日々の思いをイラストを交えて淡々と綴ります 好二郎
この連載は、原則として、五・十日(ごとうび=5と10の日)に更新します 過去の動静一覧 表紙へ戻る
2006年8月、9月、10月
ディープ君、さようなら 私は賭け事が嫌いだ。小学生の頃にトランプのバクチでせっかく集めた漫画本「ドラえもん」をすべて取られたからか、中学の時、掛け将棋で正月の小遣いを父親にすべて巻き上げられてからか、それとも高校の時掛けビリヤードでさんざんに負け、付き合っていた彼女に愛想を尽かされたからか、大学でマージャンをやり月に3度役満を振り込んだせいか、社会人になって子ども達に花札を教え、私が教えたのにまるで勝てなくなってからなのか、とにかく賭け事は嫌いだ。だから競馬もやらない。 私の師匠好楽は競馬のために仕事をしているような方だが、その弟子にもかかわらず、私はまるでやらない。馬の名前もほとんど知らないし、騎手も分からない。パドックを歩く馬の姿を見て「うまそうですね」と言って怒られたことがある。 そんな私でも名前を知っている馬が、ディープインパクトだ。「50年に一度の馬」「神の脚を持つ馬」「走るのではない、飛んでいるのだ」などと言われた圧倒的な強さを持つ馬だ。 そのディープ君が、フランスの凱旋門賞で3位に敗れ、引退を宣言し、また薬物使用が発覚、その栄光に傷が付いた。ああ、可哀想なディープ君。フランスでは言葉の壁もあり、優勝しなければというプレッシャーもあって、ついつい薬物に手を染めてしまったのだろう。だれもいない真夜中の馬小屋で、一人悩みながら、薬物を口にする君の姿が目に浮かんで私は悲しくなる。 でも過ぎたことは早く忘れて、これからは普通の男の子として、幸せな生活を送って欲しい。できれば、ハルウララさんとの間に、子馬を作って欲しい。最強の馬と、最弱の馬との間に出来た馬の掛け率が楽しみだ。速さはともかく話題にはなるだろう。 ディープ君、さようなら。君がいなくなると素人の私は掛けにくくなります。私はますます、賭け事が嫌いになりそうだ。 2006年10月29日配信 |
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「何の会議?」 着物のわたしと パキスタンの彼 九月十月は東京を離れた仕事が多い。お陰で長い時間乗り物に乗ることになる。 飛行機は乗っている間、音楽や落語などが聴けるので好きだ。 ただ、落語を聴いていて、落ちの直前に着陸すると、ストレスが溜まる。先日は行きにその状態で、帰りも同じところで終わってしまったので、未だにどんな終わり方になったのか気になっている。落語家がそう思うくらいだから一般の方はさぞイライラするだろう。飛行機で落語のテープを流すときは「確実に着陸する前に一席終わる短い噺にする」「最初に落ちを言っておく」「テープが切れたところから希望すれば機長もしくはスチュワーデスが喋ってくれる」などの配慮が欲しい。 意外と好きなのが高速バスだ。目的地のごく近くまで行ってくれるし、乗り換えもないし、料金も安い。先日、長野方面の仕事でその高速バスに乗ったところ、休日ということもあって、珍しく満席だった。 出発時間ギリギリに乗り込むと、着物姿なので皆私に注目「自分の隣に座って欲しくないな」という目で見ている。 私が後方の席に腰を下ろすと、車内がザワついた。 見ると、背の高い、民族衣装であろう派手な服を着て、額のところに朱肉のような赤い印をたっぷりと付けた男性が乗ってきた。 乗客は全員、明らかに私の時より以上に「隣に座って欲しくないわ!」という目つきで見ている。 赤い印のような彼は、自分のチケットと車内の座席番号をしばらく見比べて、迷い無く、真っ直ぐ私のところに来た。彼は私の隣に座ると「私、長野駅で、降りる、間違いない、教えて、ありがと」と一息に言う。 どこから来たのか訊いてみると「パキスタン」だと言う。 着物の私とパキスタンの彼と。 私の斜め前に座っていた若いカップルの女性の方は、私たちをチラッと振り返り「長野で何かあるの?」 男性の方が「何かの国際会議じゃねェの?」 「・・・・日本人ってそういう時着物?」 「サァ・・・・やっぱりその方が分かり易いんじゃねェの?」 何を分かり易くしてるんだ。 その後、パキスタン人の彼は色々と私に話しかけてくる。意味がよく分からないので、互いに素敵な笑顔で見つめ合うだけの時間が長い。彼が言うことは私に通じないが、私が言うことは彼にまるで通じない。それでも彼は私に何か話し掛け、私も努力してそれに応える。少し疲れたので私は本を取り出した。本を読み始めれば、そうそう話し掛けてこないだろう。ところが彼はかまわず話し掛けてくる。雑誌を見ていても、手紙を読んでいても鏡を見ていても平気で喋っている。 と、彼が急に静かになった。手帳のような物出して胸に抱いて天を仰いでいる。 「ヘイ、何してるの?」 私が声を掛けると彼は私をキッと睨み付け、首を二度振り、また天を仰いだ。 通路を挟んで隣に座っていた年輩の女性がにっこり笑って、 「怒られましたね」 うるせィ!・・・・お祈りを終えた彼は、本を目に通す私を無視してまた話し掛けてくる。私は疲れた目で天を仰いだ。 2006年10月18日配信 |
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好二郎の考察 落語会を開く女性は 少し変わっているとの説 池尻にある、廃校になった中学校の校舎をそのまま利用した「世田谷ものづくり学校」というところで落語をしてきた。 会場は普通我々がイメージする教室そのもので、黒板もあれば、学校独特の机と椅子もある。その黒板を背景に、教壇へ緋もうせんを敷いて高座を作り、お客様はそのまま学校の生徒のように机とセットで椅子に座っている。前方二列だけは座布団を敷いて桟敷席という、なんとも不思議な空間だ。 「黒板があって、落語をしていただいて、途中お茶も出すので、黒板落語カフェ。略して黒落茶、ごくらくじゃ、はどうでしょう」 今回の落語会を主催してくれたHさんが不安そうにそう話すので私もはじめ不安だった。しかし、何回か電話やメールでやりとりするうちに「落語は私、ホント素人なんです」「今会社が引っ越ししましてバタバタしてるんですゥ」「ビール好きなんですよね」などという話しを聞いて、ますます不安になった。「うちにはですね、蚊は入ってこないんですけどコウモリが入ってくるんです」という話しを聞くに及んで決定的に不安になった。 ところがこのHさん、開催が決まってからの行動が素早い。テキパキと仕事をこなし、人を集め、会を成功させていた。なんとも素晴らしい。だいたいそうだ。落語会を主催しようという人はどこか変わっている。特に女性は妙だ。今回のHさんに影響を与えた、長く自宅寄席を開いてくれているYさん、そのYさんの影響でやはり自宅寄席を開いてくれたTさん、長く、日本橋亭を借りて会を主催してくれているSさん、皆、あやしい。それぞれ戦法は違うが確実に物事を実現させる力を持っている。すごい。 で、誰が一番変わっているのだろうと思っていたので、黒板落語カフェの打ち上げでSさんを除く3人が揃った時には嬉しかった。HさんYさんTさん、皆それぞれの持ち味を出した、ごくまとまらない会話のやりとりをきいていると面白い。 「変わっている」という意味では甲乙付けがたい。今回は引き分けといったところか。マ、今後も、彼女たちのパワーに頼りながら落語を広めていこう。 「よく他人から変わってるわねと言われる」「普段ボンヤリしているようだが、やる時はやるわよ」「男だの恋愛なんかより大切なものがあると信じている」そんなあなた、あなたも落語会を主催してみませんか? 2006年10月9日配信 |
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薩摩おごじょの気配り 会津人・好二郎も感激 先日、鹿児島県の出水市へ行ってきた。もとは野田市だったのが、合併で出水市になり、今回はその記念事業として落語会を開く運びとなったらしい。 好楽、楽太郎競演会ということで、5、6百の席は満員になった。 市の職員の方始め皆さん親切にして下さったが、中でも面白かったのが「陰アナ」などを担当した若い女性だ。 鹿児島の女性については二通りのイメージがある。一つは鹿児島の男性が強いので、女性はとてもおとなしい、というもの。もう一つは暖かい土地独特の天性の明るさがあって、やたらと元気だ、というもの。 で、この出水市の陰アナさんは見事に後者だった。 目は常にやる気に満ちているし、声もいい。 「あの、すみません、灰皿ありますか?」私がそう訊ねると「灰皿!ハイッ!」と軍人のような返事をして猛スピードで開け「あった!」といって大量の灰皿を差し出してきた。勢いに押されて受け取ったが、そんなに吸う奴いるか! 「すみません、舞台の袖に、椅子一つ置いといていただけますか?」 「椅子!ハイッ」 ダッダッ・・・・・ガタン、バタン、ゴトン、オリァー・・・・・バタッ! 「置いときました!」 椅子を高々と持ち上げて走る姿は恐ろしい程だ。 とにかく全てがその調子で明るく楽しい。 帰り際、楽屋に出していただいたペットボトルのお水を二、三本いただいて帰ろうと「すみません、何か袋一つ、いただけますか?」 「袋!ハイッ!」 ガラガラ・・・・(部屋の戸を開ける音)ダッ・・・・(なかったので別の部屋に移動する音)、ガラガラ(別の部屋の戸を開ける音)、ガサガサ、ゴソゴソ(何やら探し回っている音)、ドンッ!(上司の男性職員にぶつかった音)「どいて!」(上司を怒鳴りつける音)、ダッ・・・・(見つかって袋を片手に駆け出してくるところ)、ピタ。(立ち止まる)キュキュ(?)ダッ・・・・ 「ハイ!」 「ありがとうございます」 「いくつか袋持ってきました!」 「一つでいいですよ」 「じゃ、コレ」 「どうしてです?」 「ここ見てください」 見ると、袋に油性ペンで「出水市合併記念」と殴り書きがしてある。さっき立ち止まったとき書いたのだろう。「何です?コレ?」 「えー!ただの袋じゃ色気がないじゃないですか!だから記念に。マ、早い話がオチですよオチ!」 そう言うと、ガハハハと豪快に笑ってまた駆け出して行ってしまった。 何がオチなのかサッパリ分からん。陰アナさん、あなたはオチの意味を間違えてるぞ。面白いから許すけど。 空港へ向かう帰りの車の中、例の紙袋を見つけた私の師匠好楽が言った。 「ふーん、合併記念の紙袋か・・・・・予算がなかったんだねェ」 2006年10月7日配信 |
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有名人になる! 決意、新たに 19日、20日、21日と我が師・三遊亭好楽の芸歴40年と還暦を祝う落語会がよみうりホールで行われたが、お陰様で大盛況のうちに終わった。 とにかく大物、有名人、人気者ばかりの集った会で、楽屋内も楽しくて仕方がなかった。 小朝師匠と小遊三師匠が並んで座っていたり、三枝師匠と志の輔師匠が談笑していたり、円楽師匠を鶴瓶師匠が笑わせていたりするのである。もう、夢のような空間だ。 会を発案、仕切ってきた師匠の息子王楽くんは、始まる直前は「もう大変だから二度とやらないでしょう」と言っていたが、終わってみたら「楽しかったですねェ、来年は芸歴41周年を祝う会をやりましょう」と燃えていたので、来年もこんな夢のような会を是非企画してもらいたい。 夢のよう、と言えば、先日、俳優の風間杜夫さんと「朝日さわやか寄席」という会でご一緒させていただいた。 風間さんは「蒲田行進曲」以来の大ファンである。近くにいる、というだけで嬉しくてしょうがなかった。で、風間さんは落語がうまい。それに加えてカッコイイのだ。いやぁ、たまらない。打ち上げで、バカッ話をしていてもカッコイイのだ。うわぁ、たすけてェ。たばこを片手にお酒を呑む姿の色っぽいこと。もう、がまんできなーい。 という訳で、連日豪華な顔ぶれに囲まれて、私は一つ決心をした。 「きっと、有名人になろう」 「なに?」と妻。「何か言った?」 「いや、有名人になりたいなあと思ってさ」 「え?」 「有名人」 「は?」 「一時期でもいいからさ」 「へ?」 「一瞬でもいいんだけど」 「ふにぁ?」 「・・・・・・・」 2006年9月24日配信 |
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拳銃と小銃の違い? 真面目に考えてみた 先日、大分県の陸上自衛隊が、拳銃一丁と、小銃一丁を紛失した、という事件が報道された。 拳銃と小銃をなくしちゃったのである。そんな大事な物を、けしからんという人もいるだろう。確かにその通り、けしからん。ただ私もよく扇子とか手拭いを紛失するので、あまり強くは責められない。 それより分からないのは、拳銃と、小銃の違いだ。拳銃一丁と小銃一丁というくらいだから拳銃と小銃は明らかに違う物なのだろう。ただ私には拳銃と小銃の区別が付かない。区別が付かないのは私だけだろうか。ほとんどの国民は区別がついているのだろうか。 例えば魚みたいに、魚屋に母親と一緒に行ったとき「ほら、見てご覧、こっちがサバ、あっちがアジよ」なんて教えてもらえるチャンスもない。「ほら、見てご覧、こっちが拳銃、あれが小銃よ」なんて教えて歩いている母親はそう多くあるまい。ならば多くの人が、その区別が出来ない筈だ。 そこで、手元の辞書で調べてみた。拳銃は「ピストル」としてあった。拳銃は、ピストルのことなのである。次に小銃の項を開いた。「一人で携帯、使用する銃。鉄砲」なるほど、小銃は鉄砲のことなのである。 ということは「ピストル」と「鉄砲」は、別物である、と言える。 そこで再度、鉄砲を調べてみる。すると、鉄砲とは「@火薬を入れて弾丸を発射する兵器Aきつねけんの一つ」としてある。一方、ピストルを調べたら、載っていなかった。書いていないということは、そもそも、この世に無い物なのかも知れない。 となると、始めの文章「大分県の自衛隊が拳銃一丁と小銃一丁を紛失した」は、文章の解釈によっては「大分県の自衛隊が、この世に無い物一丁と、きつねけんの一つ一丁を紛失した」と同じだと言える。 「この世に無い物」はなくせないのだし「きつねけんの一つ」も落としたり、紛失したり出来ないのだから「大分県の自衛隊が、拳銃一丁と小銃一丁を紛失した」という一文は、イコール「大分県の自衛隊はなにも紛失していない」ということになる。 この説明で、ほんの少しでもなるほどと思った人は、振り込めサギや、あやしい宗教にひっかからないよう注意した方がいい。 2006年9月18日配信 |
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高齢時代の夫婦喧嘩 備えあれば憂いなし!? 高齢化が進んでいると言われているが、落語界に身を置いているとまるでそれを感じない。一緒に働いている人もお客様もお年寄りが多いからマヒしているのかも知れない。 それにしても、近頃のお年寄りは元気だ。お金もあるし行動力もある。ここ一年、運動らしい運動も1,000円以上のまとまった買い物もしたことがない私より元気だ。 元気で行動力があると、悪い面も出てくる。犯罪に巻き込まれることが多くなるのだ。気を付けなくてはいけない。 また、被害者だけではなくて、加害者になることも多くなった。70才男性のコンビニ強盗だとか、80才男性が大けがをしたとか、84才男が痴漢で捕まったとか。元気だが元気すぎる。 中でも気になるのは夫婦げんかだ。 この間は86才の妻が90才の夫を千枚通しで刺し殺した、という事件があった。その前は、やはり高齢の妻が高齢の夫を包丁ととんかちで殺したという、夫をかたいカボチャみたいに扱う事件もあった。他にも高齢化した夫婦がけんかの揚げ句殺人に至るという事件が続いている。 で、ほとんど、妻が夫を殺している。夫の暴力やいじめに耐えかねた妻が長年のうらみをはらすためにフライパンとか包丁とか千枚通しとか、そういう身近な武器で夫を退治している。 60才を越えたら妻には勝てないと思った方がいい。まして私のように20代から負けている男はよほどの奇跡でも起きないと勝てる見込みはない。 世の男達よ。自分の身を守るため、30代後半から準備をしよう。敵を油断させるために少しやさしくしてあげるのだ。 肩をもんだり「へぇ、今日の髪型いいねぇ」などと言っていい夫を演じよう。炊事、洗濯、そうじ、布団干し、自分の体を鍛えると思って妻から仕事を奪うのだ。妻の基礎体力は低下するだろう。 料理もしよう、妻は変なものを食べさせて夫から体力を奪っているかも知れない。脂っこい物をたくさん食べさせて妻の動きをにぶらせよう。 縫い物も挑戦しなければいけない。妻達はあれで集中力を養い、ボケ防止をし、都合の悪い話は聞こえないふりをしているのだ。 そうして60才になった時には、包丁、フライパン、千枚通し、およそ武器になりそうなものはあなたにも使えるようになる筈だ。 男達よ、今から鍛えよ。武器を取れ!妻に勝てる年寄りになろう。いや、勝てなくてもせめて、引き分けに持ち込めるよう今から努力しよう。 2006年9月9日配信 |
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僕と彼女とガンダムと… ロマンチックになれない すっかり秋の気配だ。この分だとあと二、三日で本格的な夏日がぶり返して「なんだ、もう秋だと思ったのにまだまだ夏だなあ、半袖しまっちゃったよォ、ちくしょう」などと言うようになりそうだ。 秋になると、人間少し冷静になって「この夏、お金を遣いすぎたのではないか」「この夏、勢いで付き合ったけど顔中にピアスつけてるあの男とこのまま付き合い続けていいのだろうか」「この夏、友達に母親殺しを頼んだけどあれはまずかった」などと反省することが多くなる。 私も秋になり「落語がまるで上手くなっていないのではないか」「お客様が増えていないのではないか」と反省し始めている。 以前、私の友人Nくんが、この人はこのHPで度々登場する落語嫌いの男だが「お客を増やすにはガンダム好きをファンにすれば、たちまち何万人というお客がつく」というのだ。 今まではこんなバカげた発言は完全に無視していたのだが、秋ということもあり、少しガンダムについて反省、研究してみた。 すると、ガンダムのプラモデルが、プラモデルと言っても1.5メートルという大きさの物が、35万円で売られていると知った。 誰が買うんだ。 もちろんガンダムファンだろう。 しかし35万円。 気軽に買える額じゃない。 子どものおもちゃにしては1.5メートルは大きすぎる。それだけでもおもちゃ箱はいっぱいだ。 とすると、お金が自由になって、置いておくスペースのある、一人暮らしの男が買うのだろう。 しかし1.5メートルのガンダムがいる部屋。遊びに行きにくいし、呼びにくいと思う。まして彼女を部屋に連れ込めまい。1.5メートルというと、ちょっと小さめのお友達くらいはある。私が中学を卒業したとき、身長144センチだったのだから1.5メートルは大きい。 「こんにちは」 「どうぞ入って」 「お邪魔します」 彼女と机をはさんで座っていると、そこにガンダムがいる。 これは話がしにくい。 かといって台所あたりに立たせておいてもお母さんが料理するふりして聞き耳立ててるようで気味が悪い。 二人でロマンチックな気分になっても同じ視線でガンダムが見てるとキスもしにくい。 「なんか見られてる気がするの」 「あ、そう。じゃあ、ちょっと待って。ガンダム後ろ向けとくから」 「・・・・ねェ、何か彼淋しそう。」 「そうだね、淋しそうなガンダムの後ろ姿っていやだね。どうしよう。じゃ、マイクでも持たせてみようか」 「やめて。唱い出したらこわいじゃない!」 これじゃロマンチックになれない。だからきっと熱烈なガンダム好きは孤独な人間が多い筈だ。 「ガンダム好きは、やっぱり落語と合わないよな」と妻に言うと「そうね。でも、その人達がその1.5メートルのプラモデル連れて来てくれたらお客が倍になっていいじゃない」 「バカ、そんな大きなプラモデル担いだお客がぞろぞろ入ってきたらこわいだろ!第一プラモデルのせいで他のお客さんが座れなくなるだろ」 「いいわよ。ガンダムからお金とれば」 「・・・・・」 秋、冷静に考えた。ガンダム好きと妻、私には合わない。 2006年9月2日配信 |
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好二郎の北海道の旅 はーるばる来たぜ北海道!ということで、しばらくの間、仕事で北海道に行ってきた。釧路と函館が中心だったが、夏とは思えない涼しい旅だった。 一緒に仕事をさせていただいたのがXUXU(シュシュ)さんという女性ヴォーカルグループの四人、この人達が歌はすばらしいし面白いのはもちろんだが、普段も独特の雰囲気があって魅力的だ。BSテレビや雑誌などではお馴染みだろうが、まだ聴いたことのない人はぜひ聴いてみて欲しい。 そして太神楽の翁家勝丸兄さん。高座は何度も見た、という人も多いだろうが、ぜひ機会があったら一週間一緒に暮らしてもらいたい。ただ廊下を歩くだけでこんなに人生楽しめるのだ、と実感出来る筈だ。 とにかく、XUXUの皆さんと、勝丸兄さんのお陰で退屈することなく一週間過ごせたのだが、それとは別に楽しめたのが、函館の街を一人で散歩した時のことだ。五稜郭公園、函館駅、赤レンガ倉庫群などを見た後、大三坂を登って、通りを日和坂、基坂、東坂、弥生坂と横切った。弥生坂の先だったか、もう一本先の坂道だったか、一人のおばさんに声を掛けられた。 「あら、めずらし、着物だね。何してんの?」 「ハァ、落語です」 「ラクゴ?」 「ええ」 「どこで?」 「船の中で」 「・・・・ラクゴって船で出来るの?」 「ええ」 「へぇ〜。その船はえらいねぇ」 「・・・・・。」 「野球みないの?」 「え?」 「高校野球」 「ああ、そういえば、今日決勝戦ですもんね」 そう、その日は高校野球の決勝戦の日だった。 「忘れてました。見たいですね」 「じゃ、見ていけば」 で、そのおばさんのウチで決勝戦を見た。駒澤大学苫小牧高校を応援するおばさんは随分力が入っていた。時間の関係で、9回を終えたところで失礼したが、その家を出るころにはすっかり私も苫小牧ファンになっていた。 結局、翌日に持ち込まれた決勝は、球史に残る名勝負を展開して、早稲田実業の優勝。私はその瞬間、タオルを口に咥えて応援していたおばさんの泣いている顔が目に浮かんで、少し淋しい気持ちになった。 高校野球って、いいなあ。駒澤大苫小牧、またがんばってね! 2006年8月26日配信 |
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水辺でおぼれ、あわや大惨事 ――好二郎、父の威厳保てず 今年の夏はめずらしく、家族そろって旅行に出掛けた。 例年だと、妻と子どもだけが里帰りしたり、私だけ仕事が入るんじゃないかと期待しながら家に残ったり、妻が子ども達を連れて遊園地へ行ったり、私だけ遊園地へ行くことを知らされてなかったりして、なかなか家族そろって出掛ける機会がなかった。 今年は「毎年ないんだから今年の夏も仕事はない」「妻と子どもだけが楽しい思いをするのは口惜しい」「妻から目を離すとやたらとお金が減る」などの理由から、一緒に出掛けることにした。 まずは生まれ故郷の会津を中心に三日間。 その間、川、小さな湖、大きな湖、、そしてプール、と、とにかく水を見れば子ども達は泳いでいた。 今、水の事故が多いから、仕方なしに私も子どもに付き合って泳いだ。 湖やプールはまだしも川は危険だ。 私は子どもの頃よく川で泳いでいたから平気だが、子ども達は少し気を抜くとすぐに流されてしまう可能性がある。 「いいか!ここはすべるから気をつけろ!ここは見た目より流れが急だ、近づくな!」などと指導してやったが、その日おぼれかかったのは私一人だった。 会津から戻ってすぐに千葉の海へ、落語会でお世話になったいるお客様に誘われて、図々しくも家族そろって出掛けた。前日まであれだけ泳いだのだからもういいだろうと思うのだが、子ども達は二時間三時間喜んで泳いでいる。お前らは河童か! 遠浅の、子ども達にはちょうど良い海だが、やはり海も川同様危険だ。岩場の陰が急に深くなっていることがある。結局、その岩場の深みに足を取られておぼれかかったのは、私一人だった。 プール、川、湖、海。今年は水たまり以外の水場を全て制覇した。 そして、久しぶりの家族旅行で、父としての威厳を保つことが出来なかった。 よし、来年はおぼれる心配のない山へ出掛けよう。 2006年8月19日配信 |
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大空に飛び立てる と信じた19才の夏 夏だ。 夏は理由もなく興奮してくる。普段おとなしい私でも「亀田!本当にお前はそれでいいのか!」などと叫びたくなる。 夏だから仕方ない。 先日、羽田空港の滑走路に、清掃会社のアルバイト青年が立ち入って大騒ぎになった。その22才の青年は中国人だったというから、おそらく注意された言葉や何かが理解できずそんなことになってしまったのだろうが、滑走路に思わず足を踏み入れたその気持ちは分かる。 一生懸命清掃していたのだろう。ほどよく疲れた頃に、現場を監督しているおじさんが「さあ、少し休憩にしよう」そう言って、アルバイトの皆にペットボトルの冷たい緑茶を投げ渡した筈だ。中国人の彼は「烏龍茶の方がよかったな」と心の中で思ったかもしれない。ふたをとって、一気にお茶を飲む。 仰向いた彼の目に、ワーッと広がる青い空が映る。故郷の友達や家族の顔が空に映し出される。ふと見ると目の前に滑走路。どこまでもずーっと続く一本道。誰もいない。 22才だ。 走りたくなる。 この滑走路を駆け出す。 ずっとずっと走り続ければ、いつか自分も大空に飛び立てそうな気がして、彼は必死に走る。誰が注意しても、もう彼は止まらない。滑走路の真ん中を彼は走り続ける。 がんばれ!ああ、滑走路に立ち入った彼を責めないで欲しい。22才の若さで、目の前の滑走路を思わず走らないような人間はかえって不健全だ。 大人は若い彼の失敗を叱っても、決して責めてはいけない。 亀田さんも、大空に飛び立つことが出来ると信じている19才の青年だ。いくら攻撃的になる夏だからといってあまり彼を責めてはいけない。 「がんばれアルバイト青年!がんばれ亀田さん!」 2006年8月6日配信 |