「特に希望はないけれど、オフクロをよろしく。」
そうあなたは言った。
岡山の実家から大きな白桃がおくられてきたとき、あなたはとてもそわそ
わし、箱を何度も開け閉めし、いたまないうちに早く食べろとせかしてい
た。
お盆の休みにあなたの実家に帰省する日、早朝3時に起き、台風到来の
暴風雨の中、スピードオーバーの警報ランプがチカチカしようと、チャイル
ドシートの赤ん坊がぐずろうと、あなたはお構いなしだった。
それなのに人前では、母親にいちいち苛立ち、「あんた」呼ばわりし、そっ
けなくふるまうあなたの態度にわたしはとても戸惑った。
でも、形はちがっても、求めていたものは同じだったと今ならよくわかる。
屈折した母親への思いー
わたしはあなたの母親にはなれなかった。
あなたはわたしの母親にはなれなかった。
初めからこうなることはわかっていた。
頭の中で2人が危惧していたことが本当になってしまっただけ。