ひたすら長くゆるく続く坂道をだらだと歩く。 照りつける太陽がアスファルトに染み込み、ゆらゆらといたるところで小さな蜃気楼を足元に作った。 それを踏み分けるようにして進みながら、ゾロはまたいつもの道を歩いていた。 ぶら下げたビニル袋に入ったスイカを落とさないように慎重に持ち直す。店を出る時にはキンと冷えていた表面には びっしりと汗が浮かんでいた。 今日に限ってどうして間違えてしまったのだろうか。 いつもの日課で歩く道を、今日に限って大幅に間違えてしまった。元々方向音痴ではあるが、きっとこの異常な暑さの せいだと理由をつけてゾロは項垂れ、大きく熱い息を吐いた。 そうやっていつも、方向音痴を笑っていたやつがいたっけな。 直射を浴びた頭はぼんやりと熱を持ち、浮かぶ思考はとりとめも無い。 夏の日差しに歪んだ記憶の帯は、今まできっちりと締めいていたその結び目を緩め、ずっと奥の方に沈めてあった、 古い記憶を掘り起こした。 ずっと、俺のそばを離れんなよ。お前、すぐどっか行っちまうから。 日差しみたいにキラキラと眩しい髪の色をして、からかうように、でも少し不安そうにそう言った男は、ゾロにばかり離 れるなと言いながら、ある日突然、自分の方から消えてしまった。 繋がれていた手を急に離された子供のように、ゾロはしばらく当惑し、わけもわからず立ち尽くした。 それももう、何年も前の話だ。 今ではもうあの時ほど自分も子供ではないし、少しはこの街の道にも詳しくなった。 新しく買った携帯電話にはいざとなれば助けてくれる友人達の番号がきちんと入っているし、道に人が歩いていれば 聞くことも覚えた。 もう、手なんか繋がなくても、俺はどこにも消えやしないのに。 それを望んでいたハズの男の方が、とっくの昔に消えてしまった。 「ごくろーさん。ありがとう」 そういって駄賃のようにスイカを切ってくれたのは、幼馴染で同級生のナミの姉のノジコだった。 日に焼けた肌が夏の光に健やかだ。 気風のいいこの姉を、ゾロはたいそう気に入っている。 「どうも」 生ぬるく甘さの増したスイカにかぶりつき、喉を鳴らしてゾロはスイカをほおばった。 暑さに焼けた喉を潤すやわらかく甘い水分に夢中になる。その横顔をノジコは楽しそうに眺めた。 「今年はどうするの?」 縁台に腰掛けて、スイカをむさぼるゾロに、ノジコは少しの期待を込めて問いかけた。 ゾロはスイカにかじりついたまま、座敷のテーブルで頬杖をつくノジコを振り返った。 「・・・・・・分かんねェ」 シャクッとスイカを噛み、フッフッと種を庭先に吐いた。 「でも、祭りまでそう日にちは無いじゃない」 「ああ」 夏の祭りまでもう一週間を切っている。 衣装にしろ手順にしろ、既に準備するには遅すぎるくらいだ。 「まだはっきりしないって、ナミが怒ってたわよ」 「あー・・・・・・。そうだよな」 それはゾロも分かっている。今まで何度か経験したことがあるとはいえ、いきなり参加するにはどうにも具合が悪い し、第一失礼だ。 皮の白い部分まできちんと食べてから、ゾロはスイカを置いた。 「ごちそうさまでした」 「おそまつさま。ゲンさんに、ありがとうって言っておいて」 「分かった」 「祭り、楽しみにしてるわ」 「・・・・・・ああ」 勝手に返事を決め付けて、ノジコは気をつけてね、と笑って手を振った。 夏の祭りは盆の時期に行われる。 ゾロも詳しいことは知らないが、なんでもあの世から先祖が帰ってくるのだそうだ。 それを祝うためなのか迎え入れるためなのかは知らないが、夏の祭りは踊って歌って盆を過ごす。 ゾロはその折、決まって太鼓を叩けと駆り出されるのだ。 「だって一晩中叩いていられるほど体力があるの、ゾロくらいなんだもん」 別に交代で叩けばいいだろう、と反論すれば、ふんっとナミは鼻で笑った。 「あんたどうせ踊らないじゃない」 娯楽の少ない小さな街では、盆の祭りも一大イベントだ。 みんなこぞって夏の夜を踊り明かす。 誰も望んで太鼓など。 「面倒なこと押し付けやがって・・・」 「なあに?なんか言った?」 みかんの木に寄りかかり、反論すればナミが覗き込むようにして問いかける。 この何事にも物怖じしない、負けん気の強い幼馴染に勝てたためしの無いゾロは、黙ってひとつ首を振った。 「安心なさい。お酒はいくらでも飲めるから」 まるで人をアル中のような扱いで諌めるナミを横目で睨むと、「あらあら」と母親のように肩を竦めた。 「途中でルフィも代わるって言ってるし。何も一人でやれって言ってるんじゃないのよ?」 「・・・当てにはならねェな」 「まあね」 どこへでも飛んでいく鉄砲玉のルフィが相棒では、当然こちらに分が悪い。どうせ屋台の匂いに釣られて行方不明に なるのが関の山だ。 ほぼ決定している予想にゾロはため息をついた。 「あーあ、サンジくんが居ればなぁ」 「・・・・・・」 ぽつりと呟いたナミの独り言に、ゾロは黙って目を瞑った。 ゾロの住む小さな街には高校が無く、隣町の小さな高校か、電車で何駅もかかる都心の高校まで行かなければなら なかった。 ゾロは子供の頃から近所の道場で磨いた剣の腕をかわれ、奨学生として都心の高校へ何駅もかけて通っていた。 サンジは高校の近くの、小さな食堂で働くコックだった。 安くて量が多くて味もいいその店は、学生たちの御用達で、ゾロも類にもれず部活の帰りに良く寄った。その時、ゾロ がぽろりとこぼした言葉がきっかけになり、いつの間にかサンジはゾロにとって最も親しい友人になった。 サンジの自宅は食堂の近くにあったが、何が楽しいのかサンジはあしげくゾロの家へ通い、その物怖じしない性格 で、あっという間にゾロの幼馴染達とも仲良くなった。そうして学校帰りのゾロにそのままついて来ては泊まってそのま ま一緒に通勤した。 そんな生活が3年続き、ゾロは高校を卒業した。 大学進学を勧められていたゾロだったが、結局は町へ戻り、昔通った道場で子供たちに剣を教える事となった。そう して望む職を得られたゾロを、サンジはまるで自分のことの様に喜んでくれた。 ゾロも嬉しかった。 ゾロの就職が決まった夜、サンジはいつものようにゾロの家を訪ね、今までで最も豪奢な料理を振る舞い、夜更けま で酒を飲み交わし、いつものように泊まって帰った。 そしてそれきり、サンジは消えてしまった。 元々相手の氏素性に興味のもてないゾロは、その時初めて自分がサンジの住んでいる正確な場所や住所を知らな いことに思い至った。 知っているのは無理やり押し付けられた携帯電話の番号だけ。 しかしそれも解約されて既に繋がらなかった。 サンジのいた食堂のおばちゃんも、サンジの行方は知らず、逆に「元気でいるかい?」と聞かれてゾロは黙って曖昧 に微笑んだ。 そうして結局何も分からないまま、風の噂で不吉な話を幾度か聞いたが、それ以来サンジとはそれきりだった。 「ゾロ、やっぱり今年も太鼓叩くんだって?」 次の日の朝、稽古を終えたゾロは衣装合わせに公民館へ行くと、ウソップが太鼓の皮を直していた。 「ああ、結局な」 大方予想はついていたのか、ウソップは驚くことなくそうか、頷いた。 「あ、お前の服、そっち」 キョロキョロと辺りを見回すゾロに、ウソップは長いすに置かれた籐で編まれた籠を指さした。中にはきちんと畳まれ た布がいくつか重ねてある。一番上の一枚を取り上げ広げると、懐かしい樟脳の匂いがした。 「今のお前だと、ちょっと小さいかもしれないなぁ」 広げたまま肩のラインを自分に合わせてから、ゾロはウソップの言葉に無言で同意した。 去年はそんな風に感じなかったが肩の幅が随分と足りないし、丈が幾分短い。一年でそんなに育ったろうかとなんだ か不思議な感じがした。 「俺はそんなにでかくなったのか?」 「そうだなぁ・・・毎日見ているとよく分かんねェけど。まあ、すくすく育ってんじゃねーの?」 夏は緑が育ち盛りだなあ、と随分間抜けなことを言うので、ゾロは手元の半纏を投げつけた。 「面はそっちの箱に入ってるぜ」 まあ、叩き通しじゃ、つける暇も無いかな。ウソップは相変わらずこちらに見向きもしないが、器用に頭から半纏をど かしながら言った。 「おお」 忘れるところだった、とテーブルの上に置かれた横に長い桐の箱に手を伸ばす。そっと蓋を開ければ、中には御面が 四つ、行儀よく並んで入っていた。 「今年も使われるのは二つきりか・・・」 自嘲気味に笑いながら、そっとその中から狐を模した面を手に取る。懐かしく目を細めたゾロに、ようやくウソップが 振り返った。 「いや、今年は三つだぜ」 「三つ?」 櫓の上で太鼓を叩くのは、本来は四人選ばれ順番に休憩しながら一晩を明かす。しかしここ数年はなり手が居らず、 もっぱら夜通しでゾロとルフィが叩いていた。 「俺とルフィと、あと誰かやるのか」 そんな事はナミから聞いていなかった。しかしそれが本当であれば正直助かる。 ナミには酒で黙らされたが、実際叩き始めてしまうと、飲んでいる暇などありはしないのだ。 相棒がルフィでは、ゆっくり酒を飲むなどまったく無理な話だった。 「なんかエースが戻って来てるらしいぞ」 「エースが?」 ゾロは驚いて声を上げた。 エースはゾロの幼馴染の一人で、ルフィの兄だ。数年前町を出奔してから連絡も無く、所在が知れぬまま数年が経っ ていた。時々思い出したように絵葉書が来るとルフィが言っていたのはいつだったろうか? 純粋に驚くゾロに、ウソップは「よかったなあ」と笑った。 「ルフィよりは幾分当てになるんじゃねーの?」 しかしそれはどうかな、と思うゾロだった。 さんざめく人垣の中央で、太鼓を叩けば人が踊る。 夏の夜は華々しく音をきらめかせ、ぼんやりと闇夜を照らすのはカンテラと無数の提灯だ。 広場に集まった人の群れは皆一様に浴衣を纏い、御面で素顔を隠している。 向こう側とこちら側の交わる夏の夕べはそんな得体の知れない者どもであふれかえっていた。 ゾロは櫓の上で絶え間なく太鼓のリズムを全身で刻みながら、それにあわせて跳ねる眼下の波に無闇に高揚し心が 湧き立つのが分かる。普段はあまり音楽を聴かないゾロだったが、この夏の一時だけは、音の申し子のように体が動 いた。生ぬるい空気や袂をさらう清涼な風、踏みつけられる土の匂い、小川を流れる水の気配、人いきれ。 その一つ一つが生命の躍動や溢れ零れる生気に満ちている。 ゾロはただ無心のまま体中で音を奏でた。 踊りは一晩中続く。 ゾロは夜中を過ぎた頃、休憩を取ろうと下ではしゃいでいるルフィの名を呼んだ。 「代わるか?」 「ああ。頼む」 撥を渡すと、ルフィはぽんっとゾロの肩を叩いた。 「まかせろ!」 ニイッと見慣れた笑顔を浮かべるルフィに笑って返し、はしごを伝って櫓を降りると、櫓を囲んだ人の輪の中から幾人 かが手を上げゾロに挨拶をしてくる。御面をつけた人々は、素顔を曝さず誰からは分からないが、見慣れた者であれ ば背格好で十分に分かる。ゾロは軽く手を上げてそれに返しながら頭上を仰いだ。 櫓の上では珍しく気を散らせずルフィが太鼓を叩いている。その隣には、いつの間にか昨日帰郷した兄のエースの姿 があった。 じゃれ合いながら真面目に太鼓を叩くルフィの横顔は、いつもより少し嬉しそうだ。いつもはあっけらかんとした表情 も、そうしてエースと並べば随分と幼く、人並みにやはり寂しかったのだろうとゾロは思った。 久しぶりに地面に降り立ち、ゾロは大きく息を吐いた。周りでは飽かず踊りの輪が回っている。その中の幾人かは御 面をはずしてゾロに労いの声をかけた。それに笑って答えながら、ゾロはそっと木陰により、幹の太い木を選んで背中 を預けた。 辺りの喧騒から一歩は離れれば、そこはまるで別世界のように見えた。 通りすがりに渡してくれたペットボトルから水を喉へ流し込む。久しぶりに触れた冷たい感触に背筋がさわさわと波立 った。 色とりどりの御面をつけた人々が、音頭に合わせて踊るのが少し可笑しいゾロである。 櫓に登って太鼓を叩いてしまえばそんな眼下の様子などすっかり頭から離れてしまうのだが、こうして改めて見ると一 種異様な雰囲気があるのは確かだった。 皆一様に異形の仮面で素顔を隠し、互いに名を呼ぶ事を禁ずる。 そうすることによって彼岸から戻った仏たちと、暫しの邂逅を楽しむためだというのが古い言い伝えだ。 だから相手が誰だか分かっていても、決してその仮面の下の名を呼んではいけないのだと。 あまり下へ降りないゾロは、うっかりかぶる事を忘れてしまうのだが、きちんと腰には御面をぶら下げている。ぐいぐい と何口か水を飲み下してからゾロは漸く御面を身につけた。 御面を通して世界を見れば、やはりそこはまた不思議な空間であった。数箇所に穿たれた小さな穴から見える世界 は、欄間の向こう側に地獄を見てしまったような、禁忌の匂いを漂わせている。櫓を囲んで踊る人達に、端から名をつ けることはいっそ容易い。だがそうなれば忽ちそちら側へ引きずり込まれてしまうような冷やりとした危うさや、夏の夜を 壊す無粋者になってしまう恐れが邪魔して名を呼ばせない。 一度御面をつけてしまえば、それは名もない有象無象の一群になる。 それもまたこんな時であれば悪くない、と思ってゾロは楽しげな一群に目元を和らげた。 暫くしてどうも太鼓の音に乱れが見え始めた頃、ゾロは漸く櫓の階段に足をかけた。決して不真面目ではないが、長く は集中力が続かないルフィが、明らかにふざけて太鼓を叩いている。上を見上げれば、叩きながら隣のエースと楽しそ うにじゃれているのが見て取れた。 「代わるか?」 「うん?まだいいよ」 「ゾロはもう少し休んでな」 しかし二人はそれが楽しくて仕方がないのか、上がってきたゾロに撥を渡さない。ルフィはへへ、と笑って鼻の下をか いた。エースはそれを笑って見ている。 数年ぶりの再会を、この兄弟が確かに喜び合っているのはゾロにも分かっていた。出来れば邪魔はしたくないと思 う。どうしようかと一瞬迷う。だが真夜中を過ぎた時刻では、皆それぞれのリズムに没頭して太鼓はそれほど重要では なくなっていた。 やれやれと思うが結局微笑ましいような気分しか浮かばず、ゾロは眉を下げた。 「・・・そうか」 「おうっ」 異論はないだろうかと、ゾロは一応櫓から下を覗き見た。こちらを気にした風の者はいない。ぐるりと頭を回してそれ を確かめようとした時、ゾロはぼんやりとした光の中に信じられないようなものを見た気がして身を乗り出した。 まさか。そんな、馬鹿な。 「サ・・・・・・・・・っ!」 しかしそれは続かなかった。はっとして慌てて口元を自分で塞いだ。 決しては名前を呼んではいけないよ。 そうすれば、忽ち仏は彼岸に帰ってしまうから。 ゾロは自分の体温がざあっと音を立てて下がるのを聞いたような気がした。 口を塞いだ手が震える。強く握りすぎて柵がミシリと悲鳴を上げた。 噂を聞いた。あまりよくな噂だ。 暑さのせいではない、嫌に冷たい汗が流れる。とっくの昔に忘れていたはずの痛みが、不意に胸の下の方を締め上 げた。 ああ、あの店のコック?なんかどっか遠い異国の海で、海難事故にあったらしいよ。 そんな、くだらない噂を。 「ゾロ?どうした」 突然落ちんばかりに体を乗り出して沈黙したゾロに、エースが慮って声を掛けた。何時間もぶっ通しで太鼓を叩いて いたゾロだ。具合が悪いのだろうかと気遣っている。ゾロはその声にビクリと体を揺らし、次いでゆっくりと振り返った。 「お前、顔色・・・」 「ちょっと、下で休んでていいか?」 「あ、ああ・・・。一人で大丈夫か?」 「ん」 真っ青に澄んだゾロの頬を、エースは指先で撫でた。ゾロは細く細く目を眇め、それを上手くやり過ごした。 「後、よろしく」 「おお」 今にも貧血を起しそうな顔色で、しかし素振りは平素のままゾロはヒラリと櫓から飛び降りた。それだけ見ればまった く問題などなさそうなものだったが、小さな頃からゾロの不器用振りを知っている者だけが、その中に見え隠れする不 穏な空気を読み取る事が出来た。 「・・・・・・あいつ大丈夫かな」 だがそれだけに一度その手を払えば、頑なに二度はないと知っているから、エースは黙ってそのまま木陰に消えるゾ ロの後姿を見送った。 はあっと大きく吐き出した息が上がって、まるで自分の物ではないような気がした。 気ばかりが急いて足が絡まり、そのまま転げそうなって慌てて木の幹に掴まった。大分奥まで入り込んだ林の中には 遠くの方からぼんやりと足元を照らすだけの灯りが微かに届いている。遠くの喧騒は風に乗らなければ届かなかった。 捜し求めた後姿を最後に認めたのはこの木立の中に消える一歩手前の光の残像だけだった。あちらこちらに掛けら れた提灯の光がどうにかその姿を留め様ともがいていた。それを慌てて追いかけて、本当なら叫びだしたいくらいのそ の名を、ぐっと喉の奥でかみ殺した。 だが光の軌跡は途絶えたまま、薄暗い夜の淵には荒々しい自分の息遣いが響くばかりだ。 ゾロは腕を置いた木の幹にそのままもたれかかり、額を押し付けた。肩で吸った息を大きく吐き出す。止んでしまった 風は辺りの静寂をゾロの上に投げかけた。 「ゾロ」 だから投げかけられた言葉の意味を理解するのに、ゾロは少しの時間を必要とした。 あるいは風の悪戯だろうか。 どの方向性であっても結局は自嘲の想像に飽き、ゾロはぎゅうと木にそえた手を握った。 「ゾロ・・・」 そっと呼びかけられた声を否定する気力は既になかった。全身がどうしようもない疲労感と疑いようもない喜びに包ま れている。ゾロはその声に引かれるまま、ゆっくりと振り返った。 「・・・久しぶり」 「サンジ・・・」 その再会が夏の夜の一時でない事を、ただ祈りながらその名を呼んだ。 |