僕の母さんは千切りキャベツができない
あれはなんというのか、週末ごとに食卓に登場するあの代物は
キャベツのざく切りか?それともみじん切り……とも違う。
一応本人は千切りのつもりらしいが。
固い芯ごと刻むもんだから、年寄りはさらに食べにくそうだ
でも誰も文句を言わない
なんだ、こりゃ、そのひとことも。
こんなの食えるか、もしそんなことを言ったら、その場の雰囲気がどんなに悲惨なものになるか
おおよそ見当はつくというものだ。
僕の母さんは何が気にいらないのか、夕食後、ふと気がつくといなくなっている
彼女は食べるのが異常に早いのだ
ちゃんと噛んでいるのだろうか
僕も自分の部屋にひきあげたっていいんだ。部屋にいけばテレビだってあるんだし。
でも僕までがその場を離れてしまったら、団欒というものが壊れてしまいそうで
なんとなくそこに居残っている
9時になったら無罪放免、僕も自分の部屋にひきあげる
おじいちゃんが、よーし、歯をみがけって言うから。それは、もう2階に行ってもいいよっていう合図なんだ。
僕の母さんとおばあちゃんの会話は不思議だ
普段、耳の遠いおじいちゃん相手に話をしているおばあちゃんの声はすごく大きい
まるで怒鳴ってるみたいだ
母さんはその大きい声に負けないように理屈をこねる
こないだは通帳の記入の仕方で、その前は洗濯物の干し方で。
そんなのどっちだっていいじゃないか。それより、テレビの音が聞こえないよ。
でも、僕にはわかる。
ふたりとも、どうだっていいことだってことを知ってるんだ。
ただお互いにあとにはひけなくなっただけなのさ。
トップページ 2004/1