話題

駅と職場をつなぐ道すがら、偶然出会えばおしゃべりしながら歩ける同僚、地下食堂で会えば同席していっしょに食事できる人が2,3人できた。ここに異動してきて1年経ってやっと。
歩きながらの会話は「暑いですね〜」「あら、いい日傘ですね」程度の話題で終わる。が、向かい合って食事する時の話題は迷う。23度と、回数を重ねるほど迷う。職場の人間関係がらみの話はあまりにも生々し過ぎて思わず実名が出そうになるので避ける。相手が育児休暇明けだと、やはり子供の話題に落ち着く。保育園の送り迎えの大変さや、振り返ればあの頃が華だったわよ、などとろくに手をかけて育てていないのにちょっと先輩面して語ってみたりする。

少し打ち解けてくると、結婚してるの? だんなさんは同じ業界の人? と聞いてくる方はとても多い。
これも、お天気の話のように、他意はなく、話しの流れからして仕方のないことなのかもしれない。いきなりご趣味は? と聞くのもお見合いみたいだし。自分のことばかり話すのは申し訳ないという形ばかりのお愛想とも言える。話題が豊富でそれなりに話術に長けた人ならば、そんなプライバシーは聞かずに、気の利いた質問をしつつ関係性を深めていけるのだろうけど、大方の者にとっては、そんな冒険するよりも、まずは無難でそこそこはずさないであろう質問と話題からはいっていこうと思うのも無理はない。
 わたしもそのテの質問には慣れたので、「今は、してないよ」と答える。酒井順子さんのエッセイの影響じゃないが、この答え方はささやかな見栄混じりである。1度もしたことがないと言うよりもなんだか箔が付くような気がするのだ。
 もっとも、わたしの回答を聞いた途端、それが無難な質問ではなかったことに気付き、いけないことを聞いてしまったのではないかと、とまどいを隠せない人や、一瞬次の言葉までの間があいてしまう人もいて、かえってこちらが気を使うハメになることも多い。
 卑屈な考え方かもしれないが、これでわたしに対しては、相手もあんまり見栄をはらなくてすむんじゃないかしら(自慢はしたくなっても)とも思う。
 だんながいつも、家事してくれてるから助かるわあ、来週娘の発表会なのよ、ねえ、見て、これ、母の日に息子がくれたのよ、なんだかんだ言ってもかわいいよねー、なんてハッピームードプリプリ放出している人には心をひらきたくないものだもの……。
 同性同士は特に―。

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