今日のできごと

 日曜日。
 息子と高島屋へでかけた。
 子供たちの間で流行している雑誌が主催している、「ビーダマン選手権大会」という、ビー玉を飛ばして、その命中率を競う大会に、息子が出たいと言ったためだ。
 小学6年といえば、母親とは絶対いっしょに歩きたがらないらしい年頃。(授業参観に行って、目でも合おうものなら、奴は露骨に目をそらす。)
わたしが、付き添うということに、とても不服そうであったが、さりとて繁華街に近いこのデパートに子供ひとり行かせる勇気もない。
 「通り魔」「誘拐」・・・事件の報道が脳裏をよぎる。
まさかデパートの屋上に飛行機が落ちてくるとまでは思わなかったけれど……。
 「遅れるよりいいよね」例によって、ものすごく早く会場に着いてしまい、(息子がわたしといっしょに出かけたがらない理由はここにもある。)、受付開始まで、あと3時間余り。
 その間、時間を持て余して私は奴に聞く。
 「なにか、食べる?」
 息子、「食べない」
 わたし、「じゃ、時間までどうしようか」
 息子、「どうもしない。」
 ……。
 半分きれそうになったが、わたしはきれそうになればなるほど感情を抑え、笑い、努めて冷静を装う癖がある。(だから溜まっていきなり爆発するのだ。くわばらくわばら……)
 なにかとわたしを挑発して、怒らせて、帰らせようと試みる息子も、空腹には勝てない。なんとか食堂へ誘いこむことに成功。
が、食後の留めの一発。「かあさん、もう食べ終わったから帰っていいよ」ぼそっと奴はつぶやく。
「フン!ここまで待ったら意地でもそのビーダマン何とかってやつ、見てから帰るわ!」わたしは内心つぶやく。

 昔からそうだった。
 わたしは、夏休みになると、子供に「人並み」な休日を過ごさせようと、やっきになっていた。わたしの父が、与えてくれようとしていた夏休みを、わたしも子供に与えなくてはいけないと、旅行やイベントに連れて行った。
 でも、あれは今考えれば、罪ほろぼしだった。
 頭数のそろった、「普通」で、「人並み」な家庭を、子供に与えることができなかったことへの・・・・。
 わたしの罪悪感を感じ取ったのか、出かけた先で、息子は散々ごねたり、すねたり行方不明になったりした。
 それでもわたしは叱れなかった。叱れば「楽しい夏休み」が御破算になり、わたしの罪悪感はさらに高まると思ったから……。2人という人数は、一度こじれてしまうと、逃げ場も、他に気を晴らす相手も無く、煮詰まってしまうということがわかっていたから……。怒りを抱えたまま子供のご機嫌をとった。..
 周囲を見渡せば、夫婦と子供2人(おまけとしておじいさん、おばあさんが付いていることもあったが)という、組み合わせのグループばかりで、とてもきつかったけれど、わたしは彼らの存在に気付かないフリをした。朝の光のふりそそぐ観光ホテルのバイキング会場で、母親ひとりと、男の子ひとりという組み合わせは、とても滑稽で、異質に思えたが、それでもわたしはその違和感さえ、感じないようにしていた。
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