――そして、輝きは続く





「ただいまー」

「あ、おかえりなさーい」

半年ぶりの聖なる森。

あたしたちの住んでいた小屋のドアをたたけば、パッフェルさんが顔を覗かせた。

あたし達は彼の提案で、ゼラムで調べ物をしてたんだ。

そう。アメルを元に戻す方法を。

ネスはそれを求め、旅に出たってエクスは言ってた。

あたしがアメルを待っている間、ネスは前向きになってたんだ。

あたしたちは徹底的に資料や文献をあさった。アメルの世話は、パッフェルさんに頼んで。

結果は惨敗。何も分からなかった。

でも、そういうことをしてて思った。

やっぱり、このままじゃダメだって。

だから――

「おいニンゲン、何をボケッとしてやがる?」

「あ、バルレル達は先に準備しといて。あたし、先にアメルに会いにいってくる」

「はやくしろよ」

そう

あたしたちも、旅に出る事にしたんだ。ネスを見習って。

待つのは、性に合わないから

「来たよ、アメル」

彼女は、今日も静かに光を降らせていた。

あたしは彼女の幹に、しがみつくようにして抱きつく。

「あのね、あたし旅に出る事にしたの」

枝が、あたしの声に答えるようにさわさわと揺れた。

あたしは目を閉じる。

「ネスもね、旅に出たんだって。あたしたちが、ゼラムに言ってる間に、ね。

……薄情よね。行く前に一言でもいいから、かけてくれれば良かったのに」

苦笑

でも、アメルの前で感情は隠せなかった。

伏せた目の奥が、じわりと熱くなって、涙がこぼれる。

あたしは目を開けて、アメルを見上げた。

アメルは黙っていて、ただ枝葉を風にそよがせている。

不思議とその音は優しかった。

「アメルは言ってたよね。人間は、自分の意思だけで変われるって。あたし達、相変わらず不器用にしか生きられないけど……」

でもきっと、誰も悲しまずにすむ未来が来るように、あたし達、頑張れるよね。

頑張れるって……そう信じても、いいよね?

「だから……ねぇアメル? ここから見守っててね……」

この同じ空の下の何処かにいるネスの事も、あたし達の事も。

背後で、あの人があたしを呼ぶ声がした。

あたしは振り向き、無理はしなくてもいいという彼に抱きつく。

彼はちょっと驚いたようだったけど、何も言わずに抱きしめ返してくれた。

しばらくして、戻ろうか、という彼に頷いて、彼の右手にあたしの左手を絡めた。

手を握るときはいつも左手だね、という彼にあたしは笑顔を見せて、でも理由は教えない。

だって、あたしの右手はネスとつなぐためにあるから。

ちっちゃい頃、脱走したあたしを迎えに来るのはいつもネスだった。

そして彼は小言を言いながら、いつも手をつないでくれた。

彼の左手で、あたしの右手を包み込むようにして。

それは大きくなってからも同じで、

だから右の手はネス専用なんだ。

いくら大好きなあなたでも、これだけは譲れない、あたしとネスの秘密。

彼はあたしの笑顔に小首を傾げつつ、歩き始めた。

あたしもそれに習う。

と、不意に大きな風が吹いた。

「!」

目も開けられないほどの突風に、アメルの体が大きく、強く音を立ててざわめいた。

――それが、アメルが手を振っているように、あたし達には思えて。

「「――行ってきます!」」

あたし達は笑顔で彼女にそう答え、バルレルとパッフェルさんの待つ小屋へと歩き出した。







ずっとずっと、これからもずっと、手を繋いで行けるのだと思っていた。

あなたの傍に誰が立とうとも、あたしの傍に誰がいようとも、

もう片方の隣に、あなたはずっといてくれると思ってた。

今、あなたはあたしの傍にはいないけど、

信じてる。

いつかまた会えるって

だって、あたしたちは同じ世界で生きているのだから。

そして、同じ世界で生きてる限り、

どうしたって、もう片方の手はあなたと手を繋ぐためにあるのだから。






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