硝子を叩く不躾な音に気がつき目を上げると、駆け出しの雨粒が幾つか跡を作っている。いつの間にか空はどんより
と雲を張らせ、遠くのほうではどうやら雷の予兆が密かに鳴り始めているようだった。
 それをボンヤリと立ったまま眺め、いつの間にか一人きりになってしまっただだっぴろいリビングをぐるりと眺め、どう
にも霞んで仕方のない目を袖口で拭いながら、どうやらとんでもない失態をやらかしたことに漸く気がついた。
 

 下村の前で、泣いてしまった。
 

 理由は忘れてしまった。多分、いつもとそう変わらない下らない言い合いが発端だったと思う。何か理不尽なことを自
分が言ってしまって、下村が一つ一つ道理にかなった方法で、言い返して来たのだ。どうにもでたらめな事を言い過ぎ
た自覚はあった。それでも、あまりにも下村の言い分が道理にかなっていて、反論できなくなってしまったのだ。
 

 気がついたら、涙が勝手に溢れていた。

 
 それを見た下村はぎょっとして動きを止めて、次の瞬間にはくるりと踵を返してスタスタと部屋を出て行ってしまったの
だ。

 呆れたのだ。あの男は。

 自分の言いたい事を言いたいだけ言う自分に、気持ちを押し付けようとする自分に、いつでも傍にいようと付きまとう
自分に。

 どうしても、思うことを止められない自分に。

 そう思うと、よけいに涙が湧いて出た。自分でも情けないと思う。泣き落としなんてあんまりだ。
呆れられても仕方がない。

 でも、好きで、好きで、好きで、好きで。どうやっても止められないのだ。
 馬鹿みたいに泣くくらいに、好きでしょうがないのだ。

 ぼたぼたと床に垂れた涙が、惨めに跡を残して乾いていくのを眺めながら、どうしたらこれを止められるのだろうか
と、揺れる頭で考えていた。












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