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 私共が、生業としております「手描友禅染」というものは、一般的に
日本の誇りうる、数多の伝統文化の中の一つとして「伝統工芸染織技術」
と呼ばれております。
確かに、その名の示す通り、友禅染は長い歴史の伝統に、培われております。
一説に、元禄の初頭、宮崎友禅斎に依りその形を成した、と言われる友禅染は、
それより後三百年の長きに渡り、この現代に至る迄脈々と受け継がれて参りました。
更に遡れば、茶屋染、吉岡染、又室町・戦国の武家を彩った、辻が花。
古への、正倉院文物・宝物中のロウケチ・キョウケチ・コウケチ染の三染法等々、
友禅染に辿り着く迄の、染物の伝統と変遷の歴史は、とても一言では語り尽くせぬ
壮大なものがあります。
そこには、遥か遠く、シルクロードの山々を越え、海洋を渡り来たった「更紗」
の影響も又、色濃く反映されていることでしょう。
 技術は受け継がれ、心は研磨されて、洗練された一つの「形」が、「伝統の
文様」として、成立してゆきました。

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そこで今、私は思います。総てこの世の芸術と名のつく文化の中で、以上のような歴史と
           伝統を持たぬ世界が、果たしてありましょうや。仮に、ピカソやデュシャンが、それ迄の
      絵画の伝統に革命をもたらした・・・・又、サティやゲージが、音楽の概念に創造的実験を
      成功させた・・・・としても、それらは皆、大いなる文化の流れを思う時、当然生じるべく
      して生じた、一つの歴史的事件にすぎぬのではなかろうか?
      ウォーホルに代表される、POP ARTの流行も、美術史上に突発的に、何の脈絡もなくポンと
       出現したのでは決してなく、過去の大いなる美の遺産の集積があったればこそ、出るべくして
      「その時」この世に現れ出ることが、できたのではないでしょうか。
      宗達から発し、その後ほぼ百年を経て光琳へと受け継がれ、更に百年の後、文化文政期の
      抱一や北斎等の心を魅了し、やがては現在の友禅染の中にも、その流れの一端を伝える「琳派」
      の、時空を超えた雄大なる美の潮流が、歴史の精神を貫いているように。

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 そう考えれば、文化芸術とは、総じて「伝統的」以外の何ものでもあり得ません。
敢えて伝統工芸・友禅染に、「伝統」の二文字を冠すべき必要性は、存在しないのです。
更には、素材と表現手段の異なりこそあれ、「工芸」・「芸術」等々と分類する必要も
一切ないのだと思います。
 受け継ぐべき精神は普遍であっても、現代には現代の美学がある。
現代の中に瑞々しく息づいてこそ、「伝統」というものの真価がある。
 そう思った時、私の心には、翼が生えます。
感性は自由となり、今こそ「伝統の大空」の中を思う存分羽ばたくことが、出来るのです。
 自在なる心と、豊かなる創造性を養い、欲するままに自己の世界を表出してゆきたい!!
「伝統」の精神は、深く魂の泉底に秘めながら........。   

   
   
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