津波の高さ(浸水高・遡上高)東北地方太平洋沖地震

図1 宮古湾の津波の高さ(浸水高・遡上高)東北地方太平洋沖地震

東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ ttjt_survey_07_Aug_2012_tidecorrected.xlsより

宮古湾沿岸のデータで信頼度大なるものを使用

東北地方太平洋沖地震では大規模な津波が太平洋沿岸の各地に来襲しました。津波の高さに関するデータが今までとは比べられないほどの大量に取得されました。図1は宮古湾沿岸の津波の高さ(遡上高と浸水高)を示したグラフであり、図の右側が北側(湾口)です。

図1より、次のような特徴が読み取れます。

  1. 湾口付近に遡上高の高い個所があり、20m以上に達する。
  2. 湾口付近の浸水高と遡上高の高さの違いは最大20m程度である。
  3. 浸水高に注目すると、湾口から奥に向かって高くなる傾向がある。
  4. 浸水高と遡上高を併せた高さのバラつきは10m強である。

上記のように、同じ宮古湾といっても、津波の遡上高や浸水高はまちまちであり、浸水高○○m、遡上高○○mとは一言では表せません。位置的にほとんど同じ場所であっても津波の高さは10m程度か、それ以上のバラツキがあるのが津波の実体であると思われます。

このような津波の高さの違いは陸上の地形の影響が大きいと考えられ、遡上する高さを予想することは困難であるのが現実です。

津波ハザードマップの浸水範囲はある条件で推定した仮の範囲であり、実際には場所によって違いが大きいことを認識したうえで利用することが必要です。

津波は沿岸で高くなる

海岸に侵入する大津波(絵)

海岸に押し寄せる大津波(パソコンによる描画)

津波は水深の深い外洋では波高はあまり高くありませんが、沿岸部に近づくと、波高が高くなり、時には海の壁あるいは屏風を立てたようなと表現されるような高波が沿岸部を襲うことになります。襲ってくる津波は、引き潮から始まる場合もあれば、最初から押し寄せてくる場合もあります。また、小さな引き潮の後に大きな津波が押し寄せるなど一様でなく、津波の第一波よりも二波、三波目が大きいこともあります。

沿岸部で波高が高くなる理由は次の通りです。

  1. 浅水効果
    津波は外洋ではゆったりとしており、波長(波の山と山あるいは谷と谷の距離)は数10kmにもなります。津波の速度は水深に依存し、浅いほど速度が遅くなります。外洋ではゆったりとしていた津波が水深の浅い沿岸に近づくと、波の先端ほど水深が浅いので、水深の浅い津波の先端部にブレーキがかかり、津波の前面に後方部が乗り上げるような形となって波高が高くなります。
  2. 集中効果
    V字型の湾内に津波が入り込むと、両側から圧縮されるような現象が生じ、狭い湾奥になるほど波高が高くなります。
  3. 共鳴効果
    津波の波長が湾の大きさの4倍程度である場合は、湾奥での波高が次々と高くなる現象が生じます。たらいの水を大きく揺するには、たらいの大きさによって揺すり方のテンポが違うのと同じように、湾の大きさに共鳴しやすい波長の津波が湾内に侵入すると共鳴効果が生じます。
  4. その他の効果
    海底地形によって進路が屈折する現象などが加わります。
    海岸から沖合いに向かって等深線が張り出すような海底地形を呈する箇所では津波の進路が屈折することにより集中する現象が生じます。これをレンズ効果といいます。

津波の速度

水深が数十メートル以上である場合の津波の伝播速度cは、重力の加速度gに水深Dを掛け、平方根を取ったもので表されます。

津波の伝播速度 計算式

この式によれば水深 4,000mの外洋では、1秒間に約200m(1時間に約700km)の速度で進み、ジェット旅客機の巡航速度と同程度になります。水深 100mでは、1秒間に約30m(1時間に約110km)で、高速道路を走る車より少し速い程度になります。

津波が陸に上がってくる時の速度は、1秒間に約10m程度であるといわれており、津波が目前に迫ってくると逃げるのが困難です。

津波被害

西暦1700年以降の約300年間には死者・行方不明者千人以上出した地震が24回あります。これらの地震のうち津波による被害あるいは津波が被害を大きくした地震は11回あります。これらの地震を年代順に並べ、表1に示します。

表マーク表 1 津波と被害地震(1700年以降で死者・行方不明者千人以上)(理科年表より)
発生年月日 地震名 地域 死者・行方不明数 マグニチュード(M) 津波規模* 主な被害形態など
1703/12/31(元禄16年) 元禄地震 江戸・関東諸国 10,000 8.1 3 火災、津波 小田原城下全滅、東海道は川崎から小田原までほぼ全滅
1707/10/28(宝永 4年) 宝永地震 五畿・七道 少なくとも20,000 8.4 4 倒壊、津波の被害大(1ヵ月半後富士山噴火)
1741/8/29(寛保 1年) 渡島津波 渡島西岸・津軽・佐渡 2,000 ----- 3 津波
1771/4/24(明和 8年) 八重山地震津波 八重山・宮古両群島 12,000 7.4 4 津波(震害なし)
1792/5/21(寛政 4年) (眉山崩壊) 雲仙岳 15,000 6.4 3 眉山の崩壊による津波
1854/12/23,24(安政1年) 安政東海地震 東海、東山、南海諸道 合わせて約4,000? 両者とも8.4 3 安政東海地震の32時間後に安政南海地震が発生、両者の被害を区別できない 火災、津波
安政南海地震 畿内・東海・東山・北陸・南海・山陰・山陽道 4
1896/6/15(明治29年) 明治三陸地震津波 三陸沖 22,000 8 1/2 4 津波(震害なし)
1933/3/3(昭和 8年) 三陸地震津波 三陸沖 3,064 8.1 3 (地震後25~40分後に大津波)
1944/12/7(昭和19年) 東南海地震 三重県沖 1,251 7.9 3 倒壊、津波
1946/12/21(昭和21年) 南海地震 紀伊半島沖 1,330 8.0 3 火災、津波
2013/3/11(平成23年) 東北地方太平洋沖地震 三陸~福島県沖 19,000 9.0 4 津波
(安政東海地震と安政南海地震の地震を1つの地震として扱っています。)
表中の津波規模は、次の通りです。
  ‐1:50cm以下(無被害)
  0:1m前後
  1:2m前後
  2:4~6m程度
  3:10~20m程度
  4:最大30m以上

津波被害およびその後遺症が長年にわたって続いたことを示す事例としては、1771年の八重山地震津波の後、疫病や飢饉に苦しめられ、更に人口が減少し、津波以前の人口に戻ったのは148年後であったことや1896年(明治29年)の明治三陸地震津波でも人口が減少し、岩手県気仙郡では他地方からの移住民を募集する移住民補助規則が制定されたことなどがあります。

津波被害が太平洋側に多いのは、千島-日本海溝、相模トラフ、駿河-南海トラフ、南西諸島海溝でプレート境界(海溝)型の巨大地震が歴史的に繰り返して発生するためですが、最近の地震では、1983年(昭和58年)の日本海中部地震や1993年(平成5年)の北海道南西沖地震のように、津波による大きな被害が、太平洋側以外でも発生しています。

発生が懸念される巨大津波

北海道太平洋沿岸(千島海溝の地震)

北海道東部千島海溝沿い(十勝沖、根室沖)ではマグニチュード8クラスのプレート境界型地震が繰り返して発生*3していますが、津波堆積物の調査から、これらの地震とは別に巨大な津波を伴う地震が平均400~500年間隔で発生していることが明らかになりました。この津波は連動型巨大地震によるものであると考えられ、テフラの年代より、前回の地震は17世紀に発生したことわかりました*4。この地震は2012年5月15日の新聞報道によると1611年の慶長三陸地震であった可能性が高いとされています。北海道・東北地方でもマグニチュード9クラスの連動型巨大地震は数百年という単位では珍しい地震ではなく、実際に起こりうる地震であることが指摘されています。

三陸沖(アウターライズ地震)

三陸地方は東北地方太平洋沖地震によって生じた津波に襲われたばかりですが、東北地方太平洋沖地震が発生したことによって、発生しやすくなったといわれるのがアウターライズ地震です。1933(昭和8)年の三陸沖地震は正断層型の地震で、アウターライズ地震であるとされています。

東海地方~四国沖(南海トラフを震源とする地震)

南海トラフを震源とする地震は歴史的に繰り返して発生しており、1944年の昭和東南海地震・1946年の昭和南海地震が発生しましたが、駿河湾から御前崎沖を震源とする東海地震は発生することなく今日に至っています。駿河湾から御前崎沖を震源とする東海地震が単独で発生することを想定し、「想定東海地震」と呼びその対策が取られてきました。想定東海地震の発生が切迫していると指摘(1976年)されてから、2011年で35年が経過しましたが「想定東海地震」は未だ発生していません。

南海トラフを震源とする地震は、東海地震・東南海地震・南海地震として連動して同時的に発生する傾向があるので、「想定東海地震」が発生していない現在、連動巨大地震への可能性が高まっていると考えられています。

代表的な連動地震としては1707(宝永4)年に発生した宝永地震であり、激しい地震動と津波により2万人もの犠牲者が出ました。さらに、1605(慶長9)年の慶長地震は津波地震であったとされ、大きな揺れを伴わず、津波だけはしっかり発生させた特異な大地震だったと言われています。津波地震は揺れが激しくないことから、津波を警戒をすることなく、突然にして大津波に襲われることのある恐ろしい地震です。

参考資料

*1 今村文彦 津波はなぜ起こる? 地震の科学 パリティ編集委員会編 1996

*2 都司嘉宣 津波の比較史料学 歴史・災害・人間 上巻 2003

*3 十勝沖:1843(天保14)年(M8.0)、1952(昭和27)年の十勝沖地震(M8.2) 根室沖:1894(明治27)年(M7.9)、1973(昭和48)年の根室半島沖地震(M7.9)などがある。「次の地震はどこか! 宮帯出版社 宍倉正展 2011」より

*4 七山太他 北海道東部、十勝海岸南部における17世紀の津波痕跡とその遡上規模の評価 活断層・古地震研究報告 No.3,p.297-314 2003

*4 七山太他 イベント堆積物を用いた千島海溝沿岸における先史~歴史津波の遡上規模の評価 -十勝海岸地域の調査結果と釧路海岸地域との広域比較- 活断層・古地震研究報告 No.2、p.209-222 2002

*4 七山太他 イベント堆積物を用いた千島海溝沿岸における津波の遡上規模の評価 -根室長節湖、床潭沼、馬主来沼、キナシベツ湿原および湧洞沼における研究例- 活断層・古地震研究報告 No.1,p.251-272 2001

*4 宍倉正展 次の巨大地震はどこか! 宮帯出版社 2011