美容院

 わたしは美容院が苦手だ。
受付の時に、「ご指名は?」と聞かれ、「Mさん(店長)でお願いします」と一応は答えるものの、どうも落ち着かない。
 「え?なんだって!その顔で一人前に店長のこのオレを指名しようっていうのか?」と思われているような気がして、妙に居心地が悪いのだ。
 さりとて、かつて別の店で「誰でもいいです」と答え、「どんな髪型でもいいです」とは答えなかったぞと、ひとりぶつぶつ文句を言いつつ帰ってきたことを思い出すとやはり指名は欠かせない。
 「どうぞこちらへ」と案内されて、斜めになった洗髪台の椅子に腰掛けるのだが、身長150cmそこそこのわたしの座高では、頭が所定の位置まで届かない。
 ついに先方はわたしの首を両手ではさんでそのままぐいぐい上へひっぱり始める。
 「お湯加減いかがですか〜?」「ちょうどいいです」
 「痒いところないですか〜?」「ないです!」というお決まりのやりとり。
 続いて髪を切る回転椅子に座ると週刊誌を勧められるが、超ド近眼のわたしは、めがねをとりあげられてしまうと、文字どころか写真さえほとんど見えない。
促されるままに、手に取ってパラパラめくり、ひたすら読むフリ。目の動き、時間配分など工夫しながら30分余りを過ごす。
 その間、美容師さんに話しかけなくてはいけないのではないか、さっきのわたしの相槌はそっけなかったのではないかと、気にはなるのだが、結局は面倒くさくて簡単な返事しかしない。 無愛想に聞こえないよう、なるべく明るい声のトーンを保ちながら……。
 「こんな具合でいかがでしょう」と鏡を見せられ、「切り過ぎなんですけど」と言ったらどうなるだろうと思いつつやっぱり「ちょうどいいです」とさわやかに言い切りやっと終了。
 本当は、寝ていようが本を読んでいようが、客のわたしは好きにしていてよいのだが、なかなか割り切れない。
 そいうわけで、首も目も気持ちも疲れて帰ってくる、そんな美容院にわたしはできるだけ行かずにすませたいと思っている。
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2001/10